最終更新日:2023-07-13
マテリアルズ・インフォマティクスとは?材料開発でのメリット・課題・成功事例を解説!

「マテリアルズ・インフォマティクスって何?」
「我が社でもマテリアルズ・インフォマティクスを導入できる?」
材料開発分野のDXとして注目を浴びているマテリアルズ・インフォマティクス(MI)。しかし、共通のプラットフォーム開発が進んでいないことや、先端技術である「AI」を使うことや、膨大な蓄積データが必要であることから、まだ導入するには早いと考えている方もいるかもしれません。
しかし、マテリアルズ・インフォマティクスは、材料開発にかかる期間を半分以下にでき、試作回数も数十分の一にできる驚異的な威力が既に実証されている技術です。この面で後れを見せていた日本でも急激な巻き返しが期待されています。
本記事では、マテリアルズ・インフォマティクスのメリット・課題・事例を紹介します。最後まで読んでいただければ、解決できる問題や、具体的な事例による導入イメージをしていただくことができます。
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目次
マテリアルズ・インフォマティクスとは?
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、AI・機械学習を使用することで、材料開発を効率よく行う手法です。手順や組み合わせの発見に強い探索アルゴリズムなどを活用します。
材料開発を端的に言うと、膨大な物質から目的に合わせた最適な組み合わせを見つける試みです。従来の材料開発では、新材料を探すための理論計算は研究者の勘や経験に頼るしかありませんでした。しかし、マテリアルズ・インフォマティクスでは過去の実験データやシミュレーションデータに基づく探索アルゴリズムにより、AIが目的に応じた最適解を出し、コンピューター上で実験まで行えます。
日本ではマテリアルズ・インフォマティクスは遅れている
マテリアルズ・インフォマティクスはアメリカ発祥の手法で、2011年のオバマ政権の段階で整備が行われ、その翌年の2012年には電池材料開発の分野で大きな成果を上げています。世界的に見ると、マテリアルズ・インフォマティクスの導入はスタンダードとなりつつあり、海外企業と戦うためには国内でも早期の確立がカギになります。
ケモインフォマティクス(化合物・化学)、バイオインフォマティクス(生物学)の発達によって、基礎科学分野でのAI活用に関する基本的な手法は既に確立しています。ですから、材料開発や素材開発と呼ばれる分野でもマテリアルズインフォマティクスが主流となる日は近いでしょう。
日本も2016年から本格的にマテリアルズ・インフォマティクスを推進する動きを見せています。材料開発で高い国際競争力を維持するためには、さらなるデータの蓄積や一般企業への浸透が不可欠でしょう。
マテリアルズ・インフォマティクスでのAI・機械学習の役割
マテリアルズ・インフォマティクスでは、AI・機械学習が開発期間短縮に大きく貢献しています。開発の肝である「製造工程の導出」に、圧倒的な計算能力と機械学習能力を持つAIが加わることで、今まででは考えられなかった速さで材料開発を進めることが可能になります。AIは、目的に応じた最適な製造過程を短時間で導き出すことが得意です。また、登録されているデータを漏れなく活用できるため、世界中で行われた研究を最大限活かした最適解を見つけることができます。
AIが導き出した製造工程が各社の工場や予算的に可能かどうかは科学者が考えなければいけないため、最終的な判断を下すのは専門的な知見を持った人間です。しかしながら、AIを活用することで、従来は考えられなかった速度で材料開発を進められます。
マテリアルズ・インフォマティクス4つのメリット
材料開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスのメリットを以下に紹介します。
1. 予測精度の向上
2. 研究期間の短縮
3. 全世界・全時代のデータを活かせる
4. 研究開発の採算性や実現可能性を可視化できる
それぞれのメリットについて説明します
予測精度の向上
マテリアルズ・インフォマティクスは、原子スケールで材料開発を考えることができるため、より高い精度での予測が可能です。現在は、機械学習によって様々な物質の電子状態を短時間で予測できるようになっており、従来のシミュレーターでは数日かかるものも数秒で予測できるようになっています。
分子振動の相互作用や結晶構造に基づいた高い予測ができるようになれば、予備実験等の手間も省くことも可能です。結果的に科学者の負担や研究の時短にも繋がります。
研究期間の短縮
研究期間の短縮は、マテリアルズ・インフォマティクスの一番の魅力です。AIの計算の速度と、精度向上による試行回数の減少の2つが研究期間の短縮に寄与しています。
マテリアルズ・インフォマティクスを使用しない場合と比較すると、製造工程を導き出す期間は半分以下、試行回数は数十分の一まで減らすことが可能です。今後さらにデータが集まれば、さらなる時間短縮ができるようになるでしょう。
全世界・全時代のデータを活かせる
AIは登録された全てのデータを基に計算するため、全世界のデータを最大限活かした予測をすることが可能です。これにより、経験や知識不足による設計ミスを減らすことができます。
研究者が研究テーマに関わる全ての論文を読むことは現実的に不可能でしょう。ましてや、これまで材料分野で行われた研究結果をすべて活用することは不可能です。しかし、AIはデータさえ登録されていれば見逃す確率は極めて低いです。また、全くの別分野でも活用できるデータがあれば取り入れてくれます。これにより、より精度の高い実験をすることが可能になります。
研究開発の採算性や実現可能性を可視化できる
マテリアルズ・インフォマティクスは、材料開発の採算性や実現可能性を数値化し、可視化してくれるのに役立ちます。長いものでは10年単位の時間がかかるのも普通だった材料開発では、決裁権者から予算をもらうためのエビデンス作成がたいへんな関門です。
AIを用いるマテリアルズ・インフォマティクスであれば、過去の実験データやシミュレーションデータを基にエビデンスを出せるため、開発計画をスムーズに立案できるでしょう。
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マテリアルズ・インフォマティクス2つの課題・デメリット
マテリアルズ・インフォマティクスには、先端技術ならではの以下のデメリットがあります。
1. プラットフォームが整備されていない
2. データの秘匿化が必要
それぞれのデメリットについて説明します。
プラットフォームが整備されていない
マテリアルズ・インフォマティクスは比較的新しい技術のため、データのプラットフォームがまだ整備されていません。マテリアルズ・インフォマティクスでは、AIが蓄積データを基に製造工程や最適な材料を予測しますが、蓄積データが少ないと正確な予測ができません。
現在、日本でも国が予算を出して取り組んでいるため、データ整備は着実に進んでいくと思われます。しかし、マテリアルズ・インフォマティクスに関して日本は遅れをとっています。そのため、自社データを早期段階から保持しておくなどの準備をしなければ海外企業に先を行かれてしまいます。
データの秘匿化が必要
マテリアルズ・インフォマティクスは様々な研究所や企業のデータを活用するため、データの秘匿化が重要です。
近い分野を取り扱う研究において、マテリアルズ・インフォマティクスは良い相互作用を生み出すことができますが、中には競合に知られたくない情報もあるでしょう。そのようなデータを表に出すことなく、データを秘匿化して活用できるようにする仕組みも必要です。
マテリアルズ・インフォマティクスの成功事例6選
マテリアルズ・インフォマティクスの成功事例を以下に紹介します。
- MI人材を育成して開発期間を半分以下に(旭化成)
- 熱電変換材料の開発期間を短縮(NEC)
- 高性能ポリマー収率の収率を改善(ENEOS)
- 炭素繊維強化プラスチックの開発期間を短縮(東レ)
- 5年かかる全固体電池の材料を1年で開発(サムスン)
- フレキシブル透明フィルムの開発で実験回数を25分の1に(産総研)
- マルチモーダルAIでマテリアルズ・インフォマティクスを発展(日本ゼオン)
それぞれの事例について説明します。
MI人材を育成して開発期間を半分以下に(旭化成)
旭化成は、従来は数年かかる材料開発を半年で行うことに成功しました。旭化成では、2018年からマテリアルズ・インフォマティクスの強化に取り組んでいます。社内で3年間の研修期間を設けて、マテリアルズ・インフォマティクスの技術を習得した「MI人財」の育成を行ってきました。研修では、Webブラウザで実行可能な「MI-Hub」というクラウド研修システムを用いて、機械学習やコンピューター言語の教育を実施しました。
その結果、コロナウイルスの影響で在宅勤務が強いられる中でも材料開発期間の短縮に成功しています。現在は多くの製品の開発にマテリアルズ・インフォマティクスが活用されているようです。
熱電変換材料の開発期間を短縮(NEC/東北大学)
NECと東北大学は、自社で開発したマテリアルズ・インフォマティクスを用いて熱電変換デバイスの研究開発を行い、デバイスの熱電変換効率を約1年で100倍に向上させました。開発には、大量のデータを高速に処理・評価するシステムと、組み合わせゲーム理論に基づく分岐型探索アルゴリズムが用いられ、高速かつ高精度な開発が実現しました。
また、高精度な物性モデルを構築して可視化することで研究者がより理解しやすい環境になり、AIと研究者がより協調してデータ理解を深めることが可能になっています。
高性能ポリマー収率の収率を改善(ENEOS)
ENEOSは、マテリアルズ・インフォマティクスを用いて潤滑油とグリースの設計を行っています。独自の予測モデルを併せて活用することで、収率の向上や狙った機能を持つ素材の開発に成功しています。
ENEOSのマテリアルズ・インフォマティクスでは、化学シミュレーションによって活性化エネルギーや吸着・脱離エネルギーを算出でき、その結果を用いたAIによる最適な製造工程の予測ができます。これにより、多くの相互作用や複雑な分子構造を持つ高性能ポリマーでも、正確な設計予測が可能です。
炭素繊維強化プラスチックの開発期間を短縮(東レ)
東レは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の開発にマテリアルズ・インフォマティクスを用いて、開発期間の大幅な短縮に成功しました。これまで、CFRPのように難燃性と力学特性を両立しなければならない素材の開発には、膨大なデータが必要でした。そのため開発には多くの時間が必要で、設計だけでも2~3年の期間が必要でした。しかし、マテリアルズ・インフォマティクスを用いることにより短期間での開発が可能となったのです。マテリアルズ・インフォマティクスを活用した開発では、データベースの構築に1年、設計・評価に1~2ヶ月しかかからず、開発期間の大幅な短縮を実現しました。
5年かかる全固体電池の材料を1年で開発(サムスン)
サムスンがマサチューセッツ工科大学と行った次世代バッテリー全固体電池の共同研究では、マテリアルズ・インフォマティクスを用いることで1年という短期間での開発に成功しました。ちなみに、マテリアルズ・インフォマティクスを用いていなかったトヨタは、ほとんど同じ材料の全固体電池の開発に5年かかっていました。
タッチの差で特許権はトヨタが獲得しましたが、サムスンはシミュレーションまですべてコンピュータ上で行っていたことで業界に衝撃を与えました。マテリアルズ・インフォマティクスによって、開発の時間短縮に加えて実験コストの削減も可能なことが明らかになったのです。
フレキシブル透明フィルムの開発で実験回数を25分の1に(産総研)
産総研はフレキシブル透明フィルムの開発で、材料特性や素材データを学習したAIの予測により実験回数を25分の1にまで減らしています。産総研は2016年度から5年間、「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」を行い、マテリアルズ・インフォマティクスを推進してきました。その中の成功例が、フレキシブル透明フィルムの開発です。
実現が困難と思われていた「透過率」「破断応力」「伸び」という相反する3項目の特性を高めたフィルムの開発も成功しており、品質向上にも寄与しています。2022年4月からは、半導体や触媒など5分野のデータプラットフォーム「データ駆動型材料設計技術利用推進コンソーシアム」を運用して材料開発の革新に取り組んでいます。
マルチモーダルAIでマテリアルズ・インフォマティクスを発展(日本ゼオン)
産業技術総合研究所(産総研)、日本ゼオン株式会社などは共同で、マルチモーダルAI技術を用いて複雑な構造を持つ材料データを処理し、高速かつ高精度でさまざまな機能を予測できる技術を開発しました。画像データや分光スペクトルなどの異なる複数のデータを計測し統合することにより、従来のAIでは適用できなかった複雑材料系でも異なる特性を高精度で予測することが可能となりました。
このマルチモーダルAI技術は、膨大な条件から選定、成形加工、評価といった材料開発のプロセスの大幅な高度化・大幅な所要時間の短縮につなげられたということです。
こちらでマルチモーダルAIとは何か詳しく説明しています。
まとめ
材料開発に欠かせない手法となりつつあるマテリアルズ・インフォマティクス。開発時間を短縮できることから、労働環境の改善や人材不足などの問題も解決できるかもしれません。先端技術であるAIを用いたマテリアルズ・インフォマティクスは、高いレベルの材料開発において不可欠な存在となるでしょう。
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