予知保全とは?予防保全・事後保全・予兆保全との違い、メリット・デメリットを解説
最終更新日:2024年09月23日
製造業やエネルギー業において今導入が増えているのがAIを活用した予知保全です。経年劣化の起こりやすいモーターなどの機械や設備の異常をAIで予知することで業務の効果、効率の向上を目指します。しかし、多くの担当者が「予知保全とは?」「従来の保全手法と違う?」と疑問をお持ちのようです。
予知保全の導入で無駄なコストもカットできると人気ですが、メリットやデメリットをきっちり把握して対策をたてていないと初期費用だけかさんでしまい、期待していた効果は得られません。今回の記事では予知保全とはなにか、従来の予防保全や事後保全との違い、間違えない導入方法の注意点をご紹介します。
読んでいただければ、自社での予知保全導入のベネフィット、導入までのステップが見えてきます。
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目次
予知保全とは?
予知保全とは、工場における設備などを継続的に監視し、劣化や故障が起きる前にメンテンナンスを行う手法です。監視にはIoTセンサーやPLC等を使い、電流値、温度、振動数や稼働音など、計測したデータを分析して、劣化や異常のタイミングを事前に予知します。
予知保全により、点検時間の短縮や、部品の交換時間を最適化することが可能となり、ダウンタイムを短縮する効果が期待できます。予知保全のデータ分析にAIを使うことが昨今増えてきています。
予知保全と予兆保全は同義語で、より専門的な資料では「状態基準保全(CBM:Condition Based Maintenance)」または「状態監視保全」と呼ばれることもあります。
実際に予知保全を導入した事例についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
予知保全に用いられるAI技術
AIとしては、データ分析や画像認識・分析、異常検知の技術が多く用いられます。加えて、統計手法を用いた予測システムも駆使します。AIによる将来予測システムの仕組みについてはこちらの記事で分かりやすく説明しています。
センサーデータやログデータの解析では、従来の機械学習が用いられることが多いようです。一方画像認識では、深層学習(ディープラーニング)の活用例が多くみられます。(ディープラーニングの用語解説)
異常検知の技術に強いシステム開発会社はこちらの記事で特集しています。
製品やインフラ躯体の内部の欠陥や劣化を検知する非破壊検査
非破壊検査(NDT: Non-Destructive Testing)とは、対象物を破壊することなく内部の欠陥や劣化の状況を調べる検査技術です。画像認識AIの高度化に伴い、従来の非破壊検査では検出できなかった水道管やガス管などの微細な欠陥もスムーズに検出できるようになりつつあります。
そのため、AIは従来の非破壊検査に対して、より効率と精度を向上できる技術として期待されています。
製品やインフラ躯体の内部の欠陥や劣化を検知する非破壊検査についてはこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
予知保全・予防保全・事後保全の違い
保全手法には、予知保全(予兆保全)、予防保全、そして事後保全という、三つの主要な形態が存在します。これらの概念は、しばしば混同されますが、その違いを理解することは設備管理の効率と効果を最大化する上で重要となります。
予知保全は、稼働状況のリアルタイムなデータを元に、機械の劣化や異常を事前に予測する手法です。
予防保全とは?
予防保全は、機械の耐用年数や使用回数など、一定のルールを設定し、そのタイミングに基づいて定期的なメンテナンスを行う手法です。リアルタイムの計測が不要なため、メンテナンス期間以外のランニングコストを抑えることが可能です。
しかし、メンテナンスが必要でない時期にも作業が行われるため、効率性に課題がある可能性があります。
事後保全とは?
事後保全は、設備に異常が発生した後、または故障してしまった後にメンテナンスを行う手法です。ランニングコストは発生しませんが、重大な異常や故障の場合、修復に長いダウンタイムが必要となることがあります。
これらの保全手法は、それぞれメリットとデメリットがあります。そのため、自社の設備状況や予算、そして目指す生産効率に応じて、最適な保全手法を選択することが求められます。
予知保全・予防保全・事後保全の比較一覧
予知保全・予防保全・事後保全は、それぞれメリットとデメリットがあります。そのため、自社の設備状況や予算、そして目指す生産効率に応じて、最適な保全手法を選択することが求められます。予知保全・予防保全・事後保全は以下のように異なります。
保全手法 | 方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
予知保全 | 稼働状況のリアルタイムなデータを元に機械の劣化や異常を予知 |
| 導入コストが掛かる |
予防保全 | 耐用年数や使用回数など一定のルールを決めて、タイミングが来たら定期メンテナンスを行う | リアルタイム計測が必要ないためメンテナンス期以外のランニングコストが抑えられる | メンテナンスが無駄になってしまう可能性がある |
事後保全 | 設備に異常がでた後や故障してしまった後にメンテナンスを行う | メンテナンスのためのランニングコストが生じない | 異常や故障が重い場合は修復に長いダウンタイムが必要になる可能性 |
多くの製造業が予知保全に移行している3つの理由
製造業の成功は、生産設備の持続的な稼働に大いに依存します。そのため、「設備の機能を一定水準以上で維持」することが、製造業の重要な課題となっています。これを達成するための手段として昔から存在してきたのが「保全」です。
製造業者は、保全を通じて生産ロスとリスクを最小限に抑え、ステークホルダーに対する価値提供を図ってきました。その製造業者の多くが、予知保全に移行しているのには主に以下の理由があります。
- 従来の事後保全と予防保全の限界
- IoT(モノのインターネット)の発達
- AIの進歩
従来の事後保全と予防保全の限界
これまでの保全手法である事後保全と予防保全には限界がありました。しかし、事後保全と予防保全には、それぞれ限界がありました。事後保全は、故障が生じてからの対応となるため、予期せぬダウンタイムが発生し、生産効率の低下を招く可能性があります。
一方、予防保全では定期的にメンテナンスや部品交換を行うため、予定外のダウンタイムは減らせますが、まだ使える部品まで交換することでオーバーメンテナンスとなり、コスト効率が悪くなる可能性があります。
そこで、製造業の現場では、これらの問題を解消するために「予知保全」へと移行しているのです。
IoT(モノのインターネット)の発達
予知保全は、設備の異常を事前に予知し、それに対応することでトラブルを未然に防ぐ手法です。そして、この予知の実現に不可欠なのが、IoT(モノのインターネット)の活用です。
IoTを工場の生産ラインに導入すると、各設備に取り付けられたセンサーから収集した稼働時間・温度・振動などのデータをネットワークを通じて一元化することが可能になります。そして、これらのデータを分析することで、設備の稼働状況をリアルタイムで把握し、過去の傾向からトラブルの発生時期を予知することが可能となります。
IoTの発達により、事後保全での予期せぬダウンタイムを防ぎつつ、予防保全でのオーバーメンテナンスも避けることができます。
AIの進歩
IoTセンサーから取得したデータを、AIの分析力を用いて解析することで、設備の稼働状況をリアルタイムで把握し、過去の傾向からトラブルの発生時期を予知することが可能となります。AIにより、事後保全での予期せぬダウンタイムを防ぎつつ、予防保全でのオーバーメンテナンスも避けることができます。
AI技術の進歩により、大量のデータから有用な情報を抽出し、それに基づいて設備の異常を予測することが可能となりました。これにより、予知保全は従来の保全手法の問題点を解消し、製造業の効率と効果を大幅に向上させる重要な役割を果たしています。
予知保全4つのメリット
予知保全の代表的なメリットを以下に紹介します。
交換時間を的確に判断できる
予知保全では、異常や設備の交換のタイミングを適切に把握できます。リアルタイムで常に設備の状況を把握できるからです。従来の予防保全では、決めたタイミングでメンテナンスを行うため、結果的には異常がなくてもメンテナンスを行ってしまう可能性があります。
しかし、予知保全では常に設備の状況を把握できるため、異常をリアルタイムで把握できます。その結果、無駄なメンテナンス作業も発生することなく、まだ使える部品を交換することもなくなります。
交換時間を的確に判断するために、複数のセンサーを用いてデータを統合して判断するセンサーフュージョンがよく用いられます。
こちらでセンサーフュージョンのデータ統合の仕組み、活用事例を詳しく説明しています。
ダウンタイムを短縮
予知保全は故障や異常が起きる前に把握できるため、設備を使用できないダウンタイムの発生を防止できます。事後保全の場合、設備の異常や故障が発生してしまった後に交換やメンテナンスを行います。もし軽微の故障であれば重篤な問題にはならないでしょう。しかし、異常や故障が重かった場合は修理に余計な時間がかかってしまい、ダウンタイムが長引く可能性があります。
予知保全であれば故障や異常が起きる前から状況や故障の原因を事前に把握できるため、ダウンタイムを最小限に抑えることが可能です。ダウンタイムが短縮できれば、生産性が向上し機会損失を抑えられます。
点検時間が抑えられる
AIを活用した予知保全では、従来人力で行うしかなかった点検作業時間を大幅に抑えることができます。設備や機械のリアルタイム状況をIoTセンサーで取得し、AIを活用して分析できるからです。
点検作業をIoTやAIで行って、いつ故障しそうなのか、いつ異常なのかを把握します。点検時間を別の作業に回すことで効率性アップにもつなげたり、全体コストも抑えることができます。
教育・運用コストを抑えられる
予知保全では、担当者の教育や運用のコストを抑えることができます。経験を積んできたベテランの担当者であれば、経験と勘からどこの部分が故障しそうか、どこを修理すればいいのか対応できる場合があり、従来の予防保全だけでも対応が可能でした。しかし、すべての担当者が同レベルの判断を行うためには、ノウハウや知識の教育に時間やコストがかかります。
予知保全であれば、データを元に判断を行うため、ノウハウや知識がない経験が浅い担当者でもベテランと同程度の精度で対応できます。そのため、いままでかかっていた教育のコストやノウハウの伝承にかかっていた運用のコストを大幅に抑えることができます。
予知保全のデメリットは初期コスト
予知保全を導入するためには以下の初期コストが必要となります。
- IoTセンサー設置
- センサーからデータを送付するネットワーク構築
- データの管理や保存、分析するためのシステムやAIモデルの構築
センサーの設置やシステムの構築には、導入費用だけではなく、一定の作業時間も確保しなければなりません。場合によっては設備のレイアウトも変える必要があるかもしれません。導入してすぐに運用ができないことを認識しておきましょう。
その際、メンテナンスにかかるランニングコスト、ダウンタイムが生じた場合の機会損失など、全体の費用対効果を加味したうえで導入を検討しましょう。
AIを使う予知保全の導入方法4ステップ
ここでは、AIを活用した予知保全を導入するために必要なステップを以下で説明します。
1.予知保全を導入する目的を整理
なぜ予知保全の導入を検討しているのか整理しましょう。予知保全を導入することでどのような結果を求めているのか、どれくらいのコスト削減、精度アップを求めているのかなど具体的な導入目標を整理しましょう。費用対効果なども含めて検証します。なおこの際、AIの精度が100%でないことを前提に、現実的に業務で活用するためにどうしたら良いのかを事前に考えておくことで、最適な運用が可能になります。
2.外注か内製か決定
予知保全を導入するための体制を検討しましょう。大きく分けて以下の3つの方法があります。
- 自社内の人材で担当する
- AIシステム開発会社に外注する
- 必要な部分のみAI人材をスポット活用する
全体のコスト、自社内でAIスキルをどの程度蓄積していきたいか、どれくらいの予知精度のレベルを求めているかなどを軸に検討してみましょう
3.AIによる予想モデルの構築・最適化
すでに存在しているデータの洗い出しなどをもとに、AIによる予測モデルを構築してみます。その際、入手できる過去のデータだけでなく、設備や機械などにセンサーを取り付けて、将来的に継続してデータが取れるのかも確認しておきましょう。また、AIモデルから予測されたデータが業務で利用できるレベルかも確認します。自社だけでは対応が難しい場合は、自社の事業種類やニーズにマッチしたAIシステム開発会社に相談することがおすすめです。
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4.本番実装・PDCA
AIによる予測モデルを業務に利用できるレベルまで構築できたら、本番モデルの構築を行います。大事なのは、ただシステムを導入することではありません。システムを現場で実際に利用するスタッフに向けての説明を丁寧に行うことも重要です。いくらシステムを導入しても使ってもらわなければ意味がありません。
また、導入した後も定期的にPDCAを回し、最初に設定していた目的を達成しているのかを継続的に確認しましょう。
予知保全でAIを活用する際の注意点
AIを活用した予知保全を導入する際の注意点を紹介します。
最初からAIだけに判断を任せない
AIで異常発生タイミングを判断したからと言って、その精度は完璧ではありません。例えば、良質な教師データ(AIが学習のために用いるデータ)が揃っていなければ、AIでも的確な判断ができません。もし、AIのみに頼ったワークフローを設置してしまうと、AIがうまく機能しない場合にすべての生産ラインが止まってしまうかもしれません。
一定の精度が見込まれるまでは、AIによる予測システムと人の判断を並行して利用する方法を検討しましょう。
システムを理解する
AIによるシステムの特徴をしっかり理解しておくことをおすすめします。例えば、AIシステムが予測する異常発生タイミングと実際の発生タイミングの間にタイムラグが生じることもあります。タイムラグの原因は、ネットワークかもしれませんし、AIによる解析に時間がかかっているからかもしれません。システムの特徴を理解しておくことで、タイムラグやトラブルにも適切に対処できます。また、AIシステムもメンテナンスが必要となることも理解しておきましょう。
予知保全についてよくある質問まとめ
- 予知保全とは?
予知保全とは、工場における設備などを継続的に監視し、劣化や故障が起きる前にメンテンナンスを行う手法です。監視にはIoTセンサーやPLC等を使い、電流値、温度、振動数や稼働音など、計測したデータを分析して、劣化や異常のタイミングを事前に予知します。詳しくはこちらにジャンプ。
- 予防保全とは?
予防保全は、機械の耐用年数や使用回数など、一定のルールを設定し、そのタイミングに基づいて定期的なメンテナンスを行う手法です。リアルタイムの計測が不要なため、メンテナンス期間以外のランニングコストを抑えることが可能です。
しかし、メンテナンスが必要でない時期にも作業が行われるため、効率性に課題がある可能性があります。
事後保全は、設備に異常が発生した後、または故障してしまった後にメンテナンスを行う手法です。ランニングコストは発生しませんが、重大な異常や故障の場合、修復に長いダウンタイムが必要となることがあります。詳しくはこちらにジャンプ。
- 事後保全とは?
事後保全は、設備に異常が発生した後、または故障してしまった後にメンテナンスを行う手法です。ランニングコストは発生しませんが、重大な異常や故障の場合、修復に長いダウンタイムが必要となることがあります。詳しくはこちらにジャンプ。
- 多くの製造業が予知保全に移行している理由は?
製造業の成功は、生産設備の持続的な稼働に大いに依存します。これを達成するための手段として保全を通じて生産ロスとリスクを最小限に抑え、ステークホルダーに対する価値提供を図ってきました。その製造業者の多くが、予知保全に移行しているのには主に以下の理由があります。
- 従来の事後保全と予防保全の限界
- IoT(モノのインターネット)の発達
- AIの進歩
まとめ:予知保全の導入に外注を活用しよう
予知保全(予兆保全)は機器が持つデータを分析することで、設備や機械に劣化や異常が発生しそうなタイミングを予測してメンテナンスを実施する手法です。従来の予防保全と比べても無駄がなくなりますし、事後保全のように長期のダウンタイムを防止できるメリットがあり、導入している企業も増えています。
AIを活用した予知保全を実際に現場に導入する為には、AIによる適切な予測モデルを構築するための事前検証が重要です。AIシステムの構築で分かりにくい部分は、自社の事業種類にマッチしたAIシステム開発会社に相談してみてもよいかもしれません。
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