最終更新日:2024-08-18
Transformerとは?何がすごい?ChatGPTのベースにもなった深層学習モデルを詳しく解説
AI(人工知能)技術の進化は目覚ましく、特に自然言語処理の分野では大きく発展しています。発展のきっかけとなったのは、「Transformer」という自然言語処理のディープラーニング(深層学習)モデルが登場したことです。
Transformerは、OpenAI社が開発しているChatGPTのモデルの元にもなっており、ChatGPTのGPTのTはTransformerの略語です。
ChatGPTとは何か?どのように活用できるかをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
Transformerは、私たちが利用するサービスや製品の言語理解や生成技術の基盤となっています。ChatGPTをはじめとした文章のジェネレーティブAIや、自然言語処理の理解に必要なモデルといえるでしょう。本記事では、
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目次
Transformerとは?
「Transformer(トランスフォーマー)」は、自然言語処理におけるディープラーニング(深層学習)モデルで、「Attention」という技術を中心に設計されています。「Attention is All You Need」という2017年Googleの研究者によって発表された論文で登場した自然言語処理に関するモデルです。
ディープラーニングの仕組み、従来の機械学習との違いをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
Transformerは、系列変換モデルのニューラルネットワークです。系列(シーケンス)とは、順序を持った並びのことで、系列変換は、ある系列から別の系列に変換することを指します。文は単語の系列であると言えるので、さまざまな自然言語処理のタスクに幅広く使えるというわけです。
系列変換のタスクにはさまざまなものがあり、例えば機械翻訳であれば、英語の文章から日本語の文章へ変換できます。要約のタスクであれば、元の文章から要約文への変換を意味します。
Transformerの構造をわかりやすく解説
Transformerは、文章の中に含まれる単語のような連続のデータの関係性を追うことで、文脈やその意味を学習するニューラルネットワークです。
Transformerは、文章を理解するために「エンコーダ」と「デコーダ」という二つの部分でできています。この二つは、Self-Attentionメカニズムという特別な方法でつながっています。
エンコーダ・デコーダ
Transformerは、以下から成り立つスタック構造を持ちます。
- エンコーダ
- デコーダ
エンコーダは、入力データの重要な情報や特徴をとらえ、コンパクトな形式にして、複数の層を積み重ねた形で構成します。専門的な用語で言うと、エンコーダの役割は入力情報をベクトルや系列などに変換することです。
わかりやすく言うと、文章を読んで、その中の大事なポイントを見つける役割です。例えば、「犬がボールを追いかける」という文があれば、エンコーダは「犬」と「ボール」と「追いかける」が重要な単語だと理解します。
デコーダの役割は、エンコーダが見つけた重要ポイントを利用し、処理内容に応じて目的にかなう新しいデータを生成することです。例えば、質問応答システムで「誰がボールを追いかけるの?」と聞かれたら、「犬が追いかける」と答えるようなことをします。
Transformer発表の論文では、エンコーダとデコーダの層は6つずつ用意されていました。現在は、必要に応じて層の数は調整されます。
Attention
Transformerは、「Attention」というメカニズムを中心に設計されています。Attentionとは、与えられた文章から文中の「最も」重要な情報はどの単語かを判断し焦点を当てる仕組みです。
具体的には、入力された文章のそれぞれの単語を、他のすべての単語との関係性に基づいて重み付けをします。ある単語から見て別の単語がどの程度関係していて重要であるかを計算します。
例えば、「犬がボールを追いかける」では、「犬」は「追いかける」に直接関係しています。この関係性を数学的に計算して、どの単語が一番大事かを見つけます。
全結合層
Transformerモデルの中にも全結合層があります。この全結合層が、文章の意味をより深く理解するために働きます。
全結合層(Fully Connected Layer)とは、ニューラルネットワークにおいて各ノードが他のすべてのノードと結合している層を指します。ノードは、コンピュータが考えるために情報を受け取って簡素な計算をする小さな部品です。例えば、足し算や掛け算などの簡単な計算をします。
全結合層(Fully Connected Layer)は、たくさんの小さな「ノード」が、互いにしっかりとつながっている状態です。各ノードが他のすべてのノードと「全結合」しているので、情報がすごく効率よく流れます。これが、コンピュータが複雑な問題も解ける理由の一つです。
Transformerのエンコーダとデコーダの中で、全結合層は単語やフレーズの関係性を計算して、より正確な文章を生成します。この層があるおかげで、翻訳アプリでは正確な翻訳ができたり、ゲームのAIは賢く動けたりします。
Transformerがすごい3ポイント
Transformerモデルは、自然言語処理の分野で多くのタスクで高い性能を発揮します。そのTransformerの構造を発展させ、多くの派生モデルを生み出しています。
Attentionのみで計算量や精度を改善
Transformerの中核となるAttentionのみで処理をおこなえる点が大きな特長です。Attention機構(注意機構)は、2つの系列間で、各要素の関連度を計算する手法です。
注意機構にはいくつかのバリエーションがあり、Transformer が採用している「Self-Attention」という機能によって、系列内のすべての要素と他のすべての要素との関係を同時に考慮します。
従来の畳み込み層などを使用せず、Attention層のみで学習することで、高速で精度が高い処理が可能となりました。
畳み込みニューラルネットワークの仕組みをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
並列処理が可能
Transformerは、並列処理が容易で多くの計算リソースの環境下で特に効果を発揮します。並列処理は、複数の命令を同時に実行することです。
従来のディープラーニングモデルのRNNやLSTMという手法では逐次的に処理していました。これは、文章の単語を順番に認識し、関係性を理解しながら次に何の単語が来るのか予測するモデルです。
対してTransformerは並列処理ができるため、文章の単語の関係性や文脈をより正確に理解できます。並列処理は学習を高速で実行できるので、大規模で複雑なモデルでも効率的な処理が可能です。
長期記憶が可能
Transformerのメリットは、長い文章などのデータが入力されても、記憶して最後まで処理が可能な点です。従来のRNNは、順番に処理していく逐次処理のため処理の途中で前の情報を忘れてしまう現象が起きていました。Transformerは長期記憶が可能であるため、長いテキストも正確な処理が可能です。
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Transformerだからできること
Transformerモデルを用いるとさまざまなタスクを処理できます。本来は機械翻訳向けの系列変換タスクを想定したモデルでしたが、多くの派生モデルによってさまざまな言語処理のタスクで利用できるようになりました。
翻訳
与えられた文章をある言語から別の言語に翻訳できます。そもそもTransformerモデルは機械翻訳のタスクのために設計されたものです。
Self-Attention機能によって入力文の単語が文全体の文脈の中でどのような意味を持つか理解できます。文法やニュアンスが複雑であっても、高精度な翻訳が可能です。
文章の生成
プロンプトや条件に基づいて新しい文章を生成できます。与えられた文脈に基づいて一貫性のある文章を生成できます。さらにパラメータを調整し、生成される文章の多様性や新規性も制御可能です。
文脈に応じた関連性がある文章の生成も可能で、質問応答のタスクでも優れた性能を発揮できます。
要約や感情分析など文章の特徴を抽出
長い文章を短い要約に変換したり、ユーザーレビューや顧客からの意見から感情を判定したりといった文章の特徴を抽出できます。文脈を理解することが得意なモデルなので、文章の主要なポイントや感情を正確にとらえられます。
Transformerをベースに発展した代表的LLM
Transformerの設計は拡張性が高いことから、のちに多くの自然言語処理のLLM(大規模言語モデル)を生み出しました。例えば現時点でよく使われているテキスト系のジェネレーティブAIのGPT、BERT、T5などの基盤にはTransformerが用いられています。
LLM(大規模言語モデル)とは何か、どんな仕組みか、こちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
GPT(OpenAI)
GPT(Generative Pre-trained Transformer)はTransformerをベースとした言語生成モデルで、米OpenAI社によって開発されました。2018年に初めて導入された大規模な言語モデルです。
GPTはトランスフォーマーアーキテクチャに基づいており、大量のラベルなしテキストデータで事前学習されています。最新のモデル、GPT-4は2023年3月にリリースされました。このモデルは、テキストだけでなく画像も入力として受け付ける多様な用途に使用できます。
GPTはTransformerのデコーダ部分を重ねた構造を使用して、次の単語の予測が得意です。デコーダ部分でテキストの生成、理解をおこないます。
OpenAIはGPTを特定のタスクに適用するためのファインチューニングやプロンプトエンジニアリングといった手法も提供しています。ファインチューニングとは事前学習済みのモデルをベースとして個別のタスクに合わせて追加で学習することです。独自のデータセットや業界特有の知識でGPTをファインチューニングすることで、競合と差別化を図ることができます。
ChatGPTを使う方法をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
BERT(Google)
BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、Googleによって2018年に導入されたLLM(大規模言語モデル)です。BERTはTransformerアーキテクチャに基づいており、特にエンコーダレイヤーを使用しています。
学習フローは事前学習のアプローチが中心です。事前学習とは、大量のラベルなしデータによって学習することを指します。BERTは、大規模なデータセットで事前学習され、その後、特定のNLPタスクに対してファインチューニングが可能です。
BERTは、テキストを双方向に解析する能力があり、文脈に応じて単語の意味を理解します。時間はかかりますが、1度の学習でさまざまなタスクをファインチューニングによって再利用が可能です。
モデルがテキストを双方向に読み、入力テキスト内の各単語が文脈内でどのように現れるかを考慮するため、前後の単語の情報を両方とも使用します。BERTは文脈を理解する能力が高いため、顧客対応や市場調査などで高い精度が期待できます。
PaLM(Google)
PaLM(Pathways Language Model)はGoogle AIによって開発された大規模な言語モデル(LLM)です。特に、PaLM 2は3400億パラメータモデルで、3.6兆トークンで訓練されています。
PaLMは自然言語処理のタスクにおいて高精度の結果を発揮します。現時点のバージョンであるPaLM 2は、以下の高度なタスク処理が可能です。
- コード生成
- 数式の理解
- 翻訳
- ジョークの説明
- 生成
コードや数式の理解などの高度な推論のタスクで優れた性能を持ちます。複雑なタスクを単純なサブタスクに分解し、人間の言語のニュアンスを理解できます。
例えば、なぞなぞや慣用句を理解するのが得意で、言葉の意味を文字通りに理解するだけでなく、あいまいで比喩的な意味も理解可能です。
Med-PaLMというバージョンもあり、医療データにファインチューニングされています。これは、医療分野での新しいビジネスチャンスを示しています。また、PaLMは視覚トランスフォーマーを使用して拡張され、ロボティクスなどの新しい領域での応用が期待されます。
T5(Google)
T5も基本的な構造はTransformerをもとにしており、テキストからテキストへの変換をおこないます。エンコーダ部分とデコーダ部分の両方を使用するモデルで、特徴は入力と出力をともにテキストのフォーマットに統一して利用できることです。
T5は、ある領域の学習済みのモデルを別の領域へ転用する「転移学習」を利用したモデルです。転移学習とは、ある領域で学習したモデルを別の領域で利用する手法です。学習データを変更するだけで、翻訳、要約、質問応答など、多くのNLPタスクを同一のモデルで解決できる特長があります。
データセットが限られている場合や新しい領域に進出する際にT5は特に有用です。既存のモデルを新しいタスクにどう適用するかを戦略的に考えることで最大限に能力を発揮できます。
Conformer
Conformerは、TransformerとCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を組み合わせたもので、特に音声認識のタスクで高い性能を発揮します。2020年にGoogleによって提案され、最新の研究が2023年7月に発表されました。
Conformerは、局所的な相互作用を捉えるために畳み込み層を使用し、長距離の依存関係を捉えるためにTransformerを使用しています。この組み合わせにより、大規模な言語モデリングにおいても高い性能を発揮することができます。
顧客サービスや製品の音声インターフェースに応用することで、ユーザーエクスペリエンスを向上させることが可能です。
Reformer
ReformerはTransformerの改良版です。大規模なテキストデータを効率的に処理できます。
Attentionとメモリの問題解決のために、効率的な処理ができるよういくつかの手法を取り入れて設計されました。
Attentionを効率的に適用し計算コストを削減したモデルです。大規模データや長い入力のシーケンスに対して高速かつ高精度で処理でき、メモリの使用量も削減できます。100万単語までのテキストを一度に処理できます。
Reformerは大規模なデータ処理に適しており、多くの企業で採用されています。
DeFormer
DeFormerは、Transformerの基盤をベースに高速に動作するように改善されたモデルです。特に、Q&Aタスクを高速化するために設計されました。
対話システムなどのQAモデルで効果を発揮します。事前学習済みの重みで初期化し、対象となるQAのデータセット上でファインチューニングが可能です。対話システムやカスタマーサービスの自動応答に使用されています。
Transformerについてよくある質問まとめ
- Transformerとは?
「Transformer(トランスフォーマー)」は、自然言語処理におけるディープラーニング(深層学習)モデルで、「Attention」という技術を中心に設計されています。「Attention is All You Need」という2017年Googleの研究者によって発表された論文で登場した自然言語処理に関するモデルです。詳しくはこちらにジャンプ。
- Transformerは何がすごい?
Transformerモデルは、自然言語処理の分野で以下の多くのタスクで高い性能を発揮します。
- Attentionのみで計算量や精度を改善
- 並列処理が可能
- 長期記憶が可能
まとめ
Transformerは自然言語処理AIの飛躍的な発展を支える中心の存在で、ジェネレーティブAIを支える仕組みとなった画期的なモデルになっています。エンコーダ・デコーダモデルの一種で、Self-Attentionによって高速化し高精度化しました。
Transformer アーキテクチャを画像認識に適用したVision Transformer (ViT)モデルも2021年にGoogleから発表されました。ViTの登場により、画像認識の精度が大きく向上し、様々な応用が期待されています。
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