教師データとは?学習データとの違い・教師あり学習での重要性・作り方を徹底紹介!
最終更新日:2025年04月14日

- 教師データはAIモデル、特に教師あり学習の精度を左右する根幹であり、「問題と正解」のセットで構成
- 高品質な教師データ作成には、課題設定からデータ収集、前処理、正確なアノテーション、評価・改善といった体系的なプロセスが不可欠
- 十分な量と多様性を確保し、正確なラベリングを行い、著作権や情報漏洩リスクにも配慮して教師データを準備する必要
教師データは、AI(人工知能)モデルの精度向上に欠かせません。高品質な教師データを用いることで、AIの過学習や再学習コストの削減につながり、AIプロジェクトの成功に寄与します。
この記事では、AIの性能を大きく左右する教師データの定義、学習データとの違い、そして質の高い教師データを作成するための具体的なステップ、特に重要なアノテーション(ラベル付け)作業のポイントや注意点を詳しく解説します。
本記事を読むことで、自社のAIプロジェクトにおける教師データの重要性を再認識し、モデルの精度向上や開発効率化に向けた実践的な知識を得ることができます。
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教師データとは?
教師データとは、AIモデルを訓練するために使用される「問題」と「解答」がセットになったデータのことです。
AI(人工知能)の中でも、特に教師あり機械学習モデルの学習データとして使われます。以下のように、入力データとその正解となるラベルがセットになっています。
- 入力データ:動物の画像
- 正解データ(ラベル):犬、猫、猿
モデルはこの正解情報を参照することで誤りを修正し、精度を向上させていきます。教師データは、AIモデルに対して正確なフィードバックを与え、学習過程での誤りを修正しながら精度を向上させる役割があります。
教師データにより、AIは未知のデータに対しても正しく判断できる能力を養うことができ、医療画像診断や外観検査、株価予測など幅広い分野で活用されています。
教師データと学習データの違い
学習データとは、AIモデルのトレーニングに利用される全てのデータセットのことです。訓練データ、検証データ、テストデータが含まれます。さらに、売上実績やカスタマーサポートの通話ログなどのラベルがないデータも該当します。
教師データは主に訓練データ用として使われます。
AIの機械学習は「教師あり学習」と「教師なし学習」の2つの方法に大きく分けられます。教師なし学習では、教師データは使われません。代わりに、正解ラベルが付与されていない「未ラベルデータ」を用いてモデルを訓練します。
教師あり学習の中で使用される学習データが教師データであるため、教師データは学習データの集合の一部と解釈できます。
教師ありと教師なしの中間的なアプローチとして、「半教師あり学習」が用いられることもあります。半教師あり学習は、一部にラベル付きデータ(教師データ)、その他に未ラベルデータを使用する手法です。
教師データの質の重要性
教師データの質が高ければ高いほど、AI開発において多くのメリットをもたらします。正確な正解ラベルが付与された教師データを用いることで、画像認識や音声認識、自然言語処理といった多岐にわたるタスクで高い精度が実現され、実用化に向けた信頼性を確保できます。
以下が、主なメリットです。
- AIモデルの学習精度向上
- AIモデルの開発効率の向上
高品質な教師データを用いると、過学習(オーバーフィッティング)を防止できます。過学習とは、モデルが訓練データに過度に適応してしまい、未知のデータに対して正しく応答できなくなる現象です。
高品質な教師データにより、AIはより汎用的な特徴を学習し、幅広いタスクに対して柔軟に対応できるようになります。
また、AIの再学習の手間を大幅に軽減できる点も特筆すべきメリットです。初期の段階で高品質な教師データがあることで、教師データの水増しや拡張などを行って再学習を行う必要がなくなります。
結果として、AIモデルが短期で高精度に到達でき、開発効率の向上につながります。教師データ作成、つまりラベル付け(アノテーション)作業の精度がAIモデルの精度を大きく左右します。
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教師データの作り方
教師データの作成は、AIモデルの精度向上や運用効率の改善に直結する重要なプロセスです。以下では、教師データの作り方における具体的な作業内容や注意点を紹介します。
課題設定
まず、構築するAIモデルの目的と解決すべき課題を明確化します。解決したいビジネス課題を明確にしましょう。
画像分類や自然言語処理、音声認識など、AIが取り組むタスクによって必要なデータの種類や品質も大きく異なります。
このステップが不十分だと、後続工程で無駄が発生する可能性があります。
データ要件の洗い出し
教師データとして必要な要件を明確に定めることが、高品質な教師データを作るために必要です。
以下が、データ要件を洗い出す際のポイントです。
- どんなデータが必要か
- どのくらいの量のデータが必要か
- どんなラベルが必要か
- 評価指標の策定:どのようにAIの性能を評価するか
AIが取り組むタスクによって必要なデータの種類や品質が大きく異なります。例えば、物体検出では各オブジェクトを正確に囲うバウンディングボックスとクラスラベル、画像分類では対象クラスごとに最低数千枚以上の多様な画像が必要です。
また、学習後のモデル性能を客観的に評価するために、正答率・再現率・F値など具体的な評価指標を事前に設定する必要があります。評価指標が明確になると、データの収集やラベリングの基準が明確になり、後の検証フェーズでの改善点の特定が容易になります。
これらを踏まえ、用途と評価指標が一致するように、必要データの量・ラベル粒度・品質基準を具体的に洗い出しましょう。
データ収集
データ要件に従い、必要な学習データを収集します。以下が、学習データに利用できるデータの例です。
データのカテゴリ | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
公開データセット | 研究コミュニティで活用されるオープンソースデータセット |
|
自社データ | 自社のシステムやツール、文書を活用 |
|
Webスクレイピング | インターネット上の情報を自動的に収集 |
|
汎用的なタスクに活用できるAIを迅速にリリースしたい場合は、公開データやWebスクレイピングのデータがおすすめです。大量のデータを手に入れることができ、スムーズに教師データに必要なデータ数を収集できます。
一方、専門性の高いAIを構築したい場合は、独自の業務ノウハウや市場動向が凝縮されている自社データの活用が有効です。
プロジェクトの目的や予算に応じて、適切なデータを収集しましょう。また、データを収集する際は、利用規約や個人情報の取り扱い、データコンプライアンスに十分な配慮が必要です。
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データ品質管理
データ収集後にデータの正確性・偏りなどを評価します。
データは最新かつ正確であるか確認します。また、バイアスや偏りを排除するためのチェックも行います。
データ前処理
収集した生データはノイズや欠損値などを含む傾向にあり、AIモデルが学習するには適していません。そのため、AIの学習精度向上やプログラム処理上のエラー回避のために、教師データを整える「前処理」が必要です。
以下が、教師データの前処理の例です。
データ前処理の種類 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
ノイズ除去 | データセット内の不要な要素や誤ったデータを取り除く作業 | エラーや欠損値、重複データなどを削除 |
正規化 | 画像やテキスト、音声データなど、各種フォーマットのデータを統一された形式に変換 |
|
データ拡張 | データを増やす作業 |
|
フォーマット変換 | 異なるデータソースから集めたデータを、一元管理しやすい形式に整形 | CSVやJSON、画像フォルダ構造などを統一 |
データ前処理は、AI開発における「土台作り」に相当し、前処理の品質がAIの最終的な性能や信頼性を大きく左右します。
AI開発を成功に導く上では、生データや要件に合わせて各前処理を漏れなく実施するとともに、継続的にデータ品質をモニタリング・改善し、質の高い教師データを作り出すことが重要です。
データ分割
データを学習用・検証用・テスト用に分割します。
- モデルを訓練するための「学習用データ」
- 性能を確認するための「検証用データ」
- 最終的な評価を行う「テスト用データ」
この工程は、モデルが未知のデータに対してどれだけ正確に予測できるか(汎化性能)を確認するために欠かせません。
アノテーション
データに対して正確なラベルを付与するアノテーション工程は、教師データの品質を大きく左右する重要な作業です。
アノテーションの方法は、以下の人手と自動作成の2種類に大別されます。
人手によるラベリング | 自動ラベリング |
---|---|
|
品質と効率を両立するなら、アノテーション専門会社への委託がおすすめです。専門会社は豊富なラベリング経験を持つ人材と確立された品質管理プロセスを備えており、一貫性の高いラベル付けを短期間で提供可能です。
また、専門知識が必要な医療などの分野でもドメイン知見を持つアノテータが対応するため、高度な精度が期待できます。内部リソースを節約しつつプロジェクトをスケールしやすくなるでしょう。
懸念されるコスト面においては、初期投資は内製化やツール活用に比べると大きくなります。しかし、再作業や修正の手間を大幅に削減できるため、長期的にみると費用対効果の高い選択肢と言えます。
特に、アノテーションのノウハウが自社にない場合やリソースを確保できない場合は、アノテーションの専門会社を活用しましょう。
関連記事:「アノテーション料金相場を画像・音声・動画別に解説!」
再評価・フィードバック
教師データ作成後にモデルで試験的に使用し、不足や誤りがないか再評価します。必要に応じて教師データを修正しましょう。
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教師データを作る際の注意点
AIモデルの学習性能を向上させるためには、教師データの質や量、多様性が重要な要素です。以下では、教師データ作成時のポイントと具体的な対策について詳しく紹介します。
十分な量の教師データを用意
教師データの量が多ければ多いほど、AIモデルは学習過程でより多くのパターンや状況を把握し、一般化能力が向上します。
特に、複雑なタスクや多様なケースに対応するためには、十分なデータが必要不可欠です。大量の教師データで学習したAIモデルは、学習データ量が少ない場合に比べて未知の状況にも柔軟に対応できます。
教師データを大量に確保するのが難しい場合は、データ拡張(データの水増し処理)が有効です。
データ拡張とは、既存のデータに対して画像の回転や反転、ノイズ付加などの加工を行い、新たなサンプルを大量に生成するデータ拡張技術です。
少数しかデータセットがないことに起因する過学習のリスクを軽減し、より堅牢なモデルの構築が可能となります。
教師データの多様性を確保
教師データの多様性は、AIモデルがさまざまなシナリオや例外ケースに対応できるかどうかに大きく影響します。
例えば、異常検知AIの学習において、同じような傷や異物混入の画像のみで学習すると、実際に発生する多様な異常パターンを認識できません。結果として、AIが重要な異常を見落とす可能性があります。
多様な教師データを用意できると、AIは幅広い状況に対する判断力を獲得し、現実の運用環境での柔軟性が向上します。
生成AIによるデータ拡張で教師データの量と多様性を確保
最近では、生成AIを活用して教師データを効率的に増やす手法も注目されています。例えば、以下のような技術が利用されています。
- GAN(敵対的生成ネットワーク):実際のデータに近い高品質な画像データを生成。
- Variational Autoencoders(VAE): データ分布を学習して新しいサンプルを生成。
- テキスト生成モデル: LLM(大規模言語モデル)で新しいテキストデータを生成。
教師データの多様性を確保する上でも、生成AIを活用したデータの拡張が一つの方法です。
生成AIは、既存のデータをもとに新たなパターンサンプルを生成するのに役立ちます。例えば、異常データの大量取得が難しい場合に、既存の異常データから新たな傷パターンを持つデータを生成可能です。
そうすることでデータの多様性が向上し、少量の教師データでも十分な学習精度が期待できます。
正確なラベリング(アノテーション)
AIモデルの学習精度を向上させるためには、教師データの質、つまりラベル付け(アノテーション作業)の正確性が重要です。
正確なラベリングとは、データ間で一貫性が保たれ、違法性やノイズが含まれていないラベルの状態を指します。誤ったラベルが混在している場合、AIは誤ったパターンを学習し、性能低下や誤判定のリスクが高まります。
正確なラベリングを行うためには、以下の対策が有効です。
- 共通アノテーションルールの作成
- クロスチェックの実施
- アノテーション専門会社に委託
複数人でラベリングを実施する際は、人によって作業の質や判断基準が異なるため、共通のラベリング方法を記載したマニュアル作成が欠かせません。
また、特に医療や税務など専門知識が求められる分野では、信頼性の高いアノテーション専門会社に委託することで、ラベル付けの正確性を担保できます。
外部データを使う場合は著作権に注意
教師データ作成のためにWebスクレイピングや第三者データの利用をする場合は、利用規約や関連法規を遵守する必要があります。
特に、著作権に関しては、著作権法 第三十条の四に基づく保護規定を念頭に置き、無断転載などの違反行為に当たる不適切な利用を行わないよう厳重な管理が必要ですが、基本的には下記の通りです。
AI開発のための情報解析のように、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能
上記画像のように、文化庁の資料にわかりやすく整理されていますので、ぜひご参考ください。
社内データの活用
社内データを教師データとして効果的に利用することで、より独自性かつ信頼性のあるAIモデルの開発が可能となります。社内データを教師データとして活用することには、以下のメリットがあります。
- 企業固有の業務知識を反映できる
- 常に最新の情報を反映できる
- 金銭的・時間的コストを削減できる
- プライバシー性を高められる
社内データを活用すると、自社固有の開発ノウハウや最新の市場動向を反映した、専門性の高いパターンやニーズを学習できる教師データを作成できます。外部データのみの教師データを学習したAIではできない、専門的な異常検知や業界トレンドを含む回答生成が期待できます。
また、外部データを収集・購入する際にかかる費用や時間を削減することも可能です。
社内データは企業内部で管理されるため、個人情報保護や機密情報の取り扱いにおいて、外部データに比べてセキュリティ対策がしやすい点もメリットです。
社内データを使う場合は情報漏洩に注意
社内のセキュリティ対策として、情報の取り扱いに関する内部ルールや監査体制の確立も不可欠です。特に、データ管理プラットフォームやクラウドサービスを利用する際は、自社の営業ノウハウや顧客情報などの機密情報が漏えいするリスクを抑える対策が必要です。
具体的なセキュリティ対策として、以下が挙げられます。
- データの暗号化
- 生体認証などのユーザ認証の強化
- ログの監視
- データのバックアップ
これらの取り組みを複合的に行うことで、外部データの利用時に生じるリスクを最小限に抑え、法的・倫理的な問題を回避できます。
教師データについてよくある質問まとめ
- 教師データと学習データの違いは何ですか?
教師データは、正解ラベルが付与されたデータで、モデルに「正解」を伝えるために使われます。例えば、猫の画像(問題)に「猫」というラベル(正解)が付与されたものが該当します。
一方、学習データは、教師データとラベルなしデータの両方を含む、モデル全体の訓練に使用されるデータです。
- なぜ大量の教師データが必要なのですか?
多くの教師データがあれば、モデルは多様なパターンや状況を学習でき、未知のデータに対する汎用性が向上します。また、過学習のリスクを軽減し、より高精度な予測を実現できます。
まとめ
教師データとは、入力データに「正解ラベル」が付いた学習データで、教師あり学習においてAIモデルが誤差を修正しながら精度を高めるために重要な役割を持ちます。
紹介した手順に沿って教師データを作成することは可能ですが、特にデータの多様性確保、専門知識が必要な分野での正確なラベリング(アノテーション)、継続的な品質管理には、相応の時間とノウハウが求められます。
もし、データ収集やアノテーション作業のリソース確保が難しい、あるいは特定のドメイン知識に基づいた高精度な教師データが必要な場合は、専門のサービスやベンダーに相談することも有効な手段です。
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