モデルマージとは?仕組み・手順・課題やSakana AI株式会社の事例を徹底解説!
最終更新日:2024年11月19日
AI業界では汎用性を追求した技術開発が進んでいますが、LLM(大規模言語モデル)の開発には膨大なコストがかかるため、実際に開発できる企業は限られるのが現状です。そこで近年では、異なるAIモデル同士を組み合わせるモデルマージという手法が用いられるようになりました。
最近ではSakana AI株式会社による進化的モデルマージも発表されるなど、モデルの融合によるAI開発が主流となりつつあります。しかし、これから本格的にAIを開発する方は、モデルマージの手法が分からない方も多いでしょう。
この記事では、モデルマージの概要からSakana AI株式会社の進化的モデルマージについて解説し、どんな特徴があるのか、どのように使うことができるのかについて紹介します。モデルマージ技術について理解を深めたい、実用化を検討したい方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
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モデルマージとは?
モデルマージとは、複数の異なるAIモデルを組み合わせ、新たな機能や性能向上を目指す手法です。事前学習済みの各モデルの得意分野を融合し、従来のモデル単体では達成が難しかった複雑なタスクにも対応できるようになることを目的とします。
近年のAI技術の発展に伴い、LLM(大規模言語モデル)や画像認識、さらにはレコメンデーションシステムなど、多岐にわたる分野で高度なモデルが開発されています。それらの異なる専門性を持つモデルを組み合わせることで、より多機能で高性能なモデルを作成できます。
また、AIモデルの汎用性を高めるには、膨大なデータセットや処理に対応できるソフトウェアが必要です。しかし、モデルマージで既存のモデルを活用することで、大規模な計算リソースや大量のデータセットを必要とせずに、より優れたモデルを開発できます。
モデルマージは新しいAI技術の発展に重要な役割を果たす技術で、特定の領域に限定されない柔軟なAI開発を行う上で、欠かせないアプローチとして期待されています。
モデルマージとアンサンブル学習の違い
モデルマージとアンサンブル学習は、複数のモデルを組み合わせて性能を向上させるという点で類似しています。しかし、以下に挙げるいくつかの重要な違いがあります。
相違点 | モデルマージ | アンサンブル学習 |
---|---|---|
モデル融合のタイミング | パラメータレベルで事前に融合し、1つのモデルを生成 | 推論時に各モデルの予測を組み合わせる |
最終的なモデル数 | 1つに融合 | 複数のモデルを維持 |
計算コスト | 単一モデルと同等 | 複数モデルの推論が必要なため、コストが高い |
適用範囲 | 主に事前学習済みモデルの能力統合 | より広範な機械学習タスクに適用可能 |
柔軟性 | 一度マージすると固定的 | 各モデルの重みを動的に調整可能 |
モデルマージは主にLLM(大規模言語モデル)などの基盤モデルで使用され、計算効率と統合された能力を重視します。一方、アンサンブル学習はより一般的な機械学習手法として、多様なタスクで予測精度の向上に活用されます。
両者は相補的な関係にあり、状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。
モデルマージで用いられる手法
モデルマージではいくつかの手法が利用されます。主に、重みレベルのマージ、レイヤーレベルのマージ、最適化手法の3つに分けられます。
分類 | 手法 | 特徴 |
---|---|---|
重みレベルのマージ | 重み平均化 (Weight Averaging) | 複数のモデルの対応する層の重みを単純に平均化 |
Fisher加重平均 (Fisher-Weighted Averaging) | フィッシャー情報量を用いて重みを平均化 各モデルの重要度を考慮してマージ | |
DARE (Dropout Averaging with Rescaling and Ensembling) | ドロップアウトを用いて重みをマージ 特定のパラメータをゼロにしてマージすることで、モデルの特徴を保持します | |
TIES (Task Interpolation via Ensembling Subnetworks) | タスク特化型のサブネットワークを抽出し、それらを補間してマージ | |
レイヤーレベルのマージ | 層の追加・置換 | 異なるモデルの層を新しい層として追加したり、置き換えたりする |
アダプターの融合 | 各モデルに追加されたアダプター層を融合する | |
最適化手法 | 進化的アルゴリズム | マージのハイパーパラメータを進化的に最適化する |
グリーディ探索 | バリデーションデータを用いて、逐次的にモデルをマージしていく |
上記の手法は、目的や対象モデルに応じて選択・組み合わせて使用されます。
モデルマージの手法はこれらに限らず、技術の発展と共に多様化しています。それぞれの手法には独自のメリットと課題があるため、目的に応じて適切な手法を選定することが重要です。
モデルマージの課題
モデルマージによるモデルの融合を実現するには、以下のようないくつかの課題が伴います。
- モデルの互換性
- 計算コスト
- モデルの解釈性
最大の課題はモデルの互換性です。異なるAIモデルを組み合わせる際、それぞれが学習したデータや内部の構造が異なるため、相互の調整が難しくなります。
例えば、画像認識モデルと自然言語処理モデルではデータ形式や解釈が異なるため、データ変換や調整を行える人材が限られます。
複数のモデルを同時に運用するには、通常のモデル運用よりも計算リソースが多く必要という課題もあります。
特に大規模なモデル同士をマージすると、処理速度が低下し、リアルタイムでの応答が求められるアプリケーションには不向きとなる場合があります。
また、モデルの解釈性も課題となります。異なるモデルを統合すると、どのモデルの判断が出力結果にどれだけ影響しているのかを理解しづらくなります。AIの透明性が求められる分野においては、重大な懸念事項となるかもしれません。
モデルマージによって組み合わせたモデルを運用可能にするためには、これらの課題をクリアしなければいけません。そのため、モデルマージの実用化はケースバイケースとなります。
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Sakana AI株式会社の進化的モデルマージとは?
課題があったモデルマージですが、Sakana AI株式会社というスタートアップ企業が生み出した開発手法「進化的モデルマージ」が今注目されています。
一般的なモデルマージでは異なる特性を持つモデルを直接統合するのに対し、進化的モデルマージは複数の世代にわたってモデルの進化を行い、最も適応した要素のみを残すという手法を用います。人間の直感や経験に頼らず、自動的に最適なマージ方法を見つけ出すことが可能です。
例えば、複数の分野にまたがるデータを扱う場合、進化的モデルマージは各領域のデータに最適化された特性を統合しながら、無駄な計算リソースを削減することが可能です。これにより、データの不整合やパフォーマンス低下といった問題に対処し、特定分野に特化した効果的なモデルが生成されます。
進化的モデルマージではマージされた後のモデルは、元のモデルよりも高い性能を示すことがあります。また、日本語や日本文化に特化したモデルなど、特定のニーズに応えるモデルを開発できます。
大規模なリソースを持たない組織でも高度なAIモデルを開発・活用することを可能にします。
進化的モデルマージの手順
Sakana AI株式会社の進化的モデルマージは、生物の進化における自然淘汰のメカニズムを模倣して設計されました。進化の過程で最適な特性を受け継ぐ生物のように、異なるAIモデルの特性を継承し、融合することによってより優れた性能を生み出すことを目指しています。
具体的には、複数のモデルを「親」とし、それぞれの長所を引き継ぐ「子」のモデルを生成します。そして、実際のタスクでの精度や効率を基に優れたモデルを選択していきます。
選択されたモデル同士を再び組み合わせて次の孫世代を生成します。さらに改善を重ねるプロセスを繰り返します。
このプロセスを何百世代も繰り返し、最適なモデルを探索していくのです。この手法は従来の一回限りのマージとは異なり、継続的な改善と適応が可能です。人間の直感に頼らず、自動的に最適なマージ方法を発見できます。
さらに、生物の進化に倣い、多様な環境条件に適応するモデル生成も目指しています。異なるタスクやデータセットに対応できる柔軟性が重視され、特定分野に特化しつつも、適応力のあるモデルを作り上げることが可能です。
これにより、従来の静的なAIモデルとは異なり、変化するデータ環境や異なるアプリケーションに応じた動的な活用が期待されています。そして、より汎用性の高いAI開発技術として注目されています。
Sakana AI株式会社とは?
Sakana AI株式会社は、2023年7月に設立された東京を拠点とするAIスタートアップです。元Google AIの研究者であるLlion Jones氏とDavid Ha氏によって創設されました。
生物の模倣(biomimicry)に基づいた柔軟で適応性の高いAIモデルの開発を目指し、複数の小規模AIモデルを協調させる「AIコンステレーション」技術や、この記事で特集する「進化的モデルマージ」技術の開発を行っています。
進化的モデルマージを用いて、以下3つの日本語対応モデルを開発・公開しました。
- EvoLLM-JP:7Bパラメータで70Bパラメータの最先端日本語LLMと同等以上の性能を持ち、数学的推論が可能な日本語LLM
- EvoVLM-JP:日本文化に関する知識を持つ画像言語モデル
- EvoSDXL-JP:日本向けに最適化された画像生成モデルで、日本語プロンプトを少ないステップで推論
半導体大手NVIDIA(エヌビディア)から出資、また、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループなどから300億円の出資を受けたと発表しており、AI業界の枠を超えて大きく注目されていることが分かります。
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進化的モデルマージのメリット
進化的モデルマージには、従来の統合技術では実現できないさまざまなメリットが備わっています。以下では、進化的モデルマージがもたらすメリットについて見ていきましょう。
かけ離れた領域のモデルマージに対応
進化的モデルマージは、異なる分野・領域のモデル同士を統合することが可能です。画像認識モデルと自然言語処理モデルといったように、扱うデータや処理方法が大きく異なるモデル同士でも、進化的アプローチを通じて融合が可能です。
これにより、それぞれのモデルが持つ専門的な知識や能力を活かしつつ、新たな視点からタスクに取り組むことができます。結果として、従来の単一モデルでは解決が難しかった複雑な問題に対しても、有効な解決策を出力します。
モデル生成に大規模な計算リソースを必要としない
一般的に、大規模なAIモデルの生成や統合には膨大な計算リソースが求められますが、進化的モデルマージは小規模なリソースで十分なモデル生成が行えます。段階的に特性を統合していくため、無駄な計算を省きながらモデルの性能を向上させることが可能です。
さらに、進化的モデルマージでは各世代ごとに性能評価を行い、不要なモデルの構成やパラメータを適宜削減することで全体の処理コストを低く抑えています。限られた計算環境やリソースの中でも、進化的モデルマージを活用することで、品質が優れたモデルを開発できます。
既存のオープンソースモデルを使える
進化的モデルマージのメリットの1つは、既存のオープンソースモデルを基盤として活用できる点です。オープンソースモデルはゼロからモデルを構築する必要がなく、既存の知識や成果を効果的に取り入れることが可能になります。
また、進化的モデルマージではオープンソースモデルの構造を最適化しながら進化的に融合させていくため、タスクに合わせたモデルのカスタマイズが容易です。
関連記事:「オープンソースLLMの特徴やビジネスでの活用メリット、代表的なモデルの比較ポイントについて詳しく解説」
分野特化モデルを作りやすい
進化的モデルマージは、特定の分野に最適化されたモデルを容易に生成できる点で優れています。進化的アプローチを用いることで、既存の複数モデルから関連性の高い要素やパラメータを抽出・統合するため、必要な機能や特性に特化したモデルが作りやすくなります。
例えば、医療分野や金融分野といった高い精度が求められる領域においても、分野ごとのデータや課題に対応したモデルを構築できます。このアプローチにより、従来の汎用モデルでは実現しにくかった特定分野に特化したモデルを開発することで、応用範囲の広がりや精度の向上が期待されています。
進化的モデルマージの活用例
進化的モデルマージが実現するAIモデル開発の柔軟性と効率性から、さまざまな分野や用途での活用が進んでいます。以下に、具体的なモデルマージ例を紹介していきます。
画像認識モデルとLLM
進化的モデルマージは、画像認識モデルとLLMという一見かけ離れたモデル同士を融合させることで、新たな可能性を引き出します。
画像に対するキャプション生成や、ビジュアルデータに基づいたコンテキスト理解を必要とするアプリケーションにおいて、進化的モデルマージは有効です。画像認識モデルが画像の特徴を捉え、その情報を自然言語処理モデルに伝達することで、複雑なタスクにも対応できるようになります。
具体的には、医療画像から診断レポートを作成する医療分野において、効果的なモデルとして機能するでしょう。
例えば、最新の研究では、Show-Attend-Tellモデル(画像認識)とGPT-3(自然言語処理)を組み合わせた手法が提案されています。
- Show-Attend-Tell:医療画像(X線など)の特徴を抽出
- GPT-3:抽出された特徴を基に詳細な診断レポートを生成
この組み合わせにより、単なる画像説明にとどまらず、病変の位置や重症度など、臨床的に重要な情報を含む包括的なレポートの自動生成が可能になりました。
汎用的な基盤モデルと特定ドメイン
進化的モデルマージは、基盤モデルと特定ドメインに特化したモデルの組み合わせにも適用されます。
基盤モデル、その中でも一般的なLLMは広範な知識をカバーしていますが、特定の分野における専門性には限界があります。そこで、特定ドメインに特化したモデルを進化的マージによって組み合わせることで、両方の利点を活かし、欠点を補完することが可能です。
法務や医療といった専門的な情報を扱う際には、基盤モデルが持つ広範なデータと、専門分野に特化した言語モデルのデータを統合することで、より精度の高い情報処理が実現できます。これにより、実用性の高いAIを構築することが可能です。
日本語LLMと英語LLM
進化的モデルマージは、日本語LLMと英語LLMのように異なる言語を扱うモデル同士の統合にも有効です。
異なる言語モデルを組み合わせる際には、翻訳エラーやニュアンスの違いが課題となっていましたが、進化的モデルマージを活用することで、両言語の特性を反映させた自然な言語処理が可能になります。
例えば、日英間の多言語対応チャットボットや、各言語でのコンテンツ要約が求められるアプリケーションにおいては、進化的モデルマージが効果的です。
法務分野では、一般的な言語理解と法律特有の専門知識を組み合わせることが重要です。最近の研究では、LLaMA-2のようなLLMと法律特化型モデルを進化的に融合する試みが行われています。
関連記事:「注目されている有力の日本語特化型LLMを一挙にご紹介」
コンテンツベースのモデルと協調フィルタリングモデル
進化的モデルマージは、コンテンツベースのモデルと協調フィルタリングモデルにも効果的で、精度の高いレコメンデーションシステムの構築に貢献します。
コンテンツベースのモデルは、ユーザーが関心を持ったアイテムの特徴に基づいてアイテムを推奨しますが、個別の嗜好に偏りやすいという課題があります。一方、協調フィルタリングモデルは似た嗜好を持つ他のユーザーの行動を参考にすることで、ユーザーにとって新しい発見を促します。
ここで進化的モデルマージを用いることで、2つのアプローチを融合し、双方の利点を活かしたモデルが作成可能です。ユーザーの閲覧行動、購買履歴、類似ユーザーの行動を即時に分析し、最適な商品をリアルタイムで予測します。
動画配信サービスやECサイトで、ユーザーが以前に見た商品やコンテンツを参考にしつつ、他ユーザーの傾向から新しい提案ができるため、より多様性のあるレコメンドが実現します。
関連記事:「AIレコメンドの種類やメリットから具体的な事例、注意点までをご紹介」
モデルマージについてよくある質問まとめ
- モデルマージとは?
モデルマージとは、複数の事前学習済みモデルの重みを組み合わせることで、さまざまなタスクに対する性能を向上させる手法です。従来の方法では、事前学習済みモデルの重みを特定のタスクに合わせて再調整します。
- 進化的モデルマージとは何ですか?
進化的モデルマージは、Sakana AI株式会社が提案したマージ手法で、モデル統合時のハイパーパラメータ設定が経験に依存する点を改善するために考案されました。
この手法では、進化アルゴリズムを活用した探索と最適化を行います。
- モデルマージと転移学習の違いは何ですか?
モデルマージは複数のモデルの特性を組み合わせて新しいモデルを作成する手法です。一方、転移学習は既存モデルの学習済み知識を別のタスクに応用する手法です。目的に応じて使い分けが必要です。
まとめ
進化的モデルマージは、生物の進化の仕組みを模倣した独自のアプローチにより、従来のモデルマージでは困難であった異分野のモデル統合や、効率的なリソース利用を可能にします。この手法を活用することで、異なるタスクに特化した柔軟で高性能なモデルを生成できるようになります。
また、進化的モデルマージにはオープンソースモデルを基盤として活用できたり、計算リソースを抑えつつ生成できるといったメリットがあります。これにより、多言語対応や専門分野での活用など、幅広い用途に対応したAI開発が促進され、将来のAI技術における革新が期待されています。
進化的モデルマージは、AIの応用範囲をさらに広げ、さまざまなニーズに応えるソリューションとして注目されています。今後AI業界における中心的技術となり、当たり前の開発手法として普及するかもしれません。
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