CFD解析とは?AI活用は有効?流体解析との違いや課題、AI導入の注意点・事例を徹底解説
最終更新日:2025年03月08日

CFD解析とは、コンピューターで流体の運動をシミュレーションする解析手法のことを指します。医療や製品設計、気象学などで用いられる手法ですが、複雑な動きを解析対象としているため、モデル化やメッシュ形成の限界、原因検証が難しいといった問題が生じています。
しかし、解析には時間と専門知識が求められ、結果の精度や活用方法に課題を感じている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、CFD解析が抱える課題と、その解決策として期待されるAI活用のメリットを解説します。AIが解析時間の大幅な短縮、精度の向上、そしてメッシュ生成の効率化にどのように貢献するのか、具体的な事例を交えながらご紹介しています。
製造業のAI導入・活用事例については、こちらの記事でも解説していますので、ご参考ください。
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目次
CFD解析とは?流体解析と違う?

CFD解析(Computational Fluid Dynamics)は、流体の挙動を数学的にシミュレーション・解析する手法です。日本語では「数値流体力学」と訳され、空気の流れや熱の移動などを含む流体の挙動を数値的にシミュレーションします。
流体解析と呼ばれることも多いですが、厳密には、流体解析を実現するために流体の運動方程式や連続の式をコンピュータで解いてシミュレーションする手法としてCFD解析が用いられます。
CFD解析は、デジタルツインの構築においても重要な役割を果たします。デジタルツインは、物理システムの仮想レプリカを構築し、シミュレーションを通じてその動作を予測・分析する技術です。
CFD解析を活用することで複雑な形状や条件でもシミュレーションできます。物理的な試験を減らし、設計を迅速化可能なため、航空機の空気力学的特性の最適化、空調システムの設計や性能評価、バッテリーの熱管理など幅広い分野で活用されています。
関連記事:「設計で活用できるAIの概要や仕組み、活用メリットを解説」
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CFD解析の抱える5つの課題

CFD解析では、以下のような問題が潜んでいます。
- 乱流や多層流のモデル化の限界
- ビッグデータの取り扱い
- 複雑な形状のメッシュ生成の限界
- 結果を検証して活用できる人が限られる
- 実験結果との誤差が大きい場合の原因検証が難しい
CFD解析を進める上で、上記のような課題に直面したことがある方もいるでしょう。それぞれどんな課題なのか、詳しく解説していきます。
乱流や多層流のモデル化の限界
CFD解析における乱流は、流体の挙動が極めて複雑であり、解析には膨大な計算リソースが必要になります。従来のRANS(Reynolds-Averaged Navier-Stokes)モデルやLES(Large Eddy Simulation)モデルは、それぞれ計算負荷と精度のトレードオフを抱えています。
また、多層流では異なる流体が混ざり合う現象や、境界層を再現することが難しく、適切なモデルの選択が解析結果に影響します。CFD解析は計算資源を多く消費し、特に複雑な流体挙動をシミュレーションする際には計算時間が長くなることがあります。
現実の流体現象を完全に再現することは困難であり、実験データとの整合性を確保するための調整が不可欠です。
ビッグデータの取り扱い
CFD解析では、大規模なシミュレーションを実行する際に膨大なデータが生成されます。以下の要素から、多様な物理量が時間と空間の各点で計算されます。
- 流速
- 圧力
- 温度
- 渦度
そのため、データの保存や処理が大きな負担となります。特に、高解像度の解析では格子点の数が増大し、メモリやストレージの使用量が急増します。
また、取得したデータの整理や情報の抽出も容易ではなく、解析結果を可視化し、設計や意思決定に活用するためのデータ処理技術が求められます。計算コストの最適化と効率的なデータ管理が、CFD解析の精度と実用性を左右するといってもいいでしょう。
複雑な形状のメッシュ生成の限界
CFD解析のプロセスでは、解析対象の形状に応じたメッシュを生成することが不可欠です。しかし、航空機の翼や自動車のボディ、微細構造を持つ産業機器など、複雑な形状を持つ対象に対して高品質なメッシュを作成することは容易ではありません。
境界層の影響を正確に捉えるためには、細かいメッシュが必要となりますが、細分化が進むと計算負荷が急増し、解析時間が長くなるという課題があります。さらに、メッシュの質が低いと計算の収束性や結果の精度に悪影響を及ぼし、解析が困難になります。
そのため、形状の特徴を考慮しながら、計算効率を保ちつつ精度を確保するという、メッシュ生成技術の進化が求められています。
結果を検証して活用できる人材が限られる
CFD解析の結果を検証し、実務に活用するには高度な専門知識が求められます。流体の挙動は非線形性が強く、結果の解釈には物理学や数値計算の理解が必要です。
特に、境界条件や乱流モデルの選択によって解析結果が変わるため、誤った解釈を避けるためには専門分野に特化した人材が不可欠です。
しかし、こうした知識を持つ技術者は限られており、CFD解析を正しく活用できる人材の不足が課題となっています。また、解析結果を設計や製造プロセスに活かすには、実験データとの比較や誤差の評価が必要ですが、そのプロセスも高度なスキルが要求されます。
実験結果との誤差が大きい場合の原因検証が難しい
理論モデルに基づいて流体の挙動を数値計算するCFD解析ですが、実験結果と完全に一致するとは限りません。乱流の影響や境界条件の違い、メッシュの精度などが原因となり、シミュレーションと実測値の間に誤差が生じることがあります。
この誤差の要因を特定するには、解析設定の見直しや追加のシミュレーションが必要ですが、流体現象は多くのパラメータが絡み合うため、一つの要因だけでは説明できない場合もあります。また、実験側にも誤差要因が存在し、計測精度や環境条件の影響を考慮する必要があるでしょう。
こうした複雑な要因が絡む中で、誤差の発生メカニズムを解明するには膨大な試行と経験が求められ、解析技術者にとって大きな負担となっています。
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CFD解析にAIを活用するメリット
CFD解析の課題を解決する手段の一つとして、AIの活用が注目されています。機械学習や深層学習を組み合わせることで、解析の効率化や精度向上が期待できます。
以下では、CFD解析にAIを活用するメリットについて解説していきます。
解析時間を短縮可能
CFD解析では膨大な計算時間を要しますが、AIを活用することで大幅な短縮が可能です。
従来の数値計算では、細かいメッシュを用いた高精度解析ほど計算負荷が増大し、スーパーコンピューターや大規模クラスタを必要とするケースもありました。しかし、AIを用いたサロゲートモデル(代理モデル)を活用すれば、過去の解析データを学習し、新たな解析を瞬時に予測することが可能です。
特にディープラーニングは流体の挙動を高速に推定し、従来のシミュレーションと比較して大幅な計算時間の削減に貢献しています。これにより、設計の初期段階での試行回数を増やし、より迅速な意思決定を支援することができます。
解析精度を向上できる
AIを活用することで、CFD解析の精度を向上させることが可能になります。大量の解析データを学習することができ、過去の傾向をもとに最適なモデルやパラメータを自動で調整することが可能です。
さらに、ディープラーニングを活用した補正モデルを適用すれば、実験データとの誤差を低減し、より現実に即した予測が可能になります。従来の手法では捉えきれなかった流体挙動を高精度で解析し、設計の最適化や開発の効率化が期待されています。
例えば、射出成形シミュレーションにAIを活用することで、より正確な成形プロセスの予測が可能になっています。射出成形では、金型の品質が最終製品の出来栄えを左右します。過去のデータを学習したAIは、新しい材料や添加剤を使用する際も、その特性を迅速に理解し適切な成形条件を提案します。
メッシュの品質向上が見込める
メッシュの品質はCFD解析の精度と計算効率を左右する要素ですが、複雑な形状や流れ場の特性に応じたメッシュを生成することは難しいとされています。従来は経験に基づいて手作業で調整することが多く、最適なメッシュを作成するには試行錯誤が必要でした。
しかし、AIを活用することで形状や流体の特性を学習し、自動的に最適なメッシュを生成することが可能です。深層学習を用いたアプローチで、過去の解析結果をもとにメッシュの分布を最適化し、計算精度を維持しながらメッシュ数を削減することができます。
最適化と設計の効率化
AIを用いた最適化手法(例:遺伝的アルゴリズムや強化学習)は、CFDシミュレーションを基に設計を最適化する際に有効です。流体のなかに存在する設計対象オブジェクト(例:翼やタービンなど)の形状を最適化し、抗力低減や揚力向上などを実現するために使用されます。
また、望ましい流体力学的挙動を生み出すシステムの形状または構成を決定するためにも使用されます。例えば、特定の条件で抗力を最小化する翼の最適な形状を予測するようにトレーニングされる場合があります。
CFD解析にAIを導入する際の注意点
CFD解析にAIを導入することで、解析の高速化や精度向上が期待できますが、適切に運用しなければ十分な効果を得ることはできません。以下では、CFD解析にAIを導入する際の注意点について解説していきます。
データセットの品質を確保する
AIを活用したCFD解析では、学習に用いるデータセットの品質が結果の精度を大きく左右します。不適切なデータやノイズを多く含むデータを用いると、AIモデルが誤った傾向を学習し、信頼性の低い解析結果を導き出す可能性があります。
そのため、学習データには精度の高いCFDシミュレーション結果や実験データを活用し、前処理を施すことが必要です。データの品質を確保することで、AIの汎用性を高め、より信頼性の高いCFD解析が可能になります。
解析精度と速度の両立を目指す
CFD解析にAIを導入する際、解析精度と計算速度のバランスを取ることが重要です。AIを活用すれば高速な予測が可能になりますが、モデルの学習に使用するデータや手法によっては、精度が十分に確保できない場合があります。
簡易なAIモデルでは計算時間が短縮される一方で、物理的な整合性が不足し、誤差が大きくなる可能性があります。一方で、高度なAIモデルを用いると精度は向上しますが、その分学習や推論に時間がかかることもあります。
そのため、AIと従来の数値計算を組み合わせ、計算負荷を抑えつつ信頼性の高い解析結果を得ることが求められます。
AIモデルの適用範囲を明確にする
AIは過去のデータを学習し、特定のパターンに基づいて予測を行いますが、学習データの範囲を超えたケースでは正確な解析ができない可能性があります。例えば、極端な流速や高レイノルズ数の流れ、未知の境界条件に対しては、従来の物理ベースのシミュレーションと異なり、AIモデルが適切な結果を出せないこともあります。
特に、AIがCFD全体を代替する場合には、AIモデルからの出力プロセスがブラックボックス化する場合もあります。
そのため、AIの適用可能な条件や限界を把握し、信頼性のある領域で活用することが必要です。従来のCFD解析とAIの予測を組み合わせ、補助的なツールとしてAIを活用することで、精度と実用性の両立を図ることができます。
CFD解析にAIを活用した事例
CFD解析にAIを活用する取り組みは、さまざまな分野で進められており、実際に成果を上げている事例も増えています。ここでは、AIを組み合わせたCFD解析の事例について紹介していきます。
【アラヤ】CFDとAIを組み合わせたハイブリッド技術「NeumaticAI」

株式会社アラヤが開発した「NeumaticAI」は、従来の数値流体力学(CFD)技術と人工知能(AI)を組み合わせたハイブリッド技術です。CFDの一部プロセスをAIで高度化することで、計算時間の短縮と精度の向上を達成しています。
AIが離散誤差を吸収することで、計算の高速化が可能になり、流体解析の高速化と高い信頼性の両立を実現しています。
この手法により、少量の学習データでも高い汎化性能と信頼性のある解析結果が期待できます。
【Neural Concept】AIを用いた解析結果予測ソリューション「Neural Concept Studio」

Neural Conceptが提供するNeural Concept Studio(NCS)は、ディープラーニングを活用した解析結果予測ソリューションです。AIを用いて物理モデルを高精度化し、より正確な解析結果を得ています。
既存の設計データやシミュレーション結果を学習し、設計変更に伴う解析結果を瞬時に予測することが可能です。
Neural Concept Studio(NCS)では、CFDシミュレーションを高速化するためにAIでサロゲートモデルを構築します。サロゲートモデルは、さまざまな設計の熱交換器の性能をリアルタイムで予測します。これにより、全体的な効率だけでなく、出口での温度や圧力降下も正確に予測します。
Neural Concept Studio(NCSにより、従来のシミュレーションに比べて大幅な時間短縮が実現し、設計プロセスの効率化と最適化を促進することができます。
【Altair】コンピューター支援エンジニアリング(CAE)をAIで強化

Altair社では、コンピューター支援エンジニアリング(CAE)にAI技術を統合し、シミュレーションと設計プロセスの強化を図っています。同社の「ExpertAI」は、HyperWorksにシームレスに組み込まれ、非監督式機械学習を活用して設計探索結果を分類し、生成的設計を強化することが可能です。
さらに、「physicsAI」は過去のシミュレーションデータから学習し、物理的な予測を高速に行うことで、従来の解析手法と比較して最大1000倍の速度向上を実現します。
DesignAIを用いて得られた解析結果を基に、AIモデルを作成します。AIモデルを用いて設計の実現可能性を評価し、非効率的な構成を早期に除外できます。
CFD解析についてよくある質問まとめ
- CFD解析とは何ですか?
CFD解析(数値流体力学)は、コンピュータを用いて流体の挙動をシミュレーションし解析する手法です。空気の流れや熱の移動など、目に見えない流体の動きを可視化し、設計や開発に役立てます。
- CFD解析にAIを活用するメリットは?
CFD解析のプロセスにAIを用いることで、以下のようなメリットが期待できます。
- 解析時間を短縮可能
- 解析精度を向上できる
- メッシュの品質向上が見込める
まとめ
CFD解析における計算時間の長さや解析精度の限界といった課題の解決策として、AIの活用が注目されています。AIによって解析の高速化や精度向上、メッシュ生成の最適化など、さまざまな分野で成果を上げることが期待できるでしょう。
実際に、AIを活用したCFD解析の事例も増えており、ハイブリッド解析技術やディープラーニングを用いた予測モデルなどが解析精度の向上をサポートしています。
一方で、AIの導入にはデータ準備やモデル構築、そしてAIが導き出した結果を解釈し、実務に活かすための専門知識が不可欠です。もし、自社でのAI活用に不安を感じる、あるいはさらに詳細な情報や具体的な進め方について知りたい場合は、ぜひAI技術に詳しい専門家にご相談ください。
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