QSTとNTT、核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場予測に高精度なAI手法を世界で初めて適用することに成功
最終更新日:2025年03月18日

量子科学技術研究開発機構(QST)と日本電信電話株式会社(NTT)は2025年3月17日、大型核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場に適用する高精度なAI予測手法を確立したと発表した。
この手法はトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAに適用され、プラズマの位置や形状を制御に必要な精度で再現することに世界で初めて成功した。
- QSTとNTTが核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場を複数のAIを組み合わせた混合専門家モデル(MoE)で高精度に予測する技術を開発
- 世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAに適用し、プラズマの位置形状を約1%の高精度で再現することに世界で初めて成功
- 従来法では不可能だったプラズマ内部の電流や圧力分布のリアルタイム制御の見通しを得て、核融合エネルギーの実用化に向けて前進
QSTとNTTは2020年に連携協力協定を締結し、世界に先駆けた環境エネルギー技術の創出を目指す共同研究を進めてきた。
今回、両者は混合専門家モデル(Mixture of Experts; MoE)という逐次変化する状況に応じて最適なAIモデルを重み付けして統合する手法を適用し、プラズマを高精度で予測する技術を確立した。
この技術を世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAの実際のプラズマ閉じ込め磁場評価に用いたところ、磁場構造に依存するプラズマの位置や形状を実際のプラズマ制御に必要となる精度(約1%の高精度)で再現することに世界で初めて成功した。
従来の物理法則に基づく解析的な再構築手法では、逐次変化するプラズマ境界(周辺)部の位置形状の制御までしか原理的に実現できなかった。
しかし今回開発された手法によって、従来手法では不可能だったプラズマの不安定性を回避するために重要となるプラズマ内部の電流や圧力の分布まで、複数の制御量をリアルタイムに制御できる見通しを得た。
特にプラズマ中に流れる電流が定常ではなく変動しているような状況下においても、混合専門家モデル(MoE)を用いることで、状態把握・指令制御AIが状態AIモデルに適切に重み付け処理を行い、過渡的な状況においても精度よくプラズマ閉じ込め磁場を評価することができるようになった。
この技術は単に1つのAIモデルを使うのではなく、プラズマの状態に応じて最適なAIモデルを選択し重み付けを行うことで、従来の単一AIモデルでは達成できなかった高精度な予測を実現している。
研究チームは、プラズマ閉じ込め磁場の制御過程を、真空容器に取り付けられた計測器の信号からプラズマ閉じ込め磁場を再構築し、次にその再構築結果と目標値とのズレを修正するために必要な磁場を生成するためのコイル電流の差分を計算して、コイル電源へ指令するという流れで行っている。
従来は物理法則に従った計算量の大きな複雑な方程式を解く操作を段階的に行う必要があったが、今回のAI技術の活用により、計測信号の情報から物理法則を使わずに1回の計算で閉じ込め磁場を予測できるようになった。
この成果はJT-60SAの今後の加熱実験において高温プラズマのリアルタイム制御に挑戦するにあたって有効であるだけでなく、より大きなプラズマを少数の計測器で制御するイーターや原型炉などの核融合炉のプラズマ予測制御にも繋がる画期的なものだ。
この成果を受けてQSTとNTTは2020年に締結した連携協力協定をさらに延長することに合意し、NTTが持つIOWN構想をはじめとする先進技術を核融合研究開発に適用しながら、引き続きフュージョンエネルギーの早期実用化に向けて連携して取り組む方針だ。
AI Market の見解
QSTとNTTが開発した混合専門家モデル(MoE)を用いたプラズマ閉じ込め磁場予測技術は、核融合エネルギー実用化に向けた重要な技術的ブレークスルーと位置付けられる。
この技術の最大の特徴は、単一のAIモデルの限界を超え、複数のAIの強みを組み合わせることで、プラズマの過渡的状態での予測精度を飛躍的に向上させた点にある。
核融合発電の実現には高温プラズマの安定制御が不可欠であり、今回の成果はその鍵となる技術と言える。市場的観点では、この技術の応用範囲は核融合に限らず、複雑系シミュレーションや気象予測など、時々刻々と変化する非線形システムの予測制御に広く適用できる可能性を持っている。
また、日本が世界をリードする核融合技術とAI技術の融合は、国際競争力の強化と知的財産の蓄積につながると想定される。今後、JT-60SAでの実証を経て、国際熱核融合実験炉(ITER)や原型炉への技術展開が進むにつれ、クリーンエネルギー分野における日本の技術的優位性が確立されると考えられる。
参照元:日本電信電話株式会社
核融合プラズマ制御AIに関するよくある質問まとめ
- 混合専門家モデル(MoE)とは何ですか?
混合専門家モデル(Mixture of Experts; MoE)とは、複数のAIモデル(専門家)を組み合わせ、それぞれの得意分野や状況に応じて適切に重み付けを行いながら統合する手法です。
今回の研究では、プラズマの状態が変化する状況下でも、状態把握・指令制御AIが最適な状態AIモデルを選択し重み付けすることで、高精度なプラズマ閉じ込め磁場の予測を実現しています。この手法により、単一のAIモデルでは困難だった過渡的な状況での予測精度が大幅に向上しました。
- この技術が核融合エネルギー実用化にどのように貢献するのですか?
核融合エネルギーの実用化には、高温プラズマを安定して閉じ込め制御する技術が不可欠です。今回開発されたAI技術は、従来手法では不可能だったプラズマ内部の電流や圧力分布までリアルタイムに制御できる見通しを得ました。
これにより、プラズマの不安定性を未然に予測・回避することが可能になり、安定した核融合反応の維持が期待できます。JT-60SAでの成功を足がかりに、より大規模な国際熱核融合実験炉(ITER)や将来の原型炉での制御技術として発展することで、核融合発電の実現に大きく貢献します。

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