ダイナミックプライシングとは?AIを用いるメリット・効果や事例を解説!これから導入される有望分野は?
最終更新日:2024年09月23日
需要と供給に応じて価格を柔軟に変動させるダイナミックプライシングが、幅広い商品やサービスに広がっています。近年になってダイナミックプライシングが注目されているのには、いくつかの理由があります。
大きな理由の一つとして、AI技術が発展したことで、これまではできなかったような膨大なデータ処理が短時間で可能となりました。そのため柔軟な価格決定が容易となり、導入が進んでいます。
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目次
ダイナミックプライシングとは
「ダイナミックプライシング」とは、商品やサービスの価格を固定せず、市場の需給など変動要因に応じてリアルタイムで価格を変動させる仕組みのことです。
ダイナミックプライシングは航空運賃やホテルの宿泊料金、オンラインショッピングの商品価格など多岐にわたる分野で用いられています。
高い需要があれば値段を高く設定し、逆に需要が低ければ値段を下げて需要を刺激することで、顧客の多様なニーズに応えつつ増収増益を図ることが可能です。
ダイナミックプライシングが注目を集める3つの理由
ダイナミックプライシングは古くから用いられている手法ですが、近年特に注目を集めています。その理由について深く説明します。
競争が激化している
グローバル化の進展や業界の変化にともない、ビジネス環境の競争が激しさを増しています。競争を勝ち抜いて企業の成長を促すため、ダイナミックプライシングは重要な戦略として期待されています。
競争が激化する中で、企業は利益を最大化し、他社との差別化を図っていかなければなりません。固定価格での販売は、競争が激しく市場の変動が大きい環境下では対抗しにくいでしょう。
そのために価格を柔軟に変動させるダイナミックプライシングが注目を集めています。
顧客行動や社会情勢が大きな変化している
オンラインショッピングやモバイルアプリの普及により、顧客の行動は急速に変化しています。購買行動や嗜好が日々変わる中で、リアルタイムで価格調整に対応できることが求められています。
顧客の意識や需要に対応するため、適切に反映した価格戦略が求められるでしょう。
例えば、環境問題に関するニュースが流れると、環境に優しい製品への需要が急増します。不確実性が高まり変化が大きい現代では、ニーズに対応し競争力の維持には重要なツールです。
AI技術が大きく進化した
ダイナミックプライシングの普及は、AI技術が急速に発展したことによるデータ分析の高度化が背景にあります。
価格を動的に変動させるためには、大量のデータに基づいた分析が必要です。消費者の購買行動、在庫状況、競合他社の価格、季節性のデータなどの多様な要因を迅速に分析し、最適な価格を提示しなければなりません。
AI技術が発達したことで、高度な分析が必要な価格の設定を短時間で手軽におこなえるようになりました。
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ダイナミックプライシングのメリット
価格を変動制にすることには以下のメリットがあります。
- 売上や利益の向上
- 顧客ニーズへの迅速な対応
- 在庫管理の効率化
それぞれの理由について説明します・
売上や利益の向上
ダイナミックプライシングを活用することで、売上や利益の向上が見込めます。需要と供給のバランスをリアルタイムで把握し、動向に応じて価格調整が可能であるためです。
売上の機会損失は最小限に抑え、利益を最大限にするよう価格設定が可能です。
顧客ニーズの迅速な対応
顧客ニーズに迅速に対応できる点もメリットとして挙げられます。多くのデータを解析し価格を調整することで、市場変動や顧客ニーズなどを即座に把握できます。
シーズンや特定のイベント時には需要の大きな変動が予想されるため、あらかじめ商品の価格を高く設定します。また、新製品や新サービスの投入時には、市場の反応をリアルタイムで捉えて、即座に価格への反映が可能です。
AIによる需要予測に応じたダイナミックプライシングの活用事例をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
在庫管理の効率化
在庫によって価格の上げ下げが可能です。過剰在庫は経営の圧迫になりかねませんし、少なすぎる在庫では売上機会の損失となってしまいます。
在庫が少なくなったら価格を上げ、在庫が多い場合には価格を下げるなどして、在庫量に応じて適切な価格の調整が可能です。
ダイナミックプライシングの3つのリスク
価格を変動制とするダイナミックプライシングにはメリットだけでなくデメリットも存在します。
デメリットやリスクも把握した上で、ダイナミックプライシングの導入を検討することが重要だと言えるでしょう。
入力データの不正確さで価格競争力を失う
価格は入力されるデータによって動的に調整されます。このときのデータが不正確な場合には、競争力のない価格設定になるリスクがあります。
例えば、ある大手小売業者がAIによるダイナミックプライシングを導入した際、データに一部誤りがあったことで、商品の価格が極端に低く設定されたまま販売される事態となりました。確認して修正するまでに短期間で多数の注文が入ってしまったため、大きな損失となりました。
AIが提案した価格に対して、最終的な決定やチェックは人間による判断が望ましいでしょう。
過度な価格変動による信頼の喪失
技術の発展によってリアルタイムで価格を変動できるとはいえ、短期間で価格が大幅に変動すると顧客の混乱や不信感を招く可能性があります。
例えば、フライトの運賃にダイナミックプライシングを導入したある航空会社では、同じチケットが数時間の間に何度も価格が変動しました。結果として顧客から苦情が相次ぎ、顧客からの不信感が高まりブランドの信頼性を損ねる事態となってしまいました。
何らかの要因で価格が乱高下することも考えられます。しかし消費者にとって不透明感を増すことになりかねません。
不適切な価格競争での利益の大幅低下
競合他社の価格情報をもとに価格を調整する場合も考えられます。適切に取り扱わないと、価格競争がエスカレートするリスクがあります。
最終的には利益が大幅に低下しかねません。
例として、オンラインショッピングを運営しているあるチェーン店では、わずかな値段でも競合より安くしようと設定していました。価格競争が次第にエスカレートし、価格が原価を大幅に割り込むまで下がってしまい大量の注文が入った結果大きな損失となってしまいました。
価格競争が無計画だと経営にとっては大きなリスクとなるため、慎重な判断が求められます。
ダイナミックプライシングを取り入れている業界事例6選
ダイナミックプライシングを導入した事例を紹介します。
テーマパーク
テーマパークのチケット料金には多くの施設がダイナミックプライシングを採用しています。これは季節や土日祝日、学校の休み期間などの要因で、来場者数が大きく変動するためです。
変動を効果的に管理するために、ダイナミックプライシングが最適だと言えるでしょう。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは2019年から、東京ディズニーランド・ディズニーシーでは2021年3月からダイナミックプライシングを導入しています。
東京商工リサーチの調査によると、2023年には国内の主な遊園地やレジャー施設107ヵ所の中で、ダイナミックプライシングを導入しているのは15施設と割合は14%にのぼりました。特に大規模で来場者が多い施設は、料金の値上げによる収益の増加だけでなく、来場者の分散化も期待されています。
ホテル・宿泊
ホテルや旅館などの宿泊施設にもダイナミックプライシングが広く導入されています。予約のタイミングや空室状況、土日祝日、特定のイベント開催などに基づいて価格が変動します。
例えば、人気アイドルグループのコンサート日程がある場合は、開催日に周辺のホテル価格を引き上げると言った手法が取られます。
日々変化する部屋の最適価格を決定するためには、多くの要因を分析しなくてはなりません。そのため情報収集や分析に手間や時間が大きくかかってしまいます。
そこで、膨大な過去データから学習できるAIによるダイナミックプライシングを導入するホテルチェーンが相次いでいます。
スポーツ観戦興行
スポーツ観戦の興行のチケット販売にもダイナミックプライシングが利用されていて、プロ野球、Jリーグ、プロバスケットボールのBリーグなどで導入が進んでいます。
チケットはチームの成績や対戦相手、天候、開催日時など多くの要因で需要が大きく変動し、価格に影響を与えます。収益の最大化や、スタジアムの利用効率の向上が大きなメリットです。
例えば、対戦相手が人気の高い強豪チームであり、プレーオフ進出をかけた大一番の試合であれば高い需要が予想されます。需要が高いと見込みがあれば、価格を上げることで収益を最大化できます。反対に需要が低い試合であれば、価格を下げて観客を引きつけ空席は減少するでしょう。
収益の最大化とスタジアムの効率のバランスを取るための価格設定にダイナミックプライシングを導入しています。
ダイナミックプライシングだけではないスポーツ業界のAI活用事例をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
シェアリングビジネス
シェアリングビジネスは、車のシェアリング、民泊、共有オフィススペースなどの分野が挙げられます。場所や乗り物、モノなどの遊休資産をインターネット上のプラットフォームを介して個人間でシェアする新しい経済の動きです。
需要と供給の変動が激しいため、価格戦略がビジネスの成功に直結するためダイナミックプライシングが有効です。
近年では、駐車場のシェアリングサービスが成長しています。駐車場難民の社会問題の解決にもつながります。
航空・鉄道・タクシー
交通業界において運賃設定は大きな変革期を迎えています。需要と供給のバランスに基づいて価格を変動させ、座席の稼働率を高めて収益を最大化することが目的です。
航空業界では以前から導入が進められてきました。航空チケットの需要は季節や曜日によって大きく変動します。
日本で利用が高い公共交通機関の鉄道やバス、タクシーなどの運賃は、改定にはあらかじめ長い期間の周知が必要です。そのため、変動もそれほど頻繁にはおこなわれませんでしたが、鉄道やバスでも運賃を柔軟に設定できるように整備が進められています。
ダイナミックプライシングだけではない航空業界のAI活用事例をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
小売・外食
小売や外食産業で、消費者行動の最適化と食品ロスの削減にダイナミックプライシングの活用が注目されています。
小売業界では商品数が膨大であり導入にコストがかかりますが、まずは食品や惣菜類を中心に導入が進められています。賞味期限が近づいた商品の価格を、時間帯に応じて自動的に下げて需要を喚起します。店頭に置かれてある程度時間が経過した商品に値下げ時間や割引率をAIによって提案してもらい、食品ロスの削減につなげています。
食品の廃棄量を抑えながら売上を確保し、消費者も割安で購入できるため購入意欲が高まるメリットがあります。
小売業でのダイナミックプライシング以外のAI活用事例をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
AIの進歩でますます変わるダイナミックプライシングの未来
AIを活用したダイナミックプライシングが近年ではビジネスの現場で増えつつあります。過去のデータや商品の在庫情報、競合他社の価格などあらゆるデータを収集し分析が可能です。
AIは過去のトレンドやパターンを学習し、将来の市場動向を予測する能力に優れています。
データ解析をもとに価格を最適化するモデルを構築し、売上の最大化や在庫の最適化などの目標に基づいて自動で計算します。継続的に新しいデータを学習してモデルを更新し、市場環境や顧客のニーズに随時対応が可能です。
ダイナミックプライシングにAIを活用するメリット
ダイナミックプライシングは膨大なデータを学習するAIと相性がよく、価格の決定までに要する時間を大幅に短縮できるメリットがあります。
価格をリアルタイムで最適化し、収益の最大化と同時に過剰在庫を低減することも可能です。価格の決定のプロセスにかかるコストや時間を削減できるためAIを導入する企業が増えてきました。
これからダイナミックプライシングが導入されるかもしれない有望分野
AIの進歩に伴って、これまで考えられなかった以下のような分野でダイナミックプライシングを使って新たな需要を掘り起こす動きが出てくるかもしれません。
- 教育業界:AIを活用して、学生の需要や学習進度に基づいて、授業料やオンラインコースの費用を動的に調整できます。
例えば、高い需要のあるコースや特定の時間帯の授業料を高くできる可能性があります。 - 公共交通:需要に基づいて運賃を調整するシステムを導入することで、混雑時の利用を減らし、オフピーク時の利用を促進できます。
交通の混雑を軽減し、効率的な運行が可能になります。
関連記事:「観光型MaaSとは?いま検討すべき理由とは?活用事例5選徹底解説!」 - 医療サービス:病院や診療所が患者の予約状況や緊急性をAIで分析し、治療の費用を需要に基づいて調整できるかもしれません。
緊急でないケースでは費用が低くなり、緊急性の高いケースでは優先的に対応されるようになります。 - 農業:作物の需給バランスに基づいて、農産物の価格をリアルタイムで調整できます。
天候や季節による作物の生育状況をAIが分析し、市場価格を最適化します。
上記分野では、AIが需要や供給の動向を解析し、価格を最適化することで、効率的な運営と収益の最大化が期待できます。
ダイナミックプライシングについてよくある質問まとめ
- ダイナミックプライシングとは?
「ダイナミックプライシング」とは、商品やサービスの価格を固定せず、市場の需給など変動要因に応じてリアルタイムで価格を変動させる仕組みのことです。高い需要があれば値段を高く設定し、逆に需要が低ければ値段を下げて需要を刺激することで、顧客の多様なニーズに応えつつ増収増益を図ることが可能です。
- ダイナミックプライシングのメリット、デメリットは?
価格を変動制にすることには以下のメリットがあります。
- 売上や利益の向上
- 顧客ニーズへの迅速な対応
- 在庫管理の効率化
しかしダイナミックプライシングにはメリットだけでなくデメリットも存在します。
- 入力データの不正確さで価格競争力を失う
- 過度な価格変動による信頼の喪失
- 不適切な価格競争での利益の大幅低下
まとめ
価格競争やビジネス環境の激化で、企業は苦戦を強いられています。また消費者の行動がスピードアップしたことで、リアルタイムでの価格に敏感になっています。
価格の適正化による利益の向上も大きなメリットですが、食品ロスの削減や人材不足の対応など社会問題の解決にも役立ちます。本記事で紹介したダイナミックプライシングは、今後さらに広まっていくでしょう。「えっ、こんな分野でも価格変動させるの?」と驚くカテゴリーでもダイナミックプライシングが導入されていくかもしれません。
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