AIは造船業界をどう変える?活用方法・メリット・事例を徹底解説!
最終更新日:2024年12月25日
造船業界では、熟練技術者の高齢化や人材不足、設計・製造プロセスの複雑化、品質管理コストの上昇など、さまざまな課題に直面しています。近年、AI(人工知能)の技術進化が目覚ましく、AIを活用した「次世代の造船所」の実現が現実味を帯びています。
本記事では、造船業界に対するAIの導入可能性を探るために、AIの活用方法や具体的な活用事例を徹底解説します。AIをどのように自社の船舶設計や点検業務などへ取り入れられるかを具体的に知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
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造船業界が抱える課題
現在、造船業界では人手不足やコスト効率などさまざまな問題に直面しています。以下では、造船業界における課題をいくつか紹介します。
設計プロセスの複雑化
船舶設計は、高度な専門知識と精密な計算が必要で、設計期間が長くなる傾向にあります。年々増加する要件や規制に対応する必要があり、設計段階でのエラーや見落としを最小化するためのチェック体制の強化も重要性が高まっています。
このような複雑な設計プロセスを解決するために、近年は設計支援ソフトウェアやAIの導入によるプロセスの自動化が注目されています。
労働力不足
造船業界では熟練技術者の引退に対して新たな人材の確保・育成が追いついていないことが国土交通省の「造船業における人材の確保・育成」でも指摘されています。造船技能者・技術者の確保が喫緊の課題となっています。
人材不足が慢性化している理由として、都市圏に集中する大学と地方圏に拠点が多く存在する造船業との連携が不十分で、優秀な新しい人材を確保できていないことが挙げられます。
品質管理にかかる膨大な時間
船舶大型構造物のため、小さな欠陥が重大な事故につながるリスクがあるため、品質管理が非常に重要です。しかし、品質管理のための修理や再製造には、多大な時間がかかります。
最新の検査技術として、AIを活用した画像解析やIoTセンサーによるリアルタイムモニタリングが効果的です。さらに、データ駆動型のメンテナンス計画を導入することで、修理や再製造にかかる時間を大幅に短縮できます。
コストの上昇
原材料費や労働力コストの増加が続く中、効率的なコスト管理が造船業界の重要課題となっています。また、従来の定期点検では故障の兆候が見られない場合にも部品が交換されるため、保守メンテナンスに膨大なコストがかかり、収益を圧迫しています。
造船業ではこれらのコスト上昇に対応するうえで、製造プロセスの最適化や無駄の削減を図るために、適正在庫や最適な人材配置が可能なAI予測分析の導入が検討されています。
環境規制への対応
近年SDGsなど環境問題への対応が求められ、環境規制の強化が進む中で、造船業においても船舶の排出ガス削減や燃費効率向上が求められています。多くの船は重油によって動く仕組みであり、大量の二酸化炭素を排出しているため、燃料消費を抑えられる技術が注目されています。
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造船業界でのAIの活用方法・メリットは?
AIの活用は造船業界の効率化やコスト削減だけでなく、労働力不足や安全性向上といった幅広い課題解決に貢献しています。以下では、造船業界でAIを活用するメリットについて紹介します。
設計の効率化
AIを活用した設計ソフトウェアは、膨大な形状や板厚、配置位置などの属性情報を処理し、最適な船体形状や材料選定を自動で提案可能です。これにより、熟練技術者の設計意図を再現できるCADシステムの実現が期待されています。
実際、多くの造船所で導入されている3次元艤装設計システム「管ナビ」では、AIの導入が進められています。このシステムがAI化されれば、自動配管ルーティングや自動管割が可能となり、設計のさらなる効率化を図ることが可能です。
このようなシステムが実現すれば、造船業界が抱える労働力不足や技術継承の課題も解消される可能性があります。
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予知保全
センサーとAIを組み合わせれば、運行中の船舶の異常を迅速かつ正確に検知することが可能です。
例えば、日本郵船グループでは、航海系からエンジン系までの膨大なセンサーデータをAIで解析し、異常を検知しています。このシステムの運用開始時は正確性が50%程度にとどまっていましたが、改良を重ねた結果、98%の高精度を達成しています。
しかし、現在AIによる異常検知だけでは完全に信頼できない場合もあり、その場合には機関士などの豊富な専門知識を持つ人材が検知結果を精査することで、信頼性を大幅に向上させています。
このようにAIを活用することで、設備の故障予測やメンテナンス時期を最適化し、運行効率や安全性の向上につながります。
関連記事:「予知保全とはなにか、メリットデメリット、間違えない導入方法の注意点をご紹介」
生産プロセスの自動化
溶接ロボットや組立ラインの制御にAIを活用することで、溶接や組立の一部を自動化でき、生産プロセスを自動化できます。
例えば、今治造船では、AI機能により4台の溶接ロボットを連携する仕組みを開発しています。具体的には、船体構造の膨大な平板部材の組立接合において、3D設計情報をもとに作業手順や配分を判断しながら自動溶接を行うロボットの実現を目指しています。
これにより、溶接の生産性および生産量が大幅に向上し、効率的で高品質な製品の製造が可能になります。このように、造船時に利用する溶接ロボットや組立ラインの制御にAIを活用すれば、製造効率と品質の向上が期待できます。
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外観検査の効率化
造船業界では、船体表面や溶接部分の外観検査が品質管理の重要なプロセスですが、大規模な構造物であるため、多くの時間と労力がかかります。また、従来は目視検査に頼っていたため、検査員の経験や技量に結果が左右されることもありました。
近年では、溶接部分や船体表面の欠陥を高精度に検出できる画像認識AIの導入により、人間では見逃しがちな微細な欠陥や損傷の自動検出が可能となり、外観検査における課題が解決されつつあります。
また、検出した欠陥のデータを蓄積・分析することで、製造工程の改善も可能です。例えば、特定の溶接技術や作業条件における欠陥発生率を可視化し、再発防止策を検討できます。
このように、画像認識AIにより外観検査が効率化できれば、検査の精度が向上すると同時に、作業時間の大幅な短縮につながります。
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造船業界でのAI活用の具体的事例
造船業界において、造船工程やアフターサポート、情報収集など幅広いシーンでAIの活用が見られます。以下では、造船業界でのAI活用の具体的事例を紹介します。
【ジャパンマリンユナイテッド】小型ロボット×AIで高精度なぎょう鉄を実現
ジャパンマリンユナイテッド(JMU)は、小型ロボットとAIを活用し、造船特有の熟練技能「ぎょう鉄(線状加熱)」の自動化に成功しました。
ぎょう鉄は、鋼板の局所的な加熱による塑性変形を利用して3次元曲面を形成する高度な作業なため、従来熟練技能者の経験に依存しており、技能継承が課題としてよく挙げられます。
そこでJMUは、属人化傾向にあるぎょう鉄作業を自動化するために、有限要素法シミュレーターで生成した熟練技能者のデータをAIに学習させ、鋼板の加熱ポイントを特定する「AI加熱方案生成システム」を開発しました。
開発したシステムは、ロボットが自動で曲げ加工を行い、誤差1センチメートル以内の精度を実現可能です。 実際に、大型バラ積み運搬船を建造する津事業所で運用が開始されており、精度は熟練技能者と遜色ない水準に達しています。
一方で、人手に比べ作業スピードが遅く、多種多様な鋼板に対応することが困難なことから、現時点では人とロボットの協働が推奨されています。重要な鋼板作業は引き続き熟練技能者が担う一方、若手技能者の育成や技術継承が進められ、造船業の効率化と技能向上に貢献しています。
【海上技術安全研究所】船舶検査の情報収集を効率化する対話システムを構築
。船舶検査員の作業負担を軽減するために、海上技術安全研究所は検査支援用の対話型システム(プロトタイプ)を開発しました。船舶検査員は、IMOによる規則改正に伴う国際条約や規則要件や指示文書、検査履歴など、膨大な情報を短時間で正確に処理する必要があります
この対話型システムは、大量の発話ペア(質問と回答の組み合わせ)を事前に学習し、検査員からの質問に対して最も類似した応答を提供する仕組みです。このシステムを活用することで、船舶検査員は規則や要件を迅速かつ正確に検索し、必要な情報を効率的に得ることが可能です。
この対話型支援ツールは、規則改正への迅速な対応や情報処理の効率化を実現し、検査員の業務負担を軽減するだけでなく、船舶検査の正確性やスピード向上にも貢献すると期待されています。
【海上技術安全研究所】船舶のタンク内点検AIを開発
海上技術安全研究所は、船舶のアクセスが困難な箇所の点検を効率化するため、ドローンとAIを組み合わせた点検技術を開発しています。この技術は、非GPS環境でもドローンが自動で飛行し、衝突を回避しながら位置を把握できるように設計されている点が特徴です。
AIのモデルにはRCNN(Region-Based Convolutional Neural Network)を採用し、タンク内の点検画像を解析して損傷箇所を自動で評価します。初期段階では、GPS環境下での運用を想定し、バルクキャリアのハッチオープン状態で船倉構造を学習させることで、転移学習を用いて認識精度を向上させています。
今後は、バルクキャリアの点検でアクセスが困難な箇所の訓練データを重点的に増やし、学習・検証を進める計画です。損傷画像を学習させ、リアルタイムで認識できる技術を確立することで、点検効率のさらなる向上が期待されています。
【川崎重工業】自動運航船の実現につながる機関プラント運転支援システムを開発
川崎重工業と川崎汽船は、自動運航船実現に向け、AIを活用した「機関プラント運転支援システム」を共同開発する契約を締結しました。このシステムは、機関プラントの運転データをAIで解析し、故障予知・診断や状態監視保全機能、最適運転支援といった多機能を備えています。
また、このシステムは船舶乗組員だけでなく、陸上の管理者にも有用な情報を提供します。例えば、故障予知や診断の結果をリアルタイムで共有し、重大な機関トラブルの未然防止や運航中の意思決定をサポートします。
造船業界におけるAI活用についてよくある質問まとめ
- 造船業界でのAI導入により、既存の人材はどのような影響を受けますか?
造船業界においてAIは人材の代替ではなく、設計業務の補完や支援として活用される傾向にあります。そのため、従業員はAI活用に必要なスキルの習得が求められる場合があります。
ジャパンマリンユナイテッドの事例でも、重要な鋼板作業は引き続き熟練技能者が担当し、AIとの協働により全体の生産性を向上させています。AIは熟練技能者の経験を補完し、技能継承を支援する役割を果たします。
- 造船業界でのAI活用のメリットは?
AIの活用は、造船業界に多くのメリットをもたらします。
例えば、設計の分野では、AIが最適な船体形状や材料選定を提案することで、設計効率が大幅に向上し、時間短縮につながります。
また、品質管理においては、画像認識AIを活用することで、溶接部分や船体表面の欠陥を高精度に検出し、製造プロセスの精度を高められます。
まとめ
AIは、造船業界において設計から建造、運航、検査といった幅広い分野で応用できる可能性を秘めています。AIの活用により、設計プロセス・外観検査の効率化や予知保全などさまざまなメリットを得られ、造船企業の多くが抱える人手不足や技術継承といった根本的な課題を解決し、競争力を高められるでしょう。
この機会に、AIの導入を通じて効率化と自動化を推進し、次世代の造船業の一歩を踏み出しましょう。しかし、各造船所固有の製造プロセスや設備状況に応じた最適なソリューションの選定には、専門的な知見が不可欠です。
造船業界の知見を持つAIベンダーやシステムインテグレーターに相談することをお勧めします。
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