PoC(概念実証)とは?AI開発に必須の理由や、AI導入現場で失敗を防ぐポイントを徹底解説!
最終更新日:2024年10月29日
AI開発にはPoC(概念実証)が必須だということを聞いたことがある方も多いかもしれません。しかし、PoCとはそもそも何なのか、なぜ必要なのかが分からなかったり、PoCで失敗したということを聞いた方もいらっしゃるかもしれません。
本稿では、AIの導入を検討している皆様に向けて、PoCとはなにか?そして何を目的にしているのか、AI開発においてPoCを行う上での重要な点や、どのような進め方をするのか、そしてなぜPoCで失敗が起きているのかの理由などをご紹介します。AI開発プロジェクトを進める上で、ぜひ参考にしてください。
AIシステムを自社で導入・開発する際の流れをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
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目次
PoCとは
PoC(読み:ピーオーシー、ポック)とは、新たなアイデアやコンセプトの実現可能性や得られる効果について検証することです。PoCはProof of Conceptの頭文字をとった用語で、日本語では概念実証やと訳されています。実証実験のことを指してPoCと呼ばれることもあります。
PoCは、IT分野に特化した用語ではなく、多様な産業で活用されています。例えば、医薬品の研究や航空機の開発では、新たな治療法や先進的なエンジン技術について、単なる理論上の検証では不十分です。新薬の開発においては、臨床試験前の段階でPoCが行われることが少なくありません。
また、映画製作のような多額の資金が必要なプロジェクトにおいても、PoCは不可欠です。具体例として、クラウドファンディングで資金を調達する前に、短編映画やトレーラーを作成してPoCを実施するケースがあります。これにより、投資家やスポンサーがプロジェクトの実現可能性を確認し、資金調達がスムーズに行えるのです。
以上のように、PoCは多様な産業での新しいアイデアや技術の実現可能性を確認するための重要なステップです。それゆえ、AIシステムの外注を検討している企業経営者にとっても、PoCは必要不可欠なプロセスと言えるでしょう。
AI開発プロジェクトの流れのなかのPoC
AI開発プロジェクトは大きくの5つのステップにわかれます。
- 企画
- アセスメント
- PoC
- 開発
- 実用
まず、企画ではAIを活用して何をするのかを規定します。どんな課題を解決するのか、ビジネスでどのように解決するのかなど検討し、テーマ、スコープを設定します。
続いてアセスメントでは、優先度、実現性などを鑑みて費用対効果の算定など事業計画を立てます。事業計画に続いて行うのがPoCです。
事業にしていく上で十分な精度があるのか、予測していなかったリスクが無いのかなどを実験することで検証します。PoCで成果につながると、実際の開発、実用につながります。
こちらの記事で、AI開発の工程ごとの費用、料金目安を解説していますので、ご参考ください。
AI開発でPoCはなぜ重要?
AI開発プロジェクトにおいて最も重要なのがPoCです。プロジェクトを進める際に、PoCを行わずにいきなり本開発に進んでしまうと、技術的な問題が発生してしまったり、想定していたような成果が出ないなどリスクがあります。
そこで、PoCを行い、目標としている精度が出るのか、を検証する工程が必要となります。
AIモデル開発プロジェクトは、AIという技術の特性上どこまでの精度が出るのかやってみないとわからない面が多くあります。そのため、まずはPoCでの精度検証が必要です。
また、AIモデル開発の成功には、学習アルゴリズムだけでなく、データの量や質など様々な要素が影響します。アルゴリズムに合ったデータ、または逆にデータに合ったアルゴリズムやAIモデルの選定が重要です。
他にも、プロジェクトを進める上で、データがどれくらい必要なのか、データの質のレベル、どれくらいで目標の精度に達するのかという課題も出てきます。その他実用に向けて、処理速度やGPUなども考慮する必要があります。それらも、PoCを通して検証すべき指標の一つで、プロジェクトの予算や期間に大きく影響します。
AIプロジェクトは一度では目標の精度に達しないケースがほとんどです。そこでPoCでの実証実験を行うことで、どこまでの精度が出るのかを検証したり、実用に向けての課題を把握したりすることがとても重要です。
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PoCと実証実験、プロトタイプ、MVPとの違いは?
PoC、実証実験、プロトタイプ、MVPは、それぞれ異なる目的と段階で用いられる専門用語です。
PoCは実現可能性の検証、実証実験は問題点の特定、プロトタイプは方向性の確認、MVPは市場反応のテストに焦点を置いています。これらの用語は、AIシステム開発においても重要なプロセスを形成し、外注を検討している企業経営者にとって理解が必要です。
それぞれの違いについて詳しく説明します。
PoCと実証実験の違い
PoCは、新しい技術や概念が実現可能かどうかを検証する初期段階の工程です。一方で、実証実験は製品やサービスを具体的かつ実際的な環境で運用し、実用化に向けた問題点を特定するプロセスです。
例えば、AI技術を用いた顧客対応システムのPoCでは、対話エンジンの精度や応答速度が焦点となります。実証実験では、このシステムが実際のコールセンターでどれだけ効率を向上させるかが評価されます。
ただし、実態としては実証実験を指してPoCと呼ばれるなど、明らかな違いはないと言えるでしょう。
PoCとプロトタイプの違い
プロトタイプは、アイデアや技術の実現性と方向性を確認した上で作成される試作品です。このプロセスを「プロトタイピング」と呼びます。
通常、PoCの成功後にプロトタイプが製作されることが多いですが、PoCの検証過程の中で構築されることもあります。主なプロトタイプには以下があり、それぞれ異なる目的で使用されます。
- ファンクショナルプロトタイプ
- デザインプロトタイプ
- コンテクスチュアルプロトタイプ
PoCとMVPの違い
MVP(Minimum Viable Product)は、製品やサービスが市場で受け入れられるかを早期に検証するための「実用最小限の製品」を指します。
MVPは、PoCやプロトタイピングの後、市場反応をテストする段階で作成されることが多いです。Twitterの成功例は、MVP開発の典型的なケースとされています。
PoCの3つのメリット
PoCは、新しいプロジェクトや事業において、リスクを低減し、コスト効率を向上させる重要なステップです。さらに、PoCの成功は投資家や外部企業にとっても信頼性の高い判断材料となり、プロジェクトの成功確率を高める可能性があります。
特にAIシステムの外注を検討している企業経営者にとって、これらのメリットは非常に重要な考慮点となるでしょう。
それぞれのメリットについて詳しく説明します。
リスクの低減
PoCは新しいプロジェクトや取り組みにおいて、技術的な実現可能性、ユーザーニーズ、採算性などを事前に検証することができます。これにより、プロジェクトが高い不確実性を持つまま進行するリスクを軽減できます。
さらに、PoCの結果を基に早期に撤退判断ができるため、損失を最小限に抑えることが可能です。
コスト効率の向上
PoCは通常、小規模の予算で行われるため、大規模な開発が始まる前に問題点を特定し、無駄なコストを削減することができます。
具体的には、不必要な機能の開発や想定外の軌道修正など、開発過程で発生しがちなコストと時間の無駄を排除できます。これにより、プロジェクト全体の効率が向上します。
意思決定の資料として有用
PoCの結果は、社内ステークホルダーだけでなく、投資家や外部企業にとっても有益な判断材料となります。成功したPoCは、投資家や外部企業からの資金調達や業務提携を容易にし、プロジェクトに対する注目度を高めることができます。これが結果として、必要な人材の採用にも寄与します。
PoCの手順
それでは具体的にPoCをどのように進めていくのかで進める作業、目的についてご紹介します。P
oCでは、仮説の設定から検証結果の評価までのサイクルを素早く繰り返すことが重要です。これにより、リスクを抑えつつ、プロジェクトを効率よく進めることができます。
1.PoCチームの編成
PoC(Proof of Concept)を成功させるためには、多角的な視点とスキルセットを持つチームが必要です。基本的には、開発担当者、そしてソリューションを提供する企業のエンジニアなどが考慮されます。
AI開発では、以下担当者も必ずチームに加えるべきです。
- AIの運用現場のインフラ担当者
- ビジネスインパクトとROI(費用対効果)を評価できるビジネス部門の担当者
- データ分析とAIアルゴリズムの選定できる技術的知識を持つ人材
チーム内での明確なコミュニケーションと定期的なミーティングを設定することで、PoCの進行状況を共有し、必要な調整を行います。
2.ゴールと仮説の設定
PoCを始める前に、何を達成したいのか、どのようなデータや効果を得たいのかを明確にします。この段階で具体的な仮説とゴールを設定することが重要です。
AI開発では、最初のステップとして、頻繁に行われる業務を洗い出します。これにより、どの業務プロセスにAIを導入することで最大の効果が得られるのかを明確にします。
AIを導入する際の目的が「業務効率化」や「生産性向上」ではあまりにも抽象的であり、具体的なアクションプランやKPI(Key Performance Indicator)が設定しにくいです。そのため、より具体的なゴール設定が必要です。
例えば、「その業務の処理時間を20%削減し、その業務におけるコストの削減効果が15%になるかどうかを3ヶ月以内に検証する」といった具体的な数値と期間を設定します。
3.実施計画の策定
ゴールが設定されたら、次に実施計画を策定します。この計画には、目標、検証項目、スケジュール、実施内容、体制、役割分担などが含まれます。
4.実験と検証
実施計画に基づき、実際に検証を行います。可能な限り実環境に近い条件で検証を行うことが推奨されます。
検証の対象範囲が広い場合は、多くの対象者に参加してもらうことが重要です。これにより、客観的で精度の高い検証が可能となります。
5.検証結果の分析
検証が完了したら、その結果を評価します。設定した目標に対する達成度を分析し、次のステップを決定します。
6.次のアクションへ
結果が良ければ、本格的な導入や開発に進みます。問題点が確認された場合は、新たなPoCの仮説を設定し、再度検証を行います。
もしPoCが「このAIは目的を達成させる上で適切ではない」と評価された場合、その結果を受け入れ、次のステップを検討します。
失敗は避けられない場合もありますので、その失敗から学び、次に活かすことが重要です。PoCは一回限りの活動ではありません。継続的な評価と改善を行い、新たなPoCを設計することも視野に入れます。
PoCのデメリットと注意点
PoCの説明をしてきましたが、PoCやAIプロジェクトを進めていても、失敗している事例が多くあります。よくある失敗の理由や課題をご紹介します。
コストがかさむ
1つ目の失敗例は、コストがかさんでしまい投資対効果が得られないことです。例えば、当初想定していた精度が出ないなど結果につながらないのに投資を続けてしまっていたり、計算コストが想定より多く発生してしまって利益が出ない状況になってしまっていることなどがあります。
このようなことが起きる原因としては、適切な目的が設定できていないということややっていることとやりたいことに齟齬がある場合があります。
AIやIoTが流行しているという理由だけでプロジェクトをはじめてしまい適切な目的が設定できていない場合、現状のシステムや機器にセンサーをためてクラウドにデータを習得したり、モデルを作成して面白い知見を得られたが、実際の事業のアイディアがないという結果につながります。
100%を求めるのではなくスモールスタートで
2点目は100%を求めすぎてしまうことです。PoCは短時間の概念検証を何度も繰り返し、小さくてもポジティブな結果を積み重ねて、実現性の高いシステム構築につなげていきます。
現状のAIは、過去のデータを学習することでモデルを作成するため、過去に起きたことがないことに関しては正しく分析を行うことが出来ません。AIで完全自動化を目指してプロジェクトを作成してしまうと、膨大の量の教師データが必要になったり、学習アルゴリズムも改善を繰り返さなければならないなど余計なコストがかかります。
そのためAIだけで100%を目指すのではなく、人力と協業体制などプロセスを検討することがおすすめです。目的に沿ってシステムを着実に構築するために、まずは範囲を限定したスモールスタートで効果を確認し、徐々に拡大していきましょう。
学習用データ量が少なすぎる
3点目は、学習用データが少なすぎることです。上述した通り、100%の精度を求めすぎることもプロジェクトに失敗する原因ではありますが、一方で、精度をある程度のところまで出すためには、教師データは一定量必要となります。
画像認識であれば、対象となる画像とその判定方法、分析を行うのであれば、過去に取得・蓄積した数値データなどが教師データとなります。これらのデータを保有せずにプロジェクトを開始しても、教師データがない以上は、プロジェクトは前に進みません。
そのため、プロジェクトを成功に導くためにも、予めどのように教師データを用意するのか、その準備にはどれだけの期間と費用がかかるのか、教師データの精度に問題はないのか、も含めて検討しておくことは必須と言えるでしょう。
外注に頼りすぎる
最後に、AI開発プロジェクトを外注に頼りすぎていることです。AIプロジェクトにはじめて取りかかるとき、自社で専門の組織がないため、既存の情報システムの部署や新規事業の部署を作成し担当させるというパターンがよくあります。
しかし、社内にナレッジがなく、どう進めればいいのかわからないため、AIのベンダーに外注することになります。うまく連携できれば問題ないですが、内容がわからないまま丸投げしてしまい、わかりやすい実績だけを求めてしまうという場合も少なからずあります。
その結果、PoCだけは進めたが、開発や運用の場面になってプロジェクトが進まないということがあります。外注に頼りすぎてしまった結果、自社内でプロジェクトを進める意思が弱くなってしまったり、プロジェクトの重要なフェーズで頓挫してしまうということがあります。
このようなことを避けるためにも、外注をする場合でも自社内でAIの技術や知識を持つ人材の育成を進めていくことがおすすめです。
最近ではAI開発会社で開発を行った上で、開発会社からナレッジの共有を受け、以降のメンテナンスなどは社内で行う、という内製化も進んでいます。開発会社を選定する際には、内製化への協力観点なども含めて相談してみると良いかもしれません。
事業戦略が明確でないと成功規準があいまいに
4点目は、事業戦略が明確でないことです。AIを導入した時に何を以って成功とみなすのかの判断基準が明確になっていなかったり、期待値をコントロール出来ていなかった結果、追加投資などのプロジェクトの継続判断がつかなく、失敗に終わってしまうということがあります。
例えば、検品のプロジェクトで人力で行った場合99.9%の精度が出ていたが、逆に不良品のデータが少なくAIの精度が99%となってしまった場合、それが成功か失敗かをみなす判断が事前に決まってないため、プロジェクトが失敗とみなされてしまうケースなどがあります。
また、AIの新規プロジェクトを立ち上げることが優先になりすぎて現場の理解が得られず、データの取得ができなかったり、システムを開発したが利用されないというケースがあります。
このようなことを避けるためにもAI開発プロジェクトを立ちあげる際に何をもってプロジェクトの成功とするのかなどの判断基準を明確にしたり、プロジェクトを全体のプロセスの中での利用方法を設定したり、社内の理解を深めるための教育を行うことなどが有効です。
PoCについてよくある質問まとめ
- PoCとは何ですか?
PoC(Proof of Concept)は、新しいアイデアや技術の実現可能性を確認するための初期段階の工程です。特にAIの導入においては、技術的な問題や予期せぬリスクを事前に特定するために非常に重要です。
- PoCとプロトタイプ、MVPは何が違いますか?
PoCは実現可能性の確認、プロトタイプは方向性の確認、MVP(Minimum Viable Product)は市場反応のテストに焦点を置いています。これらはプロジェクトの異なる段階で用いられます。
- PoCの主なメリットは何ですか?
PoCはリスクを低減し、コスト効率を向上させる重要なステップです。また、PoCの成功は投資家や外部企業にとっても信頼性の高い判断材料となります。
まとめ:PoCがAI開発成功の鍵を握る!
AI開発プロジェクトを行う際に重要なのがPoCです。PoCがうまく行かなければAI導入はうまくいきません。
よくある失敗する理由もご紹介しましたが、プロジェクトを進める上で自社が失敗する状況に当てはまっていないのかを確認しながらしっかり対策することが重要です。まずは自社のAIプロジェクトのフローを見直すところから初めてはいかがでしょうか。
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