特許検索にAIは効果的?調査の概要やLLMを活用するメリット、導入事例を徹底解説!
最終更新日:2025年01月20日
特許検索は、企業の技術開発や事業戦略において不可欠なプロセスです。しかし、その過程では多くの課題が存在します。
例えば、膨大な特許情報を前に、目的とする情報にたどり着くまでに時間がかかったり、担当者のスキルによって検索結果にばらつきが生じたりすることは、多くの企業が直面する悩みでしょう。また、特許庁が提供する無料の検索サービスは便利である一方、機能面に制約があることも事実です。
この記事では、特許検索の概要から課題、AI、特にLLM(大規模言語モデル)を導入するメリット、活用事例について解説していきます。特許検索の効率化と精度向上に向けた具体的なイメージを持ち、自社の知的財産戦略をさらに発展させるためのヒントが得られるでしょう。
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目次
特許検索とは?
特許検索とは、新たな発明や技術開発に関連する特許情報を調査し、知的財産権の取得や保護を目的として行われる検索プロセスです。知的財産戦略を構築する上で欠かせない工程であり、特許を取得する前後の意思決定において重要な役割を果たします。
特許情報には、発明の技術的内容や利用範囲が記載されており、それを精査することで市場での競争優位性を確保するためのヒントが得られます。また、特許出願の内容は公開されるため、他社がどのような技術に注力しているのかも把握できます。
さらに、特許検索は新規性の確認や特許侵害リスクの評価、さらには競合他社の動向分析など、さまざまな場面で活用されます。このプロセスは専門性が高く、膨大な情報を効率的に処理する能力が必要とされるため、近年ではAI検索の技術の導入による効率化も進められています。
LLMを活用した特許検索
特許検索におけるAI検索技術は、大規模言語モデル(LLM)を中心に急速に進化しています。
特許データで事前学習されたLLMを用いることで、特許特有の言語表現や技術用語の理解度が向上し、より正確な検索結果が得られます。これにより、従来のキーワードベースの検索では捉えきれなかった特許の本質的な内容や技術的概念を把握することが可能になります。
また、LLMを用いることで、単なるキーワードマッチングではなく、文脈や意味を考慮したセマンティック検索が可能になります。これにより、類似技術や関連特許を高精度で抽出できるようになりました。
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特許検索・調査の種類
特許検索・調査には、その目的や対象に応じてさまざまな調査方法があります。以下では、代表的な特許検索の種類について解説します。
技術動向調査
技術動向調査は、特定の技術分野における開発状況や将来の方向性を把握するために行われる調査です。
特許情報を活用して、業界全体の技術的進化や競合他社の研究開発の傾向を分析します。新製品の企画や研究テーマの選定における基礎資料の収集に活用されることが多いです。
出願前調査
出願前調査(先行技術調査)は、新たな技術や発明が既存の特許に含まれていないかを確認する調査です。特許出願を行う前に行われることが多く、自社の発明が特許として認められる可能性や、新規性・進歩性を備えているかを評価します。
先行技術調査の主な目的は、開発の初期段階で類似技術の存在を確認し、無駄な研究開発コストを抑えることにあります。既存の特許文献や学術論文などを調べることで、発明の独自性を明確にし、特許権の取得を確実にするための材料を得ることが可能です。
特許侵害防止調査
特許侵害防止調査は、自社の製品や技術が他者の特許権を侵害していないかを確認するための調査です。競合他社が保有する特許を事前に精査することで、トラブルを未然に防ぐ役割を果たします。
関連する技術分野の特許を分析し、自社開発技術が既存の特許に抵触しないかを判断します。特許侵害が認められた場合、損害賠償請求や市場からの撤退といった深刻な影響を受ける可能性があるため、リスク管理の一環として特許侵害防止調査は欠かせません。
無効資料調査
無効資料調査とは、特許権の有効性を争う際に、相手方の特許を無効と見なされる可能性が含まれる資料を探す調査です。特許の侵害訴訟や、特許無効審判の場面で重要な役割を果たします。
無効資料調査では、特許出願前に公開された技術情報や、特許の新規性・進歩性を否定する要素を含む文献を探すのが目的です。このプロセスは、高度な専門知識と膨大な時間を要するため、他の調査手法と比べて企業や特許事務所の負担は大きくなります。
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特許検索における課題
特許検索では膨大な情報量と専門性の高い作業を伴うため、作業プロセスにおいては課題も存在します。以下では、特許検索における課題について解説していきます。
時間がかかる
特許検索は、その膨大な情報量と複雑な検索条件により、非常に時間がかかる作業です。特許情報には技術の詳細や法律的な要素が含まれるため、それらを精査しながら必要な情報を抽出するには多くの労力が求められます。
特に、特許出願数の増加に伴い、検索対象となるデータ量が膨大になっています。これにより、関連性の高い特許を効率的に見つけ出すことが困難になっています8。また、技術の複雑化により、単純なキーワード検索だけでは十分な検索結果が得られない場合が増えています。
検索結果を分析し、関連性の高い情報を選別する作業も大きな負担となるでしょう。このプロセスは手動で行われる場合が多いため、経験やスキルに依存しやすく、効率性を高めにくいのが現状です。
検索スピードが人材によって左右する
高度な専門知識と経験が求められる特許検索では、検索スピードや精度が人材のスキルによって異なります。熟練した担当者と経験の浅い担当者では、同じ時間を与えても検索結果には大きな違いがあるでしょう。
特許情報の検索には、対象分野の深い理解だけでなく、特許データベースの使い方や検索テクニックの知識も必要です。これらのスキルを身に付けるには時間とコストがかかるうえ、担当者個人の能力に依存する状況から抜け出せないという課題があります。
J-PlatPatは無料だが機能制限
J-PlatPatは特許庁が提供する無料の特許情報検索サービスとして広く利用されていますが、いくつかの問題点も指摘されています。
まず、複雑な検索式(例えば3単語近傍検索)が作れませんし、リーガルステータス(特許の法的状態)による検索・絞り込み機能が不十分と指摘されています。
また、検索条件の保存機能が不十分です。
さらに、検索結果の表示件数、およびCSV出力に上限があるため、幅広い技術分野にわたる特許検索では不十分に感じる方も多いでしょう。
J-PlatPatが無料サービスであることを考えるとやむを得ない面もあります。より高度な特許調査や大量のデータ処理が必要な場合は、有料の特許データベースの利用を検討する必要があるでしょう。
海外特許検索の必要性
グローバル化に伴い、多言語での特許検索の需要が高まっています。海外特許を検索する際、最も大きな障壁となるのが言語の違いです。
ある程度の機械翻訳は可能になりましたが、専門用語の適切な翻訳や文脈に応じた正確な意味の伝達の問題は残ります。
各国の特許庁や商用データベースによって、検索インターフェースや機能も異なります。そのため、各データベースの特徴や制限を理解する必要があります。
特許検索にAIを活用するメリット
AI導入によってどんなメリットが期待できるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
効率的な特許検索を可能にする
AIを活用することで、特許検索の効率は向上します。膨大な特許データを瞬時に分析し、関連性の高い情報を抽出できるため、従来の手作業による検索と比べて格段に効率的です。さらに、休むことなく作業を続けられるため、常時稼働による効率化が可能です。
特に、LLM(大規模言語モデル)にRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)を実装することで、より高度な特許検索が実現できます。RAGは外部データベースから関連情報を検索・取得し、それを基にLLM(大規模言語モデル)で回答を生成する仕組みです。
これにより、最新の特許情報や企業固有の知識を含めた、より正確で包括的な検索結果を得ることができます。
また、AIのアルゴリズムは過去の検索履歴やパターンを学習し、ユーザーの意図に合った結果を提供するよう最適化されます。繰り返し行われる検索作業においても、検索時間を短縮しつつ、必要な情報を効率的に取得することが可能です。
さらに、AIは類似技術の抽出や特許の関連性分析も得意としており、従来の検索では見落とされがちな情報もカバーできます。自然言語処理技術により、関連性の高い海外の特許文書を正確に選別し、要約可能です。
これにより特許検索業務の生産性が向上し、より迅速に市場戦略や技術開発を進められるでしょう。
検索精度のムラを解消する
担当者のスキルや経験に依存する特許検索は、同じ条件で検索を行っても、結果が異なることが少なくありませんでした。こうした検索精度のムラは、重要な特許情報を見落とすリスクを高め、企業の知的財産戦略に影響を与える可能性があります。
AIを活用することで、このような検索精度のばらつきを解消することが可能です。AIは主観に左右されることなく、一貫した基準で情報を抽出します。さらに、自然言語処理技術や類似性検索アルゴリズムを駆使して、関連性の高い特許文献を見つけ出してくれます。
LLMを活用したシステムでは、特許の専門知識がなくても、思いついた文章を入力するだけで関連特許を検索できるようになっています7。これにより、特許調査の敷居が下がり、より多くの従業員が高精度な特許検索を行えるようになりました。
また、AIは一度学習したパターンや知識を繰り返し適用できるため、担当者ごとのスキル差が結果に影響することがありません。そのため、特許調査員のスキルや経験、クセによる調査結果のバラつきを軽減できます。
どのユーザーが操作しても、一定以上の検索精度が保証され、特許調査業務の品質が安定します。
分析力の強化
AIは膨大なデータを高速で処理し、人間が見落としがちな微妙なパターンや関連性を見出すことができます。これにより、新しい技術トレンドや市場機会を効率的に発見できます。
例えば、異常検知アルゴリズムを用いて、通常のパターンから逸脱するデータポイントを特定し、新たな技術の兆候を早期に発見可能です。また、過去のデータを基に将来の市場動向を予測し、戦略的な意思決定をサポートできます。
また、LLMの高度な自然言語理解能力を活用することで、特許文書の意味的な類似性や新規性を評価することが可能になり、より深い洞察を得ることができます。そして、RAG技術を活用することで、特許データベースだけでなく、最新の論文やニュース記事なども含めた幅広い情報源から関連データを抽出し、より包括的な技術動向分析が可能になります。
特許検索におけるAIの活用事例
以下では、AIによる特許検索システムを導入した企業とその成果を紹介します。
【NEC】特許調査支援サービス「PatentSQUARE」を全社導入
日本電気株式会社(NEC)は、パナソニックソリューションテクノロジー株式会社開発の特許調査支援サービス「PatentSQUARE」を導入し、全社員によるグローバルな知財情報の活用を推進しています。
新入社員から技術者まで全社員にIDを発行し、「PatentSQUARE」を利用可能としています。特許調査の重要性とノウハウを全社で共有し、技術者も自分自身で特許調査を行える環境を整備しています。
「PatentSQUARE」の導入により、スピーディーな特許調査が可能となり、自社出願未公開データも含めて一括検索することで、出願の重複を回避しています。また、マトリクスマップ機能で特許の分析・調査業務を効率化し、ライバル企業の技術分析を強化しています。
トヨタ自動車株式会社では、グローバルな知的財産戦略の強化を目的に、株式会社日立製作所の特許情報提供サービス「Shareresearch(シェアリサーチ)」を導入しました。Shareresearchは、国内外の特許情報を網羅的に検索・閲覧できるクラウド型サービスです。
Shareresearchの導入により、世界95の国と地域の特許情報をカバーし、国内外の特許を同一インターフェースで検索可能にしました。また、プロジェクトごとに特定のメンバー間で以下のような情報を共有できる機能を活用し、情報共有の効率化を実現しました。
- 検索式やSDI
- 経過監視
- 関連文書
【日本化薬株式会社】技術系社員向けの研修に「JP-NET」を採用
日本化薬株式会社は、技術系社員の知的財産教育の一環として、日本パテントデータサービス株式会社の特許情報検索サービス「JP-NET」を研修に採用しています。
日本火薬では技術系新入社員に対し、入社1年目の4月に特許導入研修を実施し、9月には「JP-NET初級」の実習を行っています。これらの実習では、特許検索の基本操作を習得することを目的としています。
12月には特許初級研修を実施し、簡単な検索を自分で行えるよう指導しています。その後、「JP-NET中級」を通じてより高度な検索技術を身に付ける機会を提供しています。
これらの研修を通じて、技術系社員が自ら関連技術の先行技術調査を行い、明細書を作成できるスキルを養うことを目指しています。
一連の研修プロセスで「JP-NET」を活用することで、特許検索の実践的な能力を身に付け、研究開発活動における特許戦略を推進する体制を整えています。
【コニカミノルタ】特許調査業務の工数を最大40%削減
コニカミノルタ株式会社では、AIによってグループ全体の管理会計プロセスを刷新し、分析レポート作成工数を30~40%削減しました。Patentfield株式会社の特許調査支援AIシステム「PATENT FIELD AI」を採用しています。
これにより、年間で数千時間かかっていた分析レポートの作成工数を削減し、膨大なExcelファイルの管理からも脱却することに成功しています。また、属人化していたデータ入力・集約などの業務プロセスも整理・標準化し、安定的に業務が行えるようになりました。
【はくばく】直感的なUIで調査と分析の効率的な運用を実現
株式会社はくばくは、特許調査業務の効率化と社内での知財情報共有を目的に、Patentfield株式会社のAI特許検索・分析プラットフォーム「Patentfield」を導入しました。
「Patentfield」の直感的なユーザーインターフェースにより、特許調査の心理的ハードルが下がり、技術者が簡単に特許検索を行えるようになりました。また、ビジュアル化されたアウトプットによって、SDI(選択的情報配信)の重要性を視覚的に示しています。
社内掲示板での情報共有により、部門外からのフィードバックも増加し、調査効率が向上したようです。
【帝人】システムの一元管理とコスト削減
帝人株式会社は、株式会社日立製作所の特許情報提供サービス「Shareresearch」を導入し、システムの一元管理とコスト削減を実現しました。それまでは持株会社制への移行に伴い、知財システムの管理が複雑化し、コストや運用負担の増大などの課題に直面していました。
「Shareresearch」の導入により、研究者が自席のPCから自由に検索できる環境を整備し、特許情報の活用範囲を拡大させています。また、定額制料金の採用や経過監視機能の活用により、知財部門だけで年間約3,500万円のコスト削減を達成しています。
【スズエ国際特許事務所】AI検索エンジンの導入で類義語を一括抽出
国外の知財管理に対応するスズエ国際特許事務所では、AI技術を活用した特許検索ツールを独自開発・導入し、特許調査業務の効率化を実現しています。
この特許検索ツールは、数万~数十万件に上る関連特許文献を解析し、主要ワード間の関連性を学習することで、調査対象の技術内容に近い案件をリストアップします。
従来の特許調査ではキーワード選定や検索式の構築に時間と専門知識が必要でしたが、AI検索エンジンによって類義語や関連語の一括抽出が可能となり、検索精度を向上させています。
これにより、調査業務にかかる時間が最大4分の1に短縮されました。さらに、AIによるスコアリング機能により、関連性の高い特許文献を上位に表示することが可能となり、調査精度も向上しています。
特許調査の時間短縮によって、調査依頼が大幅に増加したようです。セカンドオピニオンとしての再調査依頼もされるなど、クライアントからの信頼性も高まりました。
特許検索におけるAIについてよくある質問まとめ
- 特許検索にはどんな種類がありますか?
特許検索の手段として、代表的な方法が4つあります。
- 技術動向調査
- 先行技術調査
- 特許侵害防止調査
- 無効資料調査
- 特許検索で時間がかかってしまう主な原因は何ですか?
特許情報の膨大さ、複雑な検索条件、技術的な専門知識の必要性が主な原因として挙げられます。また、関連性の高い情報を精査する作業に時間がかかることも要因の一つです。
- 生成AIを特許検索に活用するメリットは?
AIを活用することで、膨大な特許データの高速分析、類似技術の抽出、検索精度の向上、多言語特許の調査効率化などが期待できます。これにより、特許調査にかかる時間や人的コストの削減、重要な特許情報の見落とし防止につながります。
まとめ
特許検索におけるAIの活用は、これまで人手に頼っていた調査業務の効率化と精度向上を実現し、知的財産戦略の新たな可能性を切り開く手段です。AIの導入によって、膨大なデータの処理や類義語の抽出、検索精度のばらつきの解消など、解決できる課題は多岐にわたります。
AIの活用事例からも分かるように、特許調査の効率だけでなく、企業全体の知財戦略や研究開発活動を前進させることが可能です。検索ツールの導入により、知財関連のプロセスにおける重要な役割を果たします。
もし、自社でのAI活用に不安を感じる場合や、より高度な特許調査・分析を必要とする場合には、特許調査の専門家やAIソリューションを提供する企業に相談することを推奨します。専門家の知見を活用することで、AI導入の効果を最大化し、より精度の高い知的財産戦略を策定できるでしょう。
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また、LLMは以下のような分野でも活用されているため、よろしければご参考ください。
AI Marketの編集部です。AI Market編集部は、AI Marketへ寄せられた累計1,000件を超えるAI導入相談実績を活かし、AI(人工知能)、生成AIに関する技術や、製品・サービス、業界事例などの紹介記事を提供しています。AI開発、生成AI導入における会社選定にお困りの方は、ぜひご相談ください。ご相談はこちら
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