RAG(検索拡張生成)の活用事例は?検索システムと生成AIを導入した企業の事例12選を徹底解説!
最終更新日:2024年12月06日
検索技術と生成AIモデルを組み合わせた自然言語処理技術であるRAG(検索拡張生成)。LLMに依存しない回答生成で汎用性が高く、オリジナルデータを活用したシステムの構築を可能にする技術として多くの企業で導入されています。
RAGとはなにか、仕組みをこちらの記事で、LLMについてはこちらで詳しく説明していますので併せてご覧ください。
RAGはさまざまな業界での活用が期待されており、既に実用化してベネフィットを得ている企業もあります。社内データの検索や回答生成の精度を高めるなど、RAGを導入する事例は数多く存在しています。
そこでこの記事では、RAGの最新導入事例を紹介します。RAGが実際にどうやって活用されているか、事例を見ることでイメージしやすくなるでしょう。RAGの導入・開発を検討している開発者や企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。
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IT・通信業界でのRAG導入事例
AI技術と強く結びつくIT・通信業界では、以下のような企業がRAGを導入し、実際の業務に活用しています。
- コネヒト
- ソフトバンク
- LINEヤフー
- NEC
それぞれの企業の導入事例について見ていきましょう。
【コネヒト】社内文書の参照機能の実現
コネヒト株式会社では、RAGによって社内文書参照機能を実現しています。RAG技術を活用し、社内制度やナレッジに関する文書の検索機能と、それらの文書を基にした回答生成を可能にしました。
ユーザーの質問に関連する社内文書を効率的に検索し、検索された関連文書をユーザーの質問と組み合わせて、ChatGPTへのプロンプトを動的に生成します。
コストを抑えることに重点を置き、RAG実践で一般的に利用される有料サービスであるAzure AI Search(旧Azure Cognitive Search)やOpenAIの文章埋め込みモデルAPIなどは使用しません。代わりに、HuggingFaceの無料モデル「multilingual-e5-small」を採用しています。これにより、コストを抑えつつ高性能なRAGシステムを実現しています。
関連記事:「生成AI(ジェネレーティブAI)のAPI、プラットフォーム別に紹介!メリット・各ツールの特徴を徹底解説!」
社内文書の参照機能は、以下のような手順で構築されました。
- 社内文書のベクトル化
- ユーザーのメッセージに関連する文書の抽出
- ChatGPTに与えるプロンプトの構築
これによって、ChatGPTに質問を投げ掛けるとコネクト固有の名称が出力されます。
Notionなどの文書管理システムと連携し、最新の社内情報を常に参照できるようにしています。実際の社内文書に基づく回答が生成できるため、社内の業務効率化やプロダクトの提供価値向上が期待できます。
【ソフトバンク】RAGデータ作成ツールによる生成AIの回答精度向上の支援
ソフトバンク株式会社では、AIの教師データを作成するアノテーションサービス「TASUKI Annotation」において、生成AIの回答精度向上を支援するRAGデータ作成ツールを提供しています。
TASUKI Annotationは、企業が自社でAIサービスをより容易に導入できるよう支援可能です。RAGの活用において図表やテキストなどさまざまな形式のデータを構造化する機能や、回答の引用元データが正確であるか自動評価する機能を備えています。
これにより、大量の社内データを効率的に整理し、回答精度の評価からデータ修正までを迅速に行うことが可能です。TASUKI Annotationを使用して、社内向けサポートサービスを大幅に改善できます。
例えば、人事部門や IT ヘルプデスクなどで、従業員からの問い合わせに対して、より正確で迅速な回答を提供することが可能になります。また、顧客向けチャットボットの精度を向上させることで、カスタマーサポートの質を飛躍的に高めることができます。
TASUKI Annotationは直感的なユーザーインターフェースを採用しているため、LLMやRAGの専門知識がなくても簡単に操作でき、業務負担を大幅に軽減します。
【LINEヤフー】独自業務効率化ツール「SeekAI」の導入
LINEヤフー株式会社では、生成AIを活用した独自の業務効率化ツール「SeekAI」を全従業員向けに本格導入しました。このツールでは、RAGシステムが活用されています。
SeekAIは、社内ワークスペースツールや社内データを参照元として、従業員の質問に対して最適化された回答を提供します。LINEヤフーでは生成AI統括本部がデータ登録をサポートしており、組織的な取り組みの重要性を示しています。
「SeekAI」の利用範囲を拡大するにあたり、参照元として登録できる社内データやワークスペースツールのページを、部門やプロジェクト単位で管理できるよう設定が更新されました。あらかじめ登録した社内データベースを参照するため、従業員は要件に適した回答を得ることが可能です。
「SeekAI」は社内データやワークスペースツールの情報を効率的に取得できる環境を提供し、従業員の確認や問い合わせにかかる時間を削減します。
結果として、部門を問わず多様な業務での効率化を実現しています。特に、エンジニアの技術スタック検索・選定時間の削減、カスタマーサポート業務での正答率向上に寄与しました。
【NEC】RAGによる社内コンテンツやナレッジをもとにした推論精度の向上
2023年5月に、NEC(日本電気株式会社)は生成AIの社内活用を促進する目的で「NEC Generative AI Service(NGS)」を立ち上げました。NGSの導入後、特に注目されたのは、社内のコンテンツやナレッジを活用した推論機能に関するニーズです。
NECでは、生成AIの企業内での活用手法としてRAGを採用しており、LlamaIndexを実装しています。事前に登録したOffice文書やPDFデータをもとに、蓄積されたナレッジを有効活用できる仕組みが構築されています。
NGSには、Microsoft社のAzure OpenAI Serviceを活用したGPT-3.5に加え、GPT-4やNEC独自のLLMも採用されています。複数のLLMを組み合わせることで、様々なニーズに対応しつつも、自社開発LLMの活用による独自性を確保するよい事例です。
社員が生成AIを適切に活用できるようルールを策定し、活用推進の施策を整備しました。まだ、回答精度は完全ではないものの、試行錯誤を重ねたいという社員からの声もあったため、提供が開始されました。今後、LlamaIndex以外の技術への置き換えも視野に入れているようです。
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化学メーカーでの導入事例
化学メーカーの業界において、RAGの主な導入事例は以下の通りです。
- LION
- AGC
それぞれの導入事例について解説していきます。
【LION】生成AIと検索システムを用いた「知識伝承のAI化」ツールの自社開発
ライオン株式会社では、社内の技術的知見を効果的に活用することを目的に、「知識伝承のAI化」ツールの自社開発を進めています。このツールにより、蓄積されてきた技術知識や実験データから必要な情報を研究員が迅速に取得できる環境を整備し、新しい価値や習慣の創造を支援することが可能です。
「知識伝承のAI化」ツールは、RAG技術が基盤となって開発されました。自然な表現での検索文を入力し、生成AIが抽出した文書を分析・評価したうえで、質問に沿った簡潔な回答を提供します。これにより、適切な情報へ効率的にアクセスすることが可能です。
検証結果では、情報取得にかかる時間が従来の約5分の1に短縮され、生成された文章から迅速に必要なデータを抽出できることが確認されています。今後は試験運用を経て、研究領域での活用を目指しています。
【AGC】「ChatAGC」の運用による社内データの検索効率化
世界最大級のガラスメーカーであるAGC株式会社は、自社の生成AI活用環境「ChatAGC」に社内データとの連携機能を新たに搭載し、2023年8月からその拡張運用を開始しています。汎用的な生成AIとAGCが保有する独自の知見やノウハウに基づくデータを融合させた業務ツールが整備され、従業員の生産性向上をサポートしています。
2023年6月時点で「ChatAGC」は導入されていましたが、利便性の向上を目的にRAG技術を採用し、社内データを「ChatAGC」に統合しました。権限を付与された従業員は、社内データを基にした回答を得られるようになり、情報の効率的な活用が可能となります。
権限に基づいた情報アクセスを実現することで、セキュリティと利便性のバランスを取っています。
これにより、以下のような多様な部門での活用が期待されています。
- 開発部門:過去の開発・設計などの技術情報を含めた回答を得られる
- 製造部門:トラブル発生時に過去の製造情報から適切な対応策を迅速に得る
- 営業部門:顧客情報を基にニーズに適合した回答を得る
- 戦略企画部門:知財情報を基に、自社の事業活動に適合した回答を得る
各部門のニーズに合わせたRAGの活用方法を検討することで、組織全体の効率化とイノベーション創出につながります。
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その他の業界での導入事例
IT・通信や化学メーカー以外の業界でも、RAGの導入は進んでいます。代表的な導入事例として、以下の6社が挙げられます。
- セゾンテクノロジー
- ゆめみ
- 東洋建設
- JR東日本
- くすりの窓口
- 近畿大学
それぞれの導入事例について見ていきましょう。
【セゾンテクノロジー】自然言語で社内データ基盤を活用できるシステムの構築
セゾングループの株式会社セゾンテクノロジーでは、生成AIの取り組み実績の1つとして、RAGシステムの開発と提供があります。社内で構築されたDWHやデータレイクを活用した「全社統合データ基盤」を、SQLの知識がない非エンジニアでも「質問を入力するだけ」で利用可能な環境として開発しました。
従来のDWHに保存されている構造化データは、生成AIとの適合性が低いため、DWH内のデータベースメタデータをベクトル化し、RAGシステムに提供する仕組みを採用しています。
RAGは自然言語入力をもとに、生成AIを用いてDWH向けのSQL文を自動生成できるようになりました。ユーザーはSQLを記述することなく、自然言語だけで社内データ基盤を活用できます。
セゾンテクノロジーでは、セキュリティへも配慮し、入力データの再学習懸念を排除できるAzure OpenAI Serviceを利用しています。
【ゆめみ】新入社員のオンボーディングを支援する生成AI環境の構築
Webアプリやスマホサービスを企画・開発する株式会社ゆめみでは、新入社員のセルフオンボーディングを効率化する目的で、RAGを活用した独自の生成AI環境を開発しました。
ゆめみは、アジャイル組織・ティール組織を採用し、全員CEO、有給取り放題、給与自己決定など、ユニークな制度を導入しています。新入社員が組織に馴染むために、「ゆめみオープンハンドブック」によるセルフオンボーディングの仕組みを整備してきました。
しかし、情報が更新され続ける中で、新入社員が必要な情報に辿り着きにくいという課題がありました。RAGを活用したシステムは社内情報へのアクセス性を大幅に向上させ、新入社員が自発的に業務知識を習得できる環境を実現しています。
社内ツールとして既に導入されているSlackをインターフェースとして活用することで、利用時の手間を最小限に抑えることを実現しました。また、クラウド上に専用のSlack botアプリケーションを配置し、RAG技術を統合することで、高い利便性を提供しています。
さらに、社内の膨大なNotionドキュメントから必要なデータを抽出し、大規模言語モデルによって質問内容に即した回答を生成します。これに加え、会話履歴の文脈を考慮した応答が可能で、過去のやり取りを踏まえた情報提供が実現されています。
【東洋建設】労働災害事例検索システム「K-SAFE東洋 RAG適用Version」の導入
東洋建設株式会社は、2024年9月に労働災害事例検索システム「K-SAFE東洋 RAG適用Version」を導入しました。このシステムは、株式会社UNAIITが開発した「K-SAFE」をもとに、東洋建設と共同で機能が拡張されました。
社内災害事例、厚生労働省労働災害データ、日建連災害データ、国交省建設工事事故データベースなどを格納しています。「東洋建設災害防止基準」や「安全ルールの見える化」、「成功・失敗事例」など社内独自データの検索も可能です。
全職員が業務用として配布されているiPhone Proを利用し、いつでもシステムへアクセスできる仕組みとなっています。各現場の調整会議や朝礼、パトロール時に活用し、職務上必要な安全事項を確実にリマインドすることで、労働災害の防止に貢献します。
「K-SAFE東洋 RAG適用Version」を活用することで、災害事例の参照や社内データの検索に加え、「災害事例ChatGPT」への質問も可能です。厚生労働省の災害事例をベースとしており、回答の信頼性も保証されています。
【JR東日本】業務内容に回答できる生成AIシステムの開発とDX化の推進
JR東日本では生成AIの内製開発に取り組んでいて、本社内組織「Digital & Data イノベーションセンター(DICe)」を設置して積極的にDXを推進しています。
生成AIシステムの開発においてもDICeが中心となり、RAGを活用したシステムのプロトタイプを内製しました。2023年11月から一部の社内部署で試験運用を開始しています。
社員のフィードバックを反映しながら改良を進められており、2024年10月には全社規模での試験運用が実施されているようです。
RAGシステムの導入により、社内規定やルールに関する文書検索の効率化を図り、全社的な業務の生産性向上を目指しています。JR東日本独自の業務内容に回答できる生成AIシステムの開発を目指しています。
他にも生成AIチャットツールの展開やプログラミングコーディングでのAI活用など、企業全体でもデジタル化を推進しています。
【くすりの窓口】PoC検証用のAIチャットボットの開発に活用
薬局・ドラッグストア検索予約サイトであるくすりの窓口では、RAG技術を活用した生成AIチャットボットのPoC検証を実施しました。複数の基盤モデルの中からGPT-4を採用した検証用チャットボットSlackアプリを使い、実用化に向けた試験運用を行いました。
開発された生成AIチャットボットは、「くすりの窓口」が提供する3種類の個別サービスに対応しており、社内のSlackアプリを通じて質問することで、それぞれのサービスに関する回答が得られる仕組みになっています。
情報源となるドキュメントを管理するための環境と、一般的なLLMにはない社内独自の情報をもとに回答を生成するRAGの仕組みの構築はAmazon Web Services(AWS)上で行われています。最終的には顧客向け問合せシステムへの組み込みを目指しています。
【近畿大学】問い合わせ対応の効率化を促進する高精度チャットボット「SELFBOT」の導入
近畿大学が導入する次世代高精度チャットボット「SELFBOT」は、Azure OpenAI Serviceを使用してChatGPTと連携したRAG活用のシステムで、回答の根拠となるドキュメントやURLを自動的に学習します。
近畿大学では、2022年時点で学生からの問い合わせ対応にAIチャットボットを活用していました。70,000件以上の問い合わせをチャットボットで対応し、窓口での対応件数を最大で5~6割削減する成果を上げていましたが、教職員が想定される質問と回答を事前に準備し、それを学習させるプロセスが必要でした。
「SELFBOT」ではトレーニング用のデータセットやシナリオの構築は不要で、ファイルやWebページのURLをアップロードするだけで学習が可能です。これにより、教職員が質問や回答を作成する手間を大幅に削減するとともに、より柔軟で高品質な回答が生成できます。
学生などの利用者にとっても、回答生成と参照したWebページやドキュメントへのリンクを提示されるため、効率的な情報収集が可能です。また、入力テキストの予測など、ユーザービリティの高いサービスが期待できます。
RAGの活用事例についてよくある質問まとめ
- RAGの応用例は?
RAGの応用例として、以下のようなものが挙げられます。
- RAGによるチャットボットアプリケーションの導入
- マーケティング・市場調査の支援
- 大学や研究機関での情報収集と分析の効率化
- RAGの欠点は何ですか?
RAGの応答精度は検索結果の質に大きく影響されるため、適切なデータベースや高度な検索技術が欠けている場合には、満足のいく結果が得られない可能性があります。さらに、外部データを活用する特性上、プライバシーやセキュリティに関するリスクにも注意を払う必要があります。
- RAG検索のメリットは?
RAGは、クローズドな情報を安全に扱える点やハルシネーションのリスクを低減できる特徴から、生成AI分野で注目を集めています。さらに、外部情報の容易な更新や回答生成の精度向上といった利点を持ち、従来のファインチューニングで生じていた課題を補完する技術として期待されています。
まとめ
本記事ではRAGの導入事例を取り上げましたが、さまざまな業界で活用されていることが分かります。
これまでは生成AIの回答に信頼性が欠けていたため、実用化できないケースもありました。しかし、社内データという信頼性の高いデータセットを活用できるため、RAGは今後も生成AIと同時に導入されていくことが予想されます。これから、ますます導入事例も増えるでしょう。
社内データ検索の効率化や学習プロセスの簡素化など、RAGは企業に新たな価値をもたらす技術として注目されています。今回取り上げた事例を参考に、RAGを導入してみてはいかがでしょうか。
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