AIシステム内製化が進む理由とは?自社開発のメリット・デメリット・阻害要因・内製化のポイント・導入方法を徹底解説!
最終更新日:2024年11月14日
DXの推進や働き方改革などによって導入が進んでいるのがAI(人工知能)です。株式会社ITRの発表によれば、2020年度の国内市場規模は約513億円でしたが、2025年度には約1,200億円に達するといわれています。
そんなAIの活用が進む中で注目を集めているのが「AIの内製化」です。AIを内製化できれば、開発スピードの向上や柔軟なシステム開発はもちろん、継続的なAIモデルの精度向上やAI適用範囲の拡大を行うことが可能となります。
今回は、AIの内製化とは何か、内製化が進む理由やメリット・デメリット、阻害要因、内製化のポイントを解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
AIシステムを自社で開発する際の手順、費用見込みはこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
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目次
AIの内製化とは
AIの内製化とは、自社で使用するAIの開発・運用を外注せずに自社で行うことです。日本企業の多くは社内で使用するシステム開発・運用をすべて外注し、外注先へ丸投げの状態でした。
しかし、近年ではAIをはじめ社内で使用するシステムを外注ではなく内製化して、自社で開発・運用する企業が増えています。
システムの内製化が進む理由
では、なぜ内製化に舵を切る企業が増えているのでしょうか。ここでは、システムの内製化が進む理由を2つ解説します。
プロジェクト成功率の低さ
システムの開発・運用を外注する従来のやり方だとITプロジェクトの成功率はそこまで高くありません。2018年に行われた 「ITプロジェクト実態調査」によれば、対象となったプロジェクト約1,700件のうちほぼ半数にあたる約47%のプロジェクトが失敗に終わっています。
失敗の理由としてはベンダーに任せきりで要件定義を十分にできていない、PoCが不十分で開発側と現場の足並みがそろわないなどが挙げられてます。AIは従来のシステムよりも不確実性が高く、要件定義も難しく、PoCが欠かせません。
PoCを行うメリット、行う際の注意点をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
したがって、従来の進め方でAI導入を進めると、プロジェクトの成功率はさらに低くなるかもしれません。内製化を行うことで、自社内で戦略的かつスムーズに開発・導入・運用を行えるだけでなく、データを適切に活用してAIモデルの精度向上を行ったり、AIの適用範囲の拡大を検討することもスピーディーに行えることから、内製化へと舵を切る企業が増えています。
ビジネス環境の変化スピードの加速
もう一つの理由としては、ビジネス環境が変化するスピードが加速していることが挙げられます。現代はビジネス環境の変化が非常に激しく、企業が生き残っていくためには変化にあわせて迅速にシステムの刷新・改修を行わなければなりません。
しかし、開発・ 運用を外注に任せていると、AIモデルのチューニングや、貯めたデータを活用して再学習する際など、常に外注に依頼せねばならないため、コストがかかったり、開発スピード、精度向上スピードに遅れが生じたりします。これでは、臨機応変にシステムを刷新・改修できず、ビジネス環境の変化に柔軟に対応できません。
また、システム障害が発生した場合、外注先への連絡に時間がかかったり、障害への対応復旧が遅れたりするリスクがあります。特にインフラに関わるシステムなどで障害が起きてしまうと、作業がストップしたり、提供サービスが停止したりと代償が大きく、障害が長引いたり、頻繁に障害が起きたりすると大きな損害に発展しかねません。
外注先によっては、障害が起こったのかどうかの把握や検証を行えないケースも多くあります。このような背景もあって、AIを導入している多くの企業が内製化を進めています。
AIシステム内製化の4つのメリット
AIを内製化するメリットは主に次の4つが挙げられます。
- 迅速なデプロイメント
- 運用コストの最適化
- AI活用のナレッジ蓄積とスキルアップ
- より高精度なモデルの開発
迅速なデプロイメント
AIの自社内製化はビジネス環境の急激な変化に柔軟に対応するための最適な手段です。なぜなら、外部ベンダーを介するプロセスでは、要件定義、見積もり、発注といった手続きが繰り返され、これがAI導入のスピードを遅らせる要因となります。
内製化を行えば要件定義から開発、そして精度向上を目指す運用までのスケジュールを自社内ですべて調整できるため、プロジェクト全体のスピード向上が期待できます。開発中に仕様変更が起きても柔軟に対応できるほか、自社で開発することでシステムすべて把握することが可能です。
具体例として、ある調査会社の調査によれば、外部ベンダーを用いたAIプロジェクトの導入期間は平均6カ月以上かかると報告されています。対照的に、自社内製化を進めることで、AIモデルの精度向上に必要なトライ&エラーのサイクルを短縮し、導入期間を大幅に削減することが可能です。
運用コストの最適化
コスト面でのメリットを考察します。一般的にAIシステムは、初期導入コストと運用コストが必要です。特に注意すべきは、AIモデルの「精度劣化」です。これは、時間や環境の変化によってデータが変わるため、モデルの再学習が必要となる現象です。
報告によれば、外部ベンダーによる運用コストは年間で平均20%増加するとされています。しかし、自社内製化によって、このような精度劣化への対応を迅速に行い、運用コストを大幅に削減することができます。
AI開発の際のトータル費用見込みをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
AI活用のナレッジ蓄積とスキルアップ
第三のポイントは、人材資本の強化です。AIプロジェクトにおいては、データの「前処理」が不可欠ですが、このスキルは企業ごとの独自のデータに依存します。
特にAIプロジェクトにおいては、開発したら終わり、ではなく、継続的なアノテーションや再学習、モデルのチューニング等を通して、AIの精度を向上させていく運用が非常に重要となります。
そのため、開発担当と運用担当が連携しながら、柔軟に開発を行っていくシステムの開発手法である「DevOps」に倣って、AIでは機械学習(Machine Learning)の頭文字をとって「MLOps」とも呼ばれるほど、運用の重要性が認知されています。
このMLOpsを実現していくためには、内製化を行うことが望ましいと考えられています。
具体例として、IBMの調査によれば、前処理に熟練したデータサイエンティストがいる企業は、AIモデルの開発サイクルを平均30%高速化できるとされています。このようなナレッジが内部に蓄積されることで、プロジェクトの企画段階での検証がスムーズに行え、また、データの不足も早期に特定できます。
より高精度なモデルの開発
最後に、AIの「適用範囲」の拡大です。多くの企業には、外部に公開できないセンシティブなデータが存在します。報告によれば、このようなデータを活用したAIモデルは、一般的なモデルよりも平均で25%高い精度を持つ可能性があります。自社内でAIを活用することで、これらのデータを安全に活用し、より高精度なモデルを開発することが可能です。
AIシステム内製化の3つのデメリット
AIを内製化するデメリットは主に次の3つが挙げられます。
- 人材コスト:AI専門家の採用と育成
- 運用の持続性:人的リソースの変動リスク
- システム品質の不確実性
人材コスト:AI専門家の採用と育成
AI内製化の第一のデメリットは、専門的なAI人材の採用と育成に伴う高いコストです。AIエンジニアの年収は一般的なITエンジニアよりも平均で25~30%高いと報告されています。また、社内での人材育成には、専門的なトレーニングと時間が必要であり、これが追加のコストとなります。このような背景から、外部のAIサービスを活用する選択肢も考慮に入れるべきです。
内製化を行う場合は長期的な視点で人材の育成・確保を行い、担当者の離職リスクも考慮しておかなければなりません。また、システム開発の専門企業が開発するわけではないため、品質が担保されにくいのも内製化のデメリットといえるでしょう。
運用の持続性:人的リソースの変動リスク
次に、AIの継続的な運用に関するリスクです。AIモデルは、精度の維持と改善が必要であり、これには専門的なスキルと継続的な管理が求められます。調査によると、AIプロジェクトの40%以上が、導入後の運用で問題を抱えているとされています。
特に、プロジェクトメンバーが異動や退職で失われた場合、その運用が属人的にならないように設計する必要があります。この点で、AIプラットフォームの導入や環境の統一が有効なリスク分散策となります。
システム品質の不確実性
AI内製化においてしばしば見落とされるリスク要素の一つが、システム品質の不確実性です。結論から言えば、内製化によってシステムの品質が必ずしも担保されていない可能性があります。
理由としては、内製化プロジェクトは多くの場合、専門的なAI人材が限られている状況で進行します。具体例として、ある大学の研究によれば、内製AIプロジェクトの約60%が、品質保証のプロセスを十分に経ていないと報告されています。このような状況下では、システムのテストや品質評価が不十分である可能性が高く、これがビジネスに悪影響を及ぼすリスクとなります。
この問題に対処するためには、外部の専門家やコンサルティングファームを活用して、システム品質の第三者評価を行うことが有効です。また、品質保証のプロセスをしっかりと設計し、これを継続的に運用することが重要です。
関連記事:「MLOpsとは?導入すべき理由・手順・DevOps・LLMOpsとの違いを分かりやすく解説!」
AI内製化を進める方法
AI内製化を実施するためのフレームワークは以下です。
- テーマ選定
- モデル構築
- 運用
上記3つの主要ステップについて解説します。
テーマ性能の選定:業務課題とデータを総合的に評価
AI内製化の成功のための第一歩は、AIを導入するテーマの選定です。AIを使って何を達成したいのか、明確にしましょう。
例えば、製造ラインでの不良品を減らす、顧客の購買履歴から次に買いそうな商品を予測する、などです。ただ「AIを使いたい」というだけでは、後で失敗する確率が高くなります。具体的な目標と、その目標に対する現状のデータ(例:不良品の数、過去の購買データ)をしっかりと把握することが大切です。
AIは万能ではないため、業務課題と既存のデータを総合的に評価することが重要です。具体的には、現場部門と連携してテーマの候補リストと優先順位を確立するステップが必要です。
モデルの構築と評価:AIプラットフォームと人材育成の並行進行
次に、AIモデルの構築と評価です。これは専門的な作業ですが、最近は「AIプラットフォーム」と呼ばれるツールがあり、これを使えばプログラミングが得意でない人でも比較的簡単にAIモデルを作れます。
このツールを使うと、例えば「不良品を減らすためのAIモデル」を作る作業時間が半分になることもあります。そして、このモデルがうまく動くかどうかを試す「テスト」を行います。AIプラットフォームの導入は、モデル構築作業を大幅に効率化するとされています。この効率化により、スキルのあるメンバーは更に多くのモデルを評価でき、スキルの少ないメンバーも参加可能になります。
この段階でのナレッジ共有とPBL(Project-Based Learning)による人材育成が、企業全体のAIケーパビリティを高めます。
モデルの持続的運用:再学習と効率化の仕組み
最後に、AIモデルの持続的な運用です。AIモデルができたら、実際に使ってみます。
しかし、AIは時間が経つと「賢くなる」ものではありません。むしろ、新しいデータに対応できるように、定期的にモデルを「更新」する必要があります。これを怠ると、最初は良かったモデルも、次第に性能が落ちてしまいます。
そのため、AIモデルを日々の業務に組み込む際は、定期的な「メンテナンス」も計画に入れることが重要です。リスクを軽減するためには、再学習を考慮したAIプラットフォームの導入が有効です。これにより、データサイエンティストや管理者の作業が効率化され、属人化のリスクも削減されます。
AI内製化で失敗する3つのケースとは?
AI内製化の現況について理解したところで、ここではAI内製化の阻害要因を3つ解説します。
経営層が関与しない
経営陣が関与しないというのがAIの内製化を阻害する1番の要因です。AIの内製化を成功させるためには戦略的な観点を持ち、中長期的に取り組んでいかなければなりません。
すでにシステム開発・運用を外注している場合は契約の解除やシステム切り替えなどが必要な場合もあるでしょう。
したがって、経営陣がAIの導入だけを指示した後は現場に丸投げという状態だと、企業戦略が立案しづらく、スムーズに意思決定を行えないため内製化を進められません。
導入・運用方法が分からない
具体的な導入方法が分からないというのもAIの内製化を阻害する要因の1つです。仮に内製化していくと決めたとしても、やることの範囲が幅広く、運用方法がわからないというケースも少なくありません。
内製化を検討しているものの、こういった課題を解決する方法が見つからず、内製化が進まない企業は多いです。
AI人材不足
前述のとおり、社内のAI人材を確保できる企業はたった10%程度しかありません。したがって、AI人材の不足によって内製化が進まないという企業は多いです。
特に1から育成プロセスを構築するとなると、ノウハウの蓄積からはじめないといけないため、なかなか内製化を進められません。
AIの内製化を成功させるポイント
阻害要因について理解したところで、ここではAIの内製化を進めるポイントを4つ解説します。
AI人材の育成・確保
AIの内製化を進めるためには、人材の育成・内製化が欠かせません。育成体制が整備されていないようであれば早急に整備する必要があります。
また、必要なAI人材は企業規模によって異なるため、何名育成・確保しなければならないのか明確にしておくことが大切です。状況次第では、AI人材を中途採用で確保することも視野に入れておく必要があります。
タイプ別にAI人材を育成する
内製化における運用体制は主に以下2つです。
完全内製型 | 企画から活用にいたるまですべての工程を自社で行う |
企画外注型 | 企画を外注し、それ以外の工程を行う |
どの体制で開発・運用するかによって、育成するAI人材のタイプは違うため、育成計画を立案する際にしっかりと決めておきましょう。
また、人材育成において課題を感じている、どのように進めればよいのかわからないといったお悩みを抱えている企業様は、「おすすめのAI人材育成・人材教育サービスと選定のポイント」の記事をご参照ください。AI人材の育成や教育についてヒントが得られます。
社内開発可能なツールの導入
プログラムをかけるAIエンジニア人材は非常に希少なため確保が難しいですし、育成も容易ではありません。そこでおすすめなのがAmazon SageMakerのような、ノーコード・ローコードで高度なプログラミングを組める社内開発ツールの利用です。
昨今、顔認識や活字のOCRなど、汎用的な技術であれば、学習済みのAIモデルが既に搭載されているツールも増えており、ある程度のプログラミングスキルがあれば開発できるため、内製化を目指すのであれば、こういったツールを導入することを検討してもよいでしょう。
システムの棚卸し
システムの棚卸しも重要なポイントです。古いスペックのシステムや一般社員には認知されていないシステムが稼働している企業は多いでしょう。
AIの開発・運用やシステム連携をスムーズに行うためには、社内システムを把握しておく必要があります。
したがって、AIの内製化を進める場合は社内でどんなシステムが稼働しているのか、しっかりと棚卸しして把握しておかなければなりません。
AI内製化の現況について
AIの内製化を進める企業が多いというのは今まで紹介してきたとおりです。では、どれくらい内製化を進めている企業がいるのか、ここではAI内製化の現況についてみていきましょう。
AIの活用について
AI inside 株式会社が2,000人のビジネスパーソンを対象に行った調査によれば、AIを価値創出に活用もしくは業務効率化に利用しているのは全体の約17%でした。
一方、AIを活用していないもしくは不要と感じているのは約68%と圧倒的に多かったようです。
参照:AI inside 株式会社/PRTIMES
AIの内製化について
AIを導入している企業の6割がAI内製化を行っているもしくは検討しているそうです。
コストの削減をはじめ、上記のメリットが内製化に取り組んだ背景にあったと答えており、AI導入にともなって内製化へシフトチェンジしている企業が多いといえます。
参照:AI inside 株式会社/PRTIMES
AI人材の育成について
AIを導入している企業の約36%がAIの研修を実施し、人材育成を行っているそうです。
また、研修の予定があるが未着手・検討中と答えた割合は19%で、AIを導入している企業のうち半数以上が人材育成に力を入れている結果となりました。
一方、社内のAI人材を確保できている企業は約10%と非常に低い割合だったことから、内製化を成功させるためには、育成も同時進行で行わないといけないことがわかります。
AIの内製についてよくある質問まとめ
- AIの内製化が進む主な理由は何ですか?
AIの内製化が進む主な理由は、プロジェクト成功率の低さとビジネス環境の変化スピードの加速です。内製化を行うことで、自社内で戦略的かつスムーズに開発・導入・運用が行えるため、多くの企業がこの方向に舵を切っています。
- AIの内製化のメリットとデメリットは何ですか?
メリットとしては、迅速なデプロイメント、運用コストの最適化、AI活用のナレッジ蓄積とスキルアップ、より高精度なモデルの開発があります。デメリットとしては、人材コスト(AI専門家の採用と育成)、運用の持続性(人的リソースの変動リスク)、システム品質の不確実性が挙げられます。
- AIの内製化を成功させるためのポイントは何ですか?
AIの内製化を成功させるためのポイントは、テーマ性能の選定、モデルの構築と評価、モデルの持続的運用です。具体的には、業務課題とデータを総合的に評価し、AIプラットフォームと人材育成を並行して進めることが重要です。
AIの内製化に関する相談はAI Marketへ
インターネットやSNSの普及によって、ビジネス環境は大きく変化しました。AIの内製化を行えば、外注先の状況に左右されないため、刻一刻と変化するビジネス環境に柔軟かつスピーディーに対応できます。
しかし、実際にAI内製化を進めていきたいと考えても、何からはじめたらいいのか、どのように内製化を進めたらよいかわからない、ということもあるでしょう。
AI Marketでは、内製化支援を行っているAI開発会社の選定サポートや最適な開発会社紹介を行っています。AI開発会社の選定に迷っている場合や依頼方法がわからなかったら、AI Marketの専門のコンサルタントが最適な開発会社の選定を無料でサポートしますので、いつでもお気軽にご相談ください。
AI Marketの編集部です。AI Market編集部は、AI Marketへ寄せられた累計1,000件を超えるAI導入相談実績を活かし、AI(人工知能)、生成AIに関する技術や、製品・サービス、業界事例などの紹介記事を提供しています。AI開発、生成AI導入における会社選定にお困りの方は、ぜひご相談ください。ご相談はこちら
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