マイグレーションとは?主な種類・手法・役立つツール・手順を徹底解説!
最終更新日:2025年07月11日

- マイグレーションは老朽化したシステムを放置するリスクを回避し、セキュリティ強化やコスト削減を実現
- 従来は専門家の手作業に頼っていた現状分析(アセスメント)やコード変換、テストといった工程をAIが支援
- システムの状態や目的に応じて、「リホスト」のようなシンプルな手法から、クラウドに最適化する「リビルド」まで多様な選択肢
マイグレーションとは、既存のシステムやアプリケーション、データを新しい環境へ移行するプロセスです。老朽化したIT資産の再構築を主目的に、企業のDX推進において重要な役割を担います。
近年では、生成AIを活用したコード生成や自動コード解析、仕様書生成、既存システムの再設計支援など、AI(人工知能)技術を取り入れた新たなマイグレーション手法が登場しています。
本記事では、マイグレーションの基本的な概念から主な手法、活用できるツール、具体的な実施手順までをわかりやすく解説します。また、注目されるAIを活用したマイグレーションについても紹介します。
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目次
マイグレーションとは?
マイグレーション(Migration)は直訳すると「移行」「移転」を意味し、老朽化したハードウェアやレガシーシステム、旧バージョンのデータベースなどを、より望ましいプラットフォームやアーキテクチャへ移行する一連のプロセスです。
マイグレーションは単なるハードウェアの入れ替えから、ソフトウェアのバージョンアップ、クラウド環境への移行まで、幅広い意味で使われます。
対象や目的は、オンプレミスからクラウド、モノリシック構造からマイクロサービス、RDBMS のバージョンアップなど多岐にわたります。しかし、最終的なゴールは共通しており、保守性・拡張性・セキュリティ・コスト効率の向上を目指します。
計画的に実施することで、短期のコスト削減にとどまらず、中長期的な競争優位の基盤を築く投資対効果が期待できます。
マイグレーションの重要性
特に日本企業では「2025年の崖」問題として、老朽化・複雑化したレガシーシステムによる維持コスト増や技術継承の断絶が深刻化するとされています。そのような背景で重要性を高めているのが、マイグレーションです。
マイグレーションを進めることで、2025年の崖で問題視される以下のような課題を根本から解消できます。
- ランニングコストの削減:保守費用・運用負荷の高い旧システムから、効率的な新基盤へ移行
- セキュリティ向上や故障リスクの回避:脆弱性の多い旧OSやハードウェアから脱却し、安定稼働を確保
- ブラックボックス化の防止:属人化されたレガシー資産を標準化・見える化し、スムーズな技術継承を実現
マイグレーションはDX推進やAI導入の基盤整備にも直結するため、将来の成長戦略と密接に関係する重要な取り組みです。
マイグレーションの種類
マイグレーションにはいくつかの種類があります。以下が、代表的な種類です。
種類 | 定義 |
---|---|
レガシーマイグレーション | レガシーシステム全体を、現代的なプラットフォームやアーキテクチャへ移行 |
サーバマイグレーション | 物理・仮想サーバを新しいハードウェアやクラウドへ移行 |
データマイグレーション | データベースやファイルストレージを別環境に移す |
ライブマイグレーション | システム稼働中に仮想マシンを別ホストへ無停止で移行 |
クイックマイグレーション | 稼働中システムを短時間停止して別環境に移す手法 |
クラウドマイグレーション | オンプレミスシステムをパブリック / プライベートクラウドへ移行 |
モダナイゼーション・コンバージョンとの違い
モダナイゼーションは、業務プロセスやアーキテクチャを根本から再設計する根本的なアプローチです。対して、マイグレーションは既存資産を活かしつつ、インフラやソフトウェアの基盤を新環境へ移行する延命・刷新型のアプローチで短期間・低コストで対応できる点がメリットです。
マイグレーションでは、業務に影響を与えずに環境だけを刷新できるため、老朽化したサーバの更新やOSサポート終了対応が必要なシーンで多く活用されます。また、性能ボトルネックの解消やストレージの刷新、担当者依存のリスク回避にも有効です。
ただし、技術的負債や構造的な課題は温存されることが多いため、俊敏性や保守性の改善には限界があります。
一方でモダナイゼーションは、アーキテクチャそのものを見直すことで長期的な保守性・拡張性・俊敏性を抜本的に向上させることが目的です。コストや期間はかかりますが、将来的な競争力の土台づくりとして有効です。
モダナイゼーションを実現する手段の第一歩として、マイグレーションを用いるのはよく使われる戦略です。
なお、コンバージョンは、ある形式のデータやプログラムを別の形式に「変換」することです。マイグレーションの一部として行われることが多い手法です。
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マイグレーションの代表的な手法
マイグレーションには、目的や現行システムの状況に応じて複数の実施手法が存在します。本章では、代表的なアプローチを紹介します。
一般的に、上にあるものほど移行の難易度やコストは低いです。しかし、クラウドのメリットを享受しにくくなります。下に行くほど難易度は上がりますが、得られる効果も大きくなります。
リホスト
リホストは「リフト&シフト」とも呼ばれ、アプリケーションやデータを変更せずにそのまま新しいインフラ(クラウドなど)へ移行する手法です。
クラウド基盤を短期 × 低コストで確保することが主目的です。変更点が少ないため、導入スピードが速く、業務への影響を最小限に抑えられます。
一方、システムの保守性や拡張性そのものは改善されない点に注意が必要です。
短期間・低コストで移行可能なため、まずはクラウド基盤を確保したい企業に向いています。
リプラットフォーム
リプラットフォームはアプリケーション本体はそのままに、古いOS・ミドルウェア・DBなどプラットフォーム部分のみを刷新する手法です。セキュリティ強化や性能向上を目的とします。
アプリ改修を最小限に抑えられ、環境依存リスクを低減できます。リホストより少しだけクラウドの利点を活用可能です。
一方、レガシー構造や技術的負債は残るため抜本的な改革には至りません。
リファクタリング
リファクタリングは、アプリケーションの内部構造(コード)を見直し・整理することで、クラウド環境に最適化する手法です。コード構造を整理・最適化し、クラウドネイティブに適合させることが目的です。
モジュール分割やマイクロサービス化によって拡張性・保守性が向上し、コンテナや CI/CD との連携も容易になります。しかし、一定の開発工数とスキルを要します。
リアーキテクト
リアーキテクトは、既存コードを活かしつつ システム構造そのものを組み替える手法です。例えば、モノリシックをマイクロサービス化し、コンテナやイベント駆動、DevSecOps体制に適合させるケースが典型的です。
俊敏性とスケーラビリティを高めるのが狙いです。独立デプロイにより開発スピードと障害局所化が実現できます。
一方、ドメイン分割やAPI設計の難易度が高く、既存テスト資産の再構築が必要です。
リビルド
リビルドは、業務ロジックを再利用しつつ コードベースを一新するもっとも踏み込んだアプローチです。 既存のアプリケーションを廃棄し、クラウド上で全く新しく作り直します。
レガシー言語やフレームワークを完全に置き換え、最新スタックで新規開発と同じ品質基準を適用します。
業務ロジックを引き継ぎながらコードベースをゼロから書き直し、長期的な保守性と拡張性を確保するのが目的です。
最新設計・セキュリティ要件を反映し、パフォーマンスも最適化できる分、もっともコストと期間がかかり、移行中は並行稼働や二重保守が発生しやすい点がデメリットです。
リプレース・リタイア
リプレース・リタイアは、既存システム機能をSaaSやCOTSパッケージに丸ごと置き換える、もしくは不要機能を廃止する手法です。
導入が迅速で継続的アップデートも享受できますが、カスタマイズ制限やベンダーロックイン、データ移行コストを事前に評価しておく必要があります。
そのため、機能要件が標準化できる場合に有効です。
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マイグレーションに役立つツールとAI
マイグレーションを効率的かつ安全に進めるためには、目的に応じた専用ツールの活用が不可欠です。以下では、マイグレーションに役立つツールを紹介します。
アセスメントツール
移行対象のシステムを分析し、依存関係や移行の難易度、コストなどを評価するツールです。
AIを使えば、人間では読み解くのに時間がかかる大量のソースコードやプログラム間の複雑な依存関係、データの流れをAIが自動で解析・可視化します。
解析結果に基づき、どの部分が移行しやすく、どこに技術的な負債が溜まっているかを客観的に評価し、移行の難易度やリスクを特定できます。
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プラットフォーム | 特長 |
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AWS Migration Hub |
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vFunction | AIを活用してJavaアプリケーションを分析し、マイクロサービスへの分割候補を提案するなどアセスメントを強力に支援 |
コード変換
レガシーシステムの多くは、COBOLのような古い言語で書かれており、これをJavaやPythonといった現代的な言語に変換する作業は、プロジェクト全体のコストと期間を左右します。
レガシーコードで書かれたプログラムを、AIが意味(セマンティクス)を理解した上で、高品質なJavaやPythonのコードに自動で変換可能です。また、仕様書・ドキュメントの自動生成: 変換後のコードからAIが仕様書や設計ドキュメントを自動生成し、将来の保守性を高めます。
プラットフォーム | 特長 |
---|---|
IBM watsonx Code Assistant for Z | IBMのAI「watsonx」を活用し、メインフレーム上のCOBOLコードをJavaに変換するのを支援 |
Amazon CodeWhisperer, GitHub Copilot | レガシーコードをリファクタリング(再設計)する際に、強力な補完機能や示唆を提供 |
クラウド移行サービス
代表的なクラウド各社は、以下のように独自のマイグレーション支援ツールを提供しています。
プラットフォーム | 特長 |
---|---|
Azure Migrate |
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これらのツールを活用することで、現状把握から移行設計、実行、検証までのプロセスを効率化できます。
目的に応じて、ツールの特長と対応範囲を見極めることで成功につながります。
データ移行ツール(ETLツール)
ETLツールは、データマイグレーション時に、形式変換・移動・整合性維持を行う際に役立ちます。以下が、代表的なETLツールです。
ツール | 特長 |
---|---|
Apache NiFi |
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DBConvert |
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これらのツールを活用することで、データ構造の違いや移行時の整合性リスクを最小限に抑えながら、安全かつ効率的にデータ移行を進めることが可能です。
移行対象の種類や移行先の環境に応じて、適切なETLツールを選定しましょう。
コンテナ移行ツール
コンテナ移行ツールは、アプリケーションのコンテナ化・モダナイゼーションに向けた移行を支援するツールです。以下が、代表的なコンテナ移行ツールです。
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ツール | 特長 |
---|---|
Kubernetes + Argo Rollouts |
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VMware HCX |
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これらのツールにより、本番環境への影響を抑えつつ、従来の仮想マシンやアプリケーションを段階的にクラウドネイティブ環境へ移行することが可能です。
目的に応じて、ツールの対応範囲やデプロイ方式を見極めることで、より安全かつ柔軟な移行戦略を実現できます。
テスト
移行後のシステムが正しく動作するかを保証するテスト工程は非常に重要ですが、人手では膨大な時間がかかります。AIはテストの自動化と効率化を支援します。
移行対象のアプリケーションの仕様やコードをAIが分析し、必要なテストケースを自動で生成します。また、生成されたテストを自動で実行し、エラーやバグが発見された場合はその原因分析まで支援します。
マイグレーションの基本手順
マイグレーションの基本的な手順は、以下のとおりです。
移行企画・戦略策定
なぜマイグレーションを行うのか(コスト削減、DX推進など)を明確にします。また、どのシステムを移行するのかを決定します。
アセスメント(現状調査・分析)
移行対象システムの構成、データ量、業務への影響などを詳細に調査します。現状の課題と、移行によるリスクを洗い出します。
システム構成・資産を棚卸しし、移行のコスト効果とリスクを明確化しましょう。
移行計画策定
調査結果をもとに、最適な手法やツールを選びます。リホストやリビルドなど適切な手法を見極め、段階的な進行計画を立案しましょう。
また、プロジェクトチームを編成し、詳細なスケジュールと予算を立てます。
移行設計・準備
新しい環境(インフラ、ネットワークなど)を設計し、構築します。移行手順書の作成: 詳細な作業手順をドキュメント化します。
クラウド設計原則に沿った構成、セキュリティ / ガバナンスも並行して検討しましょう。
移行実施・テスト
リハーサル: 本番移行の前に、テスト環境でリハーサルを行い、問題点を洗い出します。
本番移行
計画に基づき、システムやデータを移行します。
テスト: 移行後のシステムが要件通りに動作するか、様々な観点からテストします。自動化ツールの活用で移行作業の確実性と速度を担保できる可能性があります。
運用・最適化
旧システムの停止: 新システムが安定稼働したことを確認し、旧システムを停止・廃棄します。ダウンタイムを最小限にし、トラブル時の自動復旧手順も事前検証しましょう。
効果測定と改善
移行による効果を測定し、さらなる改善点がないか検討します。運用部門へナレッジ移転を移転し、継続的な最適化プロセスを構築しましょう。
マイグレーションを成功に導くポイント
マイグレーションを円滑に進めるためには、単なる技術移行にとどまらず、ビジネスへの影響を最小限に抑える視点が重要です。
以下のような観点を意識することでリスクを抑え、成果につながるマイグレーションを実現できます。
- スモールスタートで始める
- ダウンタイムを最小化する
- 現場のUIや操作感を変えない
なかでも重要なのは、現場のUIや操作感を極力変えずに移行を行うことです。業務担当者の混乱を防ぎ、教育コストや現場の負担を最小限に抑えることで、マイグレーションの効果を確実に定着させられます。
非破壊型のアプローチを意識し、安定かつスムーズな移行を目指しましょう。
マイグレーションについてよくある質問まとめ
- マイグレーションって、そもそも何ですか? なぜ重要なのでしょうか?
マイグレーションとは、古くなったシステムやデータを新しい環境へ「お引越し」させることです。以下の理由から非常に重要です。
- コスト削減: 古いシステムの高い維持費や運用コストを削減します。
- セキュリティ強化: 最新の環境に移行することで、サイバー攻撃などのリスクを減らします。
- DX・AI活用の準備: 新しい技術を導入するための土台を整えます。
- 技術の継承: 属人化してブラックボックス化したシステムを解消します。
- どのようなツールを使えばマイグレーションが効率化できますか?
はい、移行の各段階で役立つツールがあります。特にAIは、以下の点でプロジェクトを強力に支援します。
- アセスメント(現状分析): AIが大量のコードや依存関係を自動で解析し、移行の難易度や最適な戦略を提案します。
- コード変換: COBOLのような古い言語で書かれたコードを、AIがJavaなどに自動変換します。
- テスト: 移行後のテスト作業をAIが自動化し、品質向上と工数削減を実現します。
- 実際にマイグレーションを進めるには、どんな手順が必要ですか?
一般的に、以下の7つのステップで進められます。
- 企画・戦略策定: なぜ移行するのか、目的と対象を明確にします。
- アセスメント: 現状のシステムを詳細に調査・分析します。
- 計画策定: 最適な手法やツールを選び、スケジュールと予算を立てます。
- 設計・準備: 新しい環境を設計・構築し、詳細な手順書を作成します。
- 移行実施・テスト: 計画に基づき移行作業を行い、正しく動作するかテストします。
- 本番移行・運用開始: 新システムを稼働させ、旧システムを停止します。
- 効果測定・改善: 移行の効果を評価し、継続的に改善します。
- マイグレーションを成功させるために、特に気をつけるべきことは何ですか?
以下の3つのポイントが特に重要です。
- スモールスタートで始める: 一度に全てを移行せず、影響の少ない部分から段階的に進め、知見を蓄積します。
- ダウンタイムを最小化する: 業務への影響を最小限に抑えるため、システムの停止時間をできるだけ短くする計画を立てます。
- 現場の操作感を変えない: 可能であれば、現場の担当者が使う画面(UI)や操作性を変えないことで、混乱や教育コストを抑えます。
まとめ
マイグレーションは、老朽化したシステムや環境をより望ましい基盤へ移行するプロセスであり、企業のIT資産を将来にわたって活用し続けるために不可欠な取り組みです。
一方で、マイグレーションを放置すれば、経済産業省が唱える「2025年の崖」に代表される業務停止リスクを招きかねません。そのため、早期に現状をアセスメントし、段階的な移行を進めることが重要です。
特に、どのシステムを、どの手法で、いつまでに移行すべきかを見極める「アセスメント(現状分析)」は、プロジェクト全体の成否を分ける最も重要な工程です。しかし、このアセスメントには、複雑に絡み合ったシステム間の依存関係を正確に読み解くなど非常に高度な専門知識と経験が求められます。
もし自社だけで進めることに少しでも不安があれば、一度専門家の知見を活用することをおすすめします。
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