時系列分析とは?特徴や手法、用いられるAIモデル、企業の活用事例を徹底解説!
最終更新日:2025年01月07日
企業の売上予測や在庫管理、品質管理など、ビジネスにおける意思決定の場面で注目を集める時系列分析。
企業データの時系列分析は、売上予測から異常検知まで幅広い活用が期待される一方、その手法の選択や実装には多くの企業が課題を抱えています。
本記事では、時系列分析の基本的な特徴から、ARIMAモデルから最新のTransformerまで、各分析手法の特徴と実際の企業での活用事例まで、データ分析実務での活用を見据えて体系的に解説します。
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時系列分析とは?
時系列分析は、時間の経過とともに収集された連続的なデータを解析し、特徴やパターンを理解することで、将来の予測や意思決定に活用する統計的手法です。
従来の時系列分析では、ARIMAモデルや状態空間モデルなどの統計的手法が主に用いられてきました。しかし、AIの登場により、より複雑なパターンや非線形な関係性を捉えることが可能になりました。
最近では、LLM(大規模言語モデル)の技術を応用した時系列トランスフォーマーが登場し、より高度な予測が可能になっています。
これらの分析手法は、ビジネス、経済、気象、医療など、幅広い分野で重要な役割を果たしています。
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時系列データの3つの要素
時系列データは、一般的に3つの主要な成分に分解することができます。これらの要素を理解することで、データの本質的な特徴を把握し、より精度の高い分析と予測が可能となります。
トレンド成分
トレンド成分は、時系列データの長期的な変化傾向を表します。これは、データの全体的な方向性や基本的な動きを示す要素です。
例えば、経済成長率の長期的な上昇傾向や、人口の緩やかな増加などがトレンド成分として捉えられます。トレンド成分は、直線的な変化だけでなく、曲線的な変化を示すこともあります。
分析においては、移動平均法や回帰分析などの手法を用いてトレンド成分を抽出し、その特性を詳細に調べることが重要です。
季節成分
季節成分は、一定の周期で繰り返される変動パターンを表します。この成分は、年間、月間、週間、あるいは日内の周期的な変動を含みます。
例えば、小売業における季節ごとの売上の変動や、電力需要の夏季と冬季のピーク、週末の交通量の増加などが季節成分として捉えられます。季節成分の分析には、季節調整法や周期性を考慮したモデリング手法が用いられます。
この成分を適切に把握することで、季節変動の影響を除去し、より正確なトレンドや予測を得ることができます。
残差成分
残差成分は、トレンド成分と季節成分を除いた後に残る不規則な変動を表します。これは、予測不可能な要因や一時的なイベントによる影響、あるいはモデルで説明できない変動を含みます。
例えば、突発的な自然災害による経済への影響や、予期せぬニュースによる株価の急変などが残差成分として現れます。残差成分の分析は、異常値の検出や予測モデルの精度評価に重要な役割を果たします。
また、残差の分布や自己相関(あるデータと、その前後のデータとの間の関連性)を調べることで、モデルの妥当性を検証し、必要に応じて改善を行うことができます。
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時系列分析の特徴
時系列分析には、以下のような特徴があります。
データの時間依存性
時系列データの最も重要な特徴は、データポイント間の時間的な関連性です。時系列分析で扱うデータには、以下のような特徴があります。
- 同じ対象について一定の間隔(1分、1時間、1日、1カ月、1年など)で連続的に観察・測定された
- 観測される順番に意味がある
例えば、今日の株価は昨日の株価と無関係ではなく、また、今月の売上は前月の売上と何らかの関係性を持っています。この時間依存性を理解し、活用することが時系列分析の基本となります。
予測可能性の追求
時系列分析の主要な目的の一つは、将来の値を予測することです。
過去のデータから見出されたパターンや傾向を基に、未来の値を予測することで、ビジネスにおける意思決定や戦略立案をサポートします。異常の早期発見にも役立ちます。
多様なパターンの存在
時系列データには、長期的な傾向(トレンド)、周期的な変動(季節性)、不規則な変動(ノイズ)など、様々なパターンが含まれています。これらのパターンを適切に分解し、分析することで、より深い洞察を得ることができます。
また、時系列データ内に潜む類似パターンを抽出するために、クラスタリングを活用することも有効です。クラスタリングにより、共通の振る舞いを示すデータ群をグルーピングし、分析や異常検知を効率化できます。
リアルタイム性の重要性
現代のビジネス環境では、データのリアルタイム分析がますます重要になっています。時系列分析は、継続的にデータを収集・分析し、迅速な意思決定を支援する手法として進化を続けています。
分析手法の多様性
時系列分析には、従来の統計的手法から機械学習やディープラーニングのアルゴリズムを用いるAI技術まで、様々なアプローチが存在します。データの特性や分析の目的に応じて、適切な手法を選択することが重要です。
このように、時系列分析は時間とともに変化するデータを理解し、活用するための体系的なアプローチを提供します。適切な分析手法を選択し、データの特性を理解することで、より効果的な意思決定や予測が可能となります。
限界と不確実性
時系列分析では、将来の値を点推定(単一の値)として予測するのではなく、確率分布として予測することが一般的です。将来の事象には常に不確実性が伴うため、単一の値ではなく確率分布として予測することで、その不確実性を表現するのです。
確率分布を用いることで、予測値の信頼区間や予測誤差の範囲を示すことができますが、あくまで過去のデータパターンに基づいて将来を予測するため、過去と大きく異なる状況が発生した場合、予測精度が低下します。
また、十分なデータ量がない場合、予測の精度が低下します。
そのため、新しいデータが得られるたびにモデルを更新し、予測精度を維持することが必要です。また、定性的な情報や専門家の知見を予測に組み込むことで、モデルだけでは捉えきれない要因を考慮します。
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統計的な時系列分析手法
時系列分析には様々な手法がありますが、それぞれの特徴を理解することで、分析の目的に応じて適切な手法を選択することができます。
ARモデル(自己回帰モデル)
ARモデルは、過去のデータから将来の値を予測する最も基本的な手法です。このモデルは、データに明確な傾向や周期性があり、過去の値が将来の値に直接影響を与える場合に特に効果的です。
例えば、今日の売上を昨日の売上から予測したり、今日の株価を過去数日間の株価から予測したりする場合に使用します。
MAモデル(移動平均モデル)
MAモデルは、データのランダムな変動や一時的な影響を考慮する手法です。このモデルは、過去の予測誤差を活用して将来の値を予測する特徴があり、突発的な変化にも対応できます。
特に経済や金融データなど、短期的な変動が大きいデータの分析に適しています。また、品質管理における異常検知にも用いられます。
ARMAモデル(自己回帰移動平均モデル)
ARMAモデルは、ARモデルとMAモデルの長所を組み合わせた手法です。過去のデータの傾向と突発的な変動の両方を考慮できるため、より複雑なパターンを持つデータの分析に適しています。
長期的傾向と短期的変動の両方を捉えられるため、経済予測や金融分析など、多様な要因が絡み合う場面で広く活用されています。
ARIMAモデル(自己回帰和分移動平均モデル)
ARIMAモデルは、長期的な傾向(トレンド)を持つデータにも対応できる発展的な手法です。過去のデータパターンに基づいて将来を予測しますが、非定常な時系列データに対応できます。
売上の継続的な増加傾向や、気象の長期的な変化など、時間とともに値が大きく変動するデータの分析に適しています。金融市場の予測や気象予報など、幅広い分野で活用されています。
SARIMAモデル(季節変動自己回帰和分移動平均モデル)
SARIMAモデルは、ARIMAモデルに季節性を考慮する機能を追加した手法です。年間を通じて繰り返される変動パターンを持つデータの予測に優れています。
小売業の季節売上変動や、電力需要の季節変動など、周期的なパターンを持つデータの分析に特に効果的です。
状態空間モデル
状態空間モデルは、直接観測できない「状態」と実際に観測される「値」の関係を分析する手法です。複雑な要因が絡み合うシステムの分析に適しており、より深い洞察を得ることができます。観測できない要因(潜在変数)を考慮した分析も可能です。
例えば、商品の真の需要(状態)と実際の売上(観測値)の関係を分析する場合などに使用されます。
また、在庫管理や物流計画など多くの制約条件を考慮しながらコストや利益を最適化したい場合には、時系列分析と数理最適化を組み合わせることが効果的です。これにより、需要の変動を考慮した最適な配分やスケジューリングを実現し、ビジネス上の意思決定を高精度化できます。
AIによる時系列分析手法
時系列分析の分野では、深層学習の発展により革新的な手法が次々と登場しています。これらの新しい手法は、従来の統計的手法では捉えきれなかった複雑なパターンや長期的な依存関係を効果的に分析することを可能にしています。
RNN(再帰型ニューラルネットワーク)
再帰型ニューラルネットワークは、時系列データの連続的な依存関係を捉えるための手法です。RNNの特徴は、過去の情報を内部状態として保持し、それを用いて将来の予測を行える点にあります。
特に、時系列データの増加傾向や減少傾向を、ある時刻とそれ以前の時刻の関係で数式化することができ、より精度の高い予測が可能となります。
しかし、RNNには勾配消失問題があり、長期的な依存関係の学習が難しいという課題があります。この課題に対処するため、より長期的な依存関係を学習できるLSTM(Long Short-Term Memory)やGRU(Gated Recurrent Unit)などの改良版RNNが開発されています。
Transformer
Transformerモデルは、自然言語処理の分野で大きな成功を収めた技術を時系列分析に応用したものです。データの長期的な依存関係を効率的に捉えることができ、複雑な時系列パターンの分析に優れています。
最近では、iTransformerという新しいアーキテクチャが提案され、時系列データの多変量相関をより効果的に捉えることが可能となっています。iTransformerは、独立した時系列をトークンとして扱い、多変量相関を自己注意機構によって捉えます。これにより、時系列データの多変量相関をより効果的に分析することが可能となっています。
関連記事:「Transformerの仕組みや特徴を詳しく解説し、どのように高性能のモデルを実現しているか」
ハイブリッドモデルの登場
最新の時系列分析では、複数のモデルを組み合わせたハイブリッドアプローチが注目を集めています。ディープラーニングモデルと従来の統計的手法を組み合わせたハイブリッドモデルの開発が進んでいます。
ARIMAやSARIMAなどの統計モデルとLSTMなどの深層学習モデルを組み合わせた手法は、線形成分と非線形成分を別々に捉えることで予測精度の向上を図っています。また、ディープラーニングモデルの「ブラックボックス」問題に対処するためにも、説明可能なハイブリッドモデルの開発が進んでいます。
関連記事:「XAI(説明可能なAI)とは?ブラックボックス解決へのアプローチ手法、メリット・デメリットを徹底解説!」
例えば、FacebookのProphetは、季節性、祝日、トレンドの変化に効果的に対応するビジネス予測向けのモデルとして開発されました。また、AmazonのDeepARは、RNNを活用して時系列データの確率的予測を行う手法を提供しています。これらのハイブリッドモデルは、各手法の長所を組み合わせることで、より柔軟で精度の高い予測を実現しています。
AIを活用した時系列分析の活用事例
時系列分析は、企業活動の様々な場面で重要な役割を果たしています。具体的な活用事例を見ていきましょう。
売上予測と需要予測
時系列分析を用いた売上予測と需要予測は、企業の経営戦略立案において不可欠なツールとなっています。小売業や飲食業では、曜日や時間帯ごとの来客数の推移を予測し、効率的な業務調整を実現しています。
例えば、大和ハウス工業株式会社では、AIを活用した時系列予測により不動産価値の将来予測と投資プランのシミュレーションを行うサービス「VALUE AI」(バリューアイ)を展開しています。同グループ内の株式会社コスモスイニシアが開発した「VALUE AI」を用いて、不動産オーナーの経営判断をサポートします。
これにより、より精度の高い経営判断や効果的な事業戦略の立案が可能となっています。
関連記事:「現在の不動産業界が抱える問題に対してAIがどのように対処できるのか、そのメリットや具体的な事例」
需要予測による在庫管理の最適化
在庫管理における時系列分析の活用は、コスト削減と効率化に大きく貢献しています。
サッポロビール株式会社では、日鉄ソリューションズの支援を受けて開発したAIによる需要予測システムを導入して在庫を最適化し、顧客のニーズにより迅速にかつ柔軟に応えることができるサプライチェーンを構築しています。
商品発売の約16週間前から需要予測を開始することで、人だけの予測と比べて約20%の精度向上を実現しました。
関連記事:「AIによる在庫管理と従来型の在庫管理との相違点や特徴、導入事例のポイント」
異常検知による金融不正取引を検知
異常検知においても、時系列分析は重要な役割を果たしています。
株式会社SBI証券では、NECが開発した「AI売買審査支援サービス」を導入しています。「AI売買審査支援サービス」は、株式取引における不公正取引の検出に時系列分析を活用したサービスです。
インサイダー取引は審査の観点が多いため、審査対象の絞り込みが困難でした。「AI売買審査支援サービス」は、AIによる疑い度合いのスコアリングで審査業務を効率化します。これらの取り組みにより、品質管理の効率化と不正検知の精度向上が実現されています。
関連記事:「金融業界で今、AIがどのように活用されているかの事例や、AIによって金融業界がどのように変化していくか解説」
異常検知による製造業の品質管理
製造業における品質管理において、時系列分析は非常に重要な役割を果たしています。多くの製造会社では、センサーデータと生産ラインのモニタリングを活用した高度なシステムを導入し、機械の異常や製品の欠陥をリアルタイムで検知しています。
製造現場では、様々なセンサーを設置して大量のデータを収集しています。これらのセンサーは、温度、湿度、振動、音響など、多岐にわたる情報を継続的に記録します。
例えば、ハーレーダビッドソン社では、塗装品質を均一化するために工場内の温度や湿度のデータを取得する遠隔監視ソリューションを導入しています。このシステムは、温度や湿度の異常を検知すると、工場内の空調機器を自動で制御し、オートバイの塗装に最適な環境を維持します。
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マーケティング効果の測定
時系列分析を活用することで、マーケティング活動の効果を定量的に評価できます。キャンペーンの前後での売上データや顧客の行動パターンの変化を分析することで、特定の戦略の効果を明確に把握できます。
また、時系列データを用いて顧客の購買履歴や相互作用データを分析することで、顧客の購買サイクルを特定し、次の購買が行われる可能性の高いタイミングでプロモーションやフォローアップを行うことができます。
関連記事:「マーケテイング分析とはどんなものであるかや、メリット、各フレームワークの特徴についてわかりやすく説明」
まとめ
時系列分析は、企業の意思決定に不可欠な統計的手法として、売上予測から在庫管理、品質管理まで幅広い分野で活用されています。従来の統計的手法であるARIMAモデルから、最新のTransformerモデルまで、様々な分析手法が開発され、より高度な予測が可能になっています。
自社のデータ活用を検討されている方は、まずは売上データや在庫データなど、すでに保有している時系列データの棚卸しから始めてみましょう。時系列分析は、適切な手法の選択と実装により大きな価値を生み出せる一方で、データの特性理解や手法の選定には専門的な知識が必要です。
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時系列分析についてよくある質問まとめ
- 時系列分析は具体的にどのような場面で活用できますか?
時系列分析は、売上予測、需要予測、在庫管理、品質管理など、様々なビジネスシーンで活用できます。例えば、大和ハウス工業では不動産価値の将来予測に、サッポロビールでは需要予測システムに活用し、約20%の予測精度向上を実現しています。
- 時系列分析を始めるために、どのようなデータが必要ですか?
基本的に、時間とともに継続的に収集されたデータが必要です。例えば、日次の売上データ、月次の在庫データ、時間帯別の来客数など、時間的な順序を持つデータであれば分析が可能です。データには、トレンド成分、季節成分、残差成分という3つの要素が含まれています。
- AIを用いた時系列分析は、従来の統計的手法と比べてどのような優位性がありますか?
AIは、非線形な関係性やより複雑なパターンを捉えることができ、多変量データの分析に強みがあります。一方で、モデルの解釈性や計算コストの面では従来手法に利点があるため、用途に応じて適切に使い分けることが重要です。
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