観光型MaaSとは?いま検討すべき理由とは?活用事例5選徹底解説!
最終更新日:2024年09月23日
MaaSの動きは、都市の移動手段の統合にとどまらず、観光の分野にも大きなインパクトを与えるようになってきています。従来は観光における交通手段整備は行政、または大資本を投入できるプレイヤーの専売領域とされていました。しかし、これからはソフトを駆使して既存の交通機関を効率よく活用できるプレイヤーが主役となる時代です。
この記事では観光型MaaSがもたらす、新しい観光のかたちとAIの活用事例について詳細に解説します。
そもそもMaaSとは?MaaSの始まり、レベルによる違いについてはこちらの記事で解説していますので併せてご覧ください。
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観光型MaaSとは?
観光型MaaSでは、既存の移動手段の統合だけでなく、ユーザーの過去の訪問履歴、検索履歴、行動履歴などから、AIのレコメンド機能を活かし、最適な観光地の提案、観光地への最適なルート選択を行うことが期待されています。
そもそもMaaS(マース:Mobility as a Service)とは、列車やバスなどの公共交通機関やレンタカー、タクシーなど、さまざまな移動手段を利用した移動経路の検索、チケットの予約から決済をひとつのアプリで完結し、利用者のユーザビリティを高めることです。インバウンド需要がますます高まる国内観光事業において、観光型MaaSによって次世代型の旅を提示することが重要になっています。
観光型だけではないMaaSの詳細な定義、導入レベルについては、こちらの記事で特集していますので併せてごらんください。
観光型MaaS4つのメリット
観光型MaaSには以下のメリットがあります。
1. レコメンド機能を活用した最適行動の決定
2. ビッグデータ分析を活かした新商品・サービスの提供
3. 最適ルートの選択による移動ストレスの軽減
4. マッピング機能によるオーバーツーリズムの解消
それぞれのメリットについて説明します。
レコメンド機能を活用した最適行動の決定
観光型MaaSを活用すれば、たとえ初めて訪れる観光地であっても、往復の交通手段、現地のレンタカーやタクシー、その他交通機関を統合した最適な経路をAIのルート検索機能で指し示すことができます。しかも、利用者側はただ一つのアプリですべてのプロセスを行えます。
そして、即時予約、即時決済まで可能となるため、それぞれの交通機関での手続きは不要です。また、アプリに搭載されたAIは、観光当日の交通事情、天候事情も判断材料に含めて、観光地を回る経路の選択を行います。そのため、時間コスト、金銭コストを最適化した上で最高の観光体験を提供します。
AIによるレコメンド機能の活用方法、導入事例についてはこちらの記事で解説していますのでご覧ください。
AIの膨大なデータベースを利用することで、ホテルや旅館などの宿泊施設でも観光型MaaSを組み込んだより高度なコンシェルジュサービスを提供することが可能です。AIコンシェルジュに地元の観光情報やおすすめスポットなどの情報をプログラムすれば、宿泊客が興味を持つ観光スポットやイベントを自動的に把握し、最適な旅行プランを提案できるでしょう。
関連記事:「AIはホテルでどう活きる?代替可能な業務や導入事例を徹底解説!」
ビッグデータ分析を活かした新商品・サービスの提供
観光型MaaSが導入されると、観光客の膨大な移動データ(ビッグデータ)が集まります。これらデータが集まれば、観光地ごとの混雑予測やレンタカーやタクシーなどの二次交通の混雑状況の傾向を把握できます。ビッグデータの集約により、単なる混雑予想や最適経路の提案だけでなく、観光客そのものの衣食住の傾向が把握分析できます。例えば、以下のような詳細な傾向を把握できるでしょう。
- ホテルは洋風ホテルが好きなのか?和風旅館が好きなのか?
- ランチは時間をかけたいか?手早く済ませたいか?
- 拠点間の移動は時間をかけたいか?できるだけ速く移動したいのか?
観光客の無意識下の思考や行動パターンに基づいた情報提供が可能となります。
ビッグデータの活用方法、活用事例についてはこちらの記事で分厚く説明していますので関心ある方はごらんください。
最適ルートの選択による移動ストレスの軽減
観光型MaaSの発達によって、交通機関、特に目的地到達後の二次交通手段の渋滞や混雑の緩和が期待されます。観光型MaaSの活用によって飛行機や列車などの公共交通機関だけでなく、レンタカーやタクシーといった二次側の移動手段も統合して検索、予約、決済が行えます。そのため、乗り換え時間の最小化が進みます。
実は、観光で列車・バスなど公共交通機関の利用が伸びない理由として、公共交通機関の利便性の悪さと混雑を嫌忌することが挙げられます。公共交通機関の渋滞の緩和により、移動時のストレスが減ることにより、マイカーから列車、バス利用への回帰が発生します。
特に、地方における公共交通機関の減少は危機的状態にあるため、観光型MaaSの推進は地方公共交通の起爆剤となります。
関連記事:「バス業界はAIでどう変わる?解決課題・活用メリット・企業事例を徹底解説!」
マッピング機能によるオーバーツーリズムの解消
オーバーツーリズムとは、特定の観光地において観光客の著しい増加が地元の住民の生活や自然環境や景観に過度な負担を与えてしまうことです。オーバーツーリズムによって、景観の毀損、地域住民の生活の利便性低下、観光客の満足度が著しく低下してしまう現象を指しています。世界中の観光地において、観光客のゴミや騒音問題などで観光地の閉鎖などの状況が発生しています。
オーバーツーリズム発生の大きな要因は、特定の観光地へ許容範囲を超えた観光客の流入です。AIを用いた観光客のマッピングを行う事で、観光地の訪問分散を行い、過度な集中を防ぎ、観光資本を持続的に確保していく効果が期待されます。
観光型MaaSが乗り越える4つの課題
いま観光型MaaSが抱えている課題には以下があります。
- 法律による業態の制限がある
- 交通事業者間の情報連携が不足している
- キャッシュレス決済への対応が遅れている
- 地方公共交通機関の絶対数が少ない
それぞれの課題について説明します。
法律による業態の制限がある
観光型MaaSを実現するには、鉄道やバスなど多くの公共交通機関やタクシーやレンタカー業者を一つのアプリで一括管理しなければ意味がありません。しかし、そのためにはバスや列車、タクシーを管理する道路運送法の整理、また、レンタカーにおいても自動車運送事業経営類似行為にあたり個別に申請が必要になるのが現状です。シームレスな運用のためには関連法案の一元化や簡略化が必要となります。
交通事業者間の情報連携が不足している
2022年現在、日本はMaaSのレベル1といわれています。レベル1とは、ルートや時刻表などの検索まではある程度情報が統合されているが、予約、決済は未統合の状態とされています。現状、各公共交通機関においては、まだまだ企業ごとに異なるアプリやシステムを利用しているケースが多くなっており、情報の統合が未整備です。
キャッシュレス決済への対応が遅れている
一つのアプリで、検索から予約、決済まで行う観光型MaaSを進めていくためには、キャッシュレス決済への対応が不可欠となっています。現状はまだキャッシュレス決済は各公共交通機関において別々のICカードやアプリを用いられている状況です。
観光客の利便性をより高めていくためには、統合したキャッシュレス決済の仕組みが不可欠となっています。統合したキャッシュレス決済を通じて、観光業界は、交通機関、宿泊機関などを統合したパッケージプランや旅行時期、混雑状況に応じたダイナミックプライシングなどの導入も推進する必要があります。
ダイナミックプライシング(変動価格)とは何か、メリット、デメリットをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
地方公共交通機関の絶対数が少ない
国土交通省による地域公共交通の現況報告によると、バスの輸送人員は、2000年(平成12)を100とすると2019年(令和元)は75%にまで減少しています。また、バスの事業者数も全体の75%が赤字での営業を強いられています。また、鉄道の輸送人員においても1991年(平成3)のピークと比較すると約22%減少しています。
観光型MaaSの推進を進めるためには、地方公共交通の活性化と効率化が不可欠です。しかし、地方自治体においては、一次交通、二次交通いずれも公共交通機関数が減少しており効率化を阻害しています。また、観光型MaaSは、アプリの利用が前提となっているため、都市と地方、世代間のデジタル格差も観光型MaaSにとって課題となります。システムとインフラの整備がととのっても、アプリ自体が利用できない高齢者層の大量発生も懸念すべき材料です。
AI Marketでは、
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観光型MaaSの活用事例5選
観光型MaaSを実際に導入して成功している事例について説明します。
- 電子周遊券と地域観光情報の提供(Via Mobility Japan)
- 1次・2次交通、観光施設の検索・予約・決済を統合(ANA/トヨタ/小田急)
- まちのPRと二次交通の活用(射水市/高岡市/氷見市)
- スマホアプリ不要でチケットレス(愛媛県/KDDI)
- 電子チケットでキャッシュレス観光(JR東日本/東北6県)
それぞれの事例について説明します。
以下に挙げる事例以外の最新観光型MaaS事例、また他のMaaS事例について、こちらの記事で紹介していますのでご覧ください。
電子周遊券と地域観光情報の提供(Via Mobility Japan)
福島県会津若松市では、2019年より観光型MaaSによる訪日外国人の利便性向上を目指しています。この「会津Samurai MaaS」は、会津地域の観光交通と生活交通の改善を図り、観光客の観光地の回遊性を高めるプロジェクトです。会津バス、会津鉄道、磐梯東都バス、JR、タクシー事業者など多くのプレイヤーが参画しています。
主な施策として、会津エリアを訪問する観光客に上記画像のような独自開発のスマートフォン用アプリを提供し、乗車券を電子チケット化しています。また、定時・定路線の運行では満たしきれない移動需要への対応および新規需要の創造のためにVia Mobility Japanが開発したダイナミックルーティングシステムを活用しています。ダイナミックルーティングシステムとは、利用希望者が専用アプリから出発地、目的地、予約人数を指定して乗車予約を行うと、他の乗客の予約内容、道路混雑状況などに合わせてAIが最適な運行ルート・スケジュールを算出するシステムです。利用者は、アプリ画面で以下をリアルタイムで確認できます。
- 乗車するバス停までのルート
- 乗車する車両の現在位置・到着予想時刻
- 車両情報(ナンバープレートなど)
- 車両のリアルタイムの位置(乗車後)
- 目的地への予定到着時刻(乗車後)
従来のコミュニティバスは、便数・ダイヤ・乗降場所ともに限られていました。しかしダイナミックルーティングによる利便性の向上により利用頻度の増加が期待されています。また、朝晩は通勤、日中はショッピングセンターへの買い物といった細かいニーズに即したエリア設定により新たな利用者も増えるでしょう。
また、同アプリ内に会津地域の観光情報も集約しています。交通情報、観光情報をWEBアプリに集約することで、観光客が最新かつ正確な情報を取得できるようになっています。
1次・2次交通、観光施設の検索・予約・決済を統合(ANA/トヨタ/小田急)
ANAと宮崎県、大分県が中心となり、航空機、鉄道、高速バスなどの一次交通とタクシーやバスといった二次交通、観光施設や宿泊施設などの検索・予約・決済を統合したサービスの提供を2020年6月より開始しています。
宮崎県では、トヨタ自動車が開発したMaaSアプリ「my route(マイルート)」を導入しました。これは国土交通省の「日本版MaaS推進・支援事業」を活用したプロジェクトで、九州運輸局管内では初めての採択案件です。MaaSアプリ「my route」は、2018年11月からトヨタと西日本鉄道が中心となって福岡市で実証がスタートした実績を持ちます。実証実験の後、2019年に福岡市と北九州市で本格導入されました。その際には、トヨタのレンタカーやカーシェア、京王電鉄バス、第一交通産業などが連携したほか、トヨタのキャッシュレス決済アプリ「TOYOTA Wallet」も導入されて決済手段が拡充しました。鉄道やバス、シェアサイクルなどを組み合わせたルート検索、サービスの予約・決済、店舗・イベント情報の検索が可能です。
一方、大分県では、小田急電鉄が開発するMaaSアプリ「EMot (エモット)」を活用して、人気観光地である由布院および周辺エリアへのシームレスな移動の実現による利便性の向上を目指しています。EMotは、小田急電鉄が開発するオープンな共通データ基盤「MaaS Japan」を活用したMaaSアプリです。鉄道やタクシー、バスなどを組み合わせた複合経路検索ができます。検索結果から、連携しているアプリやサイトへ遷移して予約・決済も可能です。さらに、交通サービスの利用券や観光施設への入場券等のデジタルチケットの販売機能も持っています。
ANAは九州域内外から飛行機を利用する観光客にMaaSアプリの利用を進めることで観光エリアの誘客拡大を進めます。観光客は同アプリを利用することで、宮崎県、大分県の現地の交通や観光施設の最新情報を得ることができ、その検索、予約、決済を行う事ができます。
まちのPRと二次交通の活用(射水市/高岡市/氷見市)
富山県内で人気の観光スポットを多く持つ射水市、高岡市、氷見市では、地元の観光協会とJTBパブリッシングが連携することで観光型MaaSを進めています。現地の交通検索のシステムと観光情報を組み合わせることで、訪問観光客の嗜好にあったプランを提案し、そのプランに沿ったルートの提供を行っています。
射水市は、映画やドラマのロケ地、豊かな自然や食など有望な観光資源を持つにもかかわらず、JRの駅がないことで魅力を活用しきれていないのが現状でした。一方、北陸新幹線・新高岡駅がある高岡市や「忍者ハットリくん列車」「ドラえもんトラム」など特色のある交通機関が人気の氷見市と併せて隣接3市でスクラムを組むことで、より魅力的な観光エリアとしてアピールしています。
スマホアプリ不要でチケットレス(愛媛県/KDDI)
愛媛県の南予地域において、KDDIと連携して観光型MaaSの取り組みを開始しています。「えひめ いやしの南予デジタルフリーパス」を発行することで、南予地域内の公共交通機関のシームレス化を実現しました。このフリーパスの特徴としては、アプリのダウンロードが不要でチケットレスとしている点です。
自身のスマートフォンを、空港や駅などに設置されたNFCタグにかざすかQRコードを読み込むことでデジタルフリーパスを購入できます。アプリのダウンロードが不要であることで、利用への心理的な障壁を下げることができ、利用者の増加が見込めます。
電子チケットでキャッシュレス観光(JR東日本/東北6県)
JR東日本と東北6県により2021年4月より地域・観光型MaaSを開始しています。WEBサービスの形態を利用しており「TOHOKU MaaS」を利用することで、旅行のプランニングサービス、一関エリアにおけるオンデマンド交通の予約決済、その他東北各県における観光地の入場チケットの購入ができます。またエキトマチケットと呼ばれる電子チケットを発行し、現金を持たずにお土産の購入やレストランでの食事が楽しめる仕掛けもおこなっています。
観光型MaaSについてよくある質問まとめ
- 観光型MaaSの主なメリットは何ですか?
観光型MaaSの主なメリットは以下の通りです。
- AIのレコメンド機能による最適な観光プランの提案
- ビッグデータ分析を活用した新しい商品・サービスの開発
- 最適ルートの選択による移動ストレスの軽減
- マッピング機能によるオーバーツーリズムの解消
- 観光型MaaSが現在直面している課題は何ですか?
観光型MaaSの主な課題は以下の通りです。
- 法律による業態の制限
- 交通事業者間の情報連携不足
- キャッシュレス決済への対応の遅れ
- 地方公共交通機関の絶対数の不足
- 日本での観光型MaaSの具体的な活用事例にはどのようなものがありますか?
日本での観光型MaaSの活用事例は以下の通りです。
- 会津若松市:電子周遊券と地域観光情報の提供
- ANA/宮崎県/大分県:1次・2次交通、観光施設の検索・予約・決済の統合
- 射水市/高岡市/氷見市:まちのPRと二次交通の活用
- 愛媛県/KDDI:スマホアプリ不要のチケットレスサービス
- JR東日本/東北6県:電子チケットによるキャッシュレス観光
まとめ
観光型MaaSは、ここ数年、新型コロナウィルスの影響を受けて取り組みが一時的に停滞していました。しかし、感染リスクの低減を受けて、今後取り組みの加速が期待されている分野です。観光型MaaSの推進には、ビッグデータの分析、最適経路の選択などAIの働きが不可欠となっています。
「観光型MaaSアプリのこんなところでAI機能が使われているの?」とびっくりするようなプロジェクトが日々進められています。
AI✕MaaSで新しい事業展開やサービス導入を検討する企業がますます増えています。
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