スマートグリッドとは?次世代電力システムの特徴・AIを用いた仕組み・メリット・事例を解説!
最終更新日:2024年09月23日
次世代の電力供給システムとして注目されているのが、スマートグリッドです。AIを含むIT技術やDX化が普及したことで、国内外でスマートグリッドに取り組む企業や国が増えています。
電力需要の急増と気候変動への対応が喫緊の課題となる中、スマートグリッドが注目を集めています。情報通信技術を駆使した次世代の電力供給システムであるスマートグリッドは、
この記事では、スマートグリッドのシステムや仕組み、メリット、課題、日本国内での導入事例を解説します。スマートグリッドの理解を深める第一歩として、本記事を参考にして頂ければ幸いです。
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目次
スマートグリッドとは?
スマートグリッドとは、電力網に情報通信技術を統合した次世代の電力供給システムを指します。従来の電力網では電力を供給することが主流でしたが、スマートグリッドでは消費者と供給側の双方向が電力をリアルタイムでコントロールすることが可能です。消費者側ではスマートメーターを使用して電力使用量を可視化し電力使用を管理しやすくします。
スマートグリッドにより、使用する電力量を最適化して、エネルギーの効率的な配分が実現できるようになりました。
スマートグリッドは、持続可能な社会を目指す上で不可欠な技術です。環境負荷の低減やエネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの普及促進など、脱炭素を目指す世界的な動きにおいて重要な役割を果たします。
関連記事:「電力システムとは?課題解決のためのAIを活用したデジタル化事例徹底解説!」
スマートグリッドが必要とされる背景
スマートグリッドが必要とされ、グローバル規模での取り組みとなった要因として、電力需要の急増と電力網設備の老朽化が挙げられます。
日本を含めた多くの国では電力消費が年々増加しており、従来の電力供給システムでは需要を満たすのが難しくなっています。このため、効率的なエネルギー管理と供給が求められています。
また、電力需要の急増に電力網設備が対応できず、停電が起きた事例があります。アメリカは2003年に大規模な停電を経験したことで、送電システムの刷新や安定供給を進めスマートグリッド化に取り組むようになりました。中国は電力不足の解消、韓国はビジネス基軸の確立など目的が異なるものの、各国でスマートグリッドの導入を推進しています。
日本は従来型の電力供給の技術が整備されていて、欧米ほどスマートグリッドは普及していません。しかし、電力供給システムが比較的安定してきたせいか、日本でのスマートグリッドの普及は鈍いのが現状です。国際的にも脱炭素や気候変動への取り組みが不十分と見なされてます。
こうした背景もあり、最近では再生可能エネルギーの導入やスマートグリッドの整備を推進しているというのが、日本の現状です。
次世代型エネルギーシステムは環境へも貢献
次世代型エネルギーシステムとして、スマートグリッドは世界各国で導入が進められています。多くの国々がスマートグリッドに注目する理由の一つは、再生可能エネルギーの利用拡大です。
ヨーロッパでは風力発電や太陽光発電が急速に普及していますが、これらの再生可能エネルギーは供給が不安定です。そのため、スマートグリッドによって再生可能エネルギーの安定供給が可能になります。太陽光発電や風力発電などの分散型エネルギー源を統合し、効率的な電力供給を実現します。
スマートグリッドは次世代型エネルギーシステムとして世界規模で導入が進められており、CO2排出量の削減に貢献します。持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たすことが期待されています。
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スマートグリッドの仕組み
スマートグリッドのシステムは、発電所から家庭・企業に至るまでの電力網を制御し、効率的なエネルギー利用を実現する仕組みとなっています。
スマートグリッドの仕組みにおいて重要なのが、スマートメーターとHEMS、そしてAIです。ここでは、スマートグリッドを構成するそれぞれの技術や特徴について見ていきましょう。
スマートメーター
スマートメーターは、電力使用量をリアルタイムで測定・記録し、そのデータを電力会社や消費者に送信する機能を備える電力計量器です。
従来のメーターでは、電力会社の従業員が定期的に検針を行う必要があり、消費側が電力使用量を即座に知ることはできませんでした。しかし、スマートメーターでは30分ごとに検針することが可能で、消費側が電力をチェックできるような仕組みになっています。
電力をいつ使ったか、1週間でどれくらい使ったかなどを把握できるため、電気代の節約や効果的な設備投資など、さまざまなメリットが期待されます。スマートメーターの技術がないと、スマートグリッドは成立しません。
HEMS
スマートメーターに加え、HEMS(Home Energy Management System)という電力の供給バランスを管理するシステムも不可欠です。HEMSはスマートグリッドを構成する技術として機能し、家庭の電力コスト削減を実現します。
スマートメーターと連携することで家庭内の電力使用状況をリアルタイムで監視し、各種家電製品のエネルギー消費を最適化することが可能です。例えば、エアコンや照明、冷蔵庫などの家電製品の消費電力を監視し、電力使用がピークに達する時間帯には自動的に消費を抑えるよう調整します。
これにより、電力の消費が増えても停電を防ぎ、安定した電力供給を維持することが可能です。HEMSもスマートグリッドには欠かせない中核の技術です。
AI
スマートグリッドにおいて、AIは非常に重要な役割を果たしています。
リアルタイムエネルギー管理と最適化
AIはリアルタイムでエネルギーの供給と需要を監視し、最適化することで、電力の効率的な配分を可能にします。電力供給と需要のバランスを取るために、AIによる最適化アルゴリズムが導入されています。
これにより、エネルギーの効率的な管理が可能になります。これにより、エネルギーの無駄を削減し、供給の安定性を向上させます。
電力需要予測
ディープラーニングを活用して過去の消費データや気象情報を基に、電力需要を高精度で予測します。これにより、電力供給の最適化が可能となり、コスト削減や環境負荷の低減に寄与します。
関連記事:「ディープラーニングとは?機械学習との違いは?使い分け注意点、ビジネス活用事例徹底解説!」
スマートグリッドの4つのメリット
スマートグリッドを導入することで、以下のようなメリットが期待されています。
- 電気使用量の可視化
- 需要に応じた効率的な電力供給
- 災害時でも電力を確保できる
- 環境に優しい再生可能エネルギーの活用
スマートグリッドのメリットを知っておくと、各国が導入を推進する理由が見えてきます。それぞれのメリットについて解説します。
電気使用量の可視化
スマートグリッドによって電気使用量が可視化されることで、使用量を把握し、効率的な電力消費が可能です。
スマートメーターやHEMSによって家庭ごとの消費電力を詳細に記録し、そのデータをリアルタイムで表示します。専用のモニターやスマートフォンアプリを通じて、消費者はどの時間帯に、どの機器が、どれだけの電力を消費しているかを確認できます。
これにより、無駄な電気代を削減することが可能です。電気の消費量が可視化されることで、節電への意識が高まることが期待されています。
需要に応じた効率的な電力供給
スマートグリッドでは、需要に応じた効率的な電力供給を可能にします。消費者が必要なときに供給され、電力を必要としないときは送電量を抑えます。
例えば日中は太陽光で部屋が明るくなりますが、夜になると電気を点けます。しかし、従来の電力供給システムでは常に一定の電力が送電されるため、需要と供給がマッチしません。
こうした電力の供給量を調整するシステムとして活躍するのが、スマートグリッドです。消費者の需要に合わせて供給電力を抑制できるため、個人の使用量に適した電力を送電できます。消費者だけでなく、電力会社の送電コストも抑えられるなど、供給側にもメリットがあります。
災害時でも電力を確保できる
スマートグリッドでは情報通信技術を活用することで、災害時でも迅速に電力を確保することが可能です。スマートグリッドは電力源が複数あるため、1つの電力源が機能不全に陥っても安定した電力供給ができるのです。
太陽光発電や風力発電、蓄電池などの分散型エネルギーリソースは、中央の発電所とは独立して動作するため、災害時でも地域ごとに独立した電力供給ができます。これにより、広範囲で停電が発生しても、各地域で最低限の電力を確保できすシステムになっています。
環境に優しい再生可能エネルギーの活用
スマートグリッドは、再生可能エネルギーの活用を促進するのにも貢献します。再生可能エネルギーである太陽光や風力は、供給が天候や時間帯に依存するため不安定であるという課題があります。スマートグリッドでは、再生可能エネルギーの供給状況に応じて電力の切り換えを効率化し、従来の電力も利用できる仕組みとなっています。
風力発電で十分な再生可能エネルギーが得られない場合は、既存の供給システムから電力を送電してもらい、逆に余剰になれば蓄電することも可能です。再生可能エネルギーに依存しない点も、スマートグリッドが安定供給を実現できるメリットの1つと言えます。
スマートグリッド導入における課題
スマートグリッドの導入は各国が進めていますが、どの国でも導入コストとセキュリティという2つの課題に直面しています。分散型の電力供給システムならではの課題であり、これらをクリアしないと電力の安定供給は難しいでしょう。
それぞれの課題について解説します。
導入コスト
スマートグリッドの導入において大きな障壁となるのが、導入コストです。スマートグリッドに適したインフラ整備から正常な運用状態を維持するには、多額の資金が必要となります。スマートグリッドの電力網を国の全域に張り巡らすには、相当の費用がかかります。従来の電力網では情報通信技術を用いた供給はできないため、どうしても新たな整備が必要です。
また、分散型の電力供給システムである以上、各家庭や企業に電力源となる設備を設置しなければいけないため、それにもコストがかかります。他にも供給システムの開発やネットワークの構築など、技術的な面でも費用が必要になるでしょう。
日本の世帯数は約5000万世帯とされていて、仮にスマートメーターを全世帯に設置する場合、スマートメーターの費用だけでも「5000万×スマートメーターの金額」となります。スマートメーターは次世代の設備であるため、決して安くはありません。
このように、導入コストは簡単に用意できないほど高額になるため、スマートグリッドの実現には時間がかかります。
セキュリティ
スマートグリッドは、情報通信技術によって多くのデジタルデータがやり取りされるため、サイバー攻撃の標的となりやすい側面もあります。そのため、強固なセキュリティシステムを構築しなければいけないのも、大きな課題となっています。
セキュリティの強化を怠ると、不正アクセス・データ漏洩のリスクが高まり、個人情報が危険に晒されてしまいます。例えば供給量が第三者に見られると、家にいるかどうかを知られ、空き巣の被害に遭う可能性も考えられます。
しかし、スマートメーターや全国の電力網にセキュリティを敷くとなると、それにも時間とコストがかかるでしょう。運用コストやセキュリティ技術のアップデートも考慮すると、やはり簡単には解決できない課題と言えます。
スマートグリッドへの取り組み事例
スマートグリッドに取り組む企業は国内外に多く存在しています。ここでは、スマートグリッドの実現に取り組む日本企業を紹介します。
東京電力
東京電力は、日本の主要な電力会社として、スマートグリッドの導入と普及に積極的に取り組んでいます。
東京電力は2018年度までにスマートグリッド運用に向けた実証実験にも取り組んでいて、再生可能エネルギーを活用した電力送電を可能にするシステムを検証していました。これらの実験成果もあり、2020年にはスマートメーターの設置が完了しています。
NEC
NEC(日本電気株式会社)では、AIやIoTを駆使した情報通信技術(ICT)の研究開発に取り組んでおり、エネルギー制御システムやセキュリティ、プライバシー保護など、スマートグリッドに不可欠なソリューションを提供しています。
NECはスマートメーターやHEMSからのセンシング情報を処理し、ネットワークを強化することでスマートグリッドの実現を目指しています。経済産業省企画の「次世代エネルギー・社会システム実証地域」 横浜スマートシティプロジェクトにも参画するなど、国内外で積極的にスマートグリッド化に取り組む企業です。
トヨタ
自動車産業におけるリーダーであるトヨタでは、スマートグリッドを新規事業として実験検証や異業種との連携を行っています。トヨタが開発する「トヨタスマートセンター」は、EV車の充電と家庭内電力のバランスを最適化するトヨタ独自のシステムです。
トヨタスマートセンターを中心に、街・家・車・人のネットワークを構築し、電力需要の平準化とスマートグリッドの実現を目指しています。
低炭素・脱炭素を達成するために、トヨタはアメリカ・中国・フランスといった各国の政府や研究機関と協力して実験に取り組みます。PHVやEVが普及している現在において、スマートグリッドを目指す動きは自動車業界でも推進されています。
スマートグリッドについてよくある質問まとめ
- スマートグリッドは何故必要なのですか?
スマートグリッドの必要性が高まった要因については、電力需要の急増と電力網設備の老朽化が挙げられます。電力消費が増加し、従来の電力供給システムでは需要を満たすのが難しくなったためです。
日本は先進国でありながら再生可能エネルギーの導入も遅れていて、スマートグリッドの重要性が高まっています。
- スマートグリッドにはどんな効果がある?
スマートグリッドを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 電気使用量の可視化
- 需要に応じた効率的な電力供給
- 災害時でも電力を確保できる
- 環境に優しい再生可能エネルギーの活用
- スマートグリッドの導入が進まないのは何故ですか?
スマートグリッドを導入するには、導入コストとセキュリティの2点が課題とされています。
集中型から分散型へのシステムの変更が必要なため、費用と技術両面において課題があります。
まとめ
スマートグリッドは、電力使用の可視化、需要に応じた効率的な供給、災害時の電力確保、再生可能エネルギーの活用など、多くの利点を持つ革新的な技術です。しかし、高額な導入コストやセキュリティの課題など、実現に向けては乗り越えるべき障壁も存在します。
今後、スマートグリッドの普及には、技術革新とともに、政府の支援や企業間の連携が不可欠です。また、AIなどの先端技術の活用により、さらなる効率化や最適化が期待されます。
積極的にこの技術を理解し、導入を検討することで、持続可能な社会の実現に貢献できるでしょう。
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