ローカルLLMとは?その技術や特徴、メリット、課題、構築方法を徹底解説!
最終更新日:2024年10月10日
ChatGPTなどの生成AIの基盤となっている技術が、LLM(大規模言語モデル)です。しかし、LLMは一般的にクラウド環境での使用がメインであり、それゆえにデータ漏洩等のセキュリティリスクやインターネット接続の問題など、デメリットとなる点があることも事実です。
ChatGPTとはなにか、機能や使い方事例をこちらの記事で、LLMについてはこちらで詳しく説明していますので併せてご覧ください。
そこで、オープンソースLLMを活用して構築するローカルLLMという新しいLLMが注目されています。従来のクラウド環境に依存しないモデルは、これまでになかったLLMの活用方法を実現する可能性を秘めています。
ガートナーが2024年9月に発表した生成AIのハイプ・サイクルでも、ローカルLLMを実現するオープンソースLLMが競争優位性をもたらすテクノロジーとして挙げられています。
この記事では、ローカルLLMの概要や従来のLLMとの違い、メリット、課題、構築方法を解説します。ローカルLLMに興味があり、導入を検討している方にとって、網羅的に理解できる内容となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
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ローカルLLMとは?
ローカルLLM(Local Large Language Model)は、クラウド環境ではなく、個別のデバイスやネットワーク内、オンプレミス環境で実行されるLLM(大規模言語モデル)です。
従来のLLMは、AWSやAzureといったクラウドサーバー上での運用が一般的で、データ処理や計算能力を外部リソースに依存していました。ローカルLLMはこの考え方を変え、データ処理をローカル端末や自社専用サーバ(オンプレミス)で行います。
ローカルLLMの考え方は、エッジAIとも似ています。エッジAIとはデータ処理をデバイス自体で行う技術であり、リアルタイム性(高速処理)や扱うデータのプライバシー保護等のセキュリティ対策が求められる場面で活用されます。実際に、エッジデバイスでLLMを活用するという事例もあります。
エッジAIについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
ローカルLLMも同様に、データを外部に送信せずに端末内で処理するため、より高いセキュリティと迅速な応答が可能になります。
そのため、ローカルLLMは、特にプライバシーやセキュリティが重要視される金融や医療系の企業や組織からも注目されています。クラウド環境では、データを外部に送信する際のセキュリティリスクや、インターネット接続に依存する不安定さが課題となり得ますが、ローカルLLMではこれらの問題を解決することが可能です。
クラウド型LLMとの違い
ローカルLLMと従来のクラウド型のLLMでは、実行環境の違いが最も特徴的です。クラウド型のLLMはクラウド上で運用され、大量のデータ処理やモデルのトレーニングはリモートサーバーに依存しています。
そのため、大規模なインフラストラクチャやインターネット接続が必須であり、モデルを利用する際には必然的に外部とデータを送受信する必要がありました。
一方、ローカルLLMはユーザーの手元のデバイスや社内のサーバー上で実行されます。これにより、データ処理やモデルのトレーニングをインターネットを介さずに行うことが可能で、データのセキュリティ基準が向上します。特に、機密情報を扱う企業やネットワーク接続が不安定な環境では、ローカルに対応できる点が大きなメリットとなります。
また、クラウド型のLLMはクラウド環境においてあるサーバへのリクエストとレスポンスの往復に時間がかかるため、超高速な処理が求められるタスクには適さない場合があります。しかし、ローカル環境で動作するローカルLLMは、データの送受信に時間がかかりません。そのため、即時に処理を行うことが可能で、リアルタイムな応答にも対応します。
このように、ローカルLLMはクラウド型のLLMが抱えていた課題を克服し、特定のニーズに応じた柔軟な運用が可能となっています。
ローカルLLMとRAG
ローカルLLMの効果的な運用には、RAG(Retrieval-Augmented Generation)の技術が重要な役割を果たします。
RAGとは、最新の自然言語処理(NLP)技術の1つであり、検索ベースと生成ベースのAIを組み合わせたものです。従来のLLMでは必要な情報がモデルに直接組み込まれていない場合、適切な回答を生成することが難しい場合があります。
その場合、利用しているLLM自体をファインチューニングして独自の学習を行うか、RAGを活用する必要があります。RAGは外部の情報源から必要なデータを参照し、それをLLMが回答生成に活用する技術です。
RAGを使えば、モデルの再学習が不要で、新しい情報を迅速に取り入れることができるため、特定の分野や最新情報への対応が容易となります。新しい情報を頻繁に更新する(LLMによる回答内容を常に新しい情報にする)必要がある場合や、特定ドメイン知識を柔軟に組み込みたい場合に適しています。
RAGについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
ローカルLLMとファインチューニング
ファインチューニングは既存のAIモデルに新しいデータを追加してトレーニングさせ、特定のタスクに最適化するプロセスです。特定の業界や企業のニーズに対応するために、より専門的なデータを使用して再トレーニングして、適切な回答を可能とします。
ファインチューニングを通じて、ローカルLLMは特定のタスクに対して精度の高い応答を生成できるようになり、その分野に特化した知識を持つようになります。特定領域で非常に高い精度が求められる場合や推論速度が重要な場合に適しています。
ローカルLLMとRAGを組み合わせることにより、インターネット接続なしでシステムを稼働させつつ、特定のニーズに合わせて最適な回答を行えるようにできます。
ファインチューニングについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
RAGとファインチューニングを組み合わせることで、ローカルLLMは特定のタスクに特化したモデルに最適化され、かつ学習データ以外の最新情報に対応することも可能です。これらの技術はローカルLLMの運用に不可欠であり、特定の環境やニーズに適したモデルを構築するのに必要とされています。
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ローカルLLMの5つのメリット
ローカルLLMのメリットには、柔軟なカスタマイズ性やリアルタイムなデータ処理、情報漏洩のリスク軽減といったものが挙げられます。
インターネット接続が不要
ローカルLLMのメリットの一つは、インターネット接続が不要なオフライン環境でも利用できる点です。ローカルLLMはデータ処理やAIモデルの実行をローカルデバイスや社内サーバで完結させることが可能で、インターネットに依存しません。
これにより、ネットワーク接続が不安定な場所や、インターネット接続がセキュリティ上の理由で制限されている環境でも、途切れることなく高性能な言語処理が可能となります。特に、遠隔地や災害対応などの特殊な状況においても、ローカルLLMは信頼性の高いツールとして機能することが期待されています。
社内向けのモデルにカスタマイズできる
ローカルLLMはクラウドと切り離して使用できるため、会社独自のモデルにセキュアにカスタマイズすることも可能です。社内データを使用してファインチューニングすることで、業界特有の用語や業務プロセスに最適化したモデルを構築できます。
社内向けのモデルを運用することによって、社員のサポート業務や社内ドキュメントの処理など、特定の業務においても効率化が期待できます。カスタマイズされたローカルLLMは、社内の規定やセキュリティポリシーに準拠しつつ、より精密なパフォーマンスを提供してくれるでしょう。
リアルタイムでの処理が可能
ローカルLLMはデータをデバイス内で直接処理するため、即時の応答が求められる場面でも迅速に対応できます。チャットボットや音声認識システムなど、リアルタイムのやり取りが重要なアプリケーションにおいて、スムーズで効率的な運用が可能です。
リアルタイムでの処理能力は、ユーザーエクスペリエンスを向上させるだけでなく、業務効率の改善にも貢献します。
情報漏洩のリスクが軽減
ローカルLLMはインターネットとの接続が不要になるため、情報漏洩のリスクが大幅に軽減されます。クラウドベースのLLMでは、データが外部サーバーに送信される過程でセキュリティの脆弱性が生じる可能性があり、機密情報が第三者に漏れるリスクが存在します。
しかし、ローカルLLMはデバイスや社内サーバー内でデータを処理するため、外部にデータを送信する必要がなく、情報が流出するリスクを最小限に抑えることが可能です。医療など厳格なデータ保護が求められる業界や、個人情報を取り扱う企業にとって、ローカルLLMはセキュリティ対策として有効です。
もちろんこの場合、ローカルデバイスや自社サーバの物理的なセキュリティ対策は必須です。
コスト効率がよい
クラウドベースのLLMは、一般的に利用量(トークン数)に応じた従量課金制を採用していることが多いため、利用方法次第では高額な料金が発生することがあります。一方、ローカルLLMは初期投資後の追加コストが比較的少なくなります。
利用頻度が高いほど、ローカルLLMのコスト効率は向上します。例えば、1日に1,000回のクエリを処理する場合、クラウドサービスでは1クエリあたり0.1ドルかかるとすると、月間で約30,000ドルのコストがかかります。一方、ローカルLLMでは初期投資後の追加コストが少ないため、利用頻度が増えるほどコスト効率が良くなります。
また、多くの企業では、既存のサーバーやGPUを活用してローカルLLMを導入することができます。既存のインフラを活用することで、需要に応じて柔軟にスケールアップやダウンが可能になります。これにより、過剰な投資を避けつつ、必要に応じて処理能力を拡張できます。
ローカルLLMの導入には初期費用はかかりますが、長期的にはコストを抑えられる可能性があります。
ローカルLLMの導入における2つの課題
ローカルLLMにはさまざまなメリットがある一方で、インターネットから切り離されるため、運用やモデルの更新にはコストや手間がかかります。これらの課題は、ローカルLLMを導入する上で検討しなければいけません。
高性能なGPUやハードウェアにかかる費用
ローカル環境でLLMを運用するには、大量のデータを迅速に処理できる計算能力を備えたGPUやハードウェアが必要です。モデルファイルやトレーニングデータの保存には大容量のストレージも必要です。しかし、高性能を誇るGPUやハードウェアは基本的に高価であり、初期投資としては高額な費用が必要となるでしょう。
また、ハードウェアの維持やアップグレードにもコストがかかるため、長期的な運用を見据えたコスト管理が重要になります。これらの費用負担を考慮しないと、ローカルLLMを運用するための十分な環境を確保できません。
専門人材の必要性
クラウドベースのLLMでは、AIモデルを提供する会社が定期的にモデルをアップデートし、新しいデータや技術的な改良を取り入れる仕組みとなっています。また、ユーザー側はボタン一つで利用するモデルを変更可能です。
しかし、ローカルLLMではモデルの選択、ファインチューニング・RAG、パフォーマンス最適化に機械学習の専門知識が必要です。さらに、ハードウェアの選定や設定、ソフトウェアの最適化には、ITインフラの専門知識も求められます。
そして、更新作業やカスタマイズも自社で行う必要があります。モデルを最新の状態に保つためには、常に最新モデルの情報を収集し、新しいモデルへのバージョンアップ開発を行うなど、専門的な知識やリソースが求められます。モデルの更新作業が不十分だと性能が低下し、精度や応答の質が劣化するリスクがあります。
このように、LLMモデルの定期的な更新とカスタマイズは、ローカルLLMを運用する上での継続的な課題となります。
ローカルLLMの構築方法
ローカルLLMを導入するには、以下のような手順で構築するのが一般的です。
- ローカルLLMのベースとなるオープンソースLLMを選ぶ
- オープンソースLLMに学習させるデータを準備する
- 準備したデータでLLMをトレーニングする
- ローカルLLMを評価し、改善を加える
それぞれの手順について解説します。
目的と要件の定義
どのようなビジネス課題を解決したいのかを明確にします。
- 利用目的の明確化
- 必要なパフォーマンスレベルの決定
- セキュリティ要件の特定
- 予算と人的リソースの確認
- 必要なデータやリソース
ローカルLLMのベースとなるオープンソースLLMを選ぶ
まずは、ベースとなるオープンソースのLLMを選定します。オープンソースLLMは土台の役割を果たし、ローカルLLMの性能に大きく影響します。
市場にはさまざまなオープンソースのLLMが存在し、それぞれ異なる特性や利点を持っています。
LLMで有名なOpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeはオープンソースLLMではありません。
オープンソースLLM | 特徴 |
---|---|
Llama 3 |
|
Mistral 7B、Mixtral 8x7B |
|
BLOOM |
|
GPT-NeoX-20B |
|
Llama-3-ELYZA-JP-8B-AWQ |
|
Japanese Stable LM Beta (JSLM Beta)シリーズ |
|
関連記事:「オープンソースLLMを徹底比較!特徴・活用メリット・代表モデルの比較ポイントも解説」
選定にあたっては、以下の項目を参考に選ぶのがおすすめです。
- プロジェクトの目的
- 要求される性能
- サポートされている言語
- トレーニングデータの種類
例えば高精度な自然言語処理が求められる場合には、強力な言語理解能力を持つモデルを選ぶ必要があります。オープンソースのLLMモデルは自由にカスタマイズすることも可能で、自社のニーズに合わせたモデルを構築する基盤となります。そのため、オープンソースLLMの選定は慎重に行うようにしましょう。
インフラストラクチャの準備
高性能なGPUサーバーなど、必要な計算リソースを準備します。そして、LLMの開発や運用に必要なソフトウェアをインストールし、環境を整えます。
関連記事:「GPUとは?なぜ世界的に品薄?重要性・AIとの関係を徹底解説!」
LLMに学習させるデータを準備する
ローカルLLMの性能を最大限に引き出すためには、適切なデータを準備し、モデルに学習させることが不可欠です。オープンソースLLMを選んだら、特定の業務や目的に合わせたモデルに必要なデータを用意しましょう。
学習させるデータとしては、モデルが特定のタスクに対して正確に応答できるようになるために必要な情報が含まれているのがよいでしょう。社内データとしては以下が使えると考えられます。
- 過去のドキュメント
- チャットログ
- FAQ
- 社内のマニュアル
- 製品・サービス資料
さらに、収集したデータはクレンジングを行い、ノイズや偏りを排除することで、モデルの精度を高めることが可能です。そして、アノテーション(データにラベル付け)を行い、モデルが理解しやすい形式にします。
これにより、オープンソースLLMが自社の特定のニーズに特化した高度な言語処理能力を獲得できるようになります。
準備したデータでLLMをトレーニングする
データの準備が整ったら、LLMをトレーニングする段階に入ります。このプロセスでは、準備したデータを使い、RAGやファインチューニングの技術を活用してモデルに新たな知識を学習させます。
このトレーニングでは、実際にローカルLLMを運用するためのハードウェア環境も必要です。LLMがローカルで利用できる環境も準備し、適切なトレーニングができるようにしましょう。
ローカルLLMを評価し、改善を加える
ローカルLLMのトレーニングが完了したら、モデルの評価と改善を行います。評価指標を設定した上で、トレーニングされたモデルが実際のタスクにどれだけ適しているかを評価します。
また、実際の業務シナリオでテストを行い、モデルの実用性や応答の質を確認します。モデルの応答が特定のケースで誤差があったり、期待に達していない場合は、追加のデータを使用した再トレーニングやパラメータの調整が必要です。
この評価と改善のサイクルを繰り返すことで、ローカルLLMは精度と信頼性が向上し、実運用に適した高品質なモデルを構築できます。応答精度や速度が十分と判断したら、ローカルLLMを実際に運用する段階に入ります。
関連記事:「LLMを評価するLLM-as-a-Judgeとは?概要・メリット・活用シーン・注意点を徹底紹介!」
ローカルLLMについてよくある質問まとめ
- ローカルLLMはLLMとどんな違いがある?
従来のLLMはクラウド環境で運用しますが、ローカルLLMはエッジデバイスや社内のサーバーといったローカル環境で運用することが可能です。
そのため、計算処理の即時性や情報漏洩の危険性で違いがあります。
- ローカルLLMで何ができるようになる?
オフライン環境でLLMが利用できるようになることで、クラウドベースのLLMと比較して以下のようなことが可能です。
- リアルタイム(高速)での応答が可能
- セキュリティリスクを低減できる
- ローカルLLMはどうやって構築する?
ローカルLLMの構築方法は、以下の手順が一般的です。
- ローカルLLMのベースとなるオープンソースLLMを選ぶ
- オープンソースLLMに学習させるデータを準備する
- 準備したデータでLLMをトレーニングする
- ローカルLLMを評価し、改善を加える
まとめ
ローカルLLMはインターネットに依存しないLLMで、オンプレミス環境やエッジデバイスでの運用を可能にする技術です。利用環境が変わることで、従来のLLMにはなかったメリットを得ることができます。
情報漏洩のリスク低減や自社向けにカスタマイズ可能など、ローカルLLMはより安全で使いやすいモデルとして活躍するでしょう。コストや更新の手間など考慮するべき課題はあるものの、ローカル環境でのLLMの運用を可能にする技術として、ぜひ押さえておきましょう。
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