建設・建築業界のAI活用事例7選!最新の開発状況と用途について解説【2024年最新版】
最終更新日:2024年11月14日
建設業は建築計画の立案から建築現場での施工、建設完了後のメンテナンスなど、いくつもの段階にわたって様々な業種の企業が参加して構成される複合的な産業です。それぞれのステップでAIの機能を使った新しい課題解決の手法が開発、導入されてきています。
今回の記事では建設業におけるAIの活用と導入について、最新の開発状況と具体的な用途について説明します。
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目次
建設業とAI
建設業はAIの登場以前から様々なハードウェア、ソフトウェアの導入が進められてきた産業でした。扱う対象としての建築物がそれ自体非常に大きいことから、様々な用途に対応した特殊な器具や多様な建築機材が導入され現場の生産性を高めてきたのです。
また、計画・設計業務やデベロッパーの業務においても、多様な条件を考慮したプランニングはCADや環境設計などのソフトウェアなしでは考えられません。
建築物は一品一葉の個別生産で、いわば一つ一つ手作りで作り上げられるものです。このため、従来の大量生産をターゲットとした産業エンジニアリングとは相容れないプロセスの連続で構成されていました。ソフト化や機械化が進められていながら、その役割は個々の作業のためのツールに留まっていたのです。
日本における建設業の将来像とAI
建設業は多くの企業が関与する業界で、中小企業も多く活動していることから国の経済にとっても重要な産業です。日本国内の建設業は1990年代前半にピークを迎えたあと停滞していましたが、2010年代になって再び活況を呈しています。
国土交通省では「建設産業の現状と課題」という報告書をまとめて同産業を取り巻く状況を整理した上で、「i-Construction~建設現場の生産性革命」という提言により産業の生産性を高め、建設業を魅力ある産業とするための取り組みを行っています。
このなかで同省は日本が保有するICTの優位を元に、建設業における生産性向上を実現するアイデアを紹介。製造業における業務管理の手法やサプライチェーンマネジメントのノウハウを取り入れて、建設業の持つ課題を前向きに解決するための視点を明らかにしています。このための建築現場へのAIの導入による高い生産性の実現が様々な形で推し進められているのです。
建設関連業種におけるAIの活用
建築物の建設にあたっては、建築家(設計)、建設会社、施設管理、建築資材のメーカー及び配送業者といった様々な特殊作業に従事する企業が一体となって活動しなければなりません。設計業務におけるデザインの構築や建築計画の立案、施設管理における長期メンテナンス計画は、AIの学習機能を生かしたモデリングが得意とするところです。
また、建設で欠かせない図面を画像認識AIで読み取り、高度なデータ管理、設計支援を行うためにもAIが活躍しています。建築現場での作業や進捗管理にはカメラを通した画像処理の技術が役に立ちます。
また、建築資材の搬入計画や施工管理などの時系列管理では、多くの作業員や機材の複雑な作業計画が必要です。AIによるシミュレーションや機材の稼働を自動化する仕組みは、現場管理をサポートできるでしょう。
建築・建設業で画像生成などの生成AIがどのように活用されているかをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
建設業界の抱える課題
建設業は歴史的に一品ごとの受注生産をその特長としており、効率向上が難しい産業とされてきました。屋外作業がメインで労働集約型な業務が多いため、機械化を推し進めるには技術的なブレイクスルーが求められていたのです。ここで建設業の主要な課題をまとめておきましょう。
建設業の生産性向上
建設業界はバブル期に過剰な規模の投資をした後、就労者は20年にわたって減少を続けました。建設業の就労者が減少する一方、それを上回る速度で建設投資は減少したため、建築現場の生産性を向上させるドライブは弱いままで省力化等の投資は見送られてきた経緯があります。
建設業における安全性向上
建設現場自体が多数の人が同時並行して作業を行う場所であり、危険物が搬送・使用される状況が常態です。建機と人の共同作業や取扱資格が必要な危険物作業、高所作業など事故等の危険は避けがたい環境と言えます。
また、インフラ土木等の建設においては施設の更新やメンテナンスは経済の強度を保証するための基盤であり、的確な保全計画と管理が必須です。近年では自然災害の激甚化に対処するため、防災対策や整備の強靭化が求められています。
人員確保と労務管理
建設業は長い間、労働力過剰の状況が続いていましたが、近年では人口減少と高齢化の影響を受けて、若年人口の減少と高齢者比率の上昇が全産業平均を上回るペースで進んでいます。二十代の建設業従事者は10%程度、一方55歳以上が約35%を占め、今後数年間で技能労働者の多くが離職する見込みです。
建設業の労働力不足は日本だけではなく世界的な現象で、各国で対策が進められています。建築物や土木工事の標準化や建築作業の機械化の他、AIによる建機の自動運転やロボット、ドローンの導入などが積極的に進められている分野です。
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建設業におけるAI導入事例
実際にAIが建設業に活用されている事例について、用途別にみてみましょう。
自己生成型建築設計支援
建築物のデザイン、建築計画の策定はプロジェクトの根幹を決定する極めて重要なプロセスです。このプロセスにおいてAIは過去の建築事例をデータベースとして該当事例を条件付けし、要求される条件に合致するデザインを生成。設計士は建築物の要求と望ましい着地点をパラメータとして設定するだけでAIのデザイン生成ソフトウェアが無数の組み合わせの中から最適解を導きます。
開発事例として知られているのが、AIを活用した構造設計支援システム「部材グルーピングシステム」です。安藤ハザマ、株式会社リバネス、株式会社ヒューマノーム研究所など、複数の企業により開発されました。AIシステムの概要としては、最適な構造計算が可能な環境を構築することです。
限られた期限・時間内で最適な構造計算を実現し、従業員の作業効率化を図ることを目指しています。「部材グルーピングシステム」を使用すれば、誰もが熟練した構造設計者と同等の提案が可能。設計資料作成も従来より短縮されたとしっかり効果として残っています。
配管の腐食点検自動化
多くのプラント施設では配管の腐食や損傷などの異常を検出する業務がありますが、これらの点検作業は作業員が目視で行っており、多くの作業時間がかかる上に精度の面でも限界がありました。しかし、この配管点検業務においてもAIが役立っています。
本領域での導入実績を豊富に持つギリア株式会社が開発したAI検出システムでは、錆こぶや板金の欠損、保温材の露出など、配管に関するさまざまな異常を自動でチェックし、高い精度で検出することを可能にしています。
この技術では、劣化の程度や緊急性を判断する際に作業員の主観に依存することのない、統一された基準による自動化を実現することが可能になります。これにより、判断のばらつきがなくなるという大きなメリットももたらします。特に、配管や構造物の維持管理においては、早期発見と迅速な対応が重要であり、本検出システムは維持管理作業の質と速度を大幅に向上させます。
本システムはドローンへの応用も視野に入れており、それにより高所や広範囲の点検も容易になり、大幅な生産性の向上が期待できます。
プロジェクトプランニング
アメリカでは環境保護地区の近隣に建設プロジェクトを計画するにあたって、周囲の水系、森林への影響を考慮し、同地に住むビーバーたちの生活への影響を最小限にする「ビーバーマネジメントシステム」をAIがサポート。実測データもなく精密な環境アセスメントが難しい中、地図と空撮画像から水量の季節変化をAIが予測しました。
森と川とビーバーの相互関係から増水の予兆を読み取り、水位をコントロールするサービスを開発しています。
物流マネジメントと資材保管管理
建築現場の資材管理にもAIが活躍しています。株式会社アラヤでは、資材置き場のストックの量をAIがカメラを通した画像認識処理でカウントするソリューションを開発。
これまで自動化が困難な資材のカウントなどは、人の目で実際に行われており業界の課題でした。アラヤのAI画像認識技術を用いれば、必要な数量を算出して搬入計画に反映、作業スペースの位置や現場全体の物流を考慮してトラックの移動スケジュールも的確に指示できます。
また、従業員の動きをデータで蓄積することでオペレーションの改善にも役立ちます。AIを活用した画像認識の開発を検討している方は、「画像認識・画像解析のAI開発に強いプロ厳選の開発会社の記事」をご参考ください。
自律作業型ロボット
人が操縦して作業する建機を無人化した自動操縦ロボットはすでに多くのメーカーの建機が建設現場で活躍しています。AI搭載建機として重機、掘削機、ブルドーザーなどが挙げられ、それぞれの特定業務で人の作業を代替。建築現場における作業は室内環境の製造ロボットなどに比べて環境条件の変化や予想外の状況が発生することが考えられるため、よりフレキシブルな自律性が求められます。
代表的な例が、鹿島建設によるAIロボットの活用です。導入後、人間では不可能であった上向溶接を可能とし、溶接の品質と性能の向上に成功しています。
ドローンによる現場監視
建設現場を上空から監視し、現場の安全や資材窃取などを防ぐAI搭載ドローンがセキュリティロボットとして役立っています。現場の状況を高精細画像で読み取り、リアルタイムで地上のモニターや監視員のタブレットにビデオ画像を送信。作業状況を継続してモニターできるため、現場の進捗管理や人員配置に活用することで生産性向上に寄与できます。
計画・設計段階ではドローンによる空中からの現場測量や地形のスキャニングが行われ、現場着工以前の作業を短縮すると同時に効果的なプランニングをサポートしています。
AI(人工知能)を搭載したドローン活用例!できることや今後の課題とは?の記事では、建設業に限らず、さまざまな業界のドローン事例を紹介しています。開発・導入に役立てたい方はぜひご覧ください。
建築及びインフラのメンテナンス
AIが管理した現場ではその構造体の状況をセンサーやドローンで感知したり、カメラ画像の認識・分析により劣化状況を検知することで予備保全が可能。AIは建築の経時劣化を信仰段階で察知できるため、効果的な補修計画を立てることができるのです。
これは建築物の設計から竣工後のメンテナンスまで、一貫したファシリティマネジメントが可能であることを意味します。補修するべきか、それともリノベーションが好ましいか。AIを活用した建築物のライフサイクルマネジメントが将来の建設業界を貫く意思決定支援システムとなるでしょう。
代表的な事例として挙げられるのが、竹中工務店が開発した「スマートタイルセイバー(R)」です。ドローンにより取得した赤外線データから自動で適正判定を行い、外壁の劣化や評価などを行います。超高層建物の外壁調査に役立つシステム開発として、インフラ整備などにも役立てられています。
AIによる画像認識を活用したコンクリート構造物のひび割れ検知について、仕組みと導入事例をこちらの記事で特集しています。
建造物の設計・施工・維持管理をデジタルツイン化
鹿島建設株式会社では、建物の企画・設計・施工・竣工後の維持管理・運営の全てデジタルツイン化を実現しました。デジタルツインとは、現実世界をリアルタイムでシミュレーションする技術です。デジタルツインを導入することにより、工事プロセスや進捗管理がデータ上で完結し、業務の効率が改善しています。
デジタルツインとは?、メタバースとの違いや導入メリットについてはこちらの記事で特集しています。
進捗状況はAR・VRを使用して遠隔地でもリアルタイムに確認できます。完成後のビル風による周辺環境への影響調査や、詳細なモジュールプランニングも高い精度で実施できるため、業務の効率化だけでなく、顧客満足度へも寄与できる結果になりました。
建設業においてこれからますます拡がるAI関連技術
AIは学習機能を持ったコンピューターと言えますので、AIが導入される環境によってその効果は高くも低くもなります。ここではAIの導入にあたって、導入後の効果を高めるための関連技術について確認しておきましょう。
【BIM】
BIM(Building Information Modeling)は調査・設計レベルから建設施工、管理までの全工程にわたって、建築物に関する情報を一元管理するための3次元モデリングシステム。図面上にあらわされた企画・設計を立体化してイメージすることで現場工程に対する理解を深め、効率的な施工管理を進めます。
建築物のみでなく、内装や家具などの設計情報も共有できるソフトウェアシステムです。
【CIM】
CIM(Construction Information Modeling)は土木建築用の情報システムで、道路や電力、ガスなどのインフラ設計を対象としています。空撮した画像をもとに測量や地形のデータを読み取り、構築物の設計・施工に役立てていく土木型BIMです。
【IoT】
IoTが建設業に導入されることですべての資材や設備、ソフトウェアやセンサーが接続され、現場の安全性と効率を高めることができます。設備の予備保全や管理コストの低減、現場でのリアルタイムモニターによる資材の効率利用や機械・人員の稼働状況確認など、建設現場の管理手法のリモート化を推進するための主要技術です。
【ロボット、ドローン】
建築に関わる作業は多岐にわたるため、定型作業をメインとするロボット化は難しいと言われてきました。現在では建機の自動運転、軽量物のハンドリングツールの拡充及びロボットのプログラミング自由度の拡大を背景に、現場作業ロボットが次々と実用化されています。人では難しい作業条件での施工や危険性の高い作業を中心に、今後もロボットやドローンの導入が進められるでしょう。
ロボット・ドローンによるインフラの点検・検査のAIシステムに強い開発会社はこちらの記事で紹介しています。
建設・建築業界のAI活用についてよくある質問まとめ
- 建設・建築業界でAIを活用する主な目的は何ですか?
建設・建築業界でAIを活用する主な目的は以下の通りです。
- 生産性の向上
- 安全性の向上
- 労働力不足への対応
- 設計・施工プロセスの効率化
- メンテナンス作業の最適化
- コスト削減
- 建設・建築業界におけるAI活用の具体的な事例にはどのようなものがありますか?
建設・建築業界におけるAI活用の具体的な事例には以下のようなものがあります。
- 自己生成型建築設計支援システム(例:部材グルーピングシステム)
- 配管の腐食点検自動化(例:ギリア株式会社のAI検出システム)
- プロジェクトプランニング(例:ビーバーマネジメントシステム)
- 物流マネジメントと資材保管管理(例:アラヤの画像認識技術)
- 自律作業型ロボット(例:鹿島建設のAIロボット)
- ドローンによる現場監視と測量
- 建築物のメンテナンス(例:竹中工務店のスマートタイルセイバー)
- デジタルツインによる建造物の設計・施工・維持管理(例:鹿島建設の事例)
- 建設・建築業界でAIを効果的に活用するために重要な周辺技術には何がありますか?
建設・建築業界でAIを効果的に活用するために重要な周辺技術には以下のようなものがあります。
- BIM (Building Information Modeling)
- CIM (Construction Information Modeling)
- IoT (Internet of Things)
- ロボット技術
- ドローン技術
- VR/AR技術
- 3Dモデリング技術
- センサー技術
- クラウドコンピューティング
- 5G通信技術
建設業へのAI導入は開発会社へ
今回は建設業におけるAI導入の状況とその事例について説明しました。
建設業界では、これまでの建設業のイメージを払拭し、魅力的な業界として生まれ変わるために産業レベルでのリエンジニアリングが進行中です。AIによる安全性、生産性の向上は最重要のアプローチとして広い分野でその導入が検討され、開発が進められています。建設業の作業及びプロセスのAI化においては、現場及び用途ごとの特性と求められる機能についての十分な理解が必要です。開発にあたってはAIについて十分な経験と知識を持った担当者が関与しなければなりません。
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