なぜ金融業界はAI導入に待ったなしなのか?銀行・保険会社・証券の導入事例まとめ
最終更新日:2025年10月17日

フィンテックと呼ばれる、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた金融業界の革新が進むなか、AI(人工知能)の発展によってその動きはさらに加速されています。
AIの活用は、銀行などの金融業界にとって、大きなコスト削減の機会となるだけではありません。顧客にとってもより良いカスタマーサービスを受けられる可能性につながります。
この記事は、金融業界で今、AIがどのように活用されているかの事例や、AIによって金融業界が今後どのように変化していくかについて解説するためのものです。ここでは、実際に現在の金融業界に導入されているAIサービスの事例をご紹介します。
なお、他業界のAI開発事例について知りたい方は業界別にAI開発事例を紹介!機能上の分類もわかりやすく解説をご覧ください。
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目次
金融業界でAI導入が速まっている理由
金融業界は、現在、いくつかの問題を抱えています。まずはそれらの問題をまとめてみましょう。
顧客離れ
銀行と顧客の付き合い方は昨今、大きな変化を迎えています。野村総合研究所が発表した「日本の金融ビジネス」によると、銀行店舗の利用率は約半数に減少したとのこと。その一方で、ATMを月1回以上利用している人の割合が前回調査(2015年度)から51%アップ、スマートフォン向けバンキングの利用が9%アップするなど、利用者側がより効率的に銀行を利用したいと考えていると思われます。
過去の膨大なデータの処理
銀行のシステムは昔から使っているものが多く、そのことがDX(デジタルトランスフォーメーション)において足かせになっていると経済産業省が発表しています。銀行がさらに生産性を向上するには、ITを活用した新たなシステムにより、過去の膨大なデータを効率的に処理していくことが重要です。
こちらで金融業界でのデータ分析の重要性を詳しく説明しています。
金利の低下
近年は、世界的な金融緩和によって、金利が低い状態が常態化。日本銀行にいたっては、2016年1月からマイナス金利政策を導入し、銀行は現金を持っているほど損をするという事態に陥っています。
このため、金利で儲けるというかつての銀行のやり方が通用せず、ほかの儲けかたを模索したり、生産性を向上するしかなくなっているのです。
金融業界にAIを導入するメリットは?

金融業界にAIサービスを導入すると、どんなメリットがあるのでしょうか。
関連記事:「金融業界でAIエージェントは使える?機能・主要サービス・企業活用事例・注意点を徹底紹介!」
データ処理の効率化
AIサービスの導入により、これまで人手で時間をかけて行ってきた業務を自動化することができます。これにより、金融業界の企業が支払ってきた年間コストを大きく削減することが可能です。このことは、同時に、消費者が支払う手数料などの低減にもつなげることができるでしょう。
効率化は、AIエージェントによって次の段階へと進化します。単一の定型作業を自動化するだけでなく、AIエージェントは複数のシステムを横断する一連の業務プロセスを自律的に実行します。
例えば、「月次レポートを作成して関係部署に送付する」という目標を与えられたAIエージェントは、以下のような複数のステップからなるタスクを、人間の介入なしに完遂します。
- 各データベースから必要なデータを自動で収集
- 定められたフォーマットでレポートを生成
- 完成したレポートをメーラーを介して関係者リストへ自動的に送付
これにより、個々のデータ処理だけでなく、業務フロー全体が効率化されます。
審査の最適化
企業向けの融資や、カードローンや住宅ローンの審査も人手と時間がかかる業務です。AIサービスにより、審査業務の一部を置き換えられれば、時間のかかる部分はAIに任せ、人間が最後に重要な判定だけ行うといった効率化が可能になります。
AIエージェントは、審査プロセスの大部分を自律的に進行させるオーケストレーター(指揮者)の役割を担います。
具体的には、顧客からのローン申請を受け付けたAIエージェントが以下のような一連のワークフローを自律的に実行します。
- OCRツールを呼び出して提出書類をデジタル化
- 社内データベースとAPI連携して顧客の過去の取引履歴を照会
- 外部の信用情報機関のAPIを叩いて信用スコアを取得
- 収集した全ての情報を統合・分析して、審査レポートのドラフトと一次的な評価を生成
- 最終承認者である人間の担当者へレビュー依頼を自動で送る
これにより、人間は断片的な作業から解放され、最も重要な「最終判断」に集中できるようになります。
異常検知による不正行為の予防
クレジットカードやキャッシュカードの不正利用、保険金の不正請求、不正取引、振込詐欺といった不正行為は、金融業界の頭痛の種です。AIサービスによって「疑わしい行動」を検知することで、人間では見つけられなかったような不正が早期に発見できる可能性があります。
AIによる異常検知は、従来の人間による監視では見逃されがちな微細な異常パターンを識別することができます。
さらに、従来のAIが「検知とアラート」に留まっていたのに対し、AIエージェントは検知後の初期対応(インシデントレスポンス)までを自律的に実行します。
横浜銀行が導入したNECのサービスのように、AIが調査対象口座を絞り込むだけでなく、AIエージェントはさらに踏み込みます。不正の疑いがある取引を検知すると、以下の一連の初動対応を自律的に完結させます。
- リスクレベルに応じて口座やカードを一時的にロック
- SMSやメールで顧客本人に自動で確認通知
- 関連する取引ログや顧客情報を収集・整理
- 人間の不正調査担当者向けにインシデントレポートを自動作成
これにより、被害の拡大を即座に防ぐと同時に、人間の担当者はより詳細な調査と根本原因の分析に専念できるようになります。
需要の予測
AIが得意とする分野に、過去のデータから未来を予測する、予測分析という分野があります。これを利用することで、顧客が必要とするサービスの種類やその量を事前に予測でき、効率的にプロモーションを打ち出したり、人員配置を行ったりできるでしょう。
雇用の効率化
これまでにも述べてきたとおり、これまで多くの人手を使って時間をかけて行ってきた業務を、AIサービスにより短時間で終わらせることができる可能性があります。これにより、AIサービスにできる業務はAIサービスに任せ、人間にしかできない業務に人的リソースを集中することが可能です。
顧客満足度の向上
AIサービスは対顧客向けサービスにも応用可能です。例えば、顧客からの問い合わせに対して自動的に回答する、AIを利用したチャットボットがあります。金融機関への顧客からの問い合わせは、実はパターン化されており、AIよって大部分が解決可能です。実際、アメリカのある金融機関では、チャットボットを導入したことで、1人の顧客が抱える問題を解決する時間が、従来の47分から4分へと91%も短縮させられました。
新しい働き方の提供
金融業界に働く人の業務には、あまり創造性のない単純作業も多く含まれていました。そのような作業をAIサービスに代替させることで、人間には創造性の高い業務を多く任せることができ、働き甲斐を高めることが可能となるでしょう。
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金融業界でのAI導入事例①銀行
まずは金融業の代表ともいえる、銀行への導入事例です。
AIを活用した稟議書検索システム(京都銀行)
京都銀行では、AIを活用した稟議書検索システムの試行を開始しています。これは、今までは経験に頼っておこなっていた、過去の稟議書等のなかから類似性の高い事例を抽出するものです。短時間かつ高確率で検索できるため、経験の少ない人でも短時間で稟議書の作成が可能となります。さらに、作成文書の自動チェックや、文書作成時の予測入力も行えるとのことです。
AIを活用した顔認証(セブン銀行)
セブン銀行では、世界No.1の精度をほこる顔認証技術を搭載した次世代ATMを開発し、順次導入しています。口座開設や住所変更時に必要となる本人確認を、対面ではなく、AIを活用した顔認証を使ってATMで行えるようになります。
また、ATMごとの現金の需要の予測もAIで行っているとのことです。
AIによる校閲・校正支援(みずほ銀行)
みずほ銀行では、凸版印刷が開発したAIによる校閲・校正支援システムの実証実験を行っています。広告制作物においてこのシステムを活用することにより、作業者の負荷削減やヒューマンエラーの減少などの業務効率化が確認されたとのことです。
ほかにも銀行業界の事例や導入について詳しく知りたい方は、銀行業でのAI活用のメリットや活用方法、海外事例までの記事をご参考ください。
金融業界でのAI導入事例②保険
銀行だけでなく、保険会社にもAIサービス導入の動きがあります。その事例をご紹介しましょう。
チャットボット自動応答による保険診断(ライフネット生命保険)
ライフネット生命保険では、LINEおよびFacebook Messengerでのチャットボット自動応答による保険診断・見積もりを可能としています。チャットボットによって保険診断・見積もりが可能なため、対面での相談が難しい方や、電話をかけるのに躊躇してしまう方でも気軽に利用することができるでしょう。
ドローンの画像をAIで解析して保険金額を算定(東京海上日動)
東京海上日動火災保険が導入したのは、ドローンで撮影した画像をAIが解析して保険金額の算定を行うサービスです。これまでは、自然災害によって住宅や工場、倉庫で被害が発生すると、保険会社の担当者が現地におもむいて保険金額の算定を行う必要がありました。これを、ドローンによる空撮画像をAIで解析するという手法に置き換えることで、自動的かつ迅速に具体的な損傷状況や損害額を算出することができ、保険金支払いまでの期間を大幅に短縮することが可能です。
車両修理見積をAIで自動点検(三井住友海上)
三井住友海上火災保険では、自動車事故の車両修理見積をAI技術で自動点検するシステムを導入しています。これにより、専門社員による見積書の点検を省略し、迅速に顧客へ保険金を支払うことが可能となります。
ほかにも保険業界の事例や導入について詳しく知りたい方は、保険業界のAI活用事例!活用メリット4つも解説の記事をご参考ください。
金融業界でのAI導入事例③証券
証券会社でも積極的にAIサービスの導入を進めています。これらがその事例です。
コールセンターでの通話内容をAIを使って分析(みずほ証券)
みずほ証券では、音声認識技術によってテキスト化されたコールセンターでの通話内容をAIを使って分析するという取り組みを行っています。これにより、これまでは専門の担当者が通話内容を聞いてモニタリングしていた業務を置き換えることができ、大幅な業務時間の短縮効果が確認されたとのことです。
コールセンターでAIによる音声認識を用いたシステムを導入した事例についてはこちらの記事で特集しています。
コールセンターへのAIシステム導入を今すぐ検討されている方は、コールセンター向けおすすめAIサービスをこちらで紹介していますのでご覧ください。
マーケット情報をチャットボットで提供(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券では、AIを活用した「マーケットAI」を導入しています。これは、マーケット情報をチャット形式で回答するチャットボットで、日本株や米国株、外国為替、指数といったマーケット情報提供や、事務手続きの案内を24時間年中無休で対応できるものです。さらに投資信託など、情報提供の範囲を拡大していく方針となっています。
問い合わせをチャットボットで回答(松井証券)
松井証券でもAIを活用したチャットボットサービスを導入しています。「各種手続き」、「税制・確定申告」、「口座開設」の3つのカテゴリーに関する問い合わせに対してAIが対応しており、カバーできる範囲はさらに拡大していくとのことです。
証券会社でのAI導入事例について、こちらの記事でさらに紹介しています。
金融業界のAI導入についてよくある質問まとめ
- 金融業界でAI導入が進んでいる理由は何ですか?
主な理由は以下の3点です。
- 顧客の銀行利用方法の変化(店舗利用の減少、ATMやスマホバンキングの増加)
- 過去の膨大なデータ処理の必要性
- 低金利環境下での新たな収益源の模索
- 金融業界にAIを導入するメリットには何がありますか?
主なメリットは以下の通りです。
- データ処理の効率化
- 審査プロセスの最適化
- 不正行為の予防と早期発見
- 需要予測の精度向上
- 人的リソースの効率的な配置
- 顧客満足度の向上
- 新しい働き方の提供
- 金融業界でのAI活用の具体的な事例にはどのようなものがありますか?
以下のような事例があります。
- 銀行:AIを活用した稟議書検索システム(京都銀行)、顔認証技術を搭載した次世代ATM(セブン銀行)
- 保険:チャットボットによる保険診断(ライフネット生命保険)、ドローンとAIを活用した保険金額算定(東京海上日動)
- 証券:AIによるコールセンター通話内容の分析(みずほ証券)、チャットボットによるマーケット情報提供(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
AIサービスの導入は避けられない!

ここまでに見てきたように、AIサービスは未来の絵空事ではなく、すでに導入されているものであり、高い実績を上げています。顧客満足度向上や業務効率化の点で、今後はAIサービスの導入は避けられない時代となるのではないでしょうか。
一方で、AI技術の低コスト化も進むため、導入がしやすくなるものと考えられます。この波に乗り遅れないよう、今から準備・検討をしておいてはいかがでしょうか。
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参考サイト:企業の財務情報を簡単に検索 |Finboard

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