AIはガス・水道業界をどう変える?活用方法・メリット・企業事例6選を徹底解説!
最終更新日:2024年09月09日
ガス・水道業界は、急速に進化するAI(人工知能)技術によって業務の効率化と自動化が進められつつあります。人手不足や技術継承問題など、業界特有の課題を解決するための有効な手段として注目されています。
本記事では、
AIの活用に興味があるガス・水道業界の企業担当者は、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
ガス・水道業界が直面する4つの課題
ガス・水道業界は、労働人口の減少や設備の老朽化に伴いさまざまな課題に直面しています。以下では、ガス・水道業界が抱える課題を挙げ、それぞれの問題について詳しく紹介します。
設備老朽化への対応
引用:大規模災害時における停電対策について(2019年11月27日)|経済産業省
日本の多くのインフラは、約50年前の高度経済成長期に整備され、当時建設されたガス管や下水道設備は現在、老朽化が進んでいます。
老朽化したガス・水道設備が故障すると、多くの住民を巻き込む大規模な事故になりかねません。たとえば、和歌山県では耐用年数に近かった水道橋が崩落し、市内約6万戸が断水する大きな事故がありました。
このような設備の老朽化に伴う事故を背景に、現在ガス・水道設備における点検や修理の需要が急速に高まっています。
災害レジリエンスの強化
近年、日本の各地においてゲリラ豪雨や突発的な大地震など、災害が増加しています。
大災害によりガス・水道設備が被害を受けると、大規模な漏水事故や停電などが発生し、普及全体が遅れます。そのため、停電状況の把握機能がある「スマートメーター」の導入など、災害レジリエンスに強い設備更新が急務です。
また、大型台風や地震に対する「予防力」を高めるためには、科学的根拠にもとづいた災害予測も重要です。過去の災害発生パターンの分析をもとに、台風の進路や地震の発生タイミングなどにおいて精度の高い予測ができれば、災害が発生した場合にも迅速な普及プランを立てることが可能になります。
人手不足
引用:現状と課題を踏まえた 今後の工業用水道事業施策について (中間とりまとめ) (2021年6月15日)|工業用水道政策小委員会
多くのガス・水道企業では、団塊世代の従業員の退職に伴い人手不足(上記画像参考)が進んでおり、ガス・水道の管理能力が低下しています。特に、ガス業界では配送車ドライバーの不足が顕在化し、人手の確保が大きな課題です。
人手不足の問題は、業務の効率性やガス・水道の安定供給に影響を及ぼす可能性が高く、解決が急がれています。
技術継承
ガス・水道企業では熟練技術者の大量退職に伴い、技術継承の問題を抱えています。技術継承がうまく行われないと、設備の保守管理やトラブル対応に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
そのため、経験豊富な技術者の知識やスキルを伝えられる効率的な技術継承の仕組みが必要です。
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ガス・水道業界でAIを活用する5つの方法とメリットは?
ガス・水道業界でAIを活用する方法・メリットを紹介します。
インフラ点検の自動化
ドローンやAIロボットを活用することで、人間が直接アクセスしにくい送電線や水道管の状態を監視することができます。
- 送電線点検:高解像度カメラを搭載したドローンが送電線を撮影し、AIが画像を分析して損傷や異常を検出します。
- 水道管点検:小型のAIロボットを水道管内に投入し、内部の状態を撮影・記録します。ロボットは自律的に移動し、管内の腐食、亀裂、堆積物などを検出します。
これにより、高所作業のリスクを軽減し、広範囲を短時間で点検できます。人間スタッフは危険な場所で作業する必要がなくなり、安全性が向上します。
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設備の予知保全
AIの高度な分析・予測力を劣化度診断へ活かすことで、水道管などの設備から得られるデータから故障予兆が可能です。
たとえば、「会津若松市上下水道局上水道施設課」では、実際にAIを用いた管路劣化度診断の活用を進めています。市が蓄積してきた配管状況・漏水履歴などの管路データと、9種類の膨大な環境データをAIを用いて解析し、管路更新計画や漏水管理へ役立てています。
AIによる設備の予知保全が可能になれば、老朽化に伴う突発的なトラブルを未然に防ぎ、計画的な保守作業が可能です。
関連記事:「予知保全とは?予防保全・事後保全・予兆保全との違い、メリット・デメリットを解説」
異常検知の迅速化
IoTセンサーとAIを組み合わせることで、ガスや水道設備のリアルタイムデータを常時監視し、異常が発生した場合には迅速に検出可能です。これにより、災害時に設備トラブルが発生した際に、従業員はAIの検知アラームや内容をもとに迅速な対応が可能となり、住民への被害を最小限に抑えられます。
また、画像認識AIを使ってインフラ設備の画像データを分析し、異常や損傷を自動的に検出することも可能です。さらに、音響センサーとAIを組み合わせることで、水道管などの漏水を効率的に検知することができます。収集された音響データをAIが音声分析し、正常な水流音と漏水音を区別します。
AIによるリアルタイムでの異常検知は、災害発生後の復旧対応の効率化など災害レジリエンスの強化につながります。
需要予測
AIの高度な予測力を応用して、検針データや過去の使用データを分析することで、ガスや水道の供給需要を予測できます。これにより、資源の最適な配分が可能となり、供給計画の策定がより精密になります。
AIの需要予測の精度が向上すれば、過剰供給や不足を防ぎ、効率的な資源管理が実現されます。特にガス業界においては過剰供給の削減に伴い、配送車ドライバーの人材配置も最適化され、ドライバー不足を解決することが期待されています。
関連記事:「AIによる需要予測とは?何にどこまで使える?デメリットは?導入事例徹底解説」
地下埋設物の位置特定
地中レーダーの画像をAIが解析して、ガス管や水道管の位置を特定することが可能です。地中レーダーは、電磁波を地中に送り込み、その反射波を分析することで地中の構造物や埋設物を特定する非破壊的な探査方法です。
関連記事:「非破壊検査とは?種類・メリット・デメリット・AI活用事例を徹底解説!」
従来の地中レーダー技術では、得られた画像データの解釈に熟練作業者の経験が必要でした。しかし、AIを活用することで、この解析プロセスを自動化し、精度を向上させることが可能になりました。また、開発されたAIソフトウェアは、既存の地中レーダー装置に搭載してエッジAIを実現することも可能です。
ガス・水道業界でのAI活用事例6選
ガス・水道業界では、設備の制御や故障予知などさまざまなシーンで活用しています。以下では、ガス・水道業界におけるAI活用の具体的事例を紹介します。
【東京ガス】熱源機器最適制御AIの開発に取り組む
東京ガスは、ビルや工場の空調熱源のさらなる省エネルギー運転を目指して、機器の稼働を最適化するAIの開発に株式会社エイシングと共に取り組んでいます。 エイシングは、製造業等において予知保全・自動制御等を実現する機械制御系に強みを有するのAIベンチャーです。
SCADAソフトウェア「JoyWatcherSuite」と、これまでに培った熱源機器AI制御の知見を活用し、汎用性の高い「熱源制御AI」を実現します。熱源機器の稼働が最適化されることで、省エネだけではなく、従業員の業務負荷軽減が期待されます。
【アシオット】既存メーターのスマート化
アシオット株式会社の「A Smart」は、既存のガスや水道の検針メーターに後付けするだけで簡単に検針作業のスマート化を実現するソリューションです。具体的には、搭載されるエッジAI技術により、デバイス側で取得したデータを処理し、クラウド上で確認できるものです。
A Smartを通じてクラウド上でユーザーはリアルタイムでデータを閲覧できるほかに、異常値のアラートやデータのグラフ化、Excelへのエクスポート機能も利用可能です。
これらの機能により、効率的なデータ取得の自動化と可視化・分析が実現し、従来の目視によるアナログな検針作業における誤検針率の低下と効率化を実現します。
【Fracta Japan/北杜市】水道管破損事故パターンから高精度な劣化予測を提供
山梨県北杜市では、Fracta Japan株式会社が開発するAI水道管路劣化診断技術を県内で初めて導入しました。
従来、北杜市上下水道局では、市町村合併に伴い県内最大規模の水道管布設延長を管理しており、旧市町村の水道管路における日常的な漏水対応や管路情報の一元整理などの課題に直面していました。
そこで、Fracta Japan株式会社のAIを導入することで、劣化要因の解析や優先的に更新・修繕を行うべき候補箇所抽出を行い、水道管のメンテナンス業務の効率化を目指しています。AIは、同局が保有する漏水・修繕データから水道管破損事故をパターン学習し、各水道管エリアの地盤や利用状況などの環境データを用いて劣化予測を行います。
北杜市は積極的に技術導入を計画し、今回の劣化診断技術以外にも実効性のある管路更新計画の策定に役立つ技術導入などを検討しています。
【ソフトバンク】検針データの活用で配送・保安業務の効率化
ソフトバンク株式会社は、LPガス業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するため、以下3つのサービスを提供しています。
- Routify:AIによって最適な配送計画とルートを自動で策定し、配送業務の効率化を図る
- スマートメーターマネジメントシステム:異なるメーカーのスマートメーターのデータを一元管理し、配送・保安業務の効率化を支援
- Gascope:Web明細とオンライン決済を提供し、LPガスの契約者の利便性向上を狙う
特に、スマートメーターマネジメントシステムは、異なるメーカーのメーターのデータを統合管理できるため、LPガス事業者の運用効率向上が可能です。これにより、データの一元管理が実現し、業務の合理化とコスト削減が可能になります。
また、メーカーやネットワークに依存しない柔軟な対応ができるため、長期的な運用においても安心して利用できます。
【東京都水道局】AIを活用した浄水場の運転管理
東京都水道局は、浄水場への薬品注入の運転管理をAIでサポートすることで、より効率的な浄水場の管理を目指しています。従来、東京都水道局では浄水場への薬品投入のタイミングや注入率に関して、熟練した従業員の暗黙知をもとに調整していました。
従業員の知識を標準化するために、熟練した職員の注入実績をAIで学習し予測値を表示し、リモートで管理できる浄水場へ調整を進めています。
【日立製作所/大阪市水道局】運転操作ナレッジの自動提案と蓄積
株式会社日立製作所は、大阪市水道局と共同で浄水場の運転ノウハウを形式知化し、AIを活用した運転操作の提案とノウハウの自動蓄積を目指す共同研究を開始しました。
大阪市水道局では浄水場の運転を従業員のスキルに依存しており、少子高齢化に伴い熟練従業員が減少傾向にあることでノウハウの喪失が課題になっています。
そこで大阪市水道局は、運転データや手順などのデータと機械学習を用いて熟練者の技術をナレッジとして抽出し、水質・設備異常時の対処方法フローの作成を目指しています。
また、蓄積したナレッジをもとにAIが運転状況に応じた対処方法を自動提案する仕組みや、AIがナレッジを自動蓄積する仕組みの構築も今後検討予定です。
これにより、多様なデータを統計解析やAIで分析、監視・制御システムとナレッジシステムを統合し、ノウハウを自動的に蓄積する方法の確立が期待されています。
ガス・水道でAIを活用する際の注意点
AIシステムを導入するうえでは、AIならではの注意点が存在します。以下では、ガス・水道でAIを活用する際の注意点を詳しく紹介します。
AIの学習に使うデータのセキュリティに注意する
AIを活用する際、顧客の検針データや自社設備の劣化データなどの機密性の高い情報を扱うことになります。
近年はAIシステムへ不正アクセスしデータを改ざん・漏えいさせるなど、AIの学習データを狙ったサイバー攻撃も見られることから、重要なデータを扱う場合には厳格なセキュリティ対策が不可欠です。たとえば、AIに使うデータの暗号化やシステムへのアクセス制御などのセキュリティ措置を講じる必要があります。
なお、AIを狙ったサイバー攻撃は近年ますます高度化しているため、AIシステムのセキュリティに強い専門会社へ運用保守を委託するとよいでしょう。
従業員の協力体制を整える
AIを導入する際には予測精度を高めるために、特に熟練従業員の協力が不可欠です。
協力してもらううえでは、従業員に対して事前にAIの効果やメリットを十分に説明し、理解を深めることが重要です。また、AIによる具体的な成功事例を共有することで、従業員のモチベーションを高め、協力を得やすくなります。
AIの魅力を伝える講習会やAIシステムの操作方法に関する教育を実施することで、従業員の協力体制が強化され、スムーズに導入できます。
ガス・水道業界のAI活用についてよくある質問まとめ
- ガス・水道業界でAIを導入する際の注意点は何ですか?
AI導入時には以下の点に注意が必要です。
- データセキュリティの確保:顧客情報や設備データなど機密性の高い情報を扱うため、厳格なセキュリティ対策が不可欠です。
- 従業員の協力体制構築:特に熟練従業員の協力が重要です。AIの効果やメリットを十分に説明し、理解を深めることが大切です。
- 段階的な導入:一度にすべての業務をAI化するのではなく、小規模なプロジェクトから始め、徐々に拡大していくアプローチが効果的です。
- 継続的なモニタリングと改善:AIの性能は定期的に評価し、必要に応じて再学習や調整を行うことが重要です。
- 法規制への対応:個人情報保護法などの関連法規を遵守し、倫理的な配慮も忘れずに行う必要があります。
これらの点に注意を払うことで、より効果的かつ安全なAI導入が可能になります。
- ガス・水道業界でAIを活用するメリットは何ですか?
AIの活用には以下のようなメリットがあります。
- インフラ点検の自動化による効率向上と安全性確保
- 設備の予知保全による突発的トラブルの予防
- リアルタイムでの異常検知による迅速な対応
- 需要予測の精度向上による効率的な資源管理
- 地下埋設物の正確な位置特定
これらにより、人手不足の解消や災害レジリエンスの強化、コスト削減などが期待できます。
まとめ
AI技術の導入は、ガス・水道業界に革新をもたらしています。特に、AIを活用することで、設備の保守管理が精密化され、業務の効率向上を実現できます。
また、AIを活用すれば設備の老朽化予測やメンテナンスの最適化が可能になり、災害時のレジリエンスも強化可能です。ほかにも、ナレッジの自動提案や蓄積により、スムーズな技術継承が期待されます。
ガス・水道設備や社内へAIの導入を進めることで、大幅な効率化が期待されます。企業はこの機会にAIを導入し、ビジネスの可能性を広げましょう。
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