製薬業界のAI活用事例17選!創薬・研究の効率化・自動化を実現【2024年最新版】
最終更新日:2024年10月18日
製薬業界の市場環境は、少子高齢化による医療費が膨張していることから、国による薬価抑制政策を受け、ますます厳しい状況になると見られています。そのため、新たな市場を見出すために、新薬の開発はより必要性が高まってきています。
ベンチャーのバイオ・創薬分野には追い風が吹いており、大手製薬会社が遺伝子治療などの先端分野の技術を持つ創薬ベンチャーと提携する事例がいくつも出ています。医療分野へのデジタル化が急速に進んでおり、生体情報などのビッグデータを扱う創薬分野においてのAI(人工知能)の活用も進展していく見通しです。
また、
本記事では、製薬業界でのAIの活用メリットや実際の事例について説明します。
医療・製薬業界でAIシステム開発に強い会社のお探しの場合は、医療・製薬業界に強いAI開発会社の記事をご参考ください。昨今話題のゲノム解析の臨床活用についてはこちらの記事で解説していますので併せてごらんください。
なお、AI Marketでは
またこちらではデータ分析の基本的なやり方、手法を詳しく説明しています。
目次
- 1 製薬業界でAIを活用するメリットとは?
- 2 創薬分野でAIが活用されている事例9選
- 2.1 生成AIを活用した創薬技術の開発(富士通/理化学研究所)
- 2.2 AIでオーダーメイドがんワクチンの開発(NEC/Transgene)
- 2.3 ビッグデータを基に医薬品開発(アステラス/同志社大/和歌山県立医大)
- 2.4 論文データ解析による創薬テーマ創出(LInC)
- 2.5 ビッグデータ解析による創薬効率化(第一三共/エクサウィザーズ)
- 2.6 AIによる全自動創薬ロボットHAIVE(MOLCURE)
- 2.7 患者のビッグデータから創薬へ(中外製薬)
- 2.8 希少疾患の治療薬をAIで見つけ出す(DeepMind/メルク)
- 2.9 医薬品の化学計算をAIで大幅短縮(プリファードネットワークス/京都薬科大学)
- 2.10 AIによる精神・神経系の疾患の治療薬候補の探索(塩野義製薬/インベニAI)
- 3 製薬業界でAIを活用している事例6選
- 4 製薬業界のAI活用についてよくある質問まとめ
- 5 まとめ:製薬業界でのAI導入はAI Marketにご相談を
製薬業界でAIを活用するメリットとは?
製薬業界の業務内容には、新薬の創薬をする研究開発職、医療従事者に営業を行うMRと呼ばれる営業職。顧客や医療従事者の対応をするコールセンターなどの顧客対応などがあります。
製薬業界でAI(人工知能)を活用することには、どのようなメリットがあるでしょうか?
創薬の支援
AIを新薬開発に活用することで効率化・コストカットに繋げる動きが活発化しています。AIは創薬に特に発揮できる分野です。薬の研究開発は、さまざまな種類の膨大な情報を集めながら実験する必要があり、総合的に考えて新薬候補を探し出しています。従来の手法だと、新薬を開発するには莫大な資金と長い年月が必要です。1剤当たりに10年超の歳月と、1,000億円前後の開発費がかかるとされ、成功率は2万〜3万分の1とも言われています。
近年はがん、難治性疾患、遺伝子治療など、より高度なバイオテクノロジーが必要で、複雑な構造の新薬開発が進んでいますが、成功率は一層低下しています。業界全体で実装や運用ができるようになると、将来的には、開発期間は4年短縮、コストを半分ほどに減らせる可能性があると言われています。
コストが下がることによって、利益を生み出しにくいことが原因で開発をあきらめていた、患者数の少ない難病の薬の開発にも繋がっていくでしょう。
関連記事:「バイオインフォマティクスとは?AIが切り拓く生命科学と次世代医療の新時代」
顧客・医療従事者対応の業務効率化
製薬会社とユーザーや医療従事者をつなぐコールセンター業務の支援にAIを活用することで効率化が可能です。音声認識やチャットボット等が活用の例として挙げられるでしょう。製薬メーカーは顧客や医療従事者への対応が必要で、電話、メール、チャットなどさまざまなチャネルで対応します。
年々、薬の取扱量や種類が多くなったり、規模が拡大したりなどで業務量は増えていますが、専門性の高い医薬品の問い合わせに対応できる人員をすぐに増やすことは難しいでしょう。コールセンターの業務効率化、負担削減、生産性向上は、製薬メーカーに限らず他の多くの企業にとって大きな課題です。
コールセンターでのAIシステム導入での効率化事例はこちらの記事で特集しています。
喫緊でコールセンターへのAIシステム導入を検討されている方は、コールセンター向けおすすめAIサービスを紹介していますのでご覧ください。
AI Marketでは
創薬分野でAIが活用されている事例9選
創薬事業で実際にAIを活用している事例を紹介します。
ChatGPTなどの生成AIを医療業界で活用する方法、注意点をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
生成AIを活用した創薬技術の開発(富士通/理化学研究所)
富士通株式会社と国立研究開発法人理化学研究所は、2023年1月に、生成AIを活用した新しい創薬技術を開発しました。この技術は、電子顕微鏡画像からタンパク質の構造変化を広範囲に予測することを可能とするものです。
富士通社の生成AI技術「DeepTwin(ディープツイン)」と理研の創薬分子シミュレーションの知見を活用することで、大量の電子顕微鏡画像からタンパク質の立体構造を3D密度マップで復元し、様々な形態とその頻度を正確に推定します。さらに、タンパク質の立体構造を低次元で表現し、その変化を予測する技術を開発しました。この低次元特徴量を用いて、構造変化を生成AIで高次元データに復元し、予測を可能にしています。
これにより、標的タンパク質の構造変化の予測を従来の1日から2時間まで短縮ができたとしており、今後もこの技術をコア技術として活用していくとのことです。
AIでオーダーメイドがんワクチンの開発(NEC/Transgene)
がんワクチン「TG4050」は、仏バイオ企業のTransgene社と日本電気株式会社(NEC)によって共同開発されたAIの活用によって作られました。NECではAIを活用した創薬事業に参入し、本格参入の第1弾がこのTG4050です。
このワクチンを作る手法は、オーダーメイド型治療法と呼ばれ、患者それぞれの専用のワクチンを作ることが可能です。
TG4050は、患者の正常な細胞とがん細胞とを比較し、がん細胞だけに見られる異常タンパク質「ネオアンチゲン」をAIによって予測します。AIによって予想した異常タンパク質を患者体内で増やすワクチンを開発し、体内に異常なタンパク質が増えることで、免疫細胞が異物として攻撃し、元からあったがん細胞にも効果を発揮します。
今後もNECは、AIを活用した創薬事業を進めていくとのことです。
ビッグデータを基に医薬品開発(アステラス/同志社大/和歌山県立医大)
製薬大手のアステラス製薬株式会社は、AIでビッグデータを解析して医薬品開発の価値最大化を目指して大学と共同研究を始めました。アステラス製薬と同志社大学、和歌山県立医科大学が共同研究する、AIや統計を活用して医薬品価値を最大化する取り組みです。ビッグデータを基にした統計モデルやシミュレーションを活用した研究に取り組みます。
同志社大学との研究は、医薬品開発の意思決定の最適化です。医薬品の研究開発においては、対象疾患の選択、臨床試験デザインなど多くの重要な選択が伴います。これらをデータに基づいて解析することで、選択肢の長所・短所を評価して、医薬品開発の意思決定を加速し、最適化することが可能です。
和歌山県立医科大学と行うのは、治療効果の最大化についての研究です。患者の状態に合わせて薬の効果を予測し、適切なものを選択できれば、治療効果が向上して、コスト削減にもつなげることができます。
これらの二つの共同研究で得られた成果やノウハウを相互に活用して、より確度が高い推定に基づいて意思決定をすることが可能です。
論文データ解析による創薬テーマ創出(LInC)
国内の100を超える製薬企業やIT企業が参加する産学連携プロジェクト「LInC(ライフ インテリジェンス コンソーシアム)」は、創薬プロセスのすべてにAIを活用して開発のあり方を変えようとしています。
LInCでは、さまざまなプロジェクトが進行しており、その中の大きなプロジェクトテーマの一つが「創薬テーマ創出」です。
さらに4つのプロジェクトに細分化され、一つのプロジェクトである「膨大な論文データより共同研究者を発掘するAIの創成」においては、LInCのプロトタイプを発展させ、株式会社ジー・サーチが「JDream Expert Finder」としてサービス提供しています。
このサービスは、学術文献データベースに収蔵されている論文の著者約100万人分を基にして、探索テーマを入力すると著者がどういう分野に治験があるか、共著者名は誰かなどが分かるというものです。
また共著などのデータを基にして、ある点を通る経路が多いほど中心性が高くなる「媒介中心性」という計算手法を用いて、人的ネットワークの関係から成長性が高い有望な研究者を探し出します。
ビッグデータ解析による創薬効率化(第一三共/エクサウィザーズ)
製薬大手の第一三共株式会社とAI開発を手掛ける株式会社エクサウィザーズは、創薬研究のAI利活用の共同開発プロジェクト「データ駆動型創薬」を立ち上げました。
ビッグデータを基にした創薬のプロセス高度化や効率化に取り組みます。AI技術と創薬現場での専門家同士との高度な融合を目指しているのが特徴です。
創薬の専門知識や、プロセスの理解を基にしつつ、AIの力を最大限発揮させることで、目的に応じたデータの解析を可能とするアプローチ方法を生み出し、解析結果や活用方法を総合的に評価して判断を行います。
プロジェクトは、エクサウィザーズの創薬知識を持つエンジニアと、第一三共の創薬研究者が共に、「ディープラーニング(深層学習)を含んだAI技術の現場実装」と、「創薬の研究者による解析の結果評価やフィードバックに基づいた領域知識と融合したデータの利活用推進」などの活動を進めていきます。
AIによる全自動創薬ロボットHAIVE(MOLCURE)
バイオベンチャーの株式会社MOLCUREは、AIによる創薬支援を行っており、医薬品の分子設計を担うAIを製薬企業向けに提供しています。製薬会社が持つバイオ技術と、MOLCUREが持つAIや大規模データ収集の技術とを組み合わせて、製薬会社それぞれにオーダーメードのAIが構築できる強みを持っていることが特徴です。
新薬候補となり得る化合物群を実験にかけて、結果データをAIによって分析します。化合物を絞り込むだけではなく、得られた化合物の原始配列を変えるなどの複雑なシミュレーションを繰り返すことが可能で、設計を理想的な形へと近づけることが可能です。
ロボットも自社開発しており、「HAIVE」はモジュール式の実験ロボット群で蜂の巣状に六角形の箱型に組み合わされています。バイオ医薬品の分子構造は非常に複雑で、従来は人間が手作業でペプチド・抗体のスクリーニングを何度も行って、数千パターンもの候補からひとつの有用なペプチド・抗体を探していました。ロボットとAIによって大量のスクリーニングと分子設計を自動化できます。開発時間を大幅に短縮し、これまでのやり方では発見できなかった医薬品の分子を設計したり探索することが可能となっています。
患者のビッグデータから創薬へ(中外製薬)
製薬大手の中外製薬は抗体医薬品の創薬にAIの機械学習を活用した「MALEXA」の開発に取り組み始めました。創薬の標的分子に結合する医薬品の種となるリード抗体の配列提案をします。
AIを活用することで、可能性の高い化合物をできるだけ初期の段階で発見し、一気に臨床試験まで持っていきたいと考えているようです。AIによって創薬の成功確率の向上や、プロセス全体の効率化を可能とすることを目指しています。
中外製薬では、新薬の研究開発から生産に至るまでの各工程において、デジタル技術を活用するDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。AIや医療ビッグデータ、デジタル工場などを組み合わせて業務の変革を目指します。
背景にあるのは新薬開発のハードルが高まっていることへの危機感です。医療用の医薬品は化学合成での「低分子医薬品」から、バイオ技術を生かした「抗体医薬品」に移りつつあります。さまざまな疾患の治療薬がすでに存在している状況で、既存薬を超える効果や患者への利便性などがなければ、新薬として承認を得ることが難しくなっている状況があるからです。
新薬開発の成功確率は年々下がっており、多くの時間とコストがかかるため、デジタル技術を活用した効率を高めた戦略が製薬業界として生き残るために欠かせなくなっています。
希少疾患の治療薬をAIで見つけ出す(DeepMind/メルク)
Googleを傘下に持つアルファベットの子会社でAI開発をしているDeepMind社は、希少疾患の治療法の探索をAIを活用して行っています。NPOとの連携で、主に途上国で猛威を振るう伝染病などの治療薬候補の探索を行っています。
DeepMind社ではこれまでも、タンパク質の構造を予測するAI「AlphaFold」開発に取り組み、タンパク質構造予測は医薬品やワクチン開発、病気の解明などに極めて重要な意味を持つ可能性があるということです。
ドイツに本拠地がある製薬会社のメルクでは、AlphaFoldを活用した独自のアルゴリズムを開発し、有用なタンパク質の構造の検討が可能であると考えています。このAIモデルをバイオ医薬品や抗体医薬品の研究につなげていくと期待しているということです。
医薬品の化学計算をAIで大幅短縮(プリファードネットワークス/京都薬科大学)
株式会社プリファードネットワークスは、医薬品開発の高速化を可能とするAIを活用した創薬技術の開発を発表しました。ディープラーニングと大規模計算資源の技術を用いて、創薬の初期工程の化合物探索や分子設計などを自動化します。
医薬品開発の初期工程でのリード化合物を得るための候補物質の探索やモデリング、分子設計、最適化を高速化するAI創薬技術の開発を行います。リード化合物とは、本格的な創薬過程へと進むために十分な性質を持つことが実験で示された化合物です。リード化合物の特定は創薬の出発点であり、その後に薬効や安全性を高める最適化過程に入ります。
従来の創薬の手法は、研究者の知見に大きく依存してきました。化合物ライブラリーからスクリーニングしたあとに、人手で一つひとつを設計して生物試験で評価しなければなりませんでした。その方法では、大量の化合物の設計や評価を繰り返す作業工程に膨大な時間が必要です。
株式会社プリファードネットワークスが開発したAI創薬技術は、従来手法の工程を計算上で自動化し、化合物の設計や最適化を迅速に行うことが可能です。従来手法では着想しにくい構造の提案もできます。
AIによる精神・神経系の疾患の治療薬候補の探索(塩野義製薬/インベニAI)
製薬大手の塩野義製薬株式会社は、AIを使った創薬技術を持つ米国の企業インベニAIと業務提携しました。インベニAIの技術を活用し、精神・神経系の疾患の治療薬候補を探索します。
精神・神経系疾患は複数の要因が引き起こすため、薬の標的や治療に用いる候補物質の発見に膨大な時間やコストを要します。インベニAIが有するAI創薬のプラットフォームである「AlphaMeld」を活用して、研究への効率化へとつなげるのが狙いです。AlphaMeldは、過去10年以上にわたり培われたデータセットをもとにして構築された機械学習アルゴリズムです。AlphaMeldができるのは、特定の疾患に関連する標的分子の選定だけではありません。その疾患に関連した周辺因子を可視化できるので、関連する複数の標的やその標的に対しての既存薬の提唱も可能なAI創薬プラットフォームです。
インベニAIとの提携によって、薬の標的や組み合わせを効率化かつ網羅的に探索可能となり、課題解決に必要なリソースの軽減や創薬の迅速化が期待されています。
AI Marketでは
製薬業界でAIを活用している事例6選
製薬業界で創薬以外の分野でAIを活用している事例を紹介します。
AIで医療従事者からの問い合わせ対応自動化(沢井製薬/野村総合研究所)
ジェネリック医薬品大手の沢井製薬株式会社は、医療従事者からの問い合わせへの対応品質向上のために株式会社野村総合研究所の「TRAINA VOICEダイジェスト」を導入し活用しています。TRAINA VOICEダイジェストは、音声認識と対話要約技術が含まれるAIです。
沢井製薬では年々医療従事者からの問い合わせも増加しています。医療従事者からの問い合わせ対応には以下のような課題が存在します。
- 問い合わせ件数の増加
- 内容が多岐にわたり複雑
- 薬剤師の資格を持つ専門のスタッフが応対するため人員を簡単に増やせない
沢井製薬でも年々取り扱う製品の種類や数が増えており、対応にあたる医薬品情報センターでの生産性向上のためにTRAINA VOICEダイジェストが導入されました。
これまでは電話での問い合わせ内容と回答内容をシステムに入力する必要がありましたが、入力業務の負荷を大幅に減らすことができ、生産性向上を実現しました。
AIで医薬品市場の売上予測モデル開発(IQVIA/ブレインパッド)
医薬情報サービスのIQVIAソリューションジャパン株式会社は、株式会社ブレインパッドのAIによる売上予測モデルの構築を導入し製薬会社の意思決定を支援可能としました。
IQVIAジャパンは医薬品に関するさまざまなデータを保有して、販売やコンサルティングなどを行うビジネスを展開しています。これまで提供していた医薬品市場の売上実績データに加えて、将来の売上予測の値を機械学習モデルを構築して算出することによって可能としました。
将来の売上予測値は、クライアント企業からのニーズが高いことからサービス化を実施したということです。そしてそのAIモデル構築、実装、サービス化の支援会社としてブレインパッドをパートナーとしました。
AIで研究・治験関連文書の作成効率化(中外製薬/NTTデータ)
製薬業界で欠かせない治験業務の作業効率を図るべく、2020年1月から6月に、中外製薬株式会社と株式会社NTTデータは共同でAI技術を活用した作業効率化の実証実験を実施しました。新薬開発の工程には研究、治験での臨床データの収集・解析、安全性の確認などのプロセスがあり、平均で9〜17年程度かかるといわれています。各開発工程において高品質な文書作成は必須であり、同社はAI技術やオントロジー/セマンティックといった技術を用いて、これらを連鎖的・網羅的に作成できるようなシステムを開発しました。
効果として「同意説明文書」にて約60%、「症例報告書」にて約40%の作業効率に成功しました。商用化としてローンチはしていないものの、製薬業界への活用を中心に拡大させていく予定です。
医薬MRがデータを重視、医師のデータをAIで分析(GSK)
英国を本拠地とする製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)では、医療従事者の情報ニーズをAIを活用して分析し、医薬情報担当者(MR)の訪問計画の策定を開始しました。医師の研究テーマなどをAIが分析し、医薬MRへの提供情報に役立てるシステムの開発です。医師をはじめとする医療従事者のデータをAIで分析し、MRの効率的な訪問計画の策定に役立てています。
これまではMRが足で稼いだ情報や経験などをもとに訪問計画を策定し、実行するしかありませんでした。しかし、GSKの取り組みでは、情報提供先の医療従事者の専門領域や研究内容、これまでの接点、取扱製品の処方実績などといったさまざまなデータをAIに学習させて複合的に分析します。最適な訪問計画や頻度、方法なども含めてMRへ提示できるため生産性の向上が期待されています。
訪問計画をAIに策定させる取り組みを、気管支喘息の治療薬で試行的に進め、その後主力品にも本格展開していくようです。
医薬品在庫の欠品をAIで削減(アサイクル)
IT事業の運営や開発などを手掛けるアサイクル株式会社は、調剤薬局の在庫の過剰や欠品を削減するためにAIシステム開発を手掛けています。
医薬品の需要を予測するためのAIを搭載した在庫管理や発注を可能とするシステムです。店舗ごとの過去の販売実績データをAIに学習させ、顧客属性、季節変動、地域特性など分析して予測し、発注が必要な医薬品を表示します。季節変動の例として、花粉症の時期に抗アレルギー薬の需要が増加することが挙げられます。
従来は医薬品の在庫が一定量を下回った段階で発注していましたが、現時点の在庫ではなく将来の需要に基づいた発注支援が可能となり、発注担当者の負担の軽減にもつながります。処方箋を扱う調剤薬局では欠品を避けることは必要ですが、過剰な在庫は収益悪化の大きな原因です。過剰な在庫や欠品を少なくすることで店舗効率化を実現可能とします。
薬の供給が不安定となっている昨今の状況では調剤薬局の在庫管理の手間が増えています。特定の薬がメーカーでの在庫不足で注文できなくても、同じ成分を含んだ別の薬の候補リストが出てくるシステムなので、薬の切り替えに伴う業務負担の軽減も可能です。
調剤薬局でのAI活用事例、効率化できる業務種類についてはこちらの記事で解説していますので併せてご覧ください。
電子カルテデータの分析結果を創薬に活用(NTTデータ/エクサウィザーズ)
株式会社NTTデータと株式会社エクサウィザーズは、電子カルテや日常の医療・健康に関するデータから臨床における疾患・治療実態を把握するAIサービスの開発を共同で開始しました。電子カルテや日常の医療・健康に関するデータは「医療リアルワールドデータ」と呼ばれ、創薬領域の研究に活用され始めています。
NTTデータは、医療情報プラットフォームの「千年カルテ」に100万件以上の電子カルテデータを、医療リアルワールドデータとして蓄積しています。利活用が期待されていますが、膨大な症例数や項目数があることや、電子カルテに含まれる治療実態や効果に関する情報の構造化や標準化が課題でした。
そこで医療領域で強みを持つエクサウィザーズのAI技術によってデータ解析し、希少疾患向けなどの従来の手法では開発が難しかった医薬品の研究や、患者それぞれに合わせた個別化医療へとつなげています。
疾病に応じて、患者がいつどのような治療を受けているかの実態などを可視化するサービスなどを提供可能です。また、製薬企業にとっては臨床における疾患や治療実態の把握ができることで、医薬品の研究開発テーマの検討促進への活用が可能となります。
欠損錠剤の検出でコンベアを自動停止できる装置(スカイロジック)
株式会社スカイロジックは、欠けた錠剤を検出するとコンベアを自動停止できる錠剤検査装置「ブザー・パトライト」を開発しました。
この装置は、定点カメラを使ってコンベア上の錠剤を連続的に監視し、不良品である欠けた錠剤が検出された際に赤色のライトとブザーで警告を発し、コンベアを自動的に停止させるシンプルな仕組みです。
これにより、生産ライン上で不良品が確実に除去され、次工程への流出を防げるため、品質向上や手動作業の軽減につながることが期待されています。
関連記事:「錠剤検査とは?重要性・検査項目・AIを活用する最新検査装置を徹底解説」
製薬業界のAI活用についてよくある質問まとめ
- 製薬業界でAIを活用するメリットは何ですか?
製薬業界でAIを活用するメリットは以下の通りです。
- 創薬プロセスの効率化と短縮
- 開発コストの削減
- 新薬候補の探索範囲の拡大
- 希少疾患向け医薬品開発の可能性向上
- 医療従事者対応の業務効率化
- AIを活用した創薬の具体的な事例にはどのようなものがありますか?
AIを活用した創薬の具体的な事例には以下があります。
- 富士通/理化学研究所:生成AIを用いたタンパク質構造変化の予測
- NEC/Transgene:オーダーメイドがんワクチンの開発
- MOLCURE:全自動創薬ロボットHAIVEによる医薬品分子設計
- DeepMind/メルク:AlphaFoldを用いた希少疾患治療薬の探索
- 塩野義製薬/インベニAI:精神・神経系疾患の治療薬候補の探索
- 製薬業界でAIはどのような分野で活用されていますか?
製薬業界でAIは以下の分野で活用されています。
- 創薬プロセス(新薬候補の探索、分子設計など)
- 医療従事者からの問い合わせ対応の自動化
- 医薬品市場の売上予測
- 研究・治験関連文書の作成効率化
- MR(医薬情報担当者)の訪問計画策定
- 調剤薬局の在庫管理と発注最適化
- 電子カルテデータの分析と創薬への活用
まとめ:製薬業界でのAI導入はAI Marketにご相談を
新型コロナ級の疫病の流行による新型ワクチンや新しい治療法の開発が、次いつ起こるかわかりません。創薬へのAI活用は今後大きな発展を見せ、薬開発手法のスタンダードとなるでしょう。
AI Marketでは
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