レガシーシステムが抱える「2025年の壁問題」とは?課題・AIを活用した対処法・メリット・手順を徹底解説!
最終更新日:2025年07月07日

- レガシーシステムはコスト増大、セキュリティ脆弱化、ビジネス変化への対応遅延といった深刻なリスクを抱えており、放置は「2025年の崖」問題として知られる大きな経営課題
- システム刷新には、ビジネス価値向上を目指す「モダナイゼーション」という戦略があり、実現手段として「マイグレーション(移行)」
- 近年ではAI(特にLLM)が、ブラックボックス化したシステムの解析や移行作業を大幅に効率化
企業の成長を阻む要因として、長年使われ続けてきた「レガシーシステム」の存在が深刻化しています。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題は、もはや他人事ではありません。
この記事では、多くの企業が直面するレガシーシステムの課題と、その刷新を阻む根本原因を深掘りします。その上で、システム刷新の具体的なアプローチである「モダナイゼーション」と「マイグレーション」を解説し、AI、特にLLM(大規模言語モデル)によるコードの生成や解析でプロセスをいかに効率化・高度化できるかを明らかにします。
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目次
レガシーシステムとは?
レガシーシステムとは、設計当時の技術や構造のまま使用され、現代のIT環境との親和性が低く、保守や拡張上で多くの課題を抱えている情報システムを指します。例えば、COBOLで構築された基幹業務システムや、メンテナンスが十分に行われていない古いERPシステムが代表的です。
実際、国内企業の約8割が何らかのレガシーシステムを保有していると言われ、業界全体に共通する課題とされています。
レガシーシステムは日々の業務運用に不可欠である一方、トラブル対応の属人化や改修コストの増大、セキュリティリスクの高まりといったビジネスへの多大なリスクがあります。
そのため、レガシーシステムの刷新や段階的な移行は、企業の成長やDX推進において避けては通れない重要なテーマです。
レガシーシステムから脱却するためのモダナイゼーションとマイグレーション
モダナイゼーションとは、レガシーシステムが抱える技術的負債を解消しつつ、ビジネス価値の向上を目指して既存システムを刷新するアプローチです。単なるシステム移行ではなく、業務の柔軟性や拡張性の向上を目的としています。
モダナイゼーションを実現するためには、データ、ソフトウェア、システム全体などを、ある環境から別の新しい環境へ具体的に移行・移転させるマイグレーション(移行)作業から始めるのが通常の方法です。
一方で、業務要件が変化している場合には、単なる環境や技術の置き換えでは不十分であり、業務プロセス自体の再設計が必要になります。マイグレーション自体が目的になることもありますが、多くの場合はモダナイゼーション戦略の一部として計画・実行されます。
近年では、LLM(大規模言語モデル)を活用し、自然言語によるコード解析・検索が可能になりつつあります。例えば、LLMをコード検索エンジンと連携させると、「関数の依存関係は?」「業務ロジックはどこ?」など自然文で投げかけるだけで対象コードや関連ドキュメントを高速に抽出できます。
属人化したレガシーコードの理解やドキュメント再構築の効率が大幅に向上するほか、マイグレーション計画の策定にも役立ちます。
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レガシーシステムが抱える「2025年の壁問題」とは?
経済産業省は2025年以降、レガシーシステムの維持が困難になり、システム障害や業務停止、経済損失につながる可能性があると指摘しています。以下では、レガシーシステムが抱える課題を紹介します。
メンテナンスコストの増大
レガシーシステムは年々、維持・管理にかかるコストが増加する傾向にあります。ハードウェアの保守部品の調達が困難になり、対応可能な技術者も減少するなかで人件費や外部委託費が高騰しています。
その結果、IT予算の多くが現状維持のための費用に充てられ、新規投資やDX推進に充てるリソースの確保が難しくなる点が課題として挙げられます。
保守・運用の継承リスク
多くのレガシーシステムは、長年にわたり場当たり的な改修が重ねられ、全体像や設計思想が不明瞭な状態で運用されています。さらに、システムの構造を把握しているのが特定のベテラン社員に限られていることも少なくありません。
属人化が進むことで、担当者の退職や異動が業務停滞や保守不能につながるリスクが高まります。
セキュリティ脆弱性の深刻化
レガシーシステムでは、最新のセキュリティパッチやサポートが受けられないケースが多く、脆弱性を突いたサイバー攻撃のリスクが増加します。また、古いOSやソフトウェアの使用継続は内部不正や情報漏えいなどのリスクも抱えやすく、企業にとって重大な経営課題となり得ます。
拡張性の限界
設計思想が古いレガシーシステムは、APIによる外部連携やクラウドサービスとの統合が難しい場合が多く柔軟な拡張が困難です。そのため、法改正や市場環境の変化に迅速に対応できず、新たなサービスの導入や業務の最適化が妨げられるケースも少なくありません。
こうした柔軟性の欠如が、企業の成長戦略において大きな足かせとなります。
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レガシーシステムの刷新を阻んでいる原因は?
企業のIT環境が時代遅れのシステムに依存する背景には、さまざまな構造的・人的要因が存在します。以下では、代表的な原因を紹介します。
独自フローへの依存度が高い
長年使われてきたシステムは、企業独自の業務フローやルールに深く結び付いていることが多く、簡単に刷新できません。また、システム変更によって多くの業務プロセスの見直しが必要になるため、現場からの反発や導入コストへの懸念が高まります。
システムの全容を把握することが困難なため、改修による影響範囲の特定が難しく、刷新プロジェクトは膨大な工数とリスクを伴います。これらの結果、現行システムに依存し続ける構造が生まれます。
開発者の高齢化・属人化
特定のベテラン社員や外部ベンダーに長年依存した結果、業務システムの仕様や運用ノウハウが個人に集中し、属人化が進行します。
例えば、COBOLなどの古い言語に精通した技術者は高齢化し、減少の一途をたどっています。一方で、最新技術を理解し、大規模なシステム移行を主導できる人材も不足しており、プロジェクトを推進する体制を組むこと自体が困難になっています。
ドキュメントが不十分なまま属人的な管理が常態化するとシステムの全体像を把握できる人材が限られ、新たな人材による引き継ぎや改善が困難になります。
そのまま担当者の高齢化や退職が進むと、保守・改修のリスクが高まり、業務変化への対応力も著しく低下します。結果として、システム更新のタイミングを逃し、時代遅れの仕組みが業務の足かせとなるレガシーシステムへとなります。
複数回の改修
大規模なシステム刷新には、多額の初期投資と長い開発期間が必要です。そのため、業務の変化に対応するために部分的な改修や機能追加を繰り返した結果、全体の整合性が失われ、構造が複雑化します。
初期設計の想定を超えた運用が続き、最終的にはコードの読み解きすら困難になることも珍しくありません。こうしたパッチワーク状態のシステムは、新技術との連携やモダナイゼーションの障害となります。
モダナイゼーションを達成するためのマイグレーションの手法
マイグレーションは、レガシーシステムから新しいシステムへとデータや機能を段階的に移行する手法です。「モダナイゼーション」を実現する具体的な手段として「マイグレーション」は欠かせません。
ここでは、マイグレーションの代表的な手法について、それぞれの特徴と活用ポイントを紹介します。
リホスト
クラウド活用の第一歩として最も一般的な手法です。アプリケーションには手を加えず、サーバーをオンプレミスからクラウドへそのまま移行(リフト&シフト)します。
インフラの運用コスト削減や可用性向上を迅速に実現できます。
リライト/リファクタリング
クラウドの機能を最大限に活用するために、アプリケーションを最新の言語(Java, Python等)で書き直したり(リライト)、内部構造を整理したり(リファクタリング)します。これにより、システムの保守性や拡張性が飛躍的に向上します。
LLM(大規模言語モデル)が、コードの自動変換や品質改善の支援にも威力を発揮します。
リプレイス
既存システムを廃棄し、業務プロセス全体を見直した上で、クラウドネイティブなSaaS(Software as a Service)の導入や、新たなシステムの再構築を行います。
近年では、レガシーシステムをSaaSなどのクラウドサービスに移行する方法が一般的になりつつあります。既存のオンプレミス環境をクラウドベースのソリューションに置き換えることで、ハードウェアの更新や運用管理にかかる工数・費用を削減できます。
また、クラウドサービスの多くはセキュリティや可用性、拡張性を標準で備えています。そのため、レガシーシステムでは難しかった迅速なスケーリングや新機能の導入も可能です。
特にSaaS型のERPや業務アプリケーションを導入することで基幹業務のクラウド化が進み、システム構成の簡素化・属人化の解消につながります。
導入にあたっては、自社業務との適合性やデータ移行計画の精緻化が重要です。
API連携による機能拡張
レガシーシステム本体は維持しつつ、必要な機能だけをAPI経由で外部のクラウドサービスや新規システムと連携させる手法です。リスクを抑えつつ、迅速に新しいサービスを追加したい場合に有効です。
マイグレーションの強みは、業務を継続しながら徐々に新環境へ移行できる点です。また、フェーズごとに移行範囲を区切ることで、コストやスケジュールの管理がしやすくなります。
ただし、移行期間が長引くと旧・新両システムの並行運用が必要となり、運用負荷が二重になるリスクがあります。
そのため、あらかじめ完了期限や移行ステップを明確にしておくことが重要です。
リバースエンジニアリング
リバースエンジニアリングは、ソースコードがない、または仕様書が欠落しているレガシーシステムに対し、内部構造を解析して再利用可能な資産を抽出するアプローチです。
例えば、逆コンパイルや動的解析ツールを用いてコードの動作を可視化し、仕様の再構築を行います。また、データベース構造やAPIの呼び出し関係をマッピングすることで、全体の依存関係を明らかにします。
得られた情報をもとに、再利用可能なドメイン知識を整理し、新システム向けの設計モデルへ落とし込める点がメリットです。再利用価値の低いモジュールは、サードパーティ製品やクラウドサービスへの置換を検討することで、全体最適化を図れます。
また、動いてはいるが誰も中身を説明できないといった、ブラックボックス化した機能を可視化する上で有効です。
従来は専門家が手作業で行っていたリバースエンジニアリングの解析プロセスに、現在ではLLM(大規模言語モデル)の活用が不可欠です。LLMは、COBOLなどの古いソースコードの構文や意味を深く理解し、以下のようなアウトプットを自動生成します。
ただし、リバースエンジニアリングには著作権やライセンスの問題が伴う場合もあるため、法的リスクを事前に評価しながら進める必要があります。
AIを用いたレガシーシステム刷新のメリット
レガシーシステム刷新にAIを活用することは、単なる効率化に留まらない、多岐にわたるメリットをもたらします。
プロジェクトリスクの低減
AIによる高精度な現状分析により、システムのブラックボックス状態が解消されます。これにより、改修による影響範囲を正確に予測でき、「想定外」のトラブルや手戻りを未然に防ぎ、プロジェクト全体の失敗リスクを大幅に低減できます。
コストと期間の圧縮
これまで数ヶ月〜数年単位の時間を要していたシステム解析やドキュメント作成、さらにはテストといった工程をAIが自動化することで、プロジェクトにかかる期間を劇的に短縮します。工数が削減されることで、人件費をはじめとするプロジェクトコスト全体の圧縮に直結します。
属人化の解消とナレッジの継承
特定のベテランエンジニアの頭の中にしかなかった暗黙知を、AIがソースコードから読み解き、ドキュメントという「形式知」に変換します。
これにより、担当者の退職によるブラックボックス化を防ぎ、組織全体で知識を共有・継承できる体制を構築できます。
客観的で正確な意思決定の支援
AIは、人間の経験や勘に頼ることなく、膨大なソースコードやログを基に客観的なデータを提供します。これにより、「どこに技術的負債が溜まっているか」「どの機能を優先的に改修すべきか」といった重要な意思決定を、データドリブンで正確に行うことが可能になります。
付加価値の高い業務へのシフト
AIに単純作業や分析作業を任せることで、エンジニアは、より創造性が求められる要件定義やアーキテクチャ設計、新機能の開発といった付加価値の高い業務に集中できるようになります。これは、従業員のモチベーション向上にも繋がります。
AIを活用したレガシーシステム刷新の手順
AIを活用したレガシーシステム刷新を成功させるためには、段階的かつ計画的なアプローチが不可欠です。以下に、標準的な導入ステップをご紹介します。
- アセスメント(現状分析と課題定義)
- PoC(概念実証)の実施
- 導入計画の策定とロードマップの作成
- 段階的な導入と評価・改善
- 全社展開と継続的な活用
アセスメント(現状分析と課題定義)
まずは、AI活用を前提とした現状分析から始めます。AI分析ツールを用いて以下などを可視化します。
- ソースコードや関連ドキュメントを読み込み
- システムの全体像
- 技術的負債の所在
- プログラム間の依存関係
この客観的なデータに基づき、「どの業務プロセスに問題があるか」「ビジネス上の最大の課題は何か」を明確に定義します。
PoC(概念実証)の実施
アセスメントで特定した課題の中から、最も解決インパクトが大きく、かつ実現可能性の高いテーマを絞り込み、小規模なPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施します。
例えば、「特定の複雑なプログラムの仕様書をAIで自動生成してみる」「一部のテスト工程をAIで自動化してみる」など、範囲を限定してAIツールの有効性を検証します。ここで、具体的な効果や費用対効果を見極めます。
導入計画の策定とロードマップの作成
PoCの結果を踏まえ、本格的な導入計画を策定します。以下要素を設定します。
- 刷新の対象範囲
- 導入するAIツールや技術の選定
- プロジェクト体制の構築
- 具体的なスケジュールと予算
- 最終的なゴール(KPI)
一気に全体を刷新するのではなく、リスクの低い領域から段階的に進めるなど、現実的なロードマップを描くことが成功の鍵です。
段階的な導入と評価・改善
策定した計画に基づき、AIを活用したモダナイゼーションを段階的に実行します。例えば、まずはAIによるシステム可視化とドキュメント整備を完了させ、次いでリライトやテスト自動化に着手するといった形です。
各フェーズの完了ごとに設定したKPIに対する達成度を評価し、計画を柔軟に見直しながらプロジェクトを推進します。このPDCAサイクルを回し続けることが重要です。
全社展開と継続的な活用
一部のシステムでの成功モデルが確立できたら、その知見やノウハウを活かして対象範囲を全社へ拡大していきます。また、刷新後のモダンなシステムを基盤として、新たなデータ活用やAIを用いた業務改革など継続的なDX推進へと繋げていきます。
レガシーシステムについてよくある質問まとめ
- レガシーシステムとは何ですか?
古い技術や構造のまま使われ続け、現代のIT環境に適合しづらくなった情報システムのことです。COBOLで構築された基幹システムなどが代表例で、国内企業の約8割が抱える課題とされています。保守コストの増大やセキュリティリスクといった多くの問題を内包しています。
- レガシーシステムが抱える「2025年の壁」問題とは何ですか?
経済産業省が指摘する問題で、2025年以降、レガシーシステムの維持が困難となり、システム障害や経済損失に繋がる可能性があるというものです。具体的な課題として、以下の4点が挙げられます。
- メンテナンスコストの増大: IT予算の多くが現状維持に割かれてしまう。
- 保守・運用の継承リスク: 特定の担当者に依存する属人化が進み、業務停滞のリスクが高まる。
- セキュリティ脆弱性の深刻化: 最新のセキュリティ対策が適用できず、サイバー攻撃のリスクが増加する。
- 拡張性の限界: 外部サービスとの連携が難しく、ビジネスの成長を妨げる。
- モダナイゼーションを達成するためのマイグレーションにはどのような手法がありますか?
代表的な手法として以下の5つがあります。
- リホスト: アプリケーションは変更せず、サーバー環境のみをクラウドなどに移行する手法。
- リライト/リファクタリング: アプリケーションを最新の言語で書き直したり、内部構造を整理したりする手法。
- リプレイス: 既存システムを廃棄し、SaaSの導入やシステムの再構築を行う手法。
- API連携による機能拡張: 既存システムは維持しつつ、API経由で外部サービスと連携させる手法。
- リバースエンジニアリング: 仕様書がないシステムの内部構造を解析し、再利用可能な資産を抽出する手法。
- AIを用いてレガシーシステムを刷新するメリットは何ですか?
主に以下の5つのメリットがあります。
- プロジェクトリスクの低減: AI分析によりブラックボックス状態を解消し、想定外のトラブルを防ぐ。
- コストと期間の圧縮: システム解析やテスト工程を自動化し、工数と人件費を削減する。
- 属人化の解消とナレッジの継承: 暗黙知を形式知に変換し、組織全体で知識を共有できる。
- 客観的で正確な意思決定の支援: データに基づき、改修の優先順位などを合理的に判断できる。
- 付加価値の高い業務へのシフト: エンジニアが単純作業から解放され、創造的な業務に集中できる。
まとめ
レガシーシステムの刷新は、もはや先送りのできない経営課題です。メンテナンスコストの増大や属人化といった根深い問題は、ビジネスの成長を直接的に阻害します。
AI、特にLLM(大規模言語モデル)を活用することで、これまで困難とされてきたブラックボックス化したシステムの解析や移行作業を、低リスクかつ短期間で実現できる可能性が広がっています。
しかし、自社のシステムに最適なモダナイゼーション戦略の策定や、具体的なAIツールの選定、導入計画の立案には深い専門知識と経験が不可欠です。
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