Mixture of Experts(MoE)とは?得意分野・採用モデル・メリット・課題を徹底紹介!
最終更新日:2025年06月18日

- MoEは複数の「専門家モデル」と「ルーター」を組み合わせたAIアーキテクチャで、必要な専門家のみを動かす「スパース活性化」により大規模モデルでありながら高い計算効率と高速な推論を実現
- 特に大規模言語モデル(LLM)において、高精度を維持しつつ計算リソースを大幅に削減できるため、リソース制約のある環境下でのAI活用を現実的に
- MoEの導入には学習の安定化や負荷分散などの技術的課題
高精度かつ効率的なAIモデルが求められていますが、大規模なAIモデル、特にLLM(大規模言語モデル)を効率的に運用し、より賢いAIをビジネスに活用するためには新たなアプローチが求められています。
そのなか注目されているのが「Mixture of Experts(MoE)」です。MoEは、複数の専門モデルの中からタスクに応じて必要な一部だけを活性化する仕組みで、処理コストを抑えながら高い性能を発揮できるのが特徴です。
この記事では、MoEの得意分野や代表的な採用モデル、メリット、現状の課題を徹底的に解説します。AI(人工知能)導入を検討している企業担当者の方は、ぜひご一読ください。
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目次
Mixture of Experts (MoE)とは?
Mixture of Experts(MoE)は、複数の「エキスパート」と呼ばれる小さな専門AIモデルを組み合わせて動作するアーキテクチャです。入力ごとに最適なエキスパートのみを選択的に活性化することで計算処理を分担し、共同でタスクを実行する仕組みです。
従来のAIモデル(Denseモデルとも呼ばれる)は、すべての入力に対して全レイヤーと全ニューロンを常に活性化させます。そのため、計算資源やメモリを大量に消費し推論も遅くなる課題があります。
一方、MoEを採用したAIモデルは「ルーター(Router)またはゲーティングネットワーク(Gating Network)」が入力されたデータを適切な専門家に振り分けます。すべてのエキスパートを常に動かすわけではないため、計算コストを大幅に削減でき、数兆個のパラメータを持つAIモデルであっても効率的な運用が可能となります。
特にLLMへの実装が進む中で、計算資源を抑えつつ性能を最大化できるMoEの特性はスケーラブルで実用的なAI活用を目指す企業にとって有望な選択肢です。
MoEが得意とする分野
以下が、MoEの主な得意分野です。
得意分野 | 詳細 |
---|---|
LLM(大規模言語モデル) | TransformerアーキテクチャにMoEを組み込むことで、膨大なテキストデータを扱うLLMにおいて高い性能と効率性を実現 医療データの解析、マルチモーダル学習などへの応用が期待 |
大規模マルチタスク処理 | タスクに応じたエキスパートの選択により、タスクを処理でき、一つのモデルで多用途を実現 |
特定分野における高精度処理 | 専門エキスパートが推論を担うため、法律・金融・医療など高い専門領域において精度が向上 |
計算リソースの効率化が求められる分野 | 計算リソースの制限があるクラウドでもオンプレミス環境でも効率良くモデルを運用可能で、省メモリ・低消費電力化にも貢献 |
継続的なモデル拡張が必要なケース | 新しい知識やタスクに柔軟に対応し、モデルを効率的に拡張していきたい |
MoEは処理効率を維持しながら高い性能を求められる場面で有効で、さまざまな業務やインフラ環境に柔軟に対応できます。
MoEを採用しているモデル
MoEは多くのLLMに組み込まれています。以下が、MoEアーキテクチャを取り入れている代表的なLLMです。
モデル名 | 概要 |
---|---|
Mistral Mixtral | 「Mixtral 8x7B」や「Mixtral 8x22B」など |
Llama 4 |
|
DeepSeek |
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Phi 3.5 MoE |
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GPT-4 |
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MoEの仕組みをわかりやすく(重要用語説明)
ここでは、MoEの中核的技術である「エキスパート・ゲーティングネットワーク・スパース活性化」を紹介します。
エキスパート(専門家モデル)
MoEでは、1つの大きなモデルの中に「専門家(エキスパート)」と呼ばれる複数の小さなAIモデルが組み込まれています。それぞれのエキスパートは、特定のタイプの入力やタスクに強みを持つように設計されています。
たとえば、2つのエキスパートを配置する場合、それぞれが「日常レベルの質問応答」「法律文書の処理」といったように異なる役割を担います。
エキスパートの配置に伴いモデル全体のパラメータ数は増加しますが、一度に使用するのは一部であるため計算効率は向上します。
ゲーティングネットワーク(ルーター)
どのエキスパートを使うかは、AIモデルが自動で判断します。その役割を担うのが「ゲーティングネットワーク」と呼ばれる部分です。ゲーティングネットワークが入力データを分析し、最適なエキスパートだけを選択します。
要するに、AIが自ら「どの専門家に頼めば一番良い回答を得られるか」を選択しているのです。
スパース活性化
MoEには、すべてを一度に使わない「スパース活性化」と呼ばれる仕組みが採用されています。従来のAIモデルは、すべてのニューロンや層を毎回使用するため、膨大な計算リソースが必要です。
一方、MoEでは入力に応じて必要なエキスパートだけが動くため、計算効率を高められます。この仕組みにより、大きなモデルでも現実的な計算量で運用できるのがMoEの強みです。
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MoEのメリット
近年LLMの効率的な運用が求められる中で、MoEのメリットは非常に大きく、実用的な選択肢として注目されています。以下では、MoEのメリットを紹介します。
高いパフォーマンス
MoEでは、特定の領域に特化した専門家が協力することで、単一のモデルでは対応が難しかった複雑なタスクに対しても、より高い精度とパフォーマンスを発揮する可能性があります。特に、入力データの分布が多様で複雑な場合に有効です。
高精度なのに省リソース
モデルが大きく複雑になるにつれ、特にNLP(自然言語処理)やLLMでは数十億〜数兆パラメータ規模への拡張が必然となるため、効率と精度の両立が課題となります。
MoEでは必要なエキスパートだけを選んで処理を行うため、従来のDenseモデルと比較して省リソースでありながら、大規模モデルに匹敵する精度を維持できます。実際にMoEを採用するDeepSeek-V3では、総パラメータ数が6,710億個あるにもかかわらず、推論時に活性化されるのはわずか370億個です。
リソースを削減しているにもかかわらず、幅広い分野で他のLLMを上回る結果を出しています。
MoEを採用したAIモデルを導入することで、高精度・低負荷のAI処理が現実の業務環境でも可能になります。
特化的・汎用的タスクの両方に強い
MoEモデルは、各エキスパートが異なるタスクやドメインに特化できる仕組みゆえに、専門性と汎用性を両立できます。
たとえば、あるエキスパートは法律文書に強く、別のエキスパートは医療データに特化する、など各専門領域に対して柔軟な対応が可能です。また、翻訳・要約・質問応答・コード生成など幅広いタスクに対して最適な処理ルートを自動的に構築できるため、マルチタスク用途でも安定したパフォーマンスを発揮します。
専門的な処理と汎用的な処理を同時にこなせるため、企業の多様な業務ニーズに応えられます。
スケーラビリティに優れる
通常のDenseモデルではサイズを拡張すればするほど推論や学習にかかる負荷も比例的に増大します。
一方、MoEでは各専門家が特定の領域に特化できるため、新しいタスクや領域に対応する際に、既存のモデル全体を再学習する必要はありません。再学習ではなく、新しい専門家モデルを追加するだけで対応できるなどモデルの拡張性が高まります。
このスケーラビリティの高さは、モデルの持続的な成長や多用途展開を見据える企業にとって、大きなメリットといえます。
MoEの課題
MoEは多くのメリットを持つ一方で、導入や運用にあたって注意すべき技術的な課題も存在します。以下では、MoEの代表的な課題を解説します。
学習精度の安定化
MoEモデルでは、入力ごとにエキスパートを選ぶゲーティングネットワークの判断が精度に影響します。ルーターが誤ったエキスパートを選択すると、本来得意なエキスパートが十分に学習されず、モデル全体の性能が低下する可能性があります。
特に未知の分野や長文入力において、ルーターが最適な専門家を選択できない可能性があり、高品質な参照集合の構築が求められる場合があります。
MoEを活用する際は、エキスパートとルーターの両方を最適化する必要があり、複雑かつ高度な学習プロセスの設計が必要です。複数の専門家モデルを効率的に運用するためには、高性能なGPUやTPUを備えた大規模設備や、速なネットワークが前提となる場合があります。
実行効率の低下
学習や推論時に、一部のエキスパートにだけに処理が偏ると計算負荷が集中し実行効率が落ちます。特に、大規模な分散環境ではこの偏りがボトルネックになりスループットの低下やメモリの偏在につながる可能性があります。
そのため、各エキスパートへの負荷をバランス良く分散させる工夫が必要です。このような課題を解決するために、ゲーティングネットワークの改善を試みるなど負荷均等化のアルゴリズム設計が提案されています。
ファインチューニングにおける過剰適合
MoEモデルは大規模な事前学習には非常に効果的ですが、ファインチューニング(微調整)の段階では過学習が起きやすい傾向にあります。限られたデータで学習を行う際に、一部のエキスパートに情報が偏るためです。
そのため、特定の用途には強い一方で、汎用的な活用や安定した再現が難しくなります。実務においては、ファインチューニング時のエキスパート選択や正則化手法といった実装上の工夫が不可欠です。
Mixture of Experts(MoE)についてよくある質問まとめ
- MoEはどのような場面で特に有効ですか?
主に以下の分野でその能力を発揮します。
- LLM(大規模言語モデル)
- 大規模マルチタスク処理
- 特定分野における高精度処理
- 計算リソースの効率化が求められる分野
- 継続的なモデル拡張が必要なケース
- MoE(Mixture of Experts)とは何ですか?
MoEは、複数の小さなAIモデル(専門家)と、入力データを最適な専門家へ振り分ける「ゲーティングネットワーク」を組み合わせたAIアーキテクチャです。特定の専門家のみを活性化させることで、大規模なAIモデルでも効率的に処理を実行します。
- MoEの仕組みはどのように分かりやすく説明できますか?
MoEは、以下の3つの要素で構成されます。
- エキスパート(専門家モデル): 特定のタスクやデータに特化した小さなAIモデル群。
- ゲーティングネットワーク(ルーター): 入力データを分析し、最適な専門家モデルを自動で選択・振り分ける部分。
- スパース活性化: 入力に応じて必要なエキスパートのみが計算を実行するため、モデル全体を使用せず、計算効率を高める仕組み。
- MoEを使うメリットは何ですか?
主なメリットは以下の通りです。
- 高いパフォーマンス: 特定領域の専門家が協力し、複雑なタスクでも高精度を発揮します。
- 高精度なのに省リソース: 必要なエキスパートだけを動かすため、大規模モデルに匹敵する精度を維持しつつ、計算リソースを大幅に削減できます(例: DeepSeek-V3)。
- 特化的・汎用的タスクの両方に強い: 各エキスパートが専門分野を持ちつつ、幅広いタスクにも柔軟に対応できます。
- スケーラビリティに優れる: 新しいタスクや領域に対応する際、既存のモデル全体を再学習せず、新しい専門家モデルを追加するだけで拡張可能です。
- MoEを導入する上での課題は何ですか?
導入における主な課題は以下の通りです。
- 学習精度の安定化: ゲーティングネットワークの選択が精度に影響し、最適な学習プロセス設計が求められます。
- 実行効率の低下: 一部のエキスパートに処理が偏ると計算負荷が集中し、負荷分散の工夫が必要です。
- ファインチューニングにおける過剰適合: 限られたデータでの学習時に過学習が起こりやすく、実装上の工夫が不可欠です。
まとめ
MoEは、LLMの処理コストを抑えつつ性能を維持できるアーキテクチャです。タスクごとに最適なエキスパートのみを組み合わせることで、膨大なパラメータ数を持ちながらも効率的な計算を可能にします。
しかし、MoEの導入には、学習プロセスの複雑性、実行効率の最適化、ファインチューニングにおける過学習への対応など、技術的な課題も存在します。これらの課題を克服し、MoEを最大限に活用するためには、AI技術に関する深い知識と、具体的なシステム設計・実装経験が不可欠です。
貴社がAI導入においてMoEのような最先端技術の活用を検討されているのであれば、ぜひ専門家にご相談ください。
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