RAGの精度を向上させるには?チャンキングなど手法やメリット、低精度で運用するリスクを徹底解説!
最終更新日:2025年01月19日
生成AI、特にLLMの導入が進む中、多くの企業がRAG(検索拡張生成:Retrieval-Augmented Generation)の精度に課題を抱えています。不正確な情報生成やハルシネーションは、顧客対応や業務効率に直接的な影響を及ぼし、さらなるコストや人的リソースの投入を必要とします。
RAGの運用を成功させるには、精度を向上させなければいけません。RAGの精度とは、RAGシステムが生成する回答の正確性、関連性、信頼性を指します。適切なRAGシステム運用を実現するために、さまざまな手法を用いて精度を維持する必要があります。
この記事では、RAGの精度向上が企業にもたらす具体的な価値、RAGの精度を向上させる手法や、精度が低いまま運用するリスクについて解説していきます。チャンクサイズの最適化からハイブリッド検索まで、現場で活用できる手法を網羅的に紹介していきます。
現在RAGを社内で運用しており、精度を落としたくないという方は、ぜひ参考にしてみてください。
RAGについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
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なぜRAGの精度向上が必要?
ファインチューニングよりメンテナンス工数が少ないことで多くの企業が採用しているRAGは、生成AI、特にLLMが情報を回答に反映させる際に、その精度が重要になります。精度を向上させることで、回答の信頼性や利用価値を大幅に高めることが可能です。
関連記事:「RAGとファインチューニングの違いについて開発工数・コスト・効果などの観点から比較」
以下では、RAGの精度を向上させるメリットについて解説していきます。
信頼性の高い回答を得られる
RAGの精度を向上させることで、生成される回答の正確性が飛躍的に高まります。そして、高精度のRAGを活用することで、回答の根拠となる情報を明確に示すことができます。これにより、ユーザーは回答の信頼性を確認しやすくなり、生成AIシステム全体の信頼性が向上します。
適切な情報源から必要なデータを抽出し、それを自然な文章に変換するプロセスが強化されるため、精度向上を実現できるのです。
例えば、大量のドキュメントやデータベースから適切な情報を抽出する技術が高まれば、回答の曖昧さや誤解を減らし、ユーザーが必要としている答えを提供する確率を引き上げます。意思決定を迅速かつ適切に行う上で、RAGの精度は重要な要素となるでしょう。
ハルシネーションのリスクを軽減できる
RAGの精度向上は、生成AIにおけるハルシネーション、つまり実際には存在しない情報を生成してしまうリスクを軽減します。ChatGPTを事業導入するにあたって多くの方が懸念するのが、ハルシネーションであり、そのリスクを大幅に軽減できるかはRAGの精度にかかっています。
関連記事:「ChatGPTの課題をRAGでどのように解決できるか」
誤った情報が回答として提供されることでユーザーの信頼を損なう可能性があるため、特にビジネスや専門的な分野において、ハルシネーションは大きな懸念材料となっています。
しかし、RAGの精度を高めることで、情報抽出プロセスが強化され、最新で正確なデータに基づいた生成が可能になります。不要な誤解やミスを回避し、AIシステムをより安全で信頼性の高いツールとして運用することが可能です。
業務効率の改善
RAGの精度が向上することで、ユーザーが必要とする情報を迅速かつ正確に提供できるようになります。これにより、業務効率が向上し、無駄な時間やリソースの削減が可能となります。例えば、人間による確認作業や修正作業が減少し、情報の二重チェックにかかる時間を削減可能です。
さらに、複雑な問い合わせへの対応時間を短縮できるので、定型的な作業の自動化が進み、従業員はより付加価値の高い業務に集中可能です。結果として、問い合わせ対応の一貫性が向上し、顧客満足度が上昇します。
また、正確な情報を提供することで、誤った意思決定や対応によるコストの増加を防ぐことができます。
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RAGの精度を向上させる手法
以下では、RAGの精度を高める具体的な手法について解説していきます。
チャンクサイズの最適化
チャンクサイズとは、大量の情報をAIが処理しやすいよう小分けにしたデータの単位を指します。チャンクサイズが適切でない場合、関連性の高い情報を抽出できず、回答の精度が低下する可能性があります。
チャンクが大きすぎるとAIが重要な部分を見逃したり、逆に小さすぎると関連性のない情報が混ざるリスクが生じます。
大きくも小さくもない、最適なチャンクサイズを見つけるには、対象とするタスクやデータセットに応じて試行錯誤を繰り返すことが求められます。これには、AIのトレーニングデータの特性や、検索結果から取得した情報の粒度を考慮する必要があります。
単純なサイズ調整に加えて、以下のようなより高度な手法も活用されます。
- 階層的チャンキング:文書を複数の粒度でチャンク化する手法。クエリの複雑さに応じて適切な粒度の情報を取得でき、より柔軟な検索が可能になります。
- セマンティックチャンキング:文書の意味的なまとまりを考慮してチャンク分割を行う手法。文脈や意味のまとまりを保持したチャンクを生成するので、より関連性の高い情報を抽出できる可能性が高まります。
- 動的チャンキング:クエリに応じて動的にチャンクサイズを調整する手法
関連記事:「RAGにおけるチャンクとは?効果やチャンク分割の手法、注意点を徹底解説!」
データセットの整理
RAGで用いられるデータセットが適切に整理されていない場合、AIはノイズや冗長な情報に惑わされ、関連性の低い回答を生成する可能性があります。そのため、信頼性の高い情報源を厳選し、整合性が取れていないデータや古い情報を反映させないことが重要です。
データセットを整理する際には、使用する情報の正確性と関連性を検証し、AIが混乱しないような構造を作る必要があります。カテゴリごとにデータを分類したり、同じトピックに関する情報を一箇所にまとめることで、AIが効率的に必要なデータを検索できるようになります。
また、アップデートされていない情報を削除し、新しい情報を加えるといった、継続的なデータの更新も必要です。データの鮮度を保つことで、最新の情報をベースとした回答を得られるでしょう。
プロンプトの修正・改善
プロンプトはAIに指示を与える手段であり、その設計が不適切であれば、AIは関連性の低い回答を生成する可能性があります。目的に沿ったプロンプトを設計することで、AIは求められる情報を理解し、適切な回答を提供できるようになります。
プロンプトを改善する場合は、明確で具体的な指示を心がけることが大切です。ChatGPTなどの生成AIを使ったことがある方は分かると思いますが、質問が曖昧だとAIが幅広い解釈を行い、的外れの回答を生成してしまいます。そのため、必要な情報や回答の形式を具体的に示すことで、AIが正しい方向に情報を絞り込めるようになります。
さらに、プロンプトを継続的にテストし、AIが生成した回答を評価することも重要です。生成された回答が期待から外れている場合、その原因を分析し、プロンプトの言葉遣いや構造を見直すことで、RAGの回答精度を修正できるでしょう。
関連記事:「生成AI(ジェネレーティブAI)はプロンプトで激変?特徴や上手に作成するコツ」
メタデータの活用
メタデータとは、データそのものに関する情報を指し、作成日や作成者、カテゴリ、タグなどが含まれます。この情報を活用することで、AIが膨大なデータの中から最も関連性の高い情報を効率的に抽出できるようになります。
具体的には、メタデータを用いて情報を絞り込むことで、AIが不要なデータにアクセスするのを防ぎます。例えば、最新の情報が必要な場合には「作成日」を基準にフィルタリングを行います。特定のテーマに関連する回答が求められる場合には、「カテゴリ」や「タグ」を活用します。
また、メタデータを活用することで、回答内容の整合性を保つことが可能です。メタデータによるフィルタリングを行うことで、特定の情報だけを抽出し、それ以外のノイズを除去することが可能です。さらに、継続的にメタデータを更新・最適化することで、最新かつ正確な回答を維持できます。
ハイブリッド検索
RAGの精度を向上させるには、ハイブリッド検索を導入するのも効果的です。
従来の検索方法として主流だったキーワード検索や、意味的検索といった手法は、単独で使うには限界があります。キーワード検索では文脈を正確に理解できず、意味的検索では特定の用語が欠落する可能性がありました。
ハイブリッド検索はこれらの手法を組み合わせることで、双方の利点を活かしながら欠点を補う検索システムを構築できます。
ハイブリッド検索ではキーワードに基づく厳密な一致と、文脈や意味を考慮した一致の両方を活用します。これにより、特定の用語やフレーズが含まれているかどうかを確認しつつ、情報全体の関連性を評価することが可能です。
あるドキュメントが明確なキーワードを含んでいなくても、その内容が質問に対して適切であれば優先的に選択されるようになります。
ハイブリッド検索を導入することで、AIは検索プロセスをより効率的に管理でき、信頼性の高い検索プラットフォームを設計することが可能です。
GraphRAG
GraphRAGは、単純なテキストチャンクの検索ではなく、知識グラフ(ナレッジグラフ)を活用して情報間の関係性を捉えます。2024年7月、マイクロソフトがGraphRAGをGitHubで公開しました。これにより、多くの開発者や研究者がこの技術を利用し、さらなる改善を行うことが可能になりました。
GraphRAGにより、より文脈に即した正確な情報検索が可能になります。従来のRAGでは難しかった複雑な質問や多段階の推論を要する質問に対して、GraphRAGはより適切に対応できます。
知識グラフ(ナレッジグラフ)を用いることで、情報の文脈や関連性をより深く理解し、生成される回答の質を向上させます。大規模なデータセットに対しても効率的に動作し、迅速な洞察生成を可能にします。
GraphRAGは、RAGの精度を向上させるための非常に有望な手法です。知識グラフの構造を活用することで、より深い文脈理解と複雑なクエリへの対応が可能になり、生成される回答の質が向上します。
関連記事:「GraphRAGの特徴やメリット・デメリット、得意な活用分野を徹底紹介」
埋め込みモデルの選択と微調整
埋め込みモデルは、RAGシステムの検索機能の中核を担う重要な要素です。適切な埋め込みモデルを選択し、必要に応じて微調整することで、検索精度を向上させることができます。
例えば、BERT、RoBERTa、OpenAIのEmbeddings APIなどがあります。
タスクに適した埋め込みモデルを選ぶことが重要です。特定の分野や用途に合わせてモデルを選択することで、より関連性の高い検索結果を得られます。
埋め込みモデルの性能を定期的に評価し、必要に応じて更新や再調整を行うことが重要です。
関連記事:「Embedding(埋め込み表現)の概要や必要性、活用事例、他のベクトル化手法との違い、実装手順」
出力結果に対するフィードバック
RAGの精度を向上させるためには、出力結果に対するフィードバックを適切に行うことが欠かせません。AIが生成した回答が適切であるかを評価し、フィードバックすることで、システム全体の性能が継続的に改善されます。
このプロセスは、AIが学習を続け、誤りを減らすのに有効な手法です。
フィードバックを行う際には、出力された回答を検証することが必要です。生成された回答に不正確な情報や曖昧な表現が含まれている場合、その部分を指摘し、正しい情報を提供しなければいけません。
また、回答が期待される形式やトーンに合っているかも評価の対象です。
さらに、ユーザーが提供する評価やコメントをデータベースに蓄積し、それをトレーニングデータとして活用することで、継続的なフィードバックループを構築できます。このような評価・改善のシステムを運用することで、ユーザーが望む精度のRAGを維持することが可能です。
再ランキング処理で類似度が高いスコア順に並び替える
再ランキング処理とは、AIが初期検索で抽出した候補データを再評価し、関連性の高い順に並べ直すプロセスを指します。この段階では単純な検索スコアだけでなく、文脈や意味の類似度を考慮して優先順位が決定されます。
再ランキング処理を取り入れると、ユーザーの質問に対して適切な情報を優先的に抽出することが可能になります。例えば、初期検索で取得した複数の候補が同スコアを持つ場合、質問との意味的な一致度が高い情報を上位に配置し、精度の高い回答を生成できます。
これによって検索結果のノイズを減らし、情報への迅速な到達をサポートします。
再ランキング処理を効果的に行うには、AIモデルのトレーニングに加え、評価指標の設定が重要です。精度や再現性、意味的な一致度などを総合的に考慮することで、リランクアルゴリズムの性能を最大限に引き出すことが可能です。
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RAGの精度が低いまま運用するリスク
RAGの精度が低いまま運用を続けると、回答の品質が低下し、信頼性の欠如や業務効率の低下といったさまざまなリスクが生じます。以下では、RAGの精度を改善しないまま運用するリスクについて解説していきます。
誤情報の提供
RAGの精度が低い場合、誤情報を提供してしまうリスクが高まります。AIが信頼性の低いデータを元に回答を生成してしまうと、事実と異なる内容がユーザーに伝わり、混乱を招く可能性があります。
特に、ビジネスや専門的な分野では誤情報の影響が大きく、業務プロセスに悪影響を及ぼしかねません。意思決定が不正確なデータに基づいて行われると、運営効率の低下や経済的損失につながることも考えられるでしょう。
顧客満足度の低下
低精度のRAGは、顧客満足度の低下を引き起こす可能性もあります。不正確な回答や関連性の低い情報が提供されると、ユーザーはAIシステムに対して不満や不信感を抱いてしまいます。
特に顧客対応やサポートにRAGを活用している場合、この問題は顕著になります。具体的な情報を得られず、何度も問い合わせを繰り返す状況が続けば、ユーザーエクスペリエンスが損なわれます。
また、適切な回答を得られないことで問題解決が遅れると、顧客にストレスを与え、満足度も低下するでしょう。
業務効率の悪化
RAGの精度が低いまま運用されると、業務効率の悪化が避けられません。この場合、生成された回答を修正・補完するための時間や労力が必要になります。これによってスタッフの負担を増大させるだけでなく、重要な業務に集中するためのリソースを圧迫します。
カスタマーサポートにRAGを活用している場合、誤った回答が提供されると、オペレーターがフォローアップ対応に追われることになり、結果として対応時間が長引くことになります。また、業務フロー全体において手動での確認作業や修正が必要となり、自動化のメリットを享受できなくなります。
さらに、効率的な運用ができない状態が続くと、プロジェクト全体の進捗が遅れるだけでなく、企業の生産性にも悪影響を与えるでしょう。
人的リソースの追加やシステム改修が必要
RAGの精度が低い状態で運用を続けると、人的リソースの追加やシステム改修が必要になる可能性が高まります。AIのミスをスタッフが確認・修正を行わなければならず、業務負担が増加します。これにより、人件費の増加や業務フローの非効率化といった課題が生じます。
さらに、RAGの精度を根本的に改善しない限り、同じ問題が繰り返されるため、追加の人的リソースが一時的な解決にしかならない場合もあります。このような状況では、AIシステム自体の改修が必要となり、システムの最適化や再構築にかかるコストが負担となるでしょう。
こうした対応を余儀なくされると、当初期待されていたAI導入のコスト削減効果や効率化のメリットが損なわれてしまいます。このような事態を防ぐためにも、RAGの精度を初期段階から高め、安定的かつ信頼性の高い運用を目指すことが重要です。
RAGの精度向上についてよくある質問まとめ
- RAGの精度を向上させる手法は?
RAGの精度を向上させる方法として、以下の手法が有効です。
- チャンクサイズの調整
- データセットの整理
- プロンプトの修正・改善
- メタデータによるフィルタリング
- ハイブリッド検索の導入
- 出力結果に対するフィードバックを適切に行う
- 再ランキング処理で類似度が高いスコア順に並び替える
- RAGの精度が低いとどんなリスクがある?
RAGの精度が低いまま運用すると、以下のようなリスクがあります。
- 誤情報の提供
- 顧客満足度の低下
- 業務効率の悪化
- 人的リソースの追加やシステム改修が必要
まとめ
RAGの精度向上は、情報の正確性や信頼性を高めるうえで重要な課題となります。
RAGの精度が低いまま運用を続けると、誤情報の提供や顧客満足度の低下、業務効率の悪化といったリスクが顕在化すなる可能性があります。また、法律や医療、金融といった高度な判断が求められる分野では、精度向上が効果的でないケースもあるため、利用方法には慎重さが求められます。
RAGを適切に活用するには、AIの可能性と限界を理解し、適切な手法を導入して改善を続けることが重要です。本記事で紹介した改善手法は、基本的な実装の指針となりますが、実際の導入には個々の企業のデータ特性や業務フローに応じた専門的な調整が必要です。
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