Phi-3とは?MicrosoftがリリースしたSLMのモデル別特徴・活用例を徹底解説!
最終更新日:2024年09月23日
Microsoft社は2024年4月23日に、小規模言語モデル(SLM)「Phi-3」シリーズのリリースを発表しました。AIの汎用化や高度なタスク処理能力が競われる現代において、SLM(小規模言語モデル)で構築されたPhi-3は新たなソリューションと可能性を秘めています。
SLMとは?特徴やメリットは?をこちらの記事で、LLM(大規模言語モデル)についてはこちらで詳しく説明していますので併せてご覧ください。
2024年5月21日には「Phi-3-vision」をファミリーに追加するなど、続々と新しいモデルをリリースしています。AIの導入を検討する企業にとって、Phi-3は注目するべき生成AIと言えるでしょう。
この記事では、Phi-3の特徴やモデル、可能性や活用方法について解説します。
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目次
Phi-3とは?
Phi-3はMicrosoft社が公開した小規模言語モデル(SLM)で、特定のタスク処理を得意とする最新のAI技術です。SLMとして、運用や開発にかかる費用を抑えつつ高性能なAIを活用できるとして、話題になっています。
LLM(大規模言語モデル)に比べてパラメータ数は数百~数千分の1と非常に小さく、タスク処理の高速化やローカルでの活用が可能です。既にPhi-3は4つのモデルを公開していて、さらなる軽量化とマルチモーダル化が進められています。
主な特徴として以下が挙げられます。
- MITライセンスで提供されており、無料で商用利用が可能です。
- Azure AI Studio、Hugging Face、Ollamaなどのプラットフォームで利用できます。
- 主に英語での利用が推奨されているが簡単な日本語の入力は理解できる
AI技術の民主化のための切り札?
Phi-3はエッジデバイスでの活用を実現し、AI技術の民主化に貢献する可能性を秘めています。AI導入には費用や技術などの側面からハードルがありますが、軽量化されたPhi-3ではリソースが限られた中小企業や個人でも利用することが可能です。
これによって、カウンセリングや教育、コンサルティングといったAIの活用が難しいとされている分野で、AI技術の普及やイノベーションの促進が期待されています。
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Phi-3のモデル
Phi-3では4つのモデルがリリースされていて、パラメータ数や用途によって使い分けることが可能です。現在公開されている4つのモデルをそれぞれ見ていきましょう。
Phi-3-mini
Phi-3-miniはパラメータ数が38億とシリーズの中で最も軽量なモデルであり、phi-3ファミリーの中で最初にリリースされました。学習とタスク処理を高速で行えるのが特徴で、チャットボットや音声認識、顧客対応などの用途に適しています。
限られたリソースの中でのAI開発に最適で、小規模なアプリケーションやプロトタイプの開発においても有効です。
Phi-3-small
Phi-3-smallはPhi-3-miniよりも大規模なデータセットでの学習が可能です。パラメータ数は70億と大きくなるものの、より複雑な自然言語処理タスクに対応します。業務プロセスの自動化や要約に加え、コンテンツ生成などクリエイティブなタスクにも活用できます。
軽量性と高性能のバランスが取れており、中規模のプロジェクトやアプリケーションの開発、ローカルLLMでの活用に適しています。GoogleのGemmaやMeta社のLlama 3と同等のサイズでありながら、クオリティの高いタスク処理が可能です。
Phi-3-midium
Phi-3-mediumは広範なデータセットでの学習によって、複雑なタスクにおいて高いパフォーマンスを発揮します。テキスト解析や自然言語生成に加え、コーディングや数式処理など高度な計算にも対応可能です。
大規模なデータを扱う企業や研究機関に適していて、大量のデータ処理が求められる環境で効率的に動作します。パラメータ数は140億とPhi-3ファミリーの中では大きい値ですが、OpenAIのChatGPTに搭載されているGPT-4シリーズと比べると数百分の1程度であり、データ量を抑えることが可能です。
Phi-3-vision
Phi-3-visionは、phi-3ファミリーで初めて画像解析が可能なマルチモーダルモデルです。図や表、チャートなどの視覚情報を解析・処理するタスクに対応でき、Phi-3の中でも汎用性が高いモデルです。
Phi-3-visionはPhi-3-miniに基づいて開発されたため、パラメータ数は42億と小さいサイズとなっています。限られたリソースやローカルな環境でも、自然言語・画像データからの推論や複雑なタスクの処理が可能です。最大128Kトークンのコンテキスト長をサポートしており、コーディングや数式処理におけるベンチマークでも高品質なパフォーマンスを発揮できます。
Phi-3ファミリーの最新モデルとしてサイズ・性能が優れているのが特徴です。幅広いデバイスで活用できる小型モデルでありながら、強力なAI技術を搭載しています。
Phi-3と他のSLMを比較
Phi-3を開発したMicrosoft以外にも、以下のような企業がSLMのAIを開発・リリースしています。
これらのSLMを比較した図(Microsoft公式より引用)を見ると、Phi-3はモデルの豊富さや品質の高さが目立ちます。Phi-3-miniはLlama-3-8B-Inと同じ性能でありながら、少ないパラメータ数を維持しています。また、Phi-3-smallはGemma 7Bと同じパラメータ数でより高いクオリティを実現しています。
Modelの多さや軽量化、マルチモーダルなどの要素から、Phi-3はSLMの中でも代表的なモデルと言えるでしょう。ただしSLMは多くの企業が開発・研究を進めているため、勢力図は変わるかもしれません。
Phi-3の使用における注意点
SLMをベースとしたPhi-3を使用する際は、LLMでできることがPhi-3ではできないケースがあるということを理解しておく必要があります。
Phi-3の使用における注意点を3つ解説します。
対応領域はLLMより狭い
Phi-3は特定のタスクや用途に特化しているため、GPTなどの汎用的なLLMと比較すると対応できる領域は限られています。LLMは広範なデータセットから機械学習でデータを蓄積するため、言語モデルのデータ量には差があります。
例えばテキスト生成において、LLMは多角的に自然言語を処理することが可能ですが、SLMでは偏ったテキストが生成される可能性があると言えます。特定の条件下で高いパフォーマンスを発揮するものの、網羅的な情報においてはLLMほどのクオリティを期待することは難しいでしょう。幅広い分野に対応したいのであれば、LLMの方が効果的です。
対応言語が少ない
Phi-3は対応する言語の数が少ないため、実用する際は注意が必要です。英語がベースとなっていて、日本語で質問しても英語で返ってくるケースがあります。今後のアップデートによって対応言語も増えるはずですが、現状では幅広い言語には対応できないようです。
大規模なデータ分析・推論には向いていない
特定のタスクや環境に最適なモデルである特性上、大規模なデータ分析や推論には向いていないと言えます。Phi-3が軽量性と効率性を重視しているため、大規模なデータセットに対応できるだけのサイズに設計されていません。
例えば、企業内に蓄積したビッグデータの解析や大規模な機械学習モデルのトレーニングといったタスクでは、多くの計算リソースと高度な並列処理能力を備えたLLMが適しています。Phi-3はリソースの最適化が図られているため、処理データ量やタスク量が増えると強みが発揮できません。
Phi-3が秘める可能性や活用方法
高性能化と大規模化が進むAI業界において、コンパクトを追求するPhi-3は可能性を秘めていて、さまざまなシーンでの活用が期待されています。
Phi-3が秘める可能性や将来的な活用方法について見ていきましょう。
エッジデバイス上でのAI活用
データ量やコストを抑えられるPhi-3は、エッジデバイス上でのAI活用を可能にします。エッジデバイス(エッジAI)とはクラウドと実世界をリンクさせる端末のことで、スマートフォンやIoT機器を指します。これらのデバイスにPhi-3を導入することで、リアルタイムのデータ処理や迅速な応答と低消費電力での運用を実現します。
例えば小売店にAIを搭載したエッジデバイスを設置すると、顧客の行動を監視するだけでなく、購買行動の分析も可能です。また、オフィスでは入退室履歴の自動記録や勤務状況の管理にも活用できます。日常的に利用されているエッジデバイスにPhi-3が活用されることで、より効率的なソリューションを提供します。
リアルタイム応答アプリケーションへの活用
Phi-3ファミリーのモデルは、特にリアルタイムでの応答が必要なアプリケーションにおいて、その高度な自然言語処理(NLP)および画像解析能力を活かして多岐にわたる分野で利用されています。以下に、Phi-3のさまざまな活用方法を示します。
- 顧客サポートシステム
- リアルタイム翻訳サービス
- 医療診断と支援
- 自動運転システム
- eコマースのパーソナライズド体験
LLMとの連携
Phi-3はLLMと連携した使い方も可能で、状況に応じた使い分けで業務を最適化できるようになるでしょう。Phi-3のようなSLMのAIモデルはパラメータ数の小ささと特化型のAIという特徴がある一方で、LLMのAIモデルは汎用性や処理能力に優れています。それぞれの言語モデルの長所・短所を理解することで、効率的なAIソリューションの構築が可能です。
例えばPhi-3がリアルタイムでの初期データ処理やフィルタリングを行い、GPTなどの大規模言語モデルが高度な解析や複雑な推論を実行する役割分担にすることで、ハイブリッドアプローチができるようになります。
Phi-3とLLMの連携によって、より強力でスケーラブルなAIシステムを構築し、さまざまなビジネスニーズや技術課題に対応することが可能です。
Phi-3についてよくある質問まとめ
- Phi-3とは?
Phi-3はMicrosoftが開発した小規模言語モデル(SLM)です。ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)に比べてパラメータ数が小さく、特定のタスクに特化した軽量のAIとして注目されています。
- Phi-3のメリットは?
- タスク処理の高速化
- ローカルでのAI活用
- 開発・運用費用の抑制
- Phi-3は日本語に対応していますか?
Phi-3は対応言語が少ないため、日本語で質問しても英語で帰ってきたり不自然な日本語になっている可能性があります。
まとめ
この記事では、Phi-3のモデルや他の言語モデルとの比較、活用方法について解説しました。Phi-3はSLMの中でも多数のモデルの開発に成功していて、代表的なSLMとして注目を集めています。
費用や技術の面からAIを導入できない企業は、Phi-3を検討するべきでしょう。汎用性と大規模化が進むAI業界において、Phi-3は革新的なソリューションと最適化が期待されています。
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