生成AI(LLM・画像生成)の著作権に関する最新情報まとめ!侵害になるケース・事例・注意点を徹底解説!
最終更新日:2024年11月12日
近年、企業がWebコンテンツや研究論文などにおいて、LLM(大規模言語モデル)や画像生成AI等の生成AIを活用するケースが増えつつあり、同時に注目を集めるテーマが「生成AIの著作権」です。AI(人工知能)が生成した文章や生成画像は、意図せず他者の著作物を侵害する可能性があります。
そこで本記事では、文化庁の指針をもとに
生成AIの活用や生成AIを活用したシステム開発を検討している企業担当者は、ぜひ最後までご覧ください。
関連記事:「生成AIとは?種類や使い方、活用事例・従来AIとの違い・注意点を徹底解説!」
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目次
生成AIで作った文章や画像は著作権侵害になる?
大前提として、生成AIの著作権に関しては、以下の文化庁の指針に従うことが適切と考えられます。尚、著作物に国境はなく、日本は万国著作権条約などに加盟しており、世界の多くの国との相互の保護関係を持ちます。その上で、例えばアメリカの著作物が日本で利用される場合には、日本の著作権法が適用されることが原則である、ということは頭に入れておくと良いでしょう。
その上で、著作権の侵害の定義は以下のように定められています。
「生成AIの作品は、既存の著作物との「類似性と依拠性」の両方が認められる際に著作権侵害となる」
参照:AIと著作権に関する考え方について(2024年3月15日)|文化審議会著作権分科会法制度小委員会
下記は、文化庁が2023年6月に公開した「AIと著作権」に関するセミナー資料からの抜粋です。
生成AIで作った画像が著作権侵害になり得るかどうかについては近年頻繁に議論が重ねられ、現時点では上記のように結論付けられています。
生成AIはネット上にあるデータをもとに画像や文章、音声を生成するため、意図的でなくても著作物と類似したものを生成する場合があります。そのため、想定外の著作権侵害トラブルが発生するリスクもあります。
そこで問題になる、著作権侵害が認められる「類似性と依拠性」とは以下を意味します。
- 類似性:後発の作品が既存の著作物と同一または類似していること
- 依拠性:後発の作品が既存の著作物に依拠して作られていること
単に、生成した作品が著作物と似ているだけでは著作権侵害とはならず、作品が明確に既存の著作物の構成や要素を参考にして作られていると認められる場合に著作権侵害が成立します。
著作権侵害の責任を負うのは利用者?開発者?
生成AIを利用して著作権侵害が発生した場合、通常はAI利用者が物理的な行為主体として著作権侵害の責任を負います。AI利用者が既存の著作物を認識していなくても、AIがその著作物を学習していた場合、依拠性が推認され、著作権侵害が成立する可能性があります。
「AI 生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においては、物理的な行為主体である当該 AI 利用者が著作権侵害行為の主体として、著作権侵害の責任を負うのが原則である。」
参照:AIと著作権に関する考え方について【侵害行為の責任主体について】 (2024年3月15日)|文化審議会著作権分科会法制度小委員会
ただし、AIが既存の著作物を学習し、それに基づいて生成されたコンテンツが侵害物となる場合、AI開発者やサービス提供者が適切な措置を取っていない場合には、これらの事業者が著作権侵害の責任を問われることがあります。
著作権とは?
著作権とは、著作物を保護するために法律で定められた排他的権利です。著作権の対象となる著作物とは思想や感情を創作的に表現したものであり、以下が著作物と著作物に当てはまらないものの例です。
著作物である | 著作物ではない |
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アイデアや表現はそのものではなく、具体的な形で表現された場合にのみ著作権が発生します。例えば、「ヒーローが悪役を倒す」アイデアは保護されませんが、そのアイデアをもとに具体的なキャラクターやシーンを描いた作品は著作物として保護されることがあります。
また、著作権は複数の権利に分類されており、特に生成AIを活用する際に注意が必要な権利は以下のとおりです。
- 複製権:著作物をコピーする権利
- 展示権:著作物を公に展示する権利
- 譲渡権:著作物を他人に譲渡する権利
- 公衆送信権:著作物をインターネットなどを通じて公衆に送信する権利
一つの著作物に対して複数の権利(支分権)が定められているため、上記のうち複数の利用行為がある場合は、 個別の利用行為ごとに許諾を得る必要があります。
例えば、著作物をもとに生成した画像を無断で自社コンテンツに使うと、公衆送信権の侵害になります。そのため、安全に生成AIを利用する際には、権利の種類など著作権の基本について押さえておくことが重要です。
著作権は、著作物の権利者から利用許諾を得ていないうえに、私的利用などの権利制限規定にも該当しないにもかかわらず利用した場合に侵害となります。
著作権侵害に該当する場合の罰則
著作権侵害が認められた場合に、侵害者が受ける可能性のある措置は以下のとおりです。
- 差止請求:権利者が侵害者に対して著作権侵害行為を止めるように求めること
- 損害賠償請求:権利者が侵害行為による損害に対して賠償を求めること
- 刑事罰:悪質な著作権侵害行為には刑事罰が科される
上記の措置に伴い、企業としての信頼を大きく損なうことになります。そのため企業が生成AIを導入する際には、これらのリスクを十分に理解し、慎重に取り扱うことが重要です。
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生成AIの開発と生成の段階別に著作権侵害になる・ならないケース
生成AIの著作権は、2018年に改正された文化庁の著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)の「著作権の柔軟な権利制限規定」の内容を押さえることが重要です。非営利目的での利用など、著作権の柔軟な権利制限規定に該当する場合は、著作物であっても権利者から許諾を得ずに利用できます。
以下では、著作権の柔軟な権利制限規定をもとに、著作権侵害になるケース・ならないケースを開発と生成段階別に紹介します。
開発・学習段階
生成AIの開発と学習段階では、著作権法第30条の4に基づき、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用であれば、原則として著作者の許諾なしで行えます。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は例外となります。
「著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」
著作権法第30条の4
開発・学習段階で著作権侵害になるケースとならないケースは、以下のとおりです。
著作権侵害にならないケース | 著作権侵害になるケース |
---|---|
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特に学習データに関しては、Webスクレイピングデータなど数十億点にもなる大量のデータに対して権利者へ個別に許諾を得ることが困難かつ非現実的であることも、許諾が必要とされない理由です。
なお、生成AIの出力をスピーディに評価するシステム(LLM-as-a-Judge)の開発が進められつつあるため、生成AI関連の自動化を目指すためにもあわせてチェックしておくとよいでしょう。
関連記事:「LLMの評価とは?LLM-as-a-Judgeの概要・メリット・活用シーン・注意点を徹底紹介!」
生成段階
生成AIを利用して画像や文章などのコンテンツを生成する際、著作権侵害が発生するかどうかは、人がAIを使わずに手作業で制作した場合と同様の基準で判断されます。
生成段階で著作権侵害になるケースとならないケースは、以下のとおりです。
著作権侵害にならないケース | 著作権侵害になるケース |
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生成されたコンテンツが既存の著作物とどれほど類似しているか(類似性)や、生成物が既存の著作物に依拠して作られたかどうか(依拠性)が重要な判断基準となります。
生成した画像等の公表や販売については、それ自体が直ちに著作権侵害となるわけではありません。これらの行為が著作権侵害に該当するかどうかは、生成されたコンテンツの内容や、既存の著作物との類似性・依拠性によって判断されます。
代表的なテキスト生成AIであるChatGPTでの著作権問題についてはこちらの記事で解説しています。
AIで生成した画像やテキストは著作権を主張できる?
生成AIの作品の著作物性については、一律に判断することは難しく、個別の事案ごとに判断する必要があります。生成AIの作品が著作権の対象になり得るかどうかについて、文化庁の見解は以下のとおりです。
「AIが自律的に生成したものは 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではないため、著作物に該当しない」
参照:AIと著作権に関する考え方について(2024年3月15日)|文化審議会著作権分科会法制度小委員会
生成AIの作品は基本的に「思想や感情を創作的に表現したもの」ではないため、一般的に著作物として保護されないと考えられています。著作権が人間による創作活動を保護するためのものであり、AIが自律的に生成したものには創作者としての人間が関与していないためです。
ただし、生成AIの作品が「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当するかどうかは、人間の創作的寄与の程度によって判断されます。例えば、以下のように生成過程で人間が創作的に関与している場合は、著作物として認められる可能性があります。
著作権を主張できる可能性が高いケース | 具体的な例 |
---|---|
人が創作意図を持ってAIを利用して作成した | プロンプトの入力など、人間が創造的な指示を与えてAIを使用し、作品を生成した |
AI生成物の作成過程で人が創作的寄与と認められる行為を行った | AIが生成した素材を人間が選択・編集・加工するなど、作品の完成に人間の創造性が介在している |
プロンプトに創作性がある | 生成AIに入力するプロンプト自体に創作的表現があり、一定の思想や感情の表現が認められる |
人間の創作的寄与が認められる詳細な指示を与えた | 創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示 |
生成AIを道具として使用した | 人が表現の道具としてAIを使用した |
ただし、これらの判断基準はまだ明確に確立されておらず、今後の法解釈や判例の蓄積によって変化する可能性があります。また、単に「生成」ボタンを押すだけでAIが自動的に生成した作品には、基本的に著作権は発生しないと考えられています。
プロンプトも著作権保護の対象になる可能性
また、生成AIを使う際のプロンプト(指示文)については、著作権の対象になる可能性があります。プロンプトが創造的な要素を持ち、具体的なアイデアや表現に結びついている場合、プロンプト自体が人間の創作物として認められるケースがあるからです。ただし、単なる事実や簡単な指示のみの場合は、著作物とは認められない可能性が高いです。
そのため、公開されているプロンプトを利用する際には、著作権の所在を確認しておくと安心です。
生成AIの著作権トラブルの事例
生成AIの活用が日本よりも進んでいる米国や中国では、生成AIに関する著作権のトラブルが増加傾向にあります。ここでは、海外の生成AIの著作権トラブル事例を2つ紹介します。安全に生成AIを活用するうえでも、海外のトラブル例を参考にしておくと良いでしょう。
米ニューヨーク・タイムズがオープンAI等を記事流用で提訴
2023年12月27日に、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、生成AIを提供する「オープンAI」と同社に出資するMicrosoftを、著作権侵害で提訴しました。
NYTは、オープンAIが同社の記事を許可なくAIの学習データとして使用し、著作権を侵害したと指摘しています。大手報道機関がAIサービス提供会社を訴える初めての事例として注目を集めています。
この訴訟に続いて、全米新聞協会(NNA)に所属する約1,200の地方紙と小規模出版社が、OpenAIとMicrosoftを相手取り、著作権侵害で集団訴訟を起こしています。AIによる無断使用が新聞業界の収益モデルを脅かしていると主張しています。
中国の生成AI事業者が生成したウルトラマンの類似画像が著作権侵害として認められる
2024年2月8日、中国の広州インターネット裁判所は、生成AIが作成したウルトラマンに似た画像が既存の著作権を侵害したとして、生成AIサービス提供事業者に責任があるとする判決を下しました。
これは、中国で初めて生成AIに関する著作権侵害の責任が認められた事例であり、生成AIによって作成されたコンテンツが既存の作品と類似している場合、著作権侵害のリスクがあることを示しています。
生成AIの著作権侵害でトラブルにならないために
生成AIの活用に伴い著作権侵害のリスクを最小限にするためには、生成AIならではの注意点を押さえておくことが重要です。ここでは、生成AIの著作権侵害でトラブルにならないための注意点を紹介します。
生成内容を利用する前に必ず人の目でチェックする
生成AIが出力したコンテンツをそのまま使用することは、潜在的な著作権侵害のリスクを伴います。特に、画像を自社コンテンツで使用する前には必ず人の目でチェックし、既存の著作物と類似している部分がないかを確認することが大切です。
文化庁が発信する生成AIに関する著作権の取り扱いを確認する
生成AIは近年急速に普及した技術であり、法律やガイドラインが生成AIの技術発展に追いついていない部分もあります。そのため、文化庁などが発表するガイドラインや最新の著作権に関する取り扱いを定期的に確認し、適切に対応する体制を整えることが重要です。
法律やガイドラインは今後変更される可能性があるため、常に最新情報を把握しておく必要があります。
使用権のない画像は使わない
生成AIを使用する際には、使用権のない画像を生成することは避けるべきです。例えば、著名なキャラクターや他社のロゴをもとに画像を生成することは、明確な著作権侵害に該当する可能性が高いため、これらをもとにしたコンテンツは使用しないことが鉄則です。
使用権のない画像を利用する必要がある場合には、必ず著作者の許諾を得ましょう。
生成AIサービスを提供する際は著作物への対策を行う
生成AIサービス提供する事業者は、著作権侵害の責任主体となる場合があります。ただし、事業者が生成AIが既存の著作物の類似物を生成しないように措置を講じている場合には、侵害主体と評価される可能性は低くなります。
そのため、著作物に依拠しない形でAIを学習させることや、生成されたコンテンツのチェックプロセスを整備することが重要です。
生成AIの著作権についてよくある質問まとめ
- 生成AIで作成したコンテンツはすべて著作権侵害に該当するのでしょうか?
いいえ、生成AIで作成したコンテンツがすべて著作権侵害に該当するわけではありません。著作権侵害が発生するかどうかは、生成物が既存の著作物とどれほど類似しているか(類似性)や、それが既存の著作物に依拠しているか(依拠性)によって判断されます。
- AIが自動で生成したコンテンツには著作権が発生しますか?
AIが自動で生成したコンテンツには、基本的に著作権は発生しません。著作権は人間の創作活動を保護するためのものであり、AI自体が生成した作品には創作者としての人間が関与していないためです。
まとめ
生成AIの活用が進む中、著作権に関するリスクとその対応策を理解することは、企業にとって特に重要です。生成AIによって生成された作品が著作権侵害に該当するかどうかは、類似性や依拠性をもとに判断されるため、使用する前に必ず人間の目でチェックすることが大切です。
生成AIを安全かつ効果的に活用するためには、常に最新の著作権に関する文化庁の指針や各ツールの利用規約に注意し、適切な対応を取ることが、生成AIビジネスにおける成功の鍵となるでしょう。
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