AIで薬局と薬剤師はどう変わる?効率化できる業務や、活用・導入事例を徹底解説!
最終更新日:2024年11月14日
薬局の業務を効率化し、正確性・安全性も上げられるツールとして注目を集めているAI。「薬局の人材不足を解消したい」「無駄な業務を減らして薬剤師の労働環境を良くしたい」期待に応えて、数年前から導入され、業務の効率化を達成しています。
本記事では、AIによって効率化できる薬局の業務やAIを導入するメリット・デメリットを解説します。調剤薬局への導入事例も紹介しているので、最後までお読みいただければ、実際にどのように活用しているのかを知ることができます。
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製薬業界でのAI活用事例についてはこちらの記事で解説していますので併せてご覧ください。
また、ドラッグストアなど小売業界で活用できるAIの技術種類についてはこちらの記事です。
目次
AIの導入で効率化できる薬局の業務は?
AIは「何でもできる」イメージがあるかもしれませんが、調剤薬局のすべての業務を効率化できるわけではありません。AIは、決められた条件内での処理であれば人間よりはるかに速いスピードで仕事をしてくれます。しかし「人・感情によって対応を変える」臨機応変な仕事では、まだ人間が上回ることが少なくありません。
ここでは、AIの導入で効率化できる以下業務でどのように効率化できるかを紹介します。
- 受付業務
- 調剤業務
- 薬剤管理
- 事務作業
それぞれの業務について説明します。
受付業務
薬局での受付業務にAIを導入することにより、蓄積データからより正確な待ち時間が推定できたり、受付業務に割いていた人員を削減したりすることが可能です。多くの業界の受付業務でAI導入が進んでおり、薬局でも取り入れている店舗が多くあります。
感染症の流行により「病気の方が集まりやすい薬局で長居したくない」と感じる人も増えています。LINEなどのSNSツールや電話番号を登録することによって、空きができたら自動で呼び出すサービスを使って対応することもできるでしょう。
調剤業務
調剤業務は薬剤師のメインの仕事ですが、最も「正確性」が求められるため人間で全部行うよりもAIを導入するのに向いている業務でしょう。調剤業務のような型がある程度決まっている作業はAIの得意分野であり、導入している薬局が多くあります。
加えて、AIの技術では調剤後のチェックを効率よく行うことができます。AIの画像認識を利用すれば、指定した薬が必要数だけ入っているか確認可能です。
AIによる画像認識の仕組み、種類、メリット・デメリットについてはこちらで解説していますので併せてご覧ください。
また、AIによる画像認識で開発実績豊富な会社をこちらの記事で特集しています。
ただし、調剤業務を全てAIに任せるとなると大幅な機械化が必要となり、初期費用がかかるデメリットがあります。それでも、長期的には大幅な省力化が可能です。このように、調剤業務は薬局業務の中でもAIが省力化に最も貢献できる分野と言えます。
薬剤管理
薬剤管理は、調剤業務と同様に「正確性」が求められる業務です。薬剤管理をAIに任せることで、患者への処方状況や在庫管理をより正確に行うことができるので、処方ミスや在庫不足などの状況を防ぐことができます。在庫管理は、既に多くの業界でAIが導入されている分野です。
AIによる在庫管理の仕組み、導入事例、メリット・デメリットについてはこちらで解説していますので併せてご覧ください。
また、調剤業務を行うAIとデータベースを共有することで、記録の手間をかけることなくリアルタイムの在庫状況を確認できるようになります。棚卸業務の大幅な効率化ができ、薬剤師の負担軽減になるでしょう。
薬剤管理は、調剤業務と併せてAI化されることの多い業務で、より正確な在庫管理ができるようになります。
事務作業
AIは、受付の情報を元に調剤し、薬剤師に届けるまでを一貫して行うことができます。この流れの中でAIは「在庫管理」「金額の算出」「処方状況の登録」の事務作業を瞬時にこなして記録までできます。
薬局全体をAI化することで、打ち込みや計算などほとんどの事務作業をAIに任せることが可能です。これにより、薬局事務員の作業を大幅に削減でき、人手不足問題を解消することまでできます。
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薬局業務にAIを導入して得られる3つのメリット
薬局にAIを導入すると、以下のメリットを享受できます。
- 人件費を削減できる
- 薬剤師の業務量が減る
- サービス品質の向上で顧客の囲い込み
- 正確性が向上して患者の安全を守れる
それぞれのメリットについて説明します。
人件費を削減できる
AIは従来人が行っていた作業を代替してくれるため、人が行う業務量が減り、少ない人員で薬局を回せるようになります。初期費用こそかかりますが、システムが使える限り人件費を削減できるため、結果的に経済面でも得ができる可能性が高いです。
薬剤師の業務負担が減る
AIを導入すれば、調剤業務や薬剤管理などといった薬剤師しか行えなかった仕事の負荷を減らすことができます。薬剤師が対人業務により多くの時間を割くことができるため、患者対応の質を向上させることが可能です。
厚生労働省が調剤薬局のあり方を「薬を正しく飲んでもらう」方向にシフトしている中で、AIに単純作業を任せるのは合理的と言えるでしょう。
サービス品質の向上で顧客の囲い込み
調剤薬局の業務は、単に病院で処方された薬を調剤して患者に提供する業務から、患者のトータルの健康と福祉をサポートする総合サービス業務に変化しています。まずはAIによる受付業務で待ち時間を減らし、スピーディにサービスを提供することは必須となるでしょう。そして、多くの患者が煩雑に感じる服薬履歴の管理や、複数医院からの投薬を適正に管理する高度なサービスが求められています。AIによって高度なサービスを提供することで、顧客の囲い込みが可能になるでしょう。
正確性が向上して患者の安全を守れる
調剤業務と薬剤管理では「正確性」が重視されますが、正確性では人よりもAIの方が優れています。人が監査するだけではどうしてもミスが発生してしまいますが、AIによる監査も入ることで、より正確な処方が可能になります。
薬局にAIを導入する際の3つの注意点
薬局へのAI導入はメリットが多くある反面、デメリットもあります。
初期費用がかかる
AIを導入するには大きな初期費用が必要になります。特に、「調剤業務」「薬剤管理」をAI化するためには調剤室の機械化が必要になるため、システム導入に大きなお金がかかります。
一方、小さな初期費用から始められるのが「受付業務」のAI化です。維持費こそかかりますが、システム利用料・タブレット・印刷機の3つを用意すれば始められるので、少額の費用で受付業務をAI化することができます。
いずれにしても初期費用はかかりますが、人件費を削減しながら運営できるようになるため、初期費用を十分に回収できるでしょう。
AI開発に向けての費用相場、開発費用の考え方についてこちらの記事で解説していますので併せてご覧ください。
情報セキュリティの懸念
クラウド上のサービスを使う際には、個人情報を守り抜ける強固なセキュリティが必要です。薬局内の情報はプライバシーに大きく関わるものばかりなので、セキュリティが強固なサービスを選ぶようにしましょう。
薬局に特化したAIシステムは多数ありますが、その中から最適なAIを選ぶことが効率化の大きなポイントとなります。代替したい業務によって必要なAIは変わるため、どの業務を削減してどのような結果を得たいのかを明確にしてAIを選ぶようにしましょう。
AIを運用するための知識が必要
当然ですが、AIを導入するとAIを継続して運用していかなければいけません。大幅にAI化した薬局でシステムトラブルが発生すると、最悪の場合、薬局自体が機能しなくなってしまうため、PCなどのIT機器に関する最低限の操作知識が必要になります。
AIでは効率化できない薬局業務は?
薬局の業務の中には、AIで効率化できないものもあります。それが「服薬指導」と「薬剤監査」です。
服薬指導
正しく薬を飲んでもらうように指導する服薬指導は、相手の年齢・感情等を見ながら行わなければなりません。今のところAIよりも人の方が得意としている業務ですし、患者側にもAIへの慣れがもっと必要です。
服薬指導は、患者が正しく薬を飲めるよう指導することです。2019年4月に厚生労働省が通知した「0402通知」には、服薬指導などの対人業務が薬局の行う本質的業務であるということが示されました。今後も当分はAIではなく人が行っていく業務となります。
それでも、後述するさくら薬局の実例のように服薬指導の補助としてAIを活用する動きは広がっています。
薬剤監査
薬剤監査は「医師が作成した処方箋が適切で、間違いがないかを確認する業務」であり、一見AIに任せられる業務に見えますが、人の監査が欠かせない業務となります。
人が欠かせない理由は2つあり、1つ目は医師への確認業務が必要となるためです。
監査の結果、異常な処方箋があった場合、医師に確認する必要があります。薬剤監査では、その説明を聞いて納得できるかどうかを判断する必要があるため、AIが担当することはできません。
2つ目の理由は、システムトラブルがあった場合の誤った処方を防ぐためです。
AIは決められたシステムで動きますが、何らかのシステムトラブルがあった場合には、誤ったシステムで作動する可能性があります。薬は命にかかわる問題のため、最終的には人による監査が欠かせません。そのため、AI単独による薬剤監査はできなくなっています。
薬局のAI導入事例3選
薬局にAIを導入している事例を3つご紹介します。
2時間かかっていた在庫管理業務が1時間に半減(Musubi)
方南町共立薬局は、株式会社カケハシが提供するMusubiのAI在庫管理機能を用いることにより、2時間かかっていた在庫管理業務を半分の1時間に半減することができました。
AIを導入する前までは、在庫を正確に把握するのが現実的に不可能であったため、「箱を開けたら発注する」というルールで発注するしか在庫漏れを防ぐ方法がありませんでした。
これを解決したのが、AIによる在庫管理システムです。利用したAI在庫管理システムは、患者の来客予定と在庫が紐づいているため、必要な薬を適切なタイミングで発注できるようになりました。
蓄積データによる正確な服薬指導が実現(クラフト/さくら薬局)
クラフトは、似た状況下における服薬指導や疑義照会などの蓄積データを薬剤師に提供することで、より正確な服薬指導が可能になるAIシステムを提供しています。クラフトは自社でさくら薬局グループを運営しており、自社店舗薬剤師の調剤業務、医療事務職の業務をサポートするため、調剤支援システム「SPITS」と薬剤師支援AIソリューション「AIPS」を自社開発しています。
「AIPS」は、全国のさくら薬局で蓄積される調剤データをAIのパターン学習で解析します。作業している薬剤師のキャリアに応じて、疑義照会の必要性や服薬指導の注意点をリアルタイムで表示します。薬の品目と数量を同時にチェックすることで調剤ミスを防ぎます。
これまで、薬剤師の技量によっては服薬指導のレベルに差が出ていました。しかし、クラフトのAIシステムを利用すれば、似た状況で過去にどのような服薬指導がされているのかを参照できるため、同業者の前例を参考に服薬指導ができるようになります。
また、薬局の立地や経験年数などを指定して前例を探すこともできるため、操作者と似た状況でどのような服薬指導をしたのかも確認可能です。
服薬指導はAIの導入が難しい業務ですが、このように補助役としては有効活用することができます。
自然言語解析で薬剤師とのやり取りを分析(FRONTEO/健康サロン)
FRONTEOは、健康サロン株式会社が提供する薬局業務サポートツール「あなたの調剤薬局」と提携して顧客のインサイト分析を行っています。「あなたの調剤薬局」は、薬局の集患課題から業務課題までを総合的にサポートするサービスです。FRONTEOは自然言語処理に特化したAIエンジン「Concept Encoder(コンセプトエンコーダー)」を開発しています。
FRONTEOでは「あなたの調剤薬局」を通して蓄積したテキスト情報をConcept Encoderで自然言語処理し、顧客の隠れたニーズを分析します。薬剤師と患者との間で交わされるコミュニケーションには、服薬状況や治療への満足度、副作用に関することなど重要な情報が含まれています。しかし、これまで解析されて活用に結びつけることはされていませんでした。
このサービスでは、AIが薬剤師と患者の会話から患者の本音をAI分析によって導き出すことができるため、薬局のサービス向上に繋がる顧客ニーズを収集することが可能です。より患者に寄り添った薬局運営ができるようになり、結果的に患者と良好な関係を築き上げることが可能となっています。また、薬局を起点とした新たなサービス創出も期待されています。
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薬局でのAI活用についてよくある質問まとめ
- AIを導入することで効率化できる薬局業務にはどのようなものがありますか?
AIで効率化できる主な薬局業務は以下の通りです。
- 受付業務: 待ち時間推定、自動呼び出しシステム
- 調剤業務: 薬の自動ピッキング、画像認識による確認
- 薬剤管理: 在庫管理の自動化、処方状況の管理
- 事務作業: 金額計算、処方状況の登録、在庫管理など
- 薬局にAIを導入するメリットとデメリットは何ですか?
薬局にAIを導入するメリットとデメリットは以下の通りです。
AIを導入するメリット:
- 人件費の削減
- 薬剤師の業務負担軽減
- サービス品質向上による顧客囲い込み
- 正確性向上による患者安全性の確保
デメリット・注意点:
- 高額な初期費用
- 情報セキュリティへの懸念
- AI運用のための知識が必要
- 薬局でのAI活用の具体的な事例にはどのようなものがありますか?
薬局でのAI活用事例は以下の通りです。
- Musubi(カケハシ): AI在庫管理で業務時間半減
- AIPS(クラフト/さくら薬局): 蓄積データを活用した服薬指導支援
- Concept Encoder(FRONTEO/健康サロン): 自然言語解析による顧客インサイト分析
まとめ
薬局でのAI活用は、業務量の削減や正確性の向上に大きく役立つため、職場環境の改善や顧客満足度の向上につながります。また、薬剤師の負荷を軽減し、薬剤師しかできない重要業務に集中することができるでしょう。
それぞれのニーズに合わせた適切なAIを選ぶことで、結果的には事業面でも長期的な利益を得ることが可能です。運営コストや人件費の削減、省力化による従業員の負担軽減を達成したいと考えているならば、AIを導入してみてはいかがでしょうか。
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高専、理系国立大学にて工学・農学を専攻後、AIを中心にテクノロジー調査や記事執筆を実施中。
AI開発会社やDXコンサルファームにて、AIのビジネス活用やテクノロジーの技術調査記事などを多数寄稿している。