AIは地熱発電業界を変える?活用方法・メリット・事例を徹底解説!
最終更新日:2024年09月23日
地熱発電は、AIの活用により開発の効率化や今まで技術者の経験に頼っていた部分を客観的に分析するなどさまざまな領域で活用され始めています。地熱発電はクリーンエネルギーとして世界的に注目されていますが、さまざまな課題に直面しています。そのため各企業や政府は、AIの活用により地熱発電をさらに普及させようとする動きが始まっています。
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地熱発電業界が直面している課題
地熱発電は、風力発電、バイオマス発電、水力発電、太陽光発電と並んで日本における再生可能エネルギーの中心的存在として位置づけられています。地熱発電業界が直面している課題には発電コストが高い・地熱発電に適した土地開発ができていないことが挙げられます。ここではこの代表的な2つの課題を解説していきます。
発電コストが風力発電の5倍
地熱発電は発電コストが風力発電の約5倍かかるという課題があります。地下1,000〜3,000mの深さまで掘削作業する必要があり、地熱発電は鉱山の坑内にある抗生の掘削費が最大のコストと言われています。風力発電は平均で1メガワットあたり約180万ドルに対して、地熱発電は約870万ドルの費用がかかります。
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地熱発電のプロジェクトのほとんどで掘削費がコストの半分を占めていると言われています。地熱発電で利用する蒸気のエネルギー密度の問題もあり、大きな発電量が期待しにくいため、地熱発電はコストパフォーマンスがいいとは言いにくい現状があります。
地熱発電に適した土地開発ができていない
地熱発電に適した土地開発が日本では特に難しいという課題も存在します。日本は世界第3位の地熱資源を持つ国ですが、地熱発電が普及していない原因は、地熱発電の80%以上が国立公園や温泉地付近に存在していることです。国立公園は法律によって開発が制限されており、温泉地付近でも温泉法の制限がかかります。
現在は規制が緩和され始めていますが、従来は都道府県に許認可を得る必要があり、その判断基準も統一されていなかったため手続きが困難でした。温泉業者からの反発なども考慮する必要があり、観光資源という観点からも安易に土地開発が難しい要因となっています。
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地熱発電領域でAIを活用する方法とメリット
地熱発電領域でAIを活用する方法は、ビッグデータの解析によるトラブル防止・地熱発電の貯蓄層を効率的に掘り当てることが挙げられます。メリットには、発電設備や貯留層の管理を効率化できるなどがあります。 AIの活用で地熱発電の普及に前進する動きも見られているため、ぜひチェックしていきましょう。
ビッグデータ解析による運転トラブル防止
地熱発電で、AIを活用したビッグデータ解析による運転トラブル防止があります。ビッグデータ解析で、過去に発生したトラブルを含む運転データとリアルタイムデータを解析し、異常兆候などのトラブルを招く事象を予知できるようになり、予兆診断システムとして実装されています。
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例えば、産業技術総合開発機構(NEDO)は、AI技術を用いて発電所で発生するトラブルを20%抑え、発電所の利用率を10%向上するように目指すことを発表しました。実証実験では将来予測をして導入前と比較し20%以上トラブル発生率を抑制できたことが報告されています。
地熱の貯留層を効率的に掘り当てる
AIを活用して地熱の貯留層を効率的に掘り当てる技術も開発され始めています。AIモデルで過去の掘削場所を学習し、最適な掘削場所を見つけることを目指しています。
地熱発電は掘削にかかるコストが大きいため、利用・販売コストを下げることが難しく、クリーンエネルギーの中でも普及しにくいと言われています。しかし、AIにより効率的に最適な掘削場所を見つけられるようになると掘削にかかる建設費用の抑制にもつながり、地熱発電普及の期待がされています。
地熱発電設備や貯留層の管理を効率化
AIの活用により地熱発電設備や貯留層の管理を効率化するメリットがあります。機械学習を用いて貯留層の温度、圧力の影響、地震などの振動に関するデータを学習させてリアルタイムでモニタリングできる技術が開発されています。
さらに、モニタリング結果を用いて涵養水の流動に関するシミュレーションの開発も行われ、発電設備に関する管理の効率化に向けた動きも見られています。
地熱発電業界のAIを活用している具体的事例
地熱発電業界ではすでにAIを活用して効率的な発電に取り組んでいる企業があります。ここでは地熱発電においてAIを活用した具体的事例を紹介していきます。
【Zanskar】地中の熱源位置を予測
アメリカのユタ州にあるスタートアップZanskarは、大量のデータを分析した機械学習を用いて地熱に最適な掘削場所や熱源位置を見つけるモデルを開発しました。地熱発電の大きな課題の1つである最適な掘削場所の特定にAI技術を活用しています。Zanskarによると過去10年で発見した地熱資源よりも多くの資源を1年半で発見したと報告しています。
Zanskarのシステムは、衛星、地質調査、地震波など多様なソースからのデータを活用し、複数の機械学習モデルを用いて掘削に最適な場所を予測します。膨大なデータをAIで分析することで電力を抽出する最も有望な場所を特定します。
新しい地熱発電所の建設に必要な資本を大幅に削減できると期待され、ベンチャーキャピタルからの資金調達も成功しています。今後は顧客向けの発電所建設だけでなく、既存の地熱発電業者との共同開発も行っていく予定です。
【東芝エネルギーシステムズ】タービンへの薬剤使用量や使用タイミングの効率化
東芝エネルギーシステムズは、地熱発電所の利用率向上を目指して薬剤使用量や使用タイミングを効率化する技術を開発しました。地熱発電では、地熱の蒸気に含まれる固形成分がタービン内で凝固して析出してしまい、スケールという地熱水の輸送を阻害する物質が発生するという問題があります。
これを抑制するためにスケールの発生を抑える薬剤が利用されています。東芝エネルギーシステムズ株式会社は、AI技術を活用して地熱発電所の運用効率を向上させるスケール形成抑制技術を開発しました。
この技術は、界面活性剤(PVP)を蒸気中にスプレーすることで、タービン内部表面へのスケールの付着を防ぎます。AIを用いたデータ解析により、スケール形成のメカニズムを理解し、効果的な界面活性剤の分散方法を導き出しました。
実際の地熱発電所において、PVP添加によるスケール形成抑制の実証試験を行った結果、スケールの付着が大幅に減少し、発電効率が向上することが確認されました。
【東北大学流体科学研究所】地熱エネルギーの資源量を予測
東北大学流体科学研究所では、AIを活用して地下の状態を把握したり、予測・設計したりするモデリングを作成しています。従来は数値モデルを直接計算し、実測のデータと比較してどの程度ずれているか何度も計算して最適化を行ってきました。東北大学の技術は、計測データを基に地下の状態を迅速かつ正確に推定し、実際の地熱フィールドで高い精度を実証しています。
AIを導入することで、AIが過去の計測データを学習し、実際の計測データを自動的に数値モデルとして推定し、地熱エネルギーの資源量を予測していきます。入力データを自動的にかつ高速化して予測できることに加え、客観性の向上にもつながり、地熱開発の加速化の期待が高まっています。
【地熱技術開発株式会社】シミュレータによる地熱発電の利用率維持・向上
地熱技術開発株式会社と三菱重工業は、地熱発電所のデータを統合管理するシステムを構築し、AIを使って運用の最適化を図っています。従来では設備ごとに管理業者が異なっており、運転データもその業者ごとに管理されているため適切な管理ができず、貯留層の直接的な観測が困難であるという問題を抱えていました。
これらを体系化するにあたりクラウドを活用したIoTシステムの構築を実施し始めています。一元化されたデータをもとにシミュレータを用いて設備の異常・劣化検知や資源利用の最適化を行い、データベースに保管し、さらなる管理の効率化をはかります。さらに、地下の状態をリアルタイムで監視し、AIを用いて貯留層の変化を予測します。
【産業技術総合研究所】AIがデータを分析し地下の温度分布などを推定
産業技術総合研究所ではAIを活用して、地下の温度分布や高い透水性の領域がどこにあるかの分布を高精度で推定できる技術の開発を行っています。AIが地表調査データや坑井データを学習することで地下の高温・高透水ゾーンの位置を推定できるモデルを開発し、サービスに展開することで掘削成功率の向上に貢献できることが期待されています。
多項目データ(地表、坑井、物理探査データ)を統合して解釈するAI技術を開発し、地下の温度分布や高透水性領域を正確に推定します。この技術により、掘削リスクを低減し、地熱発電の効率的な運用が実現されています。
従来ではさまざまなデータを経験的な観点から推定したり、開発の初期段階で得られるデータに限界があるなど属人的な側面が強い問題がありました。AIの活用により多項目データをAIが解釈し、客観的に推定できることが可能になりました。掘削成功率の向上や地下状態の時間変化の検出に貢献し、地熱エネルギーの持続可能な利用を支援します。
地熱発電業界でのAI活用についてよくある質問まとめ
- 地熱発電業界が直面している主な課題は何ですか?
地熱発電業界の主な課題は、発電コストが風力発電の約5倍と高いこと、および地熱発電に適した土地開発が特に日本では難しいことです。
- 地熱発電領域でAIを活用するとどのようなメリットがありますか?
AIを活用することで、ビッグデータ解析による運転トラブルの防止、機械学習を用いた最適な掘削場所の特定による掘削コストの削減、発電設備や貯留層の管理の効率化などのメリットがあります。
まとめ
今回はAIが地熱発電業界にどのように影響しているのか、活用方法や具体的な事例を見ていきながら解説してきました。AIを活用することで、地熱発電所の運転トラブル防止や地熱資源の推定など今まで大きな工数が発生していた部分の短縮を実現しています。
クリーンエネルギーとして期待が寄せられている地熱発電にとってAIの活用は今後もさまざまな領域で活用されることが期待されています。ぜひ今回の記事を参考に自社のソリューションにどう生かせるのかぜひ検討していきましょう。
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