錠剤検査とは?重要性・検査項目・AIを活用する最新検査装置を徹底解説
最終更新日:2024年11月09日
錠剤検査は、錠剤の安全性と有効性を確保するうえで重要なプロセスです。錠剤の外観・成分異常を徹底して検査することで、不良品の流出を防ぎ、安全で安心な医薬品を提供できます。
特に近年では、ディープラーニングをはじめとするAI(人工知能)技術の進化により、従来の目視検査や従来型のシステムに比べて、より高精度かつ効率的な検査が実現しつつあります。
本記事では、
近年注目を集めるAIが、どのようにして製薬業界に貢献するのかを理解できる内容となっていますので、製薬会社の製造ライン・品質管理に携わる方や製薬関連の研究施設ご担当者は、ぜひ最後までご覧ください。
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錠剤検査とは?
錠剤検査とは、医薬品の製造過程で錠剤の外観や品質を確認し、錠剤が安全かつ規定の品質基準を満たしていることを保証するための検査です。錠剤の形状や色、印刷内容などあらゆる項目を検査し、欠陥や異常がないかを確認します。
従来錠剤検査は検査担当者の目視により一つずつ確認していましたが、近年は検査装置による機械化・自動化が進められており、高能率な検査が実現しています。
近年は、AIを用いた画像認識技術により、人間の目では見逃してしまうような微細な欠陥や異常も高精度で検出することが可能になっています。
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錠剤検査はなぜ重要?
錠剤検査は錠剤の品質を保証し、消費者に安全な医薬品を提供するために不可欠です。錠剤検査を経ることで、製造過程の早い段階で欠陥を特定し、市場に不適合錠剤が出回るのを防げます。
また、錠剤の安全性を確保するだけではなく、製薬企業が法的規制を遵守するためにも重要です。製薬企業は、厚生労働省が定める厳しい規制を遵守しなければなりません。
特に薬機法では、製造プロセスや最終錠剤の定期的な検査など、包括的な品質管理措置を義務付けています。各規制を遵守することで、錠剤の安全性を確保するだけでなく、法的な問題やリコールのリスクから企業を守ります。
主な錠剤検査項目
錠剤検査では、以下のような項目が主に検査されます。
- 異物・黒色汚れの検出:微小な汚れの濃度変化や大きさを検出
- 色汚れの検出:微細な色の変化や汚れを検出
- 形状不良の検出:直径、面積、厚みを基準値と比較して形状の異常を検出
- 異色錠の検出:色調の違いを検出し、基準外の錠剤を特定
- 印刷汚れの検出:刻印のズレや汚れをマッチング比較で検出
- 刻印検査:刻印が正常で読み取れる状態かを確認
これらの検査項目を通じて、錠剤の品質と安全性を確保し、消費者に信頼できる医薬品を提供することが可能になります。
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最新の錠剤検査装置に求められる重要要素
今後ますます、錠剤検査の判定の精度向上や高精度化が求められる中で、3DカメラやAI、エリアセンサーなど最新鋭の技術を活用した錠剤検査装置が開発されています。ここでは、最新の錠剤検査装置に求められる技術要素について解説します。
CCDカラーカメラやエリアセンサーによる精密な外観検査
CCDカラーカメラやエリアセンサーを活用することで、錠剤の外観検査がより精密かつ高速に行えるようになります。
CCDカラーカメラとは、電荷結合素子を使用して画像を撮影し、カラー情報を取得できるカメラです。色を正確に再現できるため、錠剤の色ムラや変色などを迅速に検知することが可能です。
一方、エリアセンサとは赤外線などの光学技術を利用して、一回の撮影で平面を捉えられるセンサーです。錠剤の外観検査での微細な欠陥検出やサイズが基準を満たしているかを判定する際に役立ちます。
例えば、東芝デジタルソリューションズの「PTP外観検査装置BLISPECTOR 3000」は、エリアセンサカメラと照明を使用し、PTPシート上の錠剤とシートに発生する欠陥を検査するシステムです。従来の装置では検出が難しいシートのしわや錠剤周辺部の欠陥の検出が可能なため、錠剤検査の効率化や歩留りの向上に貢献しています。
いずれの外観検査技術も、錠剤の表面の傷や欠け、色変化などの微細な不良を迅速かつ高精度に検知するうえで欠かせません。
3Dカメラによる立体的な検査
錠剤の立体的な形状や高さの異常を検出するうえで、3Dカメラは効果的な検査技術です。3Dカメラの仕組みについてはこちらの記事をご覧ください。
例えば、SCREENホールディングスの錠剤検査装置「STIMA」では、独自開発のミラーレンズ検査カメラを用い、1度の撮影で斜め4方向からの画像を同時に取得し、欠陥の有無を認識できます。この方法により、錠剤の側面・表面外・表面中心・エッジ・割線を抽出でき、錠剤の全周を網羅した死角のない検査が可能です。
3Dカメラによって錠剤の微細な凹凸や形状の歪みを立体的に計測できるため、通常の2Dカメラでは見逃しやすい欠陥も高精度に検出できます。これにより、より高度な外観検査が可能となり、不良品の検出率が大幅に向上します。
LED照明やレーザー照明による精度の安定
3Dカメラなどのカメラ画像を用いた錠剤の不良検出精度を向上させるうえでは、均一かつ確実に正面や側面を照らせる照明が重要です。LED照明やレーザー照明を適切に使用することで、錠剤表面の微細な欠陥や凹凸を強調でき、判定精度が向上します。
例えば、シーシーエスのLED照明を搭載した「LDR2-LAシリーズ」では、ローアングルから中心部に直射光を照射することで、凹凸のある傷や刻印などの特異点の強調が可能です。
このような照明技術と画像処理技術を組み合わせることで、安定検査が可能となります。
NIR(近赤外)光を用いた非破壊検査による高速検査
従来のサンプリング検査では、ロット内すべての錠剤における品質の均一性を保てません。一方、NIR光を用いた検査では、すべての錠剤の内部まで非破壊で検査を行えるため、全錠剤成分の均一性を確保できます。スペクトル分析技術を用いることで、錠剤の成分均一性をリアルタイムで評価できるようになりました。
錠剤の化学的特性を非破壊で高速に分析し、品質管理の精度を飛躍的に向上させることが可能です。
例えば、アンリツの「NIR錠剤検査装置」では、1時間で最高25万錠分の錠剤における成分量の非破壊検査が可能です。
NIR(近赤外)光を用いることで、錠剤の内部構造や異物混入を非破壊かつ高速検査が可能となり、成分量の品質保証のほかに錠剤破棄の削減を実現します。
タッチパネル操作で操作性向上
錠剤検査装置の使い勝手を向上させるうえで、タッチパネルが付いている装置もあります。タッチパネルが搭載された装置では、機械に苦手意識がある検査員でも簡単に感度設定や基準値記憶などの各種設定や操作が行えます。
例えば、池上通信機の錠剤検査装置「TIE-10000」では、24型で大型画面のタッチパネルを採用しています。これにより、多くの設定をワンタッチで操作でき、画面の切替回数を減らし、システムの操作性向上につながっています。
タッチパネル搭載の装置は、システム操作に関する研修時間を短縮できるほか、操作ミスの削減にも貢献します。
検査工程のフルオート化
各種カメラや画像処理技術などを連携した外観検査装置により、検査工程に検査員の監視を必要としないフルオート化が可能です。
例えば、日新化成の新型錠剤外観検査機「NIS-TOP-100」は、検査員が運転条件を設定するだけで装置が錠剤投入から検査、収缶まで全自動で行います。
検査工程をフルオート化することで長時間の無人稼働が可能となり、検査時間の大幅短縮や人的ミスの防止、人件費の削減につながります。
AIを搭載した錠剤検査装置の6つのメリット
錠剤検査にAI技術を導入することで、検査業務の精度と効率が大幅に向上します。
特にディープラーニングを用いた外観検査AIを錠剤検査に応用することで、高精度に検出することが可能です。従来のルールベースの検査システムでは、人間の定義したパターンしか検出できません。一方、ディープラーニングではさまざまな欠陥パターンを自動的に学習し、未知の不良に対しても柔軟に対応できます。
以下では、AIを錠剤検査に応用するメリットについて詳しく解説します。
高精度な不良品判別
AIによる外観検査は、高い精度で不良品の判別が可能です。AIが画像データを学習することで、従来の画像処理技術では見逃されがちだった以下のような微細な欠陥や異常を正確に検出することが可能です。
- 微小な異物や汚れの検出
- 錠剤の形状や色の微妙な変化の識別
- 印字や刻印の欠陥の発見
これにより、誤検知や検知漏れが減少し、錠剤の品質管理が一層強化されます。
また、画像データだけでなく、重量や硬度などの複数の特徴を組み合わせたマルチモーダル学習により、より高精度な不良品検出が実現しています。マルチモーダル学習を導入することで、錠剤の外観だけでなく、内部構造や物理的特性も含めた総合的な品質評価が可能になります。
検査結果の一貫性保持
目視の錠剤検査の判定では検査員の熟練度や疲労度に左右される場合も多く、判定基準や質に大きな差が生じることも少なくありません。一方、AIを外観検査へ活用すれば、検査員の経験や疲労に依らず、データに基づいた一貫性のある判定が可能となります。
そのため「従来型システムの誤検知や検知漏れが多い」「検査員によって判定基準にバラツキがある」なら、AI錠剤検査の活用がおすすめです。
人的コストの削減
自動検査の導入により、検査工程に関わる人員を削減し、より付加価値の高い業務へリソースを振り分けることが可能になります。
検査速度の大幅な向上
AIによる自動検査は人間による目視検査と比較して、圧倒的に高速な処理が可能です。
最新の錠剤検査装置では、エッジAI技術を採用することで、クラウドに依存せずにリアルタイムで高速な画像処理と判定が可能になっています。エッジAIにより、データのセキュリティを確保しつつ、検査装置の応答性と処理速度を大幅に向上させることができます。
関連記事:「エッジAIを導入し、活用している事例・応用例やユースケースを紹介」
一般的な錠剤検査装置では1時間あたり10万〜70万錠の検査が可能とされており、生産性の大幅な向上につながります。
多様な不良種類の検出
AIを活用した錠剤検査システムは、過去の検出データを学習し、さまざまな種類の不良を柔軟に検出できます。例えば、以下のような多様な不良パターンに対応可能です。
- 錠剤の表面の傷・欠け
- 色の変化
- 形状の歪み
- 印刷不良
- フィルムの剥がれ
従来のルールベースのシステムでは見逃されていた不良に対しても、AIでは不良や良品のパターンを学習することで、より正確に検出されます。
したがって「従来型のシステムの不良検出精度が低い」「不良の種類が多く目視確認では限界がある」なら、AIの活用が有効です。
データ蓄積による精度向上
AIの検査システムは、データを継続的に蓄積し、分析することで自動的に精度を向上させていきます。各検査データを詳細に収集することで、AIモデルは再学習と最適化を繰り返し、新たな不良パターンの検出にも対応可能になります。
アクティブラーニングを活用することで、人間の専門家の知見を効率的に取り入れ、継続的に検査精度を向上させることができます。新しい不良パターンや未知の異常を迅速に学習し、常に最新の品質基準に適応した検査が可能になります。
初期導入時よりも時間が経つにつれて精度が増し、製造工程の効率化が進むだけではなく、新しいシステムの再導入が不要となり長期的なコスト削減にもつながります。
さらに、従来の画像処理技術では新製品ごとに複雑なパラメータ設定が必要でしたが、AIの学習機能を活用することで、新製品への対応をより迅速に行うことができます。
また、錠剤製造プロセス全体をデジタルツインで再現することで、仮想空間上で様々な製造条件をシミュレーションし、最適な錠剤検査パラメータを事前に決定できます。
錠剤検査でのAI活用事例
AI技術は錠剤検査においても活用され始めています。特に、AIを活用することで従来の目視検査では難しかった高精度な検査や自動化が実現し、製薬業界における品質管理が大きく向上しています。
以下では、錠剤検査におけるAIの具体的な活用事例を紹介します。
【クリエート】不良を99.9%の精度で判別できる装置を開発
クリエートは、錠剤の欠けや異物混入などの不良を99.9%の精度で判別できる「フルカラー錠剤外観異物検査装置」を開発しました。AIと画像処理技術を組み合わせたハイブリッド方式で、過去の不良品データなどをAIが学習します。AIにより、手間がかかる錠剤の良品・不良品の分別検査を自動化できる仕組みです。
糖衣錠や割れ線がある錠剤、フィルム錠など多種多様な錠剤検査に対応でき、毎時15万錠の高処理能力を持ちます。また、対応できる不良判別も幅広く、異物混入・欠け・擦り・凹凸の有無・糖衣不良・フィルム剥がれなどの検査が可能です。
分別された不良の種類から生産工程の不具合を分析することで、錠剤の生産設備などの予知保全につながることが期待されます。
【スカイロジック】欠損錠剤の検出でコンベアを自動停止できる装置を開発
株式会社スカイロジックは、欠けた錠剤を検出するとコンベアを自動停止できる装置「ブザー・パトライト」を開発しました。
この装置は、定点カメラを使ってコンベア上の錠剤を連続的に監視し、不良品である欠けた錠剤が検出された際に赤色のライトとブザーで警告を発し、コンベアを自動的に停止させるシンプルな仕組みです。
これにより、生産ライン上で不良品が確実に除去され、次工程への流出を防げるため、品質向上や手動作業の軽減につながることが期待されています。
錠剤検査についてよくある質問まとめ
- AIは錠剤のどのような不良パターンを検出できますか?
AIは、錠剤の表面の傷・欠け・異物混入・色の変化・形状の歪み・印刷不良・フィルム剥がれなど、多様な不良パターンを検出できます。
さらに、AIは新たな不良パターンを学習し続け、時間とともに精度が向上するため、将来的に発生する未知の不良にも対応可能です。
- 錠剤検査へAIを導入したあとの運用は難しいですか?
多くのAI錠剤検査システムでは直感的なインターフェースを備えており、基本的な操作は簡単です。
また、導入時にはシステムの使い方や設定方法に関するトレーニングやサポートが提供されるため、スムーズに運用を開始できます。運用中の不具合や質問に対しても、サポートが継続して行われることが一般的です。
まとめ
錠剤検査は、錠剤の外観や成分などを検査することで、錠剤の安全性と品質基準を確保し、不良品の市場流出を防ぐ役割を持ちます。
特に近年は
AIを活用した錠剤検査装置を活用すれば、長期的なコスト削減を実現しつつ、より高品質な錠剤の市場供給が可能になります。今後ますます需要が高まると予測されます。
これから錠剤検査装置を導入予定なら、AI搭載の錠剤検査装置を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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