RAGとファインチューニングの違いは?LLM開発の工数・コスト・効果を徹底比較!
最終更新日:2024年12月13日
LLM(大規模言語モデル)を拡張させる代表的な手法として挙げられるのが、RAG(検索拡張生成:Retrieval-Augmented Generation)とファインチューニングです。AIモデルの性能を向上させる際に使われるアプローチ手法で、LLMのカスタマイズにおいて活用するか検討している方もいるでしょう。
RAGについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
LLMの品質を高めるという点では同じですが、開発工数やコスト、効果などには違いがあります。どちらを採用するかによって、準備するデータやメリット・デメリットは異なるため、開発に取り組む前に把握しておくことが重要です。
この記事では、RAGとファインチューニングの違いについて、開発工数・コスト・効果・カスタマイズ性・データ漏洩のリスクの観点から比較します。RAGとファインチューニングのどちらを活用するか迷っている方は、最後までご覧ください。
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目次
RAGとファインチューニングの違い一覧
RAGとファインチューニングは、AIモデルの性能向上のために利用されるアプローチ手法ですが、それぞれの特徴や用途が異なります。具体的な違いは以下の通りです。
比較項目 | RAG | ファインチューニング |
---|---|---|
手法 | 外部の知識ベースやデータベースから情報を取得し、生成プロセスに組み込む | 既存のAIモデルにデータを追加して再訓練し、特定のタスクや用途に合わせて最適化する |
学習データ | 外部の知識ベース、データベース | 特定のドメインや課題に関連する追加データセット |
メリット |
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デメリット |
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活用事例 |
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LLMの性能を最適化させる手法として用いられるRAGとファインチューニングですが、モデル構築までのアプローチには違いがあります。以下では、それぞれの違いについて見ていきましょう。
RAGは外部データベースから情報検索を行う
RAGは、LLMが内部に蓄積した知識ではなく、外部データベースから必要な情報を検索して応答に活用する手法です。データベースを簡単に更新できるため、情報の鮮度を維持できます。
RAGを活用することで、LLMは専門的な分野に特化した知識を保持していなくてもあらゆる情報源からデータを検索し、状況に応じた回答を生成することが可能です。
また、RAGはリアルタイムの情報参照が可能であるため、金融や市場動向、といった幅広い最新情報に依存する領域において高い有効性を発揮します。LLMの内部構造を大幅に変更する必要がなく、特定のデータベースを指定するだけで柔軟に対応できます。
ファインチューニングはデータセットを追加して学習する
ファインチューニングは、既存のAIモデルに特定のデータセットを追加し、再学習を行うことで特定のタスクやドメインに最適化する手法です。LLMが専門知識や特定の回答パターンを学習するため、目的に特化した精度の高い応答を生成することが可能になります。
LLMに限った手法ではなく、画像認識など、他のAIモデルでもファインチューニングは行われます。
例えばカスタマーサポート向けのLLMを作りたい場合、過去の問い合わせデータやFAQのデータセットを再学習させることで、問い合わせに対して的確かつ自然な応答が可能になります。LLMはカスタムデータの特性や文脈を理解し、高い精度で応答できるようにチューニングされます。
また、ファインチューニングは外部データベースに依存せず、学習済みのデータセットに基づいて応答を生成します。そのため、ネットワークアクセスが難しい環境でも活用可能です。
顧客情報や機密情報を含むデータをローカルに保持したまま、特定の用途に最適化されたLLMを作成できるため、セキュリティ面での配慮も行いやすくなります。
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RAGとファインチューニングの開発工数比較
RAGとファインチューニングのどちらを活用するかで、システムの開発工数に違いが生まれます。それぞれの開発工数について見ていきましょう。
RAGの場合、情報検索システムの設計が開発プロセスの中心となります。したがって、LLM自体の再学習は必要とせず、データベースとの連携方法や検索アルゴリズムの最適化に工数がかかります。
加えて、生成モデルを調整し、検索システムと統合しなければいけません。そのため、設計から実装までには専門的な技術が必要で、開発工数は多くて複雑です。
ただし、既存のLLMを変更せず、外部データソースとの連携に焦点を当てるため、比較的アクセスしやすく、トラブルシューティングも容易とも言えます。
一方、ファインチューニングは、LLMそのものを再学習させる必要があります。追加するデータの収集や整備には手間がかかり、LLMに合わせたデータ前処理も求められます。
その後LLMを再学習させ、場合によっては複数回の学習や精度調整が必要となるため、総じて工数が増加します。自然言語処理、深層学習、モデル設定、データ前処理、評価など、RAGより高度な技術的スキルが必要です。
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RAGとファインチューニングのコスト比較
一般的に、RAGの方がファインチューニングよりもコスト効率が高いとされています。ファインチューニングは高品質なデータと高性能なハードウェアを必要とするため、コストが高くなる傾向があります。
それぞれの手法の短期および長期的なコストを考慮し、目的に合ったアプローチを選択することで、コストパフォーマンスに優れた開発と運用が可能になります。
RAGの開発にかかるコストは、主にデータ検索システムのインフラ設計やデータ整備が大きな割合を占めます。検索インフラの拡充やAPI連携などが必要となり、リアルタイムのデータ取得が必要な場合には、検索速度の最適化に向けた追加のコストが発生する可能性もあります。
しかし、RAGで学習するデータは外部の既存データベースであるため、データ収集にかかるコストは少なくなります。したがって、RAGは初期費用を抑えて構築できるものの、検索インフラの更新・拡充のために継続的な費用が発生します。
一方で、ファインチューニングは初期の再学習時にかかるコストが高くなります。LLMのトレーニングプロセスでは、計算リソース(GPUやTPU)を集中的に使用するため、費用が発生します。さらに、データセットの準備や前処理などのコストが必要です。
短・長期で見るコスト比較
RAGとファインチューニングのコストは、短期と長期で異なる特徴があり、プロジェクトのスパンに応じて選択肢が変わります。
短期的な視点で見ると、RAGではLLMのトレーニングに高額な計算リソースを使う必要がなく、ファインチューニングと比較して設計や実装段階でのコストを低く抑えることができます。
一方、ファインチューニングでは初期段階でのトレーニングプロセスにコストが集中します。大規模な計算リソースに加え、データセットの収集、前処理やチューニング作業も発生するため、短期間でのコストは高くなるでしょう。
長期的な視点で見ると、RAGは外部データベースの維持・更新が必要であるため、情報が変動するたびにデータベースを更新するための管理コストが発生します。
対して、ファインチューニングは初期の学習段階でのコストは高いものの、再学習を終えたLLMは安定的に動作するため、長期的な維持費用が低く抑えられます。ただし、データや要件の変更に応じて定期的な再トレーニングが必要となる場合があり、これが長期的なコストになる可能性があります。
このように、RAGとファインチューニングではコスト構造が異なります。ただし、コストは1つの側面であり、開発工数や効果を考慮した上で、どちらを採用するか検討する必要があります。
RAGとファインチューニングの効果比較
RAGとファインチューニングは、効果(パフォーマンス)においても異なる特徴を持っています。
情報が変動する環境や幅広い知識範囲をカバーする場合は、RAGが効果的です。RAGは最新情報やドメイン特化の知識を検索して活用するため、リアルタイム性を重視するプロジェクトにおいてパフォーマンスのメリットが発揮されます。
リアルタイム性を重視するプロジェクトに適していますが、外部データベースからの検索が必要なため、レイテンシ(遅延)が発生する可能性はあります。
一方、ファインチューニングでは再学習が完了したLLMが独立した形で動作し、迅速な応答が可能です。データベース検索が不要な分、処理速度が安定しており、データセットに特化した情報を瞬時に出力できます。
特に、クローズドな環境や情報更新の頻度が低い分野では、高い応答精度とスピードを両立させることができ、プロジェクトに応じたパフォーマンス向上が期待できます。ただし、情報の鮮度が求められる場合はLLMを再学習させる必要が生じ、パフォーマンス維持のために追加の作業が必要になる可能性があります。
パフォーマンスに影響する要素
RAGのパフォーマンスには、データベースと検索システムの構造が大きく影響します。外部データベースから必要な情報をリアルタイムで引き出すため、データがきちんと分類され、検索しやすい形で整理されているほど、LLMが効率的に情報を取得することが可能です。
さらに、検索アルゴリズムの最適化も重要で、検索結果の精度と速度に直接的な影響を及ぼします。そのため、定期的なデータベース管理とインフラの拡充が必要です。
一方、ファインチューニングでは、トレーニングデータセットの質と量がパフォーマンスに影響する要素となります。LLMが高品質で多様なデータを用いて学習した場合、特定のタスクに対して精度の高い応答が可能になります。また、LLMの構造とパラメータ設定もパフォーマンスに影響を与えます。
さらに、トレーニングプロセスにおけるリソースの確保も考慮しなければいけません。GPUやTPUなどの計算リソースが十分に用意されていると、効率的な再学習が可能になります。
パフォーマンスに影響する要素を理解しておくことで、実際に導入する際に精度の高いLLMを生成することが可能です。RAGとファインチューニングでそれぞれ要素が異なるため、違いを把握しておきましょう。
RAGとファインチューニングのカスタマイズ性比較
RAGとファインチューニングの手法には、カスタマイズ性において違いがあります。
RAGのカスタマイズ性は、データベースの内容と構造に依存します。必要に応じてデータベースを更新することで、LLMが新しい知識を活用してテキストを生成することが可能です。と言っても、LLMの基本的な動作や文体を変更することは困難です。
このため、RAGは幅広い領域への適用が容易で、変動する情報を扱うプロジェクトにおいて高いカスタマイズ性を発揮します。
ファインチューニングにおいては、特定のタスクやドメインに特化したデータを学習させてLLMの内部パラメータを調整することで、より深いレベルでのカスタマイズが可能です。データセットの内容や構造に応じて、応答のニュアンスやトーン、表現方法などを調整することができ、より精密に調整できます。
例えば、業界用語を含むデータセットを再学習することで、特定の専門分野に最適化された応答を生成することができ、一貫したトーンや表現で応答することが可能です。また、LLMの構造やパラメータを調整することで、特定のシナリオやタスクに応じてカスタマイズできます。
したがって、どちらの手法も柔軟なカスタマイズが可能です。データベースや追加データを選ぶことで、自社や業界に特化したLLMを構築しやすく、自由にカスタマイズできるアプローチ手法となっています。
多くの場合、RAGとファインチューニングを組み合わせたハイブリッドアプローチが最も効果的で、両方の利点を活かすことができます。
RAGとファインチューニングのデータ漏洩のリスク比較
データ漏洩のリスクについても、RAGとファインチューニングでは違いがあります。それぞれの手法に特有のリスクを理解することで、安全なシステム運用が可能になります。
RAGはユーザーの質問に応じて外部データベースから情報を取得するため、データ漏洩のリスクを低減することが可能です。学習データに依存しない生成プロセスを経るため、機密情報が出力されてしまうリスクは抑えられます。
ただし、知識ベースへの不適切なアクセス制御や、検索プロセスの脆弱性により、機密情報が漏洩する可能性はあります。外部データベースの保護が重要で、検索プロセスやデータアクセスの制御が必要です。
一方、ファインチューニングはLLMがデータを内部に学習するため、トレーニングデータセットに機密情報が含まれる場合、LLMが意図せずにその情報を出力するリスクがあります。特に、顧客情報や個人情報を含むデータでファインチューニングを行う場合、適切なデータ処理が行われていないと、予期しない応答で機密情報が露出する恐れがあります。
そのため、データセットの匿名化や個人情報の除外が重要です。また、ファインチューニングのLLMに関しても、アクセス制御やLLMのエクスポート方法に関するセキュリティ対策が必要になります。
RAGとファインチューニングのどちらを選ぶ?それ以外の手法は?
RAGとファインチューニングの選択は、この記事で説明したプロジェクトの要件や利用可能なリソースに基づいて行います。多くの場合、これらの手法を組み合わせたハイブリッドアプローチが最も効果的です。
また、以下のような補完的な技術を活用することで、LLMの性能をさらに向上させることができます。
- ハイブリッドアプローチ(RAFT)
RAGとファインチューニングを組み合わせた手法です。ファインチューニングで特定ドメインの知識を学習させ、RAGアーキテクチャで最新情報を取り込むことで、精度と適応性を両立させます。 - RIG(Retrieval-Infused Generation)
RAGの発展形で、検索結果をより効果的に活用し、より高品質な出力を生成します。Google社のDataGemmaにも活用されています。 - プロンプトエンジニアリング
LLMの入力を最適化する技術で、特定の役割を指定して回答を生成するロールプロンプティングやプロンプトの異なる部分を分離するトリプルクォートの使用などがあります。 - Few Shot Learning
1つまたは少数の例を提示してLLMに新しいタスクを学習させる手法です。タスクの複雑さやLLMの能力に応じて、One-shotまたはFew-shotプロンプティングを選択します。 - Chain-of-Thought Prompting
LLMに段階的な思考プロセスを生成させる手法です。複雑な推論タスクでの性能を向上させます。 - 知識蒸留
大規模なLLMの知識を小さいLLMに転移する技術です。マルチタスク学習、対照学習などのアプローチがあります。
適切なプロジェクト
一般論として、静的なデータセットを扱う場合はファインチューニングが適しており、動的で常に変化するデータを扱う場合はRAGが適していると言えるでしょう。
RAGに適切なプロジェクトは、情報が頻繁に更新されるものに適しています。適したプロジェクトは以下です。
- 最新の情報や頻繁に更新されるデータを扱うプロジェクト
- 幅広い知識が必要なタスク(例:技術マニュアル、研究ツール、カスタマーサポート)
- リアルタイムの質問応答システム
例えば、最新の市場データや規制の変動に関する情報を取り扱うプロジェクトでは、リアルタイムで外部データベースから情報を取得できるRAGが有効です。こうした環境下では、毎回モデルを再学習させるよりも、最新データベースと連携するRAGの方が効率的で、情報の鮮度を保つことが可能です。
対してファインチューニングは、以下のようなプロジェクトに適しています。
- 特定のドメインや業界に特化したタスク(例:法律、医療、金融)
- 一貫性のある応答が重視されるプロジェクト
- センチメント分析やドメイン固有の言語処理など、特殊な精度が求められるタスク
例えば社内業務向けのFAQシステムやチャットボットなど、特定の応答パターンが求められるプロジェクトでは、ファインチューニングによって精度の高い応答が可能です。
RAGとファインチューニングの違いについてよくある質問まとめ
- RAGとファインチューニングの違いは何ですか?
RAGは外部の知識ベースを活用し、モデルの柔軟性を向上させるとともに、最新情報への対応能力を強化する方法です。
一方、ファインチューニングは特定の分野や課題に合わせてモデルを調整し、高度に専門的なタスクに適した手法です。
- RAGとファインチューニングはどうやって使い分ければいいですか?
ファインチューニングとRAGの大きな違いは、RAGが情報検索を直接組み込む仕組みを持つ点にあります。一方で、ファインチューニングはモデル内部のパラメータを調整することで、既存の知識を新たなタスクやデータセットに対応させる方法として最適です。
まとめ
外部データベースからリアルタイムに情報を検索するRAGは、定期的なデータ更新や幅広い情報範囲をカバーするプロジェクトに向いています。最新情報が求められる状況や、柔軟な情報カスタマイズが必要なケースにおいて高い効果を発揮します。
LLM自体に特定のデータセットを学習させるファインチューニングは、応答精度や安定性が高いLLMを構築するのに適しています。固定的なデータを扱うプロジェクトや、特定の業界・ドメインに特化した応答を求めるケースで有用です。
RAGとファインチューニングのどちらを選択するかは、プロジェクトの規模や求められる情報の更新頻度、セキュリティ、コスト、カスタマイズ性など、複数の要素を総合的に判断することがポイントです。
さまざまな手法を比較して、プロジェクトの目的や予算に最適な手法を採用することで、より効果的で信頼性の高いAIソリューションを構築することができるでしょう。
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