RAG精度の壁とは?チューニングする戦略・具体的検討方法を徹底解説!
最終更新日:2025年06月20日

- RAGの精度は単一の要因ではなく、「データ前処理」「埋め込みモデル」「検索アルゴリズム」「生成(プロンプト)」という4つの連動する要素で決まり、それぞれに特有の課題と改善策
- 検索精度は「ハイブリッド検索」や「リランキング」、データ品質は「意味的チャンキング」や「メタデータ付与」など、各要素の課題に対して有効なチューニング手法
- 基本的なチューニングの先には、Self-Corrective RAG(自己修正RAG)やRouting(ルーティング)といった先進的なアーキテクチャの導入
- クラウドサービスを上手く活用することで、より高度で信頼性の高いシステム構築が可能
社内ナレッジの有効活用を期待してRAG(検索拡張生成)を導入したものの、「質問と無関係な情報ばかり参照してしまう」「専門用語を理解できず、的外れな回答が返ってくる」といった精度の壁に直面していませんか。
この記事では、RAG精度低下の5つの原因を特定し、その根本的な解決策を技術的に解説します。自社のRAGシステムを一段階上のレベルへ引き上げるための、具体的で実践的なチューニング指針を網羅的にご紹介します。
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目次
多くの企業がRAGで直面する壁とは?
まずは、RAGの精度向上において多くの企業が直面する壁を紹介します。
関連性の低い情報を参照してしまう
RAGでは、まず検索パートで該当ドキュメントを取得し、次にその情報を元に生成が行われます。検索精度が低いと、LLMに誤ったコンテキストを与えてしまい、生成される回答も不正確になります。
たとえば「サービス料金の改定時期を教えて」という質問に対し、古いFAQや無関係な契約ガイドラインが引っかかり、現在の料金体系とは異なる情報を提示してしまうといったケースが典型的です。
主要な評価指標としては、Hit Rate(ヒット率)やMRR (Mean Reciprocal Rank)が用いられます。
RAGが質問に対して関連性が低い情報を参照する現象は、文書の埋め込み精度やメタデータが不十分、ベクトル検索の類似度に対する不適切な閾値設定が主な原因です。
一般的には埋め込みモデルを切り替え、質問と文書の意味的マッチ精度を高める方法により対処されます。しかし、検索対象の文書データがノイズを含む場合や構造的に不明瞭である場合、高精度なモデルでも誤ったベクトルを生成するため、根本的な解決にはなりません。
つまり、埋め込みモデルの性能に頼るだけでは限界があり、前段階であるデータ前処理や文書設計の最適化も不可欠です。
質問の意図を正確に汲み取れない
生成パートでは、ユーザーの質問意図に沿った文脈を掴む必要があります。しかし、RAGの自然言語処理能力には限界があり、特に曖昧な質問や専門用語を含む質問、飛躍的な質問に対しては、的確に意図を解釈できないことも少なくありません。
たとえば「このプランの適用条件は?」 という質問のように、主語や文脈が省略されたままの場合、システムは「どのプランか」を特定できず、関連性の低い検索結果を参照します。結果として、抽象的または誤解を招く回答になります。
主要な評価指標としては、Faithfulness(忠実性)やAnswer Relevancy(関連性)が用いられます。
RAGの解釈力を補強する際、ユーザー側のプロンプト設計に頼りがちですが、それだけでは根本的な解決には至りません。RAGの低精度な意図理解は、ユーザーの質問の曖昧さだけでなく、チャンキングや構造の作り方の不備といった仕組み上の原因も関係するためです。
つまり、RAGが意図を正確に汲み取るためには、プロンプト設計だけでなく、文書構造・検索精度・モデル設計といったシステム全体の最適化が必要といえます。
ハルシネーション(もっともらしい嘘)を生成してしまう
RAGは、検索情報を元に回答を生成するため、生成AIよりも「もっともらしいが事実と異なる情報(=ハルシネーション)」のリスクが低くなっています。しかし、ゼロではありません。
たとえば、過去の不正確な文書を参照し、実際には存在しない規約条項を「第5条:返金保証について」と提示するといったケースが典型例です。
RAGのハルシネーションは、モデルが検索結果の断片を元に補完する生成AIの構造そのものに起因します。検索された情報が不完全・不正確だった場合でも、モデルは自然な文章を作ろうとし、検索に含まれていない内容まで生成するのです。
また、提供されたコンテキスト(検索結果)ではなく、LLMが元々持っている内部知識や学習データに基づいて回答を生成してしまうこともでハルシネーションは発生しかねません。
一般的な対処法としては、ファインチューニング済みモデルを使って出力傾向を調整する方法が採られます。ただし、この対処法は検索結果に誤情報が含まれていれば、その誤りをむしろ強化することもあります。
ハルシネーションを抑えるには、モデル調整のほか、検索対象文書のクリーニングや出典を強制的に引用させるプロンプト設計など全体的な設計の見直しが必要です。
専門的な内容や業界特有の言葉に対応できない
汎用的なRAG構成では、ドメインに特化した専門用語や業界独自の文脈を正しく扱えないことがあります。検索と生成の両フェーズにおける前提知識の欠如や埋め込み空間の汎用性の限界、検索対象文書の表現揺れ・構造の曖昧さが主な原因です。
たとえば、医療業界で用いられる「オーダー」は「処方指示」を意味しますが、一般的なモデルでは「注文」と解釈されることがあります。その結果、検索フェーズで無関係なEコマース関連の文書が引っかかり、生成フェーズでも意図と異なる回答が出力されるといった失敗が起こります。
また、文書を適切に分割(チャンキング)できず、回答に必要な文脈が分断されてしまったり、埋め込みモデルがドメイン固有の専門用語のニュアンスを理解できない事態も生じます。
対策としては、ファインチューニング済みモデルの利用が一般的です。しかし、ファインチューニングモデルでも、検索対象となるドキュメント群に用語の定義が明確に含まれていない場合には一般的な解釈を優先する場合があります。
そのため、専門領域に強いRAGを構築するには検索対象文書の表現統一や用語辞書の整備など、文書側の準備と検索システムの構造的な最適化を含めた改善が必要です。
トーン&マナーの逸脱
回答内容は事実として正しくても、企業のブランドイメージや、想定される利用シーンにそぐわない口調やスタイルで応答してしまう問題です。顧客向けの丁寧な回答が求められる場面で、論文のような堅苦しい口調になったり、その逆が発生したりします。
原因としては、LLMもともと持っている汎用的で中立的な「アシスタント」としてのデフォルトのペルソナに引きずられることです。プロンプトなどで明示的に指示しない限り、このデフォルトペルソナで応答しようとしてしまうのです。
さらに、参照する社内文書には、フォーマルなプレスリリース、技術者向けの仕様書、インフォーマルな議事録など様々なトーンの文書が混在しています。LLMがこれらの影響を受け、一貫性のないトーンの回答を生成してしまうことがあります。
LLMに明確な役割(ペルソナ)を与えたり、お手本を提示するFew-shotプロンプティングなど、プロンプトエンジニアリングの活用が効果的です。
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RAGチューニングのロードマップ
「やるべきことは分かったが、どこから手をつければいいのか?」という疑問にお答えするため、費用対効果と実装の難易度を考慮した改善ロードマップを提案します。
基盤固め(低コスト・高インパクト)
まずは、大きなシステム改修を伴わずに実施できる、最も費用対効果の高い施策から着手します。
- プロンプトエンジニアリング: LLMへの指示(プロンプト)に「検索結果のみを基に回答し、不明な点は『分かりません』と答えてください」といった制約を加えるだけで、ハルシネーションは劇的に抑制できます。
- データクリーニング: HTMLタグの除去、重複コンテンツの削除など、検索対象となるデータの「ゴミ掃除」は、検索精度に直接的な効果をもたらします。
- チャンキング戦略の見直し: 文書の分割単位(チャンク)が大きすぎたり小さすぎたりしないか、文脈が途切れていないかを見直します。
検索性能の強化(中コスト・高インパクト)
基盤固めである程度の効果が見られたら、次は検索メカニズムそのものに手を入れていきます。
- ハイブリッド検索の導入: 単語の一致を見る「キーワード検索」と、意味の近さで探す「ベクトル検索」を組み合わせることで、検索漏れやノイズを大幅に削減できます。
- 再ランキング(Re-ranking): 検索結果を、より高度なモデルで再度並べ替える手法です。計算コストは増えますが、最も関連性の高い情報をLLMに渡せる確率が高まります。
高度なアーキテクチャへの挑戦(高コスト・最高インパクト)
さらなる高みを目指す場合や、複雑な要求に応える必要がある場合には、先進的なアーキテクチャの導入を検討します。
- Self-Corrective RAG (自己修正RAG): 回答の質をAI自身が評価し、不十分なら再検索を行うなど、自律的に精度を高める仕組みです。
- Routing (ルーティング): 質問内容に応じて、「製品マニュアルを参照する」「Webで最新情報を検索する」といったように、最適な情報源を動的に選択する仕組みです。
関連記事:「RAGの精度を向上させる方法は?チャンキングなど手法や落ちる原因、低精度で運用するリスクを徹底解説!」
RAG精度を上げるチューニング指針:プロンプトエンジニアリングの限界
RAGにおける生成精度を決定する要素の一つが、生成モデルに対する「プロンプト」の設計です。どのように問いかけ、どのような回答形式を指定するかによって、出力内容の正確性・網羅性・自然さが変わります。
以下では、プロンプト設計の工夫からモデル側の調整方法まで、応答品質の向上手段を解説します。
高度なプロンプトエンジニアリング技術と効果
基本的なプロンプトでもある程度の出力は得られますが、精度や一貫性を高めるには高度なプロンプトエンジニアリングが必要です。
以下が、応用的なプロンプトエンジニアリングの一例です。
プロンプトエンジニアリング手法 | 概要 | 効果 |
---|---|---|
Few-shot | 具体例をいくつか提示することで、LLMにタスクの意図や出力形式を明示的に伝える手法 |
|
Chain-of-Thought(CoT) | 推論過程を提示する手法 | 数値計算や論理的判断の精度向上 |
ReAct (Reasoning and Acting) | 「思考(Thought)」→「行動(Action: ツールの使用など)」→「観察(Observation: ツールからの結果)」というサイクルを繰り返させる手法 | 最初の検索で情報が不十分だった場合に、LLMが自律的に追加の検索を行うといった、より動的な応答生成が可能 |
高度なプロンプトエンジニアリングにより、RAGにおける出力の一貫性や正確性の向上が期待できます。
プロンプトだけでは解決できない「応答の質」の問題
高度なプロンプト設計を行えば、一定の応答品質は確保できますが、それでも限界があります。
たとえば、業界特有の表現やニュアンスを理解できない問題や、同じプロンプトでも出力がぶれる問題はプロンプトの工夫のみでは解消できません。これらの課題は、モデル自体が該当ドメインの知識や表現に最適化されていないために起こります。
また、そもそも検索されたコンテキストに回答に必要な情報が含まれていない場合、LLMは情報を「捏造」するしかありません。これはプロンプトの問題ではなく、上流のデータ前処理や検索アルゴリズムに立ち返って改善すべき問題です。
そのため、根本的な解決にはモデルそのものの調整が必要です。
RAG精度を上げるチューニング指針:データ前処理
「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れれば、ゴミしか出てこない)」の原則は、RAGにおいて特に重要です。LLMに渡す情報の「質」は、データ前処理段階でほぼ決まります。
以下では、データ前処理におけるRAG精度向上のアプローチを詳しく紹介します。
チャンキング戦略
RAGで検索対象とする文書は「チャンク」に分割して保存されます。チャンクの分割方法によって検索精度と生成の文脈理解力が変わるため、適切なチャンキング戦略が重要です。
以下が、主なチャンキングの方法です。
チャンキング手法 | 概要 |
---|---|
固定長チャンキング |
|
意味的チャンキング(セマンティックチャンキング) |
|
再帰的チャンキング |
|
カスタムチャンキング |
|
目的や文書特性に応じたチャンキングを選定することで、検索の関連性と生成の精度を大幅に改善できます。また、チャンクサイズとオーバーラップの最適な値は対象ドキュメントの特性によって異なるため、試行錯誤によるチューニングが不可欠です。
メタデータ付与
RAGで取得する文書の精度を高める方法として「メタデータの活用」も有効です。
ファイル名やセクション名、部署名といった基本的な情報に加え、ソース情報・キーワード・要約・トピック分類などをチャンクごとに付与すると検索の精度が大きく向上します。
たとえば「2023年以降の契約ルールを教えて」という質問に対しては、作成年のメタデータを参照して旧版ドキュメントをフィルタリングすることで古い情報を除外し、より正確な検索が実現します。また「人事関連のQ&A」のような問いに対しては、部署名やトピックに基づくメタデータにより対象範囲を的確に絞り込めます。
特にエンタープライズ向けのRAG運用では、誤回答の抑制と情報鮮度の維持のためにメタデータの戦略的な設計が不可欠です。
データクリーニングと品質管理
高精度なRAGを構築するうえでは、「どのような情報を載せるか」だけでなく、「どのような情報を削ぎ落とすか」も重要です。
多くのケースでは、AIにとって無意味な情報を含む文書や同一内容の重複文書、文書間の表記揺れが見られます。ノイズが混入すると、検索結果の関連性が低下し、生成される回答もブレやすくなります。
そこでデータクリーニングにより、形式統一や表記の正規化、重複削除、文書の最新版のみを残す選別などが必要です。
AIに「読みやすく、誤解されにくいデータ」を与えることで、検索・生成それぞれの精度が向上します。
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RAG精度を上げるチューニング指針:埋め込みモデルのマッチ度
RAGにおける検索精度を左右するのが「埋め込みモデル」です。埋め込みモデルは、テキストを数値ベクトルに変換するAIモデルです。変換精度が低いと質問と無関係なチャンクが選ばれ、最終的な回答も不正確になります。
以下では、埋め込みモデルの必要性やモデル選定のポイント、ファインチューニングについて紹介します。
汎用モデルの限界
オープンソースや一般公開されている埋め込みモデルは多くの場合で高性能ですが、金融や医療、あるいは特定の日本語のニュアンスが重要なドメインでは、その分野のデータで学習された特化モデルが優位に立つことがあります。
たとえば「処理」は、業界によってまったく異なる意味を持ちますが、汎用モデルでは質問と文書の意味的関連性を適切に判断できず、精度の限界にぶつかります。
そのため、RAGを業務に本格導入する場合、自社データに即した語彙・文脈を理解する埋め込みモデルの採用がポイントです。
埋め込みモデル選定のポイント
埋め込みモデルや生成モデルを選定する際、MTEBをはじめ一般的なベンチマークは参考になりますが、それだけでは不十分です。
RAGの実運用において重要なのは、自社のユースケースにおいてどれだけ高い精度を出せるかという実用性です。
そのため、選定時には以下の実践的な評価軸も基準にしましょう。
- 自社データでのトップK検索のヒット率
- 実際の質問・回答ペアにおける正答率
- ファインチューニングの可否やコスト
- 応答スピード(レイテンシ)
- APIコスト
- 商用ライセンス
- セルフホストの可否
ドメイン適合性・実装容易性・改善可能性の総合評価により、RAGの導入・運用におけるリスクを抑えつつ、実用性の高い成果を早期に得られます。
埋め込みモデルのファインチューニング
埋め込みモデルの精度をさらに高めたい場合、有効なのがファインチューニングです。自社のデータセットを用いて埋め込みモデル自体をファインチューニングします。
ファインチューニングにより、自社ドメイン固有の単語(製品名、社内用語など)の意味的関連性をモデルに「教え込む」ことができ、検索精度を飛躍的に向上させられる可能性があります。
特に埋め込みモデルでは、数百件程度の少量のデータを用いて調整するだけでも、意味的なマッチング精度が大幅に改善します。
ファインチューニングの際は、過度なデータ投入によるモデルの偏りに注意が必要です。少量でも良質なデータを厳選し、「この質問にはこのチャンクが正解」といった高品質なペアリングデータを中心に学習させることが、精度向上に欠かせません。
RAG精度を上げるチューニング指針:検索アルゴリズムの検討
RAGの検索精度は、検索アルゴリズムの種類によっても異なります。単に文書をベクトル化して類似度で検索する方法では、意味は近いが不正確な情報やキーワードの有無に依存しすぎた情報が混在することもあります。
以下では、従来法のベクトル検索の課題を踏まえ、近年注目されるハイブリッド検索やリランキングについて紹介します。
ベクトル検索の仕組みと限界
ベクトル検索は、質問と各チャンクの埋め込みベクトルを比較して類似度の高いものを返す仕組みです。意味的に近い情報を抽出するのに長けており、言い回しが異なる場合でも対応できるのが強みです。
しかし、「完全一致するキーワードが含まれていないと重要文書が漏れる」「近いが不正確な情報が混ざる」といった限界もあります。例えば、特定の製品型番や固有名詞といった「キーワード」そのものに弱いという特性があります。
意味の近さを捉えるのが得意なベクトル検索であっても万能ではなく、他の手法との補完が不可欠です。
ハイブリッド検索の威力:キーワード検索との組み合わせで死角をなくす
近年は、ベクトル検索とBM25などの伝統的なキーワード検索を組み合わせる「ハイブリッド検索」が、従来の課題を解決する手段として注目されています。
キーワード検索は文字列の一致に強く、法的文書やFAQなど定型的な言い回しのあるデータには特に有効です。一方のベクトル検索は自然言語の表現ゆらぎに対応できます。
それぞれの検索結果のスコアをRRF (Reciprocal Rank Fusion) のようなアルゴリズムで賢く統合する「ハイブリッド検索」は、両者の長所を活かし、短所を補う、現在のRAGにおけるスタンダードな手法です。
リランキング戦略:検索結果の「質」を最終調整するプロの技
初期検索で抽出されたチャンクの順序は、必ずしも「最も回答に役立つ順」ではありません。
そこで有効なのが「リランキング(再ランキング)」です。リランキングとは、検索で取得した文書の候補を再評価し、質問との関連性が高い順に並べ直す処理です。
たとえば、Cross-Encoderモデル(例: Cohere Rerank)を活用すると、質問と各チャンクの意味的マッチ度を再計算し、回答精度を高める順位付けが可能になります。単純なベクトル類似度では判断しにくい「文脈の整合性」「補足情報の有無」などを考慮できる点が強みです。
さらに、ユーザーの意図や過去のチャット履歴など、コンテキストに応じた動的な並べ替えを実装すれば、場面ごとに最適な情報提示が可能なRAGを実現できます。
先進的なRAGアーキテクチャの導入
基本的な手法に加え、近年ではRAGの精度をさらに向上させるための先進的なアーキテクチャも登場しています。
Self-Corrective RAG (自己修正RAG)
Self-Corrective RAG (自己修正RAG)は、生成した回答や検索結果の質をLLM自身が評価し、不十分な場合は再度検索を実行するなど自律的に精度を改善していくアプローチです。
通常のRAGが「検索→回答生成」という一方通行で終わるのに対し、自己修正RAGは生成した回答に対し、「①情報源と矛盾はないか」「②質問の意図に合っているか」といった基準で自己採点(Critique)を行います。
もし問題が見つかれば、検索する情報を変えたり、回答を書き直したりするサイクルを自律的に実行します。この「生成→評価→修正」のプロセスを繰り返すことで、人間による確認の手間を減らし、より正確で信頼性の高い回答を生み出すことを目指す技術です。
Routing (ルーティング)
RAGにおけるルーティング(Routing)とは、ユーザーからの質問の意図をAIが瞬時に分析し、回答に最適な情報源へ処理を振り分ける「交通整理」のような仕組みです。まるで専門の受付係や司書のように機能します。
例えば、「最新のニュースについて」という質問ならWeb検索へ、「自社の製品仕様について」なら社内文書データベースへ、「『こんにちは』という挨拶」なら検索せずに直接応答へ、といったように、AIが最適なルートを動的に選択します。
これにより、単一の情報源に頼るRAGの限界を克服し、無駄な検索を防いで、回答の精度と効率を大幅に向上させることが可能になります。
RAGのチューニング方法についてよくある質問まとめ
- 多くの企業がRAGの精度で直面する壁には、どのようなものがありますか?
主に以下の5つの壁に直面します。
- 関連性の低い情報を参照: 検索精度が低く、LLMに誤った情報を与えてしまう。
- 質問の意図を誤解: 曖昧な質問や専門用語の意図を正確に解釈できない。
- ハルシネーションの生成: 検索情報が不完全な場合に、もっともらしい嘘の情報を補完してしまう。
- 専門用語への未対応: 業界特有の言葉を理解できず、無関係な情報を参照・生成する。
- トーン&マナーの逸脱: 回答は正しいものの、企業のブランドイメージに合わない口調で応答する。
- プロンプトの改善だけで高精度なRAGは実現可能ですか?
一定レベルまでは可能ですが、限界があります。
プロンプトの工夫は重要ですが、それだけでは解決できない問題が存在します。
- 高度なプロンプト技術: Few-shot(お手本提示)やChain-of-Thought(思考プロセスの指示)などで応答の質は向上します。
- プロンプトの限界: 業界特有のニュアンスの完全な理解や、モデルの出力のブレをプロンプトだけで完全に制御するのは困難です。また、検索した情報自体が間違っている場合、プロンプトでは解決できません。
- 根本解決: 応答の質を根本から安定させるには、データ前処理や検索アルゴリズムの見直し、場合によってはLLMのファインチューニングが必要です。
- RAGの精度を上げるために、データ前処理では何をすべきですか?
以下の3点が重要です。
- チャンキング戦略: 文書を意味のまとまりで分割する「意味的チャンキング」や、構造に従って分割する「再帰的チャンキング」など、文書の特性に合わせた最適な分割方法を選びます。
- メタデータ付与: 作成日やトピックなどのメタデータをチャンクに付与し、検索時に情報を絞り込めるようにすることで、検索精度を高めます。
- データクリーニング: 表記揺れの統一や重複コンテンツの削除などを行い、AIが誤解しにくい高品質なデータソースを維持します。
- 埋め込みモデルはRAGの精度にどう影響しますか?
埋め込みモデルは、テキストをAIが理解できる数値ベクトルに変換する役割を担っており、その性能が検索精度を直接左右します。
- 汎用モデルの限界: 一般的なモデルでは、専門用語や業界独自のニュアンスを理解できず、精度の限界にぶつかることがあります。
- モデル選定の重要性: ベンチマークスコアだけでなく、自社データでの精度やコスト、応答速度などを総合的に評価し、実用性の高いモデルを選ぶことが重要です。
- ファインチューニング: 自社のデータセットでモデルを調整することで、ドメイン固有の単語への理解が深まり、検索精度を飛躍的に向上させられます。
- 検索アルゴリズムを工夫することで、どのようにRAGの精度は上がりますか?
検索アルゴリズムの工夫により、より的確な情報をLLMに渡せるようになります。
- ベクトル検索の限界: 意味の近さで検索できますが、特定のキーワードを含む文書を見逃すことがあります。
- ハイブリッド検索: ベクトル検索とキーワード検索を組み合わせることで、互いの弱点を補い、検索の網羅性と精度を両立させます。
- リランキング: 一度検索した結果を、より高度なモデルで「回答に役立つ順」に並べ替えることで、最終的な回答の質を高めます。
まとめ
RAGの精度向上は、単なる技術的改善にとどまらず、業務効率・意思決定の質・顧客満足度といったビジネス成果に直結する重要な要素です。プロンプト設計やデータ前処理、検索アルゴリズム、モデルチューニングといった各工程を最適化することで、必要な情報に迅速かつ正確にたどり着けるRAGを実現できます。
これらのチューニングはそれぞれが専門的な知見を要し、自社の文書特性や利用目的に応じて最適な組み合わせを見つけ出すには相応の試行錯誤が伴います。もし、何から手をつけるべきか判断が難しい、あるいはより迅速かつ確実にビジネス成果に繋がるRAGを構築したいとお考えの場合には一度専門家の視点を取り入れることをお勧めします。
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