RAGでヘルプデスクを効率化?対話型AIでは不十分な理由・導入メリット・活用事例を徹底解説!
最終更新日:2025年01月20日
ヘルプデスクやカスタマーサポート部門では、問い合わせ対応の遅延、担当者の疲弊、属人化など様々な問題が起きています。システムを活用して解決しようとしても、一般的なチャットボットでは社内固有の業務や最新の情報に対応することが難しく、正確性も懸念されるという問題があります。
そこで、多くの企業のヘルプデスク部門が直面するこれらの課題を解決するため、RAG(検索拡張生成:Retrieval-Augmented Generation)を活用する事例が増えています。RAGは外部の知識ベースや企業システムからリアルタイムでデータを取得し、回答に組み込むことが可能で、LLMと組み合わせての活用が進んでいます。
本記事では、ヘルプデスク業務における課題やRAGを導入するメリット、さらには朝日生命やダイハツ工業など、実際の導入企業の成果までを詳しく解説。業務効率化を検討される方々に、具体的な導入イメージと期待できる効果をお伝えします。
RAGの仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
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ヘルプデスクが抱える課題
現代の企業活動において、ヘルプデスクやカスタマーサポートは社内外に対して重要な役割を果たしている一方で、さまざまな課題に直面してもいます。まずは、ヘルプデスク業務における課題について見ていきましょう。
担当者の業務負荷が大きい
ヘルプデスク担当者が抱える課題として、業務負荷の増大が挙げられます。ヘルプデスクやコールセンターでは、日々多くの問い合わせに対応しています。
問い合わせ件数が急増する繁忙期やシステムトラブルが発生した際には、対応が追いつかなくなることが多く、長時間労働や負担を強いられるケースが見受けられます。
また、デジタル化の進展に伴い、ヘルプデスクやコールセンターへの問い合わせ内容が複雑化しています。複雑化するシステム環境や多様化する問い合わせに対応するための高い専門知識が求められる一方で、その準備に時間を割く余裕がないという状況も珍しくありません。
こうなってしまうと、ヘルプデスク全体の対応力を低下させるだけでなく、担当者の離職率の上昇やサービス品質の低下といった問題を引き起こすリスクもあります。
人手が不足している
多くの企業では、ヘルプデスク業務を担う人員の不足が深刻な課題となっています。ヘルプデスクおよびコールセンター業務には幅広い専門知識が必要となるため、人員不足に陥りやすい状況があります。問い合わせの対応範囲が拡大することで、従来の体制では業務を回しきれない状況が発生しているのです。
人手不足の問題は、単に対応速度が遅れるだけでなく、問い合わせの取りこぼしや対応漏れといった問題を引き起こします。また、経験豊富なスタッフを確保することが難しいため、新規採用や育成に時間をかけるとしても、その間の問い合わせを担当するスタッフの業務圧迫は避けられません。
結果として、既存スタッフへの負担が増大し、より深刻な人材不足を招くという悪循環が生まれます。特にコールセンターでは、24時間365日の対応が求められることも多く、シフト制での人員配置に苦心しています。
属人化に陥りやすい
ヘルプデスク業務では、特定の担当者に依存する属人化が問題として存在します。
ITの進歩に伴い、ヘルプデスクスタッフには継続的な学習が求められています。しかし、日々の業務に追われる中で、新しいスタッフが最新の知識を継続して習得することは容易ではありません。そのために、結局は一部の熟練スタッフがヘルプデスクに精通している場合、そのスタッフが不在になると対応が滞り、業務全体に支障をきたしてしまいます。
属人化に陥る課題は、業務の標準化が不十分な場合に特に顕著です。担当者ごとの対応方法や知識が統一されていないと、新しいスタッフが業務を習得しにくくなり、全体の業務効率が低下してしまいます。
コールセンターでは特に、新人教育や定期的なスキルアップ研修の実施が課題となっており、OJTと座学のバランスを取ることに苦心しています。
このようにヘルプデスク業務が属人化する状況は、会社の成長や顧客対応力の向上を妨げる要因となり得ます。
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ヘルプデスクでRAGを導入するメリット
RAGは外部の知識ベースや企業システムからリアルタイムでデータを取得・参照し、LLMを通した回答に取得したデータの内容を組み込みます。ヘルプデスク業務が抱える課題を解決する手段として、RAGの導入が効果的とされています。
以下では、ヘルプデスクにRAGを導入する具体的なメリットについて解説していきます。
発生した問題への対応速度を向上できる
RAGの導入により、対応速度の向上が期待できます。従来では、複雑な問題に対する解決策を見つけるために、担当者が手作業で情報を探す必要がありましたが、RAGはそのプロセスを自動化することで、効率的な対応を実現します。
さらに、AIがリアルタイムでサポートを行うため、問い合わせ内容が重複した場合でも迅速に同じ回答を提供することが可能です。これにより、緊急性の高い問い合わせやトラブル発生時であっても、素早くフォローできます。
単純な問い合わせはAIが処理し、複雑な案件に人間のスタッフを集中させることも可能です。
企業ごとにカスタマイズされた最新の回答が可能
企業ごとの特性や業務内容に応じたカスタマイズされた回答を生成できる点で、RAGは従来のシステムと一線を画します。企業の内部データや特定の業界に特化した知識を取り込むことで、汎用的な回答ではなく、利用者のニーズに最適化された対応を提供することが可能です。
さらに、製品情報、社内ポリシー、顧客データなどの最新情報に基づいて回答を生成できます。RAGなしのシステムで頻繁に発生する、外部ソースから生成された誤った情報を回答するハルシネーションのリスクを軽減します。
例えば、製品仕様や社内手順が記載されたドキュメントをRAGに統合することで、問い合わせ内容に即した情報を自動的に提示します。また、企業固有の用語や手順にも対応できるため、自社用のRAGシステムを構築することも可能です。
新しい情報や変更に柔軟に対応
RAGシステムでは外部知識ベースを更新するだけで、AIの回答を最新の状態に保つことができます。AIモデルの再学習なしで新しい情報を統合できるため、運用コストを抑えられます。
RAGが持つカスタマイズ性は、複雑で多岐にわたる業務を抱える企業において特に有用であり、業務効率化や問い合わせ対応の質を向上させるツールとして活用できます。
人手不足をカバーできる
問い合わせ対応が集中する時期や業務量が急増する場面では、十分な人員を確保することが難しい現実があります。しかし、RAGではAIが24時間体制でサポートを行うことで、限られた人員でも膨大な問い合わせに対応することを可能にし、人手不足をカバーします。
また、RAGは対応件数を増やすだけでなく、問い合わせの内容に応じた適切な優先順位付けを行うことが可能です。複雑な案件は担当者に、単純な問い合わせはAIが自動で対応するといったタスク分配により、担当者はより重要な業務に集中できます。
さらに、新しいスタッフの研修や育成の負担も軽減できます。担当者の知識レベルや経験値、育成手法などに依存しないため、研修や育成のクオリティも高められるでしょう。
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ヘルプデスク業務へのRAG活用事例
以下では、ヘルプデスク業務でLLMとRAGがどのように導入されているか、その活用事例を見ていきましょう。
【朝日生命】RAGを用いたヘルプデスクで3500超の社内文書を検索
朝日生命保険相互会社が、社内業務の効率化と生産性向上を目的として、生成AIを活用したRAG技術を導入しています。株式会社PKSHA Workplaceが提供する照会回答システム「PKSHA AIヘルプデスク」は、約3,500件を超える社内マニュアルや事務手続要領書などのドキュメントを対象に、生成AIが関連情報を検索し、回答を自動生成する機能を備えています。
登録済みのFAQや社内ドキュメント検索を通じてAIが回答し、自動で対応できない場合は有人窓口に取り次ぐ仕組みとなっています。
これにより、情報検索業務の削減やナレッジマネジメントの効率化が期待されています。今後は特定部門での検証を経て精度や活用方法の調整を行い、2025年4月には本社と営業所が双方向で利用可能なAI窓口の設置を目指しています。
【ダイハツ】繰り返しの問合せを自動化することで属人化を解消
ダイハツ工業株式会社は、ヘルプデスク業務における属人化の解消と効率化を目指し、朝日生命と同じくPKSHA Workplace社の「PKSHA AI ヘルプデスク」を導入しました。ダイハツでは、このAIヘルプデスクを「D-Bot」の愛称で利用しています。
ダイハツ工業株式会社では、社内の問い合わせ対応が特定の担当者に依存しがちで、同様の質問が繰り返されることが多く、業務の非効率化や担当者の負担増加が課題となっていました。
「D-Bot」の導入によって、社員は日常業務で生じる疑問や質問をに気軽に問い合わせられるようになり、問い合わせ先が不明確な場合でも迅速に回答を得られる環境が整備されました。全社標準の問い合わせインフラとしても期待されており、現場や部署間でのコミュニケーションコストの削減にもなっています。
【北國銀行】ヘルプデスクの業務効率化と属人化の解消
株式会社北國銀行は、業務における効率化と属人化の解消を目的として、RAG技術を活用した株式会社PKSHA Workplace開発のAIヘルプデスクを導入しました。
社内のヘルプデスクとしてMicrosoft Teams上で問い合わせを受け付け、AIが自動的に回答を提供します。AIで解決できない問い合わせについては、担当者による有人連携で対応しています。
株式会社北國銀行に寄せられる問い合わせの7〜8割は、営業店の窓口業務を担当する社員からであり、次いでシステム部門への問い合わせです。システム部門への問い合わせは、全社員が使用するシステムに関する質問が多数を占めています。
こうした現状を踏まえ、株式会社北國銀行はRAGを含むDXを進めており、業務の生産性向上と顧客サービスの向上を目指しています。また、情報の見える化を推進することで、組織全体のナレッジ共有が促進され、部門間の連携も強化されています。
【サッポロ】RAGの導入で問い合わせ数全体の45%をAIが対応
サッポロホールディングス株式会社では、AIソリューション「TRAINA スマートナレッジ」を導入し、社内の問い合わせ対応業務の効率化と働き方改革を推進しています。
株式会社野村総合研究所が開発したTRAINA スマートナレッジは、社内のFAQデータベースやマニュアルを学習し、従業員からの質問に対して適切な回答を自動で生成することが可能です。実証実験では、全問い合わせ件数の約45%がAIによって自動対応可能であることが確認されました。
また、情報検索時間が80%短縮されるなど、業務効率化に効果があったことが証明されています。
【TSIホールディングス】電話件数削減でヘルプデスクの業務効率化を実現
社内ヘルプデスク業務の効率化を目指し、株式会社TSIホールディングスは株式会社L is Bが開発したAI-FAQボット「へるぴぃ」が導入されました。
同社では、システムに関する質問を電話で受け付けるヘルプデスクを設置していましたが、同じ質問が頻繁に寄せられることが課題となっていました。そこで2019年に、ポータルシステムのトップ画面に「へるぴぃ」を設置し、従業員のシステムに関する質問に自動で対応する仕組みを構築しました。
導入後、電話での問い合わせ件数を減少させています。2019年7月から12月の間で電話件数は653件から418件、2020年1月には370件まで減少し、電話質問の割合も66.2%から46.5%まで低下しました。
これにより、ヘルプデスクの業務工数が削減され、電話対応以外の作業時間を確保しています。
さらに、利用者からのフィードバックをもとにFAQデータを更新し、回答の精度を引き上げています。これにより、必要な情報を迅速に取得できる環境が整備され、業務効率化と生産性を向上させています。
RAGを活用した様々な業界事例については、こちらで詳しく紹介していますので、ぜひご参考ください。
ヘルプデスクでのRAG活用についてよくある質問まとめ
- ヘルプデスクにRAGを活用するメリットは?
ヘルプデスク業務にRAGを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 発生した問題への対応速度を向上できる
- 企業ごとにカスタマイズされた回答が可能
- 人手不足をカバーできる
- どんな企業がヘルプデスクにRAGを活用していますか?
ヘルプデスク業務にRAGを活用する事例として、以下のような企業が導入を進めています。
- 朝日生命
- ダイハツ工業株式会社
- 株式会社北國銀行
- サッポロホールディングス株式会社
- 株式会社TSIホールディングス
まとめ
汎用的なAIチャットボットやLLMでは、企業固有の業務知識や最新の情報を適切に扱えないため、誤った情報を提供するリスクがあります。一方、RAGを活用することで、社内文書やマニュアルから正確な情報を抽出し、回答に活用でき、より信頼性の高い対応を実現します。
RAGを活用したヘルプデスク業務は、企業が抱える課題に対する解決策として有効です。問い合わせ対応の迅速化や人手不足の解消、属人化の防止など、RAGの導入がもたらすメリットは幅広く、さまざまな企業での活用が期待されています。
これからヘルプデスク業務の改善を検討している企業にとって、RAGは生産性の向上や働き方改革を実現するツールとなるでしょう。
ただし、RAGの導入を検討される際は、自社の業務フローや既存システムとの統合、セキュリティ要件など、専門的な観点からの検討が必要となります。特に、どの業務文書をRAGの知識ベースとして活用するか、その更新方法をどうするかなど、システム面での工夫も重要です。
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