電力システムとは?課題解決のためのAIを活用したデジタル化事例6選徹底解説!
最終更新日:2024年09月23日
電力システムは、電力エネルギーの発生から輸送、消費+供給の全体を含みます。非常に大規模かつ全体で電圧や周波数が一定の範囲に収まるよう高度に制御されたシステムです。現在の電力システムには、様々な課題が存在します。海外に依存している燃料問題、なかなか進まない再生エネルギー問題は待ったなしで事業コストに影響を及ぼします。
しかし、AIを活用することで、ユーザー側で電力システムの課題を解決することができる事例が多く存在します。今回はその中から6つを紹介します。あらゆるビジネスにも参考となるデジタル化のアイディアが含まれますのでぜひ参考にしてください。
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電力システムとは
電力システムとは、電気を作り、送り届ける一連の仕組みを指します。電力エネルギーの発生である発電、輸送である送電や変電、消費と供給に当たる需要と配電の全体の流れを含みます。
電力システムは、非常に大規模であり、全体で電圧や周波数が一定の範囲に収められるよう高度に制御されたシステムです。電気を安定的に生産し、供給するシステムが実用化されたことで、これまで全国の10の電力会社が一括して管理や運用をおこなってきました。
近年では、電力システム改革が進められ、発電事業者、送配電事業者、小売電気事業者に分けられています。
電力システムの4つの課題
現在、電力システムには多くの問題を抱えており、危機的な状況にあります。電力の安定供給、経済効率性、環境性などを確保できなくなるおそれがあるからです。具体的な電力システムの課題は以下です。
- 化石燃料への依存
- 再生エネルギーの導入拡大ができない
- 原子力発電所の再稼働が低調
- 電気料金の高止まり
それぞれの課題について説明します。
化石燃料への依存
上記グラフは経済産業省のエネルギー白書2022からの出典で、日本での発電電力量の化石燃料の依存割合は以下のように高止まりしています。
- 2010年度:64%
- 2016年度:83%
- 2020年度が76%
ピーク時に比べると少し比率は低下しましたが、それでも割合は高止まりしています。化石燃料への依存度が高止まりし、国際社会からも批判を受けています。削減していくという世界の風向きに反して、化石燃料比率は上昇を続けています。火力発電の化石燃料の資源には限りがあり、使用によって地球温暖化の要因とされる二酸化炭素の発生などが課題です。
再生エネルギーの導入拡大ができない
化石燃料による発電から以下のような再生エネルギーへの転換が進められていますが導入拡大には大きな課題があります。
再生エネルギーの大量導入の際の課題として、発電出力が気象条件に左右されるために、必要な出力を制御できない点が挙げられます。
送電制約等により拡大できず、電力ネットワークの整備が不十分であるため、電力システムは発電量と需要とを常時バランスさせていないと安定的な運用ができないからです。バランスを維持できるようなネットワークの整備が今後不可欠となるでしょう。
原子力発電所の再稼働が低調
原子力の安全対策が強化された一方、東日本大震災から10年以上が経過しても再稼働はいまだに低調です。原子力規制委員会の「原子力発電所の現在の運転状況」によると震災前の2010年には54基が稼働していましたが、2023年1月現在は9基に止まっています。
原子力は脱炭素化や電力の安定供給の一つの選択肢として活用が期待されています。しかし、今後より安全性を確保した継続的な活用を進めていかなくてはなりません。
電気料金の高止まり
国際的に遜色ない電気料金水準が確保できておらず、経済産業省のエネルギー白書2022によると日本の電気料金は産業用(左)・家庭用(右)ともに相対的に割高です。最近では、各国で課税や再生可能エネルギーの導入促進政策によって負担が増して格差は縮小傾向にあります。しかし、電気料金の本体価格は、依然として割高です。日本は燃料や原料の多くの部分を輸入に依存しているので、安定供給が不可欠であり、供給面で多くの課題があります。
電力システム改革とは
電力システムの改革は、最終目標である電力の完全自由化に向けて政府主導で進められています。主に以下4つの目的があります。
- 電力の安定供給の確保
- 電気料金の上昇を抑制
- 選択肢の拡大
- ビジネスチャンスの創出
東日本大震災での原子力発電所の事故を契機に、電力の安定供給に不安が生じたため改革が提言されました。多様な電源と全国的な電線網の活用が不可避となり、原発への依存度が下がったことによる電気料金の上昇圧力を抑える必要性が生じたからです。
改革ステップの具体的な内容は以下です。
- 電力広域的運営推進機関の設立
- 小売、発電の全面自由化
- 法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保
しかし電力システム改革は、上記で終わりとは言えないでしょう。むしろこれからが本格的な改革が始まると言えます。電力事業を取り巻く環境は変わり続けているからです。
電力システムが目指すべきS+3Eと3Dとは?
エネルギー政策の大原則は、S+3Eのバランス確保です。S+3Eは、S(Safety:安全性)に加えて以下の3つのEを指します。
- 自給率:Energy Security
- 経済効率性:Economic Efficiency
- 環境適合:Environment
さらに以下の3Dも進めていく必要があります。
- 脱炭素化:De-Carbonization
- 分散化:Decentralization
- デジタル化:Digitalization
世界の電力システムは3Dへ向けて進もうとしており、方向性は現実空間と仮想空間が一体となって社会問題の解決と経済発展を実現するSociety5.0と共通です。
電力投資を促して、技術開発、高度化、実装を進めることが必要であるでしょう。
AIやIoTを活用した電力システムのデジタル化
あらゆる情報を数値化し分析対象となるデジタル化は電力システムにも大きな影響を与えるでしょう。再生エネルギーの大量導入や、徹底した省エネルギーなどより高い次元の到達がデジタル化で可能となります。
特にAIやIoTの活用が期待され、既存インフラの効率性向上に導入が進められています。今後は、発電・送電設備や電化製品をはじめとした需要側機器もIoTですべてがつながり、ビッグデータとして蓄積が可能となるでしょう。AIが分析できれば、従来にはなかった新たな効果やサービスが生まれてくるかもしれません。
関連記事:「スマートグリッドとは?次世代電力システムの特徴・AIを用いた仕組み・メリット・事例を解説!」
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AIを活用した電力システムの先進事例6選
AIを活用した電力システムの事例を以下に紹介します。
- AI電力需要予測で需給管理をDX化(富士通)
- 稼働状況を示すデジタルツインを構成したデジタル変電所(日立エナジー)
- 安定的・経済的なAIによる発電計画の立案(グリッド/四国電力)
- 気象予測を活用した高精度のAI電力需要予測(ウェザーニューズ)
- AIで発電所の運用を高度化し設備の不具合を早期に検知(東芝/北海道電力)
- 最適化AIを活用した石炭輸送の配船計画(ALGO ARTIS/東北電力)
それぞれの事例について説明します。
AI電力需要予測で需給管理をDX化(富士通)
株式会社富士通鹿児島インフォネットは、電力業務に特化したAIの活用によって業務のDX化をサポートしています。需要予測の業務は、長年の経験で培った担当者のスキルによってバラつきが生じ正確な予測は困難です。
電力業務に特化したAIは、電力業務特性に近い予測モデルの構築、さまざまな手法を組み合わせた誤差の抑制、多くのデータを用いた精度評価といった需要予測の精度を高めるロジックを豊富に組み込んでいます。
また、予測精度の影響を与える要因、特徴量を算出可能なので、予測精度の悪い時の要因推定が可能です。高精度の需要予測で、インバランス料金の抑制が期待できます。
稼働状況を示すデジタルツインを構成したデジタル変電所(日立エナジー)
スイスにある日立エナジー社は、変電所に設置された機器類の監視や運用をするためのシステム「スマートデジタル変電所ソリューション」を展開しています。機器類の稼働状況を示したデジタルツインを構成する「デジタル変電所」技術と、予兆診断、故障予測などの管理や分析機能を組み合わせました。
変電所の生産性や信頼性、安全性などを高めて電力ネットワークの安定化をサポート可能としています。デジタル変電所は、変電所内の通信や制御に用いる銅ケーブルを光ファイバーに代えて敷設したシステムです。設置面積を省スペース化し、CO2の排出量の削減を実現して、機器やセンサーから取得したデータを活用して変電所の監視や運用を高度化します。
安定的・経済的なAIによる発電計画の立案(グリッド/四国電力)
AIを用いたシステム開発の販売やコンサルを手掛ける株式会社グリッドは、四国電力株式会社と共同で開発を進め、電力需給計画の立案システムを運用しています。このシステムはリアル空間の情報をIoTなどで集め、仮想空間でリアル空間を再現するデジタルツインと、AI最適化開発プラットフォーム「ReNom Power」で構成されます。電力の需要予測や電力市場の価格変動などを考慮しつつ、特定の条件下において利益が最大化となるような発電計画を自動で作成可能です。
「デジタルツインとは?メタバース・シミュレーションとの違い」も併せてご覧ください。
システムでは、仮想空間上の発電所のシミュレーションモデルと、電力需要や気象情報など将来の予測データにもとづいて電力需給の最適化AIと連携させたものがベースとなっています。発電計画を自動化で計算し、計画立案にかかる時間も大幅に減らすことが可能です。さらに、複数のシナリオを比較検討し、期待収益を最大限高められる発電計画の採用も可能とします。
気象予測を活用した高精度のAI電力需要予測(ウェザーニューズ)
株式会社ウェザーニューズでは、AI技術を活用した電力需要予測システムを開発し「電力需要予測サービス」を提供しています。最新の気象予測や消費電力といった実績データをもとAIが学習して、高精度の電力需要が実現可能です。
現状では、多くの電力事業者は、気象や暦が類似している日の実績を考慮しながら、独自に計算した需要予測をもとに電力取引をしています。しかし、以下の2つの課題がありました。
- 細かい修正には人手が必要
- 高精度の需要予測には豊富な経験を持つスタッフに頼らなければならない
そこで、ウェザーニューズが持つ気象データと、電力会社が保有する消費電力などの最新の実績データを取り込んで、独自開発したAIで30分ごとに学習し続けて、電力需要を高精度に予測するサービスの提供を開始しました。
精度検証で有用性が高いことが認められ、大手の新電力事業者での採用も決まったということです。
AIで発電所の運用を高度化し設備の不具合を早期に検知(東芝/北海道電力)
東芝エネルギーシステムズ株式会社と北海道電力株式会社は、AIやIoT技術を活用した火力発電所での設備の不具合、性能低下といったことを早期に検知するソフトウェアの共同開発をおこなっています。発電所の設備に設置した各センサーからの運転データから、AIやIoT技術によって算出した期待値と実測値を比較し、不具合や性能低下の兆候を検知するシステムです。
従来は、あらかじめ設定しておいた値にもとづいたアラート判定や、2年に1回の性能試験で実施されましたが、このシステム導入で、早い段階での検知を可能とします。微細な運転状態の変化をリアルタイムで捕捉できるので、発電への支障を未然に防止し、効率的な運転に寄与します。
最適化AIを活用した石炭輸送の配船計画(ALGO ARTIS/東北電力)
株式会社ALGO ARTISは、東北電力株式会社がおこなう石炭の海上輸送に関する配船計画の最適化ソリューションを導入し運用をおこなっています。株式会社ALGO ARTISはAIによる運用計画の自動最適化ソリューションの提供を手掛けています。石炭の配船計画を作成する業務では、石炭輸送船でサプライヤーから石炭を受け取って火力発電所に届ける一連の計画を作成する業務です。
多くの制約条件がある中で、火力発電所の石炭の在庫を維持しながら、石炭代や運賃などのコストを最低限に抑える計画にしなければなりません。さらには荒天やトラブルなど不測の事態にも日々の状況変化に応じて年間を通して計画を組み直す必要があります。
この最適化ソリューションでは、さまざまな制約条件や、コスト、リスクといったものを全て定式化し、経験やノウハウをAIのアルゴリズムに組み込むことで、配船計画の最適化を実現できました。計画の作成時間の大幅な削減に寄与し、速やかな計画修正や業務負担の軽減が可能となったということです。検証では、数億円の年間でのコスト削減や船舶の稼働率向上が試算されています。
AIによる数理最適化の仕組み、事例についてはこちらの記事で特集していますので併せてご覧ください。
電力システムについてよくある質問まとめ
- 現在の電力システムが直面している主な課題は何ですか?
電力システムの主な課題は以下の通りです。
- 化石燃料への高い依存度(2020年度で76%)
- 再生可能エネルギーの導入拡大の困難さ
- 原子力発電所の再稼働の低調さ(2023年1月時点で9基のみ稼働)
- 電気料金の高止まり(国際的に見て割高)
- 電力の安定供給の確保
- 環境への配慮(脱炭素化)
- AIを活用した電力システムのデジタル化の事例にはどのようなものがありますか?
AIを活用した電力システムのデジタル化事例は以下の通りです。
- 富士通:AI電力需要予測による需給管理のDX化
- 日立エナジー:デジタルツインを用いたデジタル変電所
- グリッド/四国電力:AIによる安定的・経済的な発電計画の立案
- ウェザーニューズ:気象予測を活用した高精度AI電力需要予測
- 東芝/北海道電力:AIによる発電所設備の不具合早期検知
- ALGO ARTIS/東北電力:最適化AIを用いた石炭輸送の配船計画
- 電力システム改革が目指す「S+3E」と「3D」とは何ですか?
電力システム改革が目指す「S+3E」と「3D」は以下の通りです。
S+3E:
- S: Safety(安全性)
- Energy Security(自給率)
- Economic Efficiency(経済効率性)
- Environment(環境適合)
3D:
- De-Carbonization(脱炭素化)
- Decentralization(分散化)
- Digitalization(デジタル化)
まとめ
本記事では電力システムでのAIを活用したデジタル化の事例を取り上げました。電力システムを取り巻く環境には課題が山積しており、改革を一刻も早く進めなくてはなりません。課題だらけだからこそ、行政任せ、政府任せではなく、民間企業で行える対策もまだまだ多くあります。
需要予測や異常検知など電力システムに限らず、あらゆる産業で活用できる事例も多くあります。しかし、AIを導入するためにはどのような業者やパートナーと組むのがいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
AIの専門用語、システム要件はわからないし、見積もりの内容チェック方法もわからない方がほとんどではないかと思います。
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