通関書類とは?輸出入手続きの必要書類、課題、AIによる解決・注意点・導入例を紹介
最終更新日:2025年05月19日

- 通関書類は輸出入に不可欠で、インボイスやB/Lなど多岐にわたり正確な作成と管理が求められます
- 多くの企業で通関業務は、法改正の複雑化、書類不備による遅延、専門人材の不足、デジタル化の遅れといった課題
- AI技術(AI-OCR、機械学習によるHSコード分類支援、チャットボットなど)の活用により課題を解決し、業務の大幅な効率化と精度向上
国際物流の現場では、輸出入時に多種多様な通関書類の処理が必須です。
しかしながら、頻繁な法改正への対応、煩雑な書類チェックによるヒューマンエラー、専門知識を持つ人材の不足といった課題に直面し、業務効率化の壁を感じているご担当者様も少なくないはずです。
この記事では、通関業務特有の課題を明らかにし、画像認識AI、特にAI-OCR技術を活用することで、書類作成の自動化、不備チェックの精度向上、HSコード分類の支援といった具体的な解決策を提示します。
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目次
通関書類とは?
通関書類とは、貨物の輸出入に際して、税関に提出する書類一式を指します。貨物の内容、価格、取引条件などを明らかにし、関税の適正な課税や法令遵守を目的としています。
通関手続きは国際物流に不可欠な工程であり、正確で迅速な対応が求められる分野です。主な通関書類の種類には以下が挙げられます。
- インボイス(Invoice:仕入書)
- パッキングリスト(Packing List:包装明細書)
- 船荷証券(Bill of Lading:B/L)または航空貨物運送状(Air Waybill:AWB)
- 原産地証明書(Certificate of Origin:C/O)
- 保険証券
- 輸出許可証
- 輸入承認書
通関書類の不備は貨物の遅延や追加コスト、最悪の場合は罰則の対象となるため、担当者は書類の内容理解と管理に高い精度を求められます。こうした背景から、通関書類の処理を効率化するためのAI-OCRによる書類読み取り、データ入力の自動化が注目を集めています。
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輸入時の手続きの流れと必要書類
輸入時の通関手続きは、外国から日本国内に貨物を持ち込む際に税関の審査と許可を得るために実施されます。一般的な流れとしては、以下の通りです。
- 輸入申告
- 審査・検査
- 関税・消費税を納付
- 輸入許可
- 貨物の引き取り
通常、貨物が日本の港または空港に到着する前に通関業者に依頼し、税関に対して輸入(納税)申告の準備を行います。そして、貨物到着後、税関に輸入申告を行います。この際、入手した通関書類を提出します。
輸入時において不可欠な通関書類としては、インボイス(仕入書)が挙げられます。また、貨物の内容を視覚的に確認するためのパッキングリストも必要で、品目ごとの梱包明細が明記されます。
加えて、運送書類として船荷証券(B/L)や航空運送状(AWB)、貨物保険を証明する保険証券、さらには原産地証明書や検査証明書なども提出対象になります。
これらの書類に記載された情報をもとに、税関は貨物の輸入に法的問題がないか、課税価格の妥当性、輸入制限品に該当しないかなどを精査します。
輸出時の手続きの流れと必要書類
輸出手続きは、日本国内から国外に貨物を出す際に税関の許可を得るために必要です。必要な手続きは、以下の通りです。
- 輸出申告
- 審査・貨物の検査
- 輸出許可
- 貨物の積み込み・出国
輸出時の通関手続きでも、インボイスとパッキングリストは必須です。これらに加えて、輸出申告書や原産地証明書、各種契約書、輸出許可証などの提出が求められます。
船会社または航空会社に船積み(または航空機搭載)を依頼し、B/LまたはAWBを入手します。通常は通関業者に依頼し、税関に対して輸出申告を行います。この際、作成した通関書類を提出します。
また、武器や先端技術製品といった特定の品目については、安全保障貿易管理の観点から、該非判定書や経済産業省の輸出許可が必要となる場合もあります。これらの書類が整っていない場合、輸出許可が得られません。
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通関業務が抱える課題
通関業務は法令遵守と正確な書類処理が求められる分野で、重要性が高い一方で課題もあります。通関業務における代表的な課題を取り上げて紹介します。
法規制対応の複雑化
通関業務では、輸出入に関わる法規制の変化に対応しなければなりません。近年では国際的な安全保障強化や貿易摩擦の影響を受け、関係法令の改正や新たな通達が頻繁に発出されています。
特に経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)に基づく特恵税率の適用にあたっては、原産地規則の厳格な確認が求められています。誤りがあると関税の追徴や罰則につながる恐れもあります。
また、輸出入規制品目に関する通達や、安全保障貿易管理に基づく該非判定の運用についても、年々厳しくなっているのが現状です。こうした法令の複雑化により、通関実務における確認業務が煩雑化し、コンプライアンス違反のリスクが高まっています。
さらに、国ごとに異なる規制基準や通関要件にも対応しなければならないため、グローバルに展開する企業ほど体制整備が難しくなっています。
書類不備やチェックミスによる遅延
通関手続きの実務現場では、入力ミスや記載漏れ、添付忘れといった人的エラーが発生するリスクがあり、税関審査が滞ることで貨物の引き取りが遅れるケースも少なくありません。とりわけインボイスやパッキングリストにおける品名・数量の相違は、課税価格の判断に直接影響するため、税関から修正指示が出る場合もあります。
また、複数の帳票を突き合わせて確認する作業は手間がかかるため、属人的なチェック体制では、ミスを完全に防ぐことは困難です。特に繁忙期や経験の浅い担当者が処理を行う場面では、ヒューマンエラーのリスクが高まります。
通関書類の不備が引き起こす遅延は、国際物流のスケジュール全体に影響を及ぼし、取引先との信頼関係にも影を落とす可能性があります。
人材不足と育成の難航
通関業務は専門性が高く法令知識や実務経験が不可欠な分野です。関税法や関連法規、品目分類(HSコード)、EPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)といった専門知識が欠かせません。しかし、近年ではその業務を担う人材の確保が大きな課題となっています。
一方で、経験豊富な担当者の退職・異動により、ノウハウの継承が断絶されるケースも見られ、業務の属人化がリスクとして顕在化しています。複雑な通関業務を短期間で習得させるのは難しく、教育コストや育成期間の長期化が現場の負担となっています。
こうした人材のミスマッチや育成難によって、業務が特定のベテラン担当者に集中し、属人化が進んでいます。業務の標準化や効率化が進まず、通関処理の遅延やミスの温床となっているのが実情です。
デジタル化対応の遅れ
通関業務の現場では、依然として紙媒体による書類管理や手作業によるデータ入力が多く残っており、業務全体のデジタル化が遅れている状況が続いています。特に中小規模の企業では、既存のアナログ手法から脱却できず、業務効率やデータの一元管理に課題を抱えたまま運用しているケースも珍しくありません。
NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)などにより電子化が進んでいる部分もあります。しかし、インボイスやパッキングリスト、船荷証券(B/L)など、多くの書類が依然としてPDFや紙でやり取りされることが多く、手作業によるデータ入力や目視確認が残っています。
そもそも通関業務プロセスのデジタル化には、システムの運用設計や連携が必要で、その整備には相応のコストと専門知識が必要です。そのため、通関業務のデジタル変革は一部にとどまり、全体の最適化には至っていないのが実情です。
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AIを用いた通関手続きの課題解決
通関業務が抱える多くの課題に対し、AI技術の活用が解決策として期待されています。
AI-OCRによる文字認識の精度向上
インボイスやパッキングリストといった通関書類には、手書き文字やスキャンによる画像データ、PDFファイルといった多様な形式の情報が含まれており、それらをデジタルデータとして処理することが求められます。
自然言語処理(NLP)を組み合わせたAI-OCR(光学的文字認識)は、複数のフォーマットや記載内容の揺らぎへの対応が可能です。
AI-OCRを用いることで文脈を理解しながら文字を読み取ることが可能になり、語句の前後関係を解析しながら構造化データを生成できます。誤記や略語、異体字が含まれていてもAIが文意を補完するため、通関書類の読解精度は向上します。
結果として書類確認にかかる工数を大幅に削減でき、人的チェックに頼らずとも高精度な申告準備が実現可能です。
AIによる書類の不備チェック・整合性検証
インボイスとパッキングリストの商品名や数量の一致をはじめとした、各書類間の整合性や記載必須項目の漏れなどをAIが自動でチェックします。これにより、申告前の不備発見率を高め、手戻りを防ぎます。
貨物のHSコード分類・リスク判定を自動化
通関手続きにおいて貨物に適切なHSコード(関税分類番号)を割り当てる作業は、関税額の算出や輸出入規制の確認に直結する工程です。しかし、このプロセスは属人化しやすく、判断ミスや解釈の揺れが発生するリスクもあります。
このような課題に対し、AIを活用してHSコードの自動分類を行う技術が注目されています。自然言語処理や機械学習モデルを組み合わせることで通関書類に記載された商品説明を解析し、最適なHSコードを高精度で推定します。
さらに、リスク判定機能を組み込むことで、輸出入規制品や安全保障貿易管理の対象に該当する可能性がある貨物を検知し、事前に警告を出すことも可能です。
チャットボット、そしてAIエージェントによる問い合わせ対応
通関手続きに関する社内からの基本的な問い合わせに対し、AIチャットボットが24時間365日対応することで担当者の負担を軽減します。通関手続きに関する複雑な問い合わせに対し、関連法規や過去の事例を瞬時に検索・照合し、人間が理解しやすい形で回答やアドバイスを生成します。
より高度な問い合わせ対応として、特定の品目における関税率や、利用可能な経済連携協定(EPA/FTA)の適用条件などをAIエージェントが調査し、最適な選択肢を提案するといった活用も考えられます。税関からの問い合わせ内容を解釈し、関連情報を担当者に提示する支援も可能です。
通関業務にAIを導入した事例
AIを活用した通関業務の効率化は、すでに実際の企業でも成果を上げています。ここでは、AIを導入した2社を紹介します。
通関書類のデジタル化以外に物流業界でAIが活用されている事例をこちらの記事で解説しています。
【住友倉庫】AI-OCRによる書類のデータ化
株式会社住友倉庫では、ネットスマイル社のAI-OCRサービス「AIスキャンロボ®」を導入し書類処理を効率化しています。この企業でも貿易帳票を紙媒体で管理しており、手作業によるチェックと入力によって、作業時間の増加やミスのリスクが課題となっていました。
「AIスキャンロボ®」は、複雑なフォーマットの帳票に対応可能で、ユーザーがマウス操作で簡単に読み取り箇所を設定できる点が評価されています。導入後は帳票の読み取り精度が向上し、作業時間の短縮によって業務効率が大幅に改善されました。
また、英語や手書き文字の認識にも対応しており、グローバルな物流業務においても活用されています。
【安田倉庫】申告書類作成の工数を約50%削減
安田倉庫株式会社では、通関業務の効率化を目的として、株式会社インフォディオのAI-OCR「スマートOCR」を導入しています。従来はの帳票情報を手作業でシステムに入力していたため、大口顧客の案件では書類の処理に多大な時間と労力を要していました。
そこでスマートOCRを導入したことで、帳票全体を一括読み取りが可能となり、異なるフォーマットの書類にも対応できるようになりました。これにより、1件あたりの申告書類作成にかかる工数を約50%削減し、入力ミスの減少と処理スピードの向上を実現しています。
さらに、読み取ったデータをRPAと連携させることで、システム処理の自動化を進め、業務全体の効率化を図っています。今後は請求書の読み取り業務への活用も検討しており、通関業務におけるAI技術の活用領域を拡大しています。
通関業務にAIを導入する際の注意点
AIの導入によって、通関業務の効率化・正確性の向上が期待される一方で、運用には慎重な対応が求められます。実際の業務プロセスにAIを導入する際は、以下の点に注意しましょう。
最新の関連法規を厳格に遵守したシステムを構築する
通関業務では、以下のような法令が適用されます。
- 関税法
- 輸出貿易管理令
- 関係省庁の通達
これらを正しく反映したAIシステムでなければ、誤った処理や違法な輸出入を引き起こすリスクが高まります。中でも安全保障貿易に関する規制は厳格であるため、該非判定の自動化や輸出許可情報の管理においても、最新の法改正に対応した体制が不可欠です。
AIシステムにおいては、アルゴリズムやデータの更新を定期的に行い、法令に適合した状態を保つ必要があります。導入段階では法務部門や通関士と連携し、業務プロセスとの整合性を確保した運用設計が重要です。
学習データの質を確保する
AIによる通関業務の自動化には、入力データの質を高く保つ必要があります。学習データに誤記や表記揺れ、不完全な情報が含まれていれば、AIの出力結果に誤差が生じやすくなります。
誤認識を防ぐには、標準化された入力フォーマットの整備や、記載ルールの統一が不可欠です。また、過去の通関実績や申告履歴といった正確なデータを学習させることで、AIの判断精度を高めます。
セキュリティ対策を徹底する
通関書類には、以下のような機密性の高いデータが含まれています。
- インボイス
- 契約書
- 輸出入先の企業情報
- 価格情報
これらが外部に漏洩した場合、取引先との信頼関係や企業の信用に大きな影響を与えかねません。そのため、セキュリティ対策は徹底して強化する必要があります。
AIシステムをクラウドベースで運用する場合は、通信経路の暗号やアクセス権限の細分化、ログ監視の強化など技術的な対策が必須です。通関業務に特化したAIであっても、情報管理の甘さが一つでもあれば業務停止や法的責任につながる恐れがあります。
さらに、ヒューマンエラーや内部不正への備えとして、操作ログの記録や監査体制の整備、定期的なセキュリティ教育の実施も効果的です。
人間のチェック工程も設ける
AIは通関業務の効率化が期待できるとはいえ、最終的な判断を人間が行う工程は依然として重要です。法令の解釈が分かれる場面や例外的なケースでは、AIによる高速な処理ではなく人間の判断力や経験が必要とされます。
例えば、輸出入規制の対象品目や特殊な取引条件が関わる申告では、機械的な処理だけでは適切に対処できない場合があります。
また、AIの出力結果を盲目的に信用してしまうと誤処理や申告ミスを見逃す可能性があるため、ダブルチェック体制の整備が必須です。人間によるレビュー工程を設けることで誤判定の発見率を高め、申告の正確性を担保することができます。
AIと人間が相互に補完し合う運用体制を構築することで、業務の信頼性と柔軟性が維持されます。
通関書類についてよくある質問まとめ
- 通関に必要な書類は何ですか?
通関で必要な書類は、輸出と輸入で異なります。輸出の場合は、以下のような書類が必要です。
- インボイス
- パッキングリスト
- 輸出申告書
- 契約書
- 原産地証明書
輸入では、以下の書類が必要です。
- インボイス
- パッキングリスト
- 船荷証または航空運送状
- 原産地証明書
- 輸入許可証や検査証明書
- 今の通関業務には、どんな課題がある?
現在の通関業務には、主に以下のような課題があります。
- 法規制対応の複雑化: 国際情勢の変化やEPA/FTAの増加により、関連法令の改正が頻繁で対応が煩雑。
- 書類不備やチェックミスによる遅延: 人的エラーによる記載漏れや誤りが、貨物引き取りの遅延を引き起こす。
- 人材不足と育成の難航: 専門知識を持つ人材が不足し、育成にも時間とコストがかかり、業務が属人化しやすい。
- デジタル化対応の遅れ: 紙媒体や手作業によるデータ入力が多く残り、業務効率化が進みにくい。
- 通関業務の課題をAIで解決できる?
はい、AI技術は通関業務の多くの課題解決に貢献できます。具体的には以下のような活用が期待されています。
- AI-OCRによる文字認識の精度向上: インボイス等の書類をAI-OCRで読み取り、手書き文字や多様なフォーマットに対応し、データ化の精度を向上。
- AIによる書類の不備チェック・整合性検証: 複数の書類間の整合性や記載漏れをAIが自動でチェックし、手戻りを防止。
- 貨物のHSコード分類・リスク判定を自動化: 商品説明をAIが解析し、適切なHSコードを推定。輸出入規制品のリスクも検知。
- チャットボットによる問い合わせ対応: 定型的な問い合わせにAIチャットボットが24時間対応し、担当者の負担を軽減。
- 通関業務に画像認識AIを活用するメリットは?
画像認識AIの導入は、通関業務に以下のようなメリットをもたらします。
- 書類処理の自動化と精度向上
- 外観検査の効率化
- 属人化の解消と標準化
- AI技術を導入する際の注意点は?
通関業務にAI技術を導入する場合は、以下の点に注意しましょう。
- 関連法規を厳格に遵守したシステムを構築する
- 通関データの質を確保する
- セキュリティ対策を徹底する
- 人間のチェック工程も設ける
まとめ
国際取引の円滑な遂行に欠かせない通関書類の管理・処理業務には、高い専門性と厳格な法令遵守が求められます。そのため、現場では法規制の複雑化やデジタル化の遅れが問題とされており、対応の限界が指摘されてきました。
こうした背景の中、画像認識をはじめとするAI技術の導入が注目され、文字認識、HSコード分類、外観検査といった工程での実用が進んでいます。
しかし、AI導入を成功させるためには、自社の業務プロセスに合わせたシステムの選定、最新法規への対応、質の高い学習データの確保、そして何よりもセキュリティ対策が不可欠です。また、AIは万能ではなく、最終的な判断や複雑なケースへの対応には依然として人間の専門知識が求められます。
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