イベントカメラとは?フレームカメラとの違い・仕組み。活用方法を徹底解説!
最終更新日:2025年01月21日
高速で動く物体、急激に変化する光環境、これらは従来のカメラにとって苦手な領域です。イベントカメラは、そんな画像認識の課題を解決するために開発された新しい視覚センサーです。
生物の網膜から着想を得たこの技術は、必要な変化だけを捉え、従来のカメラでは不可能だった高速検知、高ダイナミックレンジ、低消費電力を実現します。
本記事では、イベントカメラの仕組みから強み、具体的な活用事例、さらには導入時の課題まで徹底解説します。イベントカメラが、あなたのビジネスにどのように役立つのか、画像認識・解析の新しい可能性をぜひ見つけてください。
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イベントカメラとは?
イベントカメラは、生物の網膜から着想を得て、変化のあった部分のみを記録する撮像デバイスです。
従来のカメラは一定間隔で画面全体の情報を取得します。それに対し、イベントカメラは輝度の変化があった画素(ピクセル)のみをリアルタイムで検知し出力します。そのため、イベントベースカメラ、とも呼ばれます。
これにより、不要なデータを削減し、高速な動きや急激な明るさの変化にも対応できます。
AIカメラとして、主にロボットやコンピュータビジョンの分野での活用が期待されており、従来のカメラでは困難だった高速な動きの捕捉や、複雑な光環境下での撮影を可能にします。
生物の網膜を模倣するイベントカメラの仕組み
イベントカメラの動作原理は人間の目の網膜構造を模倣しています。
イベントカメラは、各画素に設置された受光部で光を電圧に変換し、輝度変化検出部が基準電圧との差分を検知します。設定された閾値を超える輝度変化が発生すると、その画素の座標、時刻、変化の極性(明るくなったか暗くなったか)を「イベント」として出力します。
この仕組みにより、人間の目のように必要な視覚情報のみを効率的に処理することが可能になりました。
参考:arXiv|Event-based Vision: A Survey
従来型フレームカメラとの違い
従来のフレームカメラは、CCDやCMOSセンサーを用いて30fpsなどの一定のフレームレートで全画素の情報を取得します。一方、イベントカメラは輝度変化のあった画素のみを非同期で出力するため、データ量を大幅に削減できます。
また、マイクロ秒単位の時間分解能を持ち、140dBものダイナミックレンジを実現しています。これにより、従来のカメラでは捉えきれなかった高速な動きや、強い光と暗い部分が混在するシーンでも正確な撮影が可能です。
さらに、必要な情報のみを処理するため、消費電力も従来のカメラと比べて大幅に低減されています。
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イベントカメラの特長
イベントカメラは、従来のカメラ技術とは一線を画す独自の技術的特長を備えています。その特徴は、高速な検知能力から省電力性能まで、幅広い分野で優位性を持っています。
これらの特長により、産業用途から研究分野まで、様々な場面での活用が進んでいます。以下では、イベントカメラが持つ主要な技術的特長について詳しく解説します。
マイクロ秒単位の高速検知能力
イベントカメラは、マイクロ秒オーダーという極めて短い時間単位で光の変化を検知できます。イベントカメラの各画素は独立して動作し、輝度変化を検出すると即座にイベントとしてデータを出力します。
この高速検知能力により、従来のカメラでは捉えることが困難だった瞬間的な現象や高速な動きを正確に記録することが可能です。
例えば、電子部品の破損の瞬間、風船が破裂する瞬間やスポーツ選手の素早い動きなど、一瞬の出来事も鮮明に捉えることができます。
効率的なデータ処理
従来のフレームカメラが全画素の情報を常時処理するのに対し、イベントカメラは輝度変化のある画素のデータのみを処理します。この効率的なデータ処理方式により、CPUの処理負荷を大幅に軽減し、システム全体の安定性を向上させることができます。
また、データ量自体も少なくなるため、保存容量の削減にもつながります。
ワイドダイナミックレンジによる撮影性能
イベントカメラは140dBという広いダイナミックレンジ(カメラが捉えられる最も明るい部分と最も暗い部分の比率)を持ちます。従来のカメラでは、露光時間の制約により白飛びや黒潰れが発生しやすいのに対し、イベントカメラは輝度変化のみを捉えるため、広い輝度範囲を同時に処理できるからです。
そのため、暗闇から太陽光下まで、極端な明暗差のある環境下でも適切な撮影が可能です。
これにより、従来のカメラで課題となっていた白飛びや黒潰れを防ぎ、あらゆる光環境下で安定した映像を取得できます。
低消費電力の実現
イベントカメラは、必要な画素のみを処理する方式により消費電力を大幅に抑制しています。低消費電力を実現し、長時間の連続稼働が可能です。
この特性により、バッテリー駆動のデバイスや省エネルギーが求められる用途において、運用コストの削減に貢献します。
リアルタイム処理
イベントカメラは、各画素が独立して動作し、輝度変化を検出すると即座にデータを出力するので高速・低レイテンシーです。このリアルタイム処理能力により、製造ラインでの検査や監視システムなどで即時的な判断が可能になります。
また、オプティカルフローをはじめとする動き解析手法とも相性が良く、データの送受信における遅延が少ないため、高速な動きの検知や異常の即時発見など、迅速な対応が求められる場面で効果を発揮します。
これにより、業務プロセスの効率化と品質向上を同時に実現できます。
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イベントカメラの現状の課題と展望
イベントカメラは優れた性能を持つ一方で、実用化に向けてはいくつかの課題が存在します。これらの課題を克服することで、より幅広い分野での活用が期待されています。
時刻同一性の問題と解決アプローチ
イベントカメラの重要な技術的課題として、時刻同一性の問題があります。多くの画素で同時に輝度変化が発生した場合、それらのイベントに含まれる時刻が完全に同一とならず、時刻に対するイベントヒストグラムが広がってしまいます。
この問題に対して、以下のような解決アプローチが研究されています。
- 高速点滅発光システムによる評価
- 光学フィードバック制御
- ハードウェア同期
専用アルゴリズム開発の必要性
イベントカメラは従来のカメラとは全く異なる枠組みで捉える必要があり、専用のアルゴリズム開発が不可欠です。特に、スパースな信号データ(必要な情報が疎らに存在する形式のデータ)を効率的に処理するための新しいアプローチが求められています。
現在、以下の研究が進められています。
- FPGA/ASIC実装ハードウェアアクセラレーションにより、イベントデータの高速処理
- ディープラーニングアプローチ
- ハイブリッドアプローチ:従来のフレームベースカメラと組み合わせたハイブリッドシステム
これらの技術を組み合わせることで、イベントカメラの性能をさらに向上させることが可能になります。
導入コストと価格動向
イベントカメラの市場規模は2024年の2億2,830万ドルから2032年までに2億9,060万ドルに成長すると予測されています。しかし、高ダイナミックレンジや長距離データ収集機能の実現には莫大な材料コストがかかり、エンドユーザーの所有コストが高騰する傾向にあります。
一方で、従来のCMOSカメラと比較して価格競争力の向上が課題となっています。
普及に向けた技術的ハードル
イベントカメラの普及には、インフラストラクチャとエコシステムの整備が必要です。標準化されたインターフェースやイベントベースのデータ用のソフトウェアライブラリの開発が不可欠です。
また、サプライチェーンの混乱やシリコンなどの原材料の入手困難さも、量産化における課題となっています。これらの技術的ハードルを克服することで、より広範な産業での採用が期待されています。
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ビジネスにおけるイベントカメラの活用シーン
イベントカメラは、その高速な検知能力と効率的なデータ処理により、様々な産業分野で実用化が進んでいます。各分野での具体的な活用方法と、その効果について解説します。
製造業での品質管理・予知保全
製造業では、製品の品質管理や製造設備の予知保全にイベントカメラが活用されています。高速な動きを捉える能力を活かし、製造ラインでの微細な不良や欠陥を正確に検出することが可能です。
また、機械設備の異常な動作や振動をリアルタイムで検知し、早期に故障の予兆を把握することで、予防保全にも貢献しています。
イベントデータを直接処理するディープラーニングモデルの開発により、より高精度な予知保全が可能になっています。さらに、エッジAIの進展と相まって、製造現場でのリアルタイム画像認識を可能にしています。
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セキュリティシステムでの監視・モニタリング
セキュリティ分野では、広いダイナミックレンジと高速な検知能力を活かし、昼夜を問わない監視システムとして活用されています。特に、急な明るさの変化や高速な動きのある侵入者の検知において優れた性能を発揮します。
また、複数のカメラを連携させることで、広域な監視エリアをカバーしながら、必要な映像データのみを効率的に処理することが可能です。イベントカメラの特性を活かし、必要な情報のみを捉えることでプライバシー保護と監視の両立が図られています。
大規模イベントでの群衆管理や安全確保にイベントカメラが活用され始めています。
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ロボティクス分野での障害物検知・自動制御
ロボティクスの分野では、イベントカメラは移動ロボットの障害物検知や経路制御に使用されています。ToFカメラなどの3DカメラやLiDARと組み合わせることで、より正確な障害物の検知と回避が可能になります。
高速で移動する障害物の回避にもイベントカメラが効果的に使用されています。例えば、AI搭載のドローンの障害物回避システムにおいて、マイクロ秒オーダーの反応速度を実現しています。
特に、人とロボットが協働する環境では、高速な動きの検知能力を活かして安全性を確保しています。
自動運転システムでの高速物体検出
自動運転技術において、イベントカメラは従来のカメラでは捉えきれない高速な物体の検出に威力を発揮します。特に、高速道路での車両や歩行者の動きを正確に捉え、事故を未然に防ぐための重要な役割を果たしています。
また、急な明るさの変化がある環境下でも安定した検出が可能なため、トンネルの出入り口などでの信頼性の高い物体認識を実現しています。イベントカメラの特性を活かした低遅延処理により、ミリ秒オーダーでの物体検出と追跡が可能になっています。
従来のフレームベースカメラとイベントカメラを組み合わせたハイブリッドシステムが開発され、より高精度な物体検出が実現されています。
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宇宙空間での物体監視・追跡
宇宙空間では、スペースデブリや人工衛星の監視にイベントカメラの技術が応用されています。イベントカメラの低消費電力性を活かし、超小型衛星に搭載されたイベントカメラによるスペースデブリ監視システムが開発されています。
高いダイナミックレンジと高速な検出能力により、明るい太陽光の下でも小さな宇宙物体を正確に追跡することができます。
特に、地球低軌道上の物体監視において、従来の光学システムでは困難だった高速物体の追跡を可能にしています。地上からの宇宙物体観測にイベントカメラを用いることで、従来のシステムでは困難だった昼間の観測や、より小さな物体の検出が可能になっています。
まとめ
イベントカメラは、従来のカメラとは異なる原理で動作し、高速な動きや変化を捉えることに特化した画期的な技術です。製造ラインでの品質管理や自動運転システムでの障害物検知など、幅広い産業での活用が進んでいます。市場は2032年までに約3億ドル規模に成長すると予測され、ビジネスチャンスとして注目を集めています。
ぜひ、自社の製造プロセスや品質管理システムの効率化にイベントカメラの導入を検討してみてください。しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、専用のアルゴリズム開発や、導入コスト、技術的な課題など、解決すべき点も存在します。
もし、イベントカメラの導入を検討する中で、さらに詳細な知識や、具体的な導入方法についてお困りの場合は、イベントカメラに詳しい専門業者にご相談いただくことをお勧めします。
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イベントカメラについてよくある質問まとめ
- イベントカメラは従来のカメラと比べてどのような利点がありますか?
従来のカメラと比較して、マイクロ秒単位の高速検知能力、140dBという広いダイナミックレンジ、そして大幅な省電力性能が特長です。特に、高速な動きの捕捉や複雑な光環境下での撮影において優れた性能を発揮し、データ処理の効率化によってCPU負荷も軽減できます。
- イベントカメラはどのような業界での活用が期待できますか?
製造業での品質管理や異常検知、セキュリティシステムでの監視、ロボティクス分野での障害物検知、自動運転システムでの物体検知など、幅広い産業分野で活用されています。特に、高速な動きの検知や24時間稼働が必要な現場での導入効果が高いとされています。
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