未知物体検出とは?仕組み・重要性・活用事例・注意点を徹底紹介!
最終更新日:2024年12月26日
未知物体検出は、広く普及する画像認識AI技術の中でも特に注目される分野の一つです。未知物体検出は学習していない未知の物体を「未知」として認識し、検出を可能にする技術です。
自動運転技術での障害物検知や製造業での異常検知、医療分野での未知の疾患発見など、幅広い分野で活用され始めています。
本記事では、未知物体検出技術の導入を検討している企業担当者に向けて、未知物体検出の仕組みや重要性、活用事例を徹底的に解説します。未知物体検出技術がどのようにビジネスへ活用できるのかを深く理解するためにも、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
未知物体検出とは?
未知物体検出とは、物体検出AIにおいて学習していない物体を認識・検出して、適切に「未知」として認識するコンピュータビジョン技術です。
基本的に物体検出AIでは、学習済みのクラス(カテゴリー)に含まれる物体しか認識できません。未知の物体を認識した際に、強引に既知のクラスに分類する傾向がありました。しかし、この傾向はAIが変化する環境や予期せぬ状況に対応するうえでの課題となっていました。
一方、未知物体検出技術は未知の物体を新たなクラスとして特定します。システムに登録されていない物体にも対応可能です。
例えば、自律走行車においては、未知の障害物を正確に認識することで事故を未然に防ぐことができ、産業分野では製造ラインで未知の異常物体を検出できれば品質管理を向上できます。
また、近年は未知物体認識AIとLLM(大規模言語モデル)を組み合わせ、物体認識AIの情報量が増すような文章を生成し、認識精度の向上を試みる開発も進められています。
未知物体検出技術はAIが柔軟に対応し、認識の信頼性を向上させるうえで重要な技術といえます。
使われている手法
未知物体検出は以下のような手法を活用し、AIが学習していない物体やパターンを「未知」として検出する仕組みです。
- 単語ベクトル類似度測定:通常の物体検出の検出結果と単語ベクトルとの類似度を測定
- Zero-Shot Detection (ZSD):物体検出とZero Shot Learning(ゼロショット学習)を組み合わせて未学習のカテゴリを推測・検出
- Spatial-Temporal Unknown Distillation (STUD):動画や時系列データをもとに、時空間的な変化から未知物体を特定
- 生成AIモデルを活用した手法:GANやVAEなどを用いて未知クラスの画像を生成して学習し、学習パターンから外れるデータを「未知」と判定
- 特徴マップを活用した検出:Vision Transformerなどの事前学習済みモデルの特徴マップを直接利用して未知物体を検出
- 自己教師あり学習:ラベルなしデータからAIが自動で特徴を学習し、未知物体を検出
- Objectnessスコア:SSDなどの物体検出アルゴリズムに「物体らしさ」を表すObjectnessスコアを導入する方法
これらの手法は、データの種類や用途に応じて適切に選択されます。
物体検出との違い
未知物体検出と物体検出は、以下のように目的や使用されるアルゴリズムにおいて大きな違いがあります。
比較項目 | 物体検出 | 未知物体検出 |
---|---|---|
目的 | 既知の物体を正確に認識する | 未知の物体を識別し、適切な対応を可能にする |
具体例 | 自動運転車が交通標識や歩行者を検出 | 製造ラインで異常製品を検出、監視カメラで不審物を検出 |
アルゴリズム例 |
|
|
特徴 | 学習済みクラスに対して高精度な検出ができることが目的 | 未知物体の識別と既知物体の検出を同時に行うことが目的 |
上記の表をもとにそれぞれの特性や適用範囲を理解することで、目的やシナリオに応じて最適な技術を選択し、最大限に活用することが可能です。
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未知物体検出の重要性
未知物体検出技術は、安全性の向上や業務の効率化につながることから、さまざまな業界で重要性が高まっています。以下では、未知物体検出が重要とされる理由について紹介します。
信頼度の明確化
未知物体検出の大きなメリットは、AIが「分からないものを分からない」と正確に判断することです。この能力により、既存のAIモデルに見られる既存検知物体に無理してカテゴライズする「知ったかぶり」を回避できます。
AIの透明性や説明可能性を重視する「XAI(Explainable AI)」の技術に相当し、AIモデルの信頼性を向上し、ビジネスへの導入可能性を拡大できる技術として注目されています。未知物体検出を備えたAIは、正確かつ責任ある判断を可能にします。
関連記事:「XAI(説明可能なAI)とは?手法、メリット・デメリット、活用分野を徹底解説!」
安全性の向上
未知物体検出は、特に自動運転車やロボットにおいて事故を未然に防ぐために重要です。たとえば、道に落ちている物体や動物などの予期せぬ障害物を適切に検出できれば、迅速な回避行動が可能になります。
そのため、特に人命を扱う分野において未知物体検出の重要性が高まっています。
適応性の向上
著しい社会の変化や商品開発の発展に伴い、日々新しい物体が登場しています。物体検出技術ではこれらに対応するのが難しく、新しい物体に対応できる未知物体検出技術が注目されています。
未知物体検出は、AIに適応力を与える技術であり、変化する環境での柔軟性と持続的な有用性を担保します。
業務の効率化
未知物体検出は、社会インフラにおける保守点検作業や物流倉庫での効率化に大きく貢献します。たとえば、インフラの保守点検において、通常では見逃される可能性のある異常や欠陥を検出することで、作業効率を向上させることが可能です。
また、物流現場では、新しい障害物や荷物の異常を特定することで、業務のスムーズな進行が期待できます。
未知の脅威の発見
未知物体検出は、特に防犯やセキュリティ分野において不審物や未知の危険物を特定するための技術として注目されています。この能力により、犯罪や事故を未然に防ぐことが可能になります。
特に、大規模なイベントや公共施設の安全確保において、未知物体検出が大きく役立つと期待されています。
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未知物体検出が活用されている分野
以下では、さまざまな分野における未知物体検出野事例を紹介します。自社への導入可能性を判断する際の参考としてご覧ください。
自動運転(コーピー)
自動運転技術において、未知物体検出は安全性向上を左右する重要な技術として活用が検討されています。落下物や故障した車などAIが学習していない障害物を検知し、適切に停止や迂回を行うことで、事故リスクを最小限に抑えられます。
例えば、株式会社コーピーが安全な自動走行システムの提供に向けて開始したプロジェクトでは、「未知の路上障害物を検出するシステム」の実現を目指しています。
通常の物体検出技術では、事前に人や車といった具体的なラベルを学習させる必要がありますが、路上の未知の物体は教師データを明示的に与えることが困難です。そこで、データ拡張や教師無し学習などを組み合わせた未知物体検出技術を検討しています。
未知物体検出技術が自動運転へ応用されることで、予期せぬ障害物へ対応できるようになり、完全自動運転の実現に近づきます。
関連記事:「自動運転の仕組みからAIの役割の重要性、メリット・デメリットを徹底解説」
監視カメラ(NEC)
監視カメラでは、AIが通常のパターンと異なる動きをする未登録の人や物体を検出し、異常として警報を発する仕組みが導入されています。
例えば、日本電気株式会社の顔認識技術では、防犯カメラ映像から未登録の不審者を検出できます。頻繁に防犯カメラに映る出現パターンをもとに、不審人物を特定する仕組みを採用しています。
ブラックリストに未登録であっても、犯罪を計画している人物やスリなどの不審な行動を検出できる点が大きな特徴です。
監視カメラへ未知物体検出技術が搭載されることで、防犯やセキュリティの向上に大きく役立ちます。
AI搭載カメラの活用事例等については、こちらで詳しく解説しています。
製造業での異常検知(NTT研究所)
製造業では、倉庫内で未知の障害物を避ける機能を持つロボットや異常検知システムへの利用が検討されています。
例えば、エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社が開発した「@DeAnoS」は、収集した正常運用時の監視データの相関から「いつもの正常状態」を学習します。製造現場のシステム・設備で発生する異常予兆や異常要因を特定できる異常予兆検知技術です。
閾値ルールや保守者の経験など従来の異常検知方式では難しかった「発生したことのない障害の検出」を実現します。
製造現場へ未知物体検出が搭載された設備やロボットが普及すれば、未然に設備故障や事故を防ぐことができ、生産性や歩留まりの向上につながります。
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医療分野(富士通)
医療分野では、未知の疾患や異常を検出する技術として未知物体検出が期待されています。
例えば、富士通株式会社とマサチューセッツ工科大学(MIT)は、学習時と異なる未知データを高精度に認知できるAI技術を共同開発しました。開発されたAIは人の認知特性と脳の構造と類似した仕組みを持ちます。
形や色などの属性ごとに分割して学習したディープニューラルネットワークが未知データを高精度に認識します。
今後この技術を応用すれば、多種多様な病変を正確に認識できる画像生成AIの実現が期待されます。このように医療分野へ未知物体検出技術が応用されることで、診断の精度向上や早期発見につながります。
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小売業(NEC)
小売業では、無人レジ化の実現に向けて未知物体検出が期待されています。
例えば、日本電気株式会社が新しく開発した「画像認識向けインスタント物体登録技術」では物体の動きに注目することで、画像認識モデルに登録されていない物体の検出・認識を実現しました。一般的な物体検知技術が可能な「物体らしい」ものを広く検出できる技術を応用し、その中から目的物をくるくると回す動きを検知して、未知の目的物だけを絞り込むようにしました。
このような未知物体検出技術の導入が進めば、無人レジでの新商品のスムーズな導入と運用が可能になり、業務効率化と顧客満足度の向上が期待されます。
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未知物体検出の注意点
ここでは、未知物体検出技術を導入する際の注意点を紹介します。解説する注意点を押さえ、未知物体検出技術を導入・運用することで、精度と信頼性を確保し、最大限の効果を得ることが期待できます。
誤検出のリスク
未知物体認識AIは非常に高精度ですが、それでもなお正常な物体や登録済みの物体を誤って「未知」と認識する場合があります。誤検出は、システムの信頼性を低下させる可能性があり、特に医療分野など検出の誤りが重大なミスにつながる業界で活用する際には注意が必要です。
また、誤検出が頻発すると、無駄なアラートや不必要な対応が発生し、むしろ効率を損なうリスクもあります。
AIが抱える誤検出のリスクを回避するためには、検出結果を二次検証する仕組みの導入や、AIのモデルを継続的にアップデートして学習データを増強することが重要です。また、異常検知の閾値を適切に設定し、誤検出を最小化する調整も効果的です。
適用範囲が限定的
物体認識AIは環境によって精度が大きく左右されます。未知物体検出技術の正確性は特定の環境や条件下のみで保たれるため、適用範囲が限られる可能性も考えられます。
例えば、照明や視点の変化、ノイズの多い環境などが検出精度に影響を与えることが少なくありません。そのため、導入の際には現場の環境に応じた設定や調整が必要になることもあります。
データの偏りによる影響
AIの精度は学習データに大きく依存するため、データの偏りが未知物体検出の精度に直接影響します。偏ったデータを使用すると、特定の物体や環境では高精度を発揮する一方で、それ以外のシーンでは性能が大幅に低下する可能性があります。
そのため、幅広いシーンや物体に対応できるよう、多様なデータを使用することが重要です。
未知物体検出についてよくある質問まとめ
- 未知物体検出とはどのような技術ですか?
未知物体検出は、AIが学習していない物体や状況を「未知」として認識し、適切に対応する技術です。従来の物体検出とは異なり、新しい環境や予期しない事象に柔軟に対応できます。
- 未知物体検出を導入する際の課題は何ですか?
誤検出のリスク、データの偏り、適用範囲の限定性が主な課題です。
これらを解決するためには、高品質なデータの収集やモデルの継続的なアップデートが重要です。
まとめ
未知物体検出は、AIが学習していない未知の物体を「未知」として正確に認識する技術です。この技術は、従来の物体検出では対応できなかった予期せぬ状況や環境変化への適応を可能にし、安全性や効率性の向上に貢献します。
一方で、導入を検討される際は、使用環境に応じた検出精度の調整や、誤検出への対策など、専門的な知識が必要となる点に注意が必要です。適切なシステム設計と運用体制を整えることで、これらの課題を最小限に抑え、未知物体検出の検出能力を最大限に引き出せます。
未知物体検出は、現代社会の多様な課題に対応するための有力な技術です。この機会にその可能性を検討してみてはいかがでしょうか。
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