物流業界のビジネスモデルと現状課題から考える5つのAI導入効果は?
最終更新日:2025年01月09日
物流業界は深刻な人手不足や業務効率化の課題に直面する中、AIが新たなブレイクスルーをもたらしています。現場の切実な声に応えるべく、大手物流企業各社がAI導入を加速させています。
本記事では、ヤマト運輸やアマゾンなど業界をリードする企業の具体的な取り組みを通じて、AIによる物流業務の効率化手法とその効果を解説します。配送ルートの最適化から在庫管理、検品作業の自動化まで、現場で実証された導入事例と実践的な注意点を踏まえて、御社の課題解決に役立つ情報をお届けします。
各業界でのAI活用事例をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
AI Marketでは
目次
物流業界のビジネスモデル
物流業界は、商品や資材などの荷物を消費者や企業に届けるための輸送・配送、保管を担う産業です。生産者やメーカーから依頼を受け、仲介手数料や輸送料・配送料などで収益を上げるビジネスモデルを展開しています。
物流業務は主に以下の3つの領域で構成されています。
- 調達物流:原材料や部品の調達
- 生産物流:工場内の資材管理や倉庫への発送
- 販売物流:最終消費者への配送
これらの領域が相互に連携することで、効率的な物流システムが実現されています。
さらに具体的に分解すると、物流業務は6つの主要機能で構成されています。
- 配送・輸送:トラックや船舶による商品の移動
- 保管:倉庫での商品管理
- 荷役:入出庫作業
- 包装:商品保護のための梱包
- 流通加工:ラベル貼りや値札付けなどの作業
- 情報管理:在庫確認や発注受付などのシステム管理
そして、物流業界の主な収益源は以下の通りです。
- 仲介手数料
- 輸送料
- 配送料
- 保管料
- 付加価値サービス料(流通加工など)
これらの料金は、生産者やメーカーなどの顧客から徴収されます。
▼累計1,000件以上の相談実績!お客様満足度96.8%!▼
物流業界の問題・課題
具体的に物流業界において、近年問題や課題とされている事項をいくつか挙げながら、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
長時間労働
厚生労働省の調査によると、トラックドライバーは他の産業平均と比較すると、年間所得が約1割〜2割ほど低いのに対して、年間労働時間は約2割ほど長いことが分かりました。
上図:物流を取り巻く動向と物流施策の現状についてトラックドライバーの労働環境 (p.15)から抜粋
長時間労働は社会問題として認知され、働き方改革の名の元に是正されるよう取り組みが進められています。事故の防止や心身の健康の維持という観点からも、長時間労働の削減は、企業の健康経営にも大切な役割を果たすと理解されるようになりました。
再配達・受け取り拒否問題
宅配便を配達しても不在の家が多いことで再配達が増え、配達員の労働量が過剰になってしまうことが社会問題となりました。宅配業者でも対策を進めたほか、宅配ボックスの普及や、受け取れる場所を増やすことにより改善の傾向は見られます。
2020年のコロナ禍による外出自粛によって再配達率は大幅に減少しました。
上図:国土交通省の報道発表資料、統計から独自に作成
しかしながら、まだまだ高い水準にあるため、再配達率を減らすための対策は必要です。外出自粛が一部で解除されると、再び上昇に転じていることからも見て取ることができます。
積載率の低下
上図:物流を取り巻く動向と物流施策の現状について、統計から独自に作成
積載率は輸送効率の指標の一つで、許容積載量に対して実際の貨物量の割合で計算します。ここ10年では小口配送の時代になっており、100kg未満の貨物量が70%から80%へと増加しました。
また1件あたりの出荷量も約25%小口化しています。これによって積載効率が直近では40%まで低下し、ドライバーの負担がより大きくなっているのです。
小口化によって、配送件数が増加し、配送・積込み・取卸しに時間がかかってしまいます。配送は量よりも件数によって制約されるので、積載率が低下します。また、空きがあっても運賃にならないので、小口化した貨物単価は高くなることになってしまいます。
宅配便だけでなく、企業間物流においても在庫を持たないように都度発注することが増え、小口化が進んでいます。行き過ぎた多頻度小口化を見直し、出荷ロットを大きくしたり、配送回数を少なくするといった対策が必要となるでしょう。
ドライバーの高齢化
少子高齢化によって人手不足がどこの業界でも深刻ですが、ドライバーは特に若い成り手が減少していて、高齢化が顕著に進んでいることが実情です。
上図:物流を取り巻く動向と物流施策の現状について 道路貨物運送事業における労働力の状況(p.14) から抜粋
少子高齢化によって人手不足が見通されますが、ドライバーを中心に関係している人の年齢が高齢化しています。また深夜勤務や長時間労働などの働き方も非常に問題点が多くあるので、若い人たちは敬遠しがちです。
また高齢になるにつれ、激務は事故の発生や心身の支障に大きな影響を及ぼすでしょう。改善のためにも業務の効率化が早急に必要となります。
深刻化する人手不足問題
物流業界における人手不足は年々深刻さを増しています。リクルートワークス研究所の試算によると、2040年には約1,100万人の労働者が不足し、特にドライバーについては労働需要に対する不足率が24.2%に達すると予測されています。さらに、2025年には荷物のおよそ3割が、2030年にはおよそ4割が運べなくなる可能性があると示すシンクタンクの研究結果もあります。
この人手不足の主な要因として、少子高齢化の進行に加え、長時間労働や低賃金といった労働環境の問題が挙げられます。また、物流業界に対するマイナスイメージも、若い世代の就業を妨げる要因となっています。
環境負荷軽減への社会的要請
物流業界は環境負荷の軽減という社会的要請にも直面しています。特に、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)の排出量削減が国際的な課題となっており、環境に配慮した物流システムの構築が求められています。
政府の総合物流施策大綱でも、環境負荷の低減に向けた取り組みの重要性が示されており、鉄道や内航海運といった環境負荷の少ない輸送手段への転換(モーダルシフト)の推進が進められています。
▼累計1,000件以上の相談実績!お客様満足度96.8%!▼
AIによる物流業界の改善効果
物流業界におけるAI活用は、業務効率の向上とコスト削減に大きく貢献しています。具体的な活用シーンと効果を見ていきましょう。
配送業務の最適化
配送業務では、AIによる配送ルートの最適化が大きな効果を発揮しています。AIは交通状況、天候、配送先の集中地域などの複数のデータを分析し、最も効率的な配送ルートをリアルタイムで算出します。
また、信号待ちが長い交差点を避けたり、事故の確率が高まる右折ルートを回避したりすることで、より安全で効率的な配送が可能になっています。
倉庫管理業務の自動化
倉庫管理においては、AIロボットによる自動化が進んでいます。AIを活用したロボットは、商品のピッキングや仕分け作業を24時間体制で実施することが可能です。
これにより、作業効率が向上するだけでなく、人的ミスの削減にもつながっています。また、倉庫内での在庫配置の最適化にもAIが活用されており、出荷頻度の高い商品を出荷場所の近くに配置するなど、効率的な在庫レイアウトを実現しています。
データ分析による需要予測と在庫最適化
AIによる需要予測は、在庫管理の最適化に大きく貢献しています。過去の販売データに加え、市場トレンドや天候データなども総合的に分析することで、より精度の高い需要予測が可能になっています。
これにより、過剰在庫や欠品を防ぎ、在庫保管コストの削減が実現できます。特に季節性のある商品や、トレンド商品の在庫管理において、AIによる需要予測は非常に効果的です。
また、原材料の仕入れ計画の最適化にも活用でき、サプライチェーン全体の効率化にも貢献しています。
関連記事:「AIによる需要予測の手法の特徴と効果、メリット・デメリットについて具体的な事例」
自動運転技術の導入
AIを搭載した自動運転トラックが長距離輸送を担当することで、ドライバーの労働時間削減や人手不足の解消が期待できます。自動運転システムは、人間のドライバーよりも長時間の集中力を維持でき、事故リスクを低減します。
AIが最適な加速と減速を行うことで、燃費効率が向上し、環境負荷の軽減にもつながります。
例えば、日本では国土交通省が後押しする形で、高速道路での後続無人隊列走行の実証実験が行われています。この技術が実用化されれば、ドライバー不足の解消と物流コストの削減が期待できます。
関連記事:「自動運転の全体像と、自動運転でのAIの必要性、メリット・デメリット」
検品作業の自動化
検品作業の自動化は、精度向上と作業時間の短縮に大きく貢献します。AIが商品の外観を高速で分析し、傷や破損を検出します。
また、AIが商品の重量データを分析し、異常を検知します。さらに、高速で正確にQRコードを読み取り、商品情報を瞬時に確認します。
物流AIシステム導入時の注意点
物流業界へのAIシステム導入には、業界特有の課題や運用環境を十分に考慮する必要があります。特に、24時間稼働する物流現場での円滑な導入と、季節変動の大きい物流量への対応が重要なポイントとなります。
以下では、具体的な導入プロセスと注意点について解説します。
システム導入前の準備と検討事項
物流業界でAIシステムを導入する際は、まず現場の課題を明確にし、AIの活用範囲を適切に設定することが重要です。
特に物流現場では、以下のような業界特有の条件を考慮する必要があります。
- 現場の課題分析:倉庫内の作業環境や配送ルートの特性など、業界特有の条件を考慮する必要があります。
- コスト試算:初期投資やランニングコストの詳細な試算が不可欠です。
- システム互換性:既存の物流システムとの互換性確認が必要です。
- データ蓄積状況:AIの学習に必要なデータの質と量を確認します。
段階的な導入プロセスの設計
物流AIシステムの導入は、一度に全ての業務を自動化するのではなく、以下のように段階的なアプローチを取ることが推奨されます。
- 小規模テスト導入:限定的な範囲でシステムをテストし、効果を検証します。
- 段階的拡大:効果が確認できた部分から徐々に導入範囲を拡大します。
- 全面展開:十分な検証後、全社的な導入を行います。
例えば、最初は配送手続きのデジタル化から始め、次に在庫管理、そして配送ルート最適化へと段階的に展開することで、リスクを最小限に抑えることができます。
運用体制の整備とスタッフ教育
AIシステムの効果的な運用には、現場スタッフの理解と適切な教育が不可欠です。物流現場特有の課題として、シフト制での勤務体制に対応した教育プログラムの整備や、季節変動の大きい物流量に対応できる柔軟な運用体制の構築が必要です。
具体的には以下の実施が重要となります。
- シフト制対応:24時間稼働の物流現場に適した教育プログラムを整備します。
- 柔軟な運用体制:季節変動の大きい物流量に対応できる体制を構築します。
- 利用ルールの策定:AIシステムの使用目的や範囲を明確にしたガイドラインを作成します。
- データ取り扱いマニュアル:セキュリティを考慮したデータ管理方法を定めます。
- 定期的なトレーニング:技術の進化に合わせて継続的な教育を実施します。
物流業界のAI活用事例4選
物流業界では、AIの活用が急速に進んでおり、多くの企業が業務効率化や顧客サービスの向上を実現しています。以下に、主要企業のAI活用事例を紹介します。
ヤマト運輸:AIによる配送ルート最適化と需要予測
ヤマト運輸株式会社は、AIを活用した配送業務量予測システムを導入し、配送の生産性向上と走行距離の削減を実現しています。アルフレッサ株式会社が開発したこのシステムは、交通状況や天候、配送先の集中地域などの複数のデータを分析し、最も効率的な配送ルートをリアルタイムで算出します。
その結果、配送の生産性が最大20%向上し、走行距離は最大25%削減されました。
Amazon:AI搭載ロボットによる倉庫自動化
Amazon社は、AI搭載ロボットを活用して倉庫の自動化を推進しています。これらのロボットは、商品のピッキングや仕分け作業を24時間体制で実施し、作業効率の向上と人的ミスの削減を実現しています。
また、AIを活用して在庫配置の最適化も行っており、出荷頻度の高い商品を出荷場所の近くに配置するなど、効率的な在庫レイアウトを実現しています。
ソフトバンクグループ:AIを活用した在庫管理システム
ソフトバンクグループは、AIを活用した在庫管理システムを導入しています。このシステムは、過去の販売データ、市場トレンド、天候データなどを総合的に分析し、高精度な需要予測を行います。
これにより、過剰在庫や欠品を防ぎ、在庫保管コストの削減を実現しています。
FedEx:AIによる顧客サポートと配送効率化
FedEx社は、AIを活用して顧客サポートの向上と配送効率化を図っています。具体的には、AIチャットボットを導入して顧客からの問い合わせに24時間対応し、配送状況の追跡や配送オプションの変更などをスムーズに行えるようにしています。
また、AIを活用した予測アルゴリズムにより、通関手続き情報を事前に準備し、貨物が仕向国に到着次第、迅速に配達できるようにしています。
日本通運:AI自走式ロボットによるピッキング作業の効率化
日本通運( NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社)は、Rapyuta Robotics株式会社が開発したAI自走式ロボットを活用してピッキング作業の効率化を図っています。同社は、倉庫向け協働型ピッキングソリューションの実証実験を実施しています。
既存の倉庫でレイアウトやマテハン(物品の運搬・保管・荷役などの物流機器や設備全般)を変更することなく導入可能なシステムを開発しました。このシステムは、自動走行で複数台同時に導入することができ、作業量の増減にも柔軟に対応可能です。
物流業界での他の幅広いAIシステム導入事例をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
まとめ
物流業界におけるAI活用は、人手不足解消と業務効率化の切り札として急速に普及しています。配送ルート最適化による燃料費削減、需要予測による配送効率向上、倉庫作業の自動化による生産性アップなど、具体的な成果が続々と報告されています。
まずは自社の課題を明確にし、小規模なPoC(実証実験)から始めることをお勧めします。AI導入には初期投資が必要ですが、長期的な人件費削減や業務効率化によるコスト削減効果は大きく、投資に見合う効果が期待できます。
御社の課題に合わせた最適なソリューションを見つけるところから始めてみましょう。
AI Marketでは
物流業界でのAI活用についてよくある質問まとめ
- 物流業界でのAI導入にはどのくらいの効果が期待できますか?
具体的な導入効果として、ヤマト運輸の事例では配送の生産性が最大20%向上し、走行距離は最大25%削減を達成しています。AIによる配送ルート最適化、需要予測、在庫管理の効率化により、人件費削減と業務効率の大幅な改善が期待できます。
- 人手不足の解消にAIは効果的ですか?
AIの活用は人手不足問題の解決に大きく貢献します。AIロボットによる24時間体制での倉庫作業の自動化や、配送ルートの最適化による業務効率の向上が可能です。2040年には約1,100万人の労働者不足が予測される中、AI導入は重要な解決策となります。
AI Marketの編集部です。AI Market編集部は、AI Marketへ寄せられた累計1,000件を超えるAI導入相談実績を活かし、AI(人工知能)、生成AIに関する技術や、製品・サービス、業界事例などの紹介記事を提供しています。AI開発、生成AI導入における会社選定にお困りの方は、ぜひご相談ください。ご相談はこちら
𝕏:@AIMarket_jp
Youtube:@aimarket_channel
TikTok:@aimarket_jp
運営会社:BizTech株式会社
掲載記事に関するご意見・ご相談はこちら:ai-market-contents@biz-t.jp