マルチエージェントシステム(MAS)とは?仕組み・システム例・メリット・展望を徹底紹介!
最終更新日:2025年02月05日
「複数のAIが連携してタスクをこなす」と聞くと、SF映画の世界のように感じるかもしれません。しかし、OpenAIのOperator、Anthropic ClaudeのComputer Useなどの登場で「AIエージェント」や「AIアシスタント」という用語がメディアを賑わせています。
近年、LLM(大規模言語モデル)の急速な発展に伴い、AIエージェントがビジネスに欠かせない存在となりつつあります。例えば、複雑なデータ分析、効率的なプロジェクト管理、高度な意思決定など、単一のAIでは難しかった領域でマルチエージェントシステムは力を発揮します。
マルチエージェントシステム(MAS)は、すでに現実世界の様々な課題解決に役立ち始めています。マルチエージェントシステム(MAS)とは、まるでプロジェクトチームのように、リーダー型AIエージェントが複数のスペシャリスト型AIエージェントを指揮し、複雑なタスクを完遂するシステムです。
本記事では、近年のマルチエージェントシステム(MAS)の仕組み、シングルエージェントシステムとの違い、具体的なシステム例、活用メリットまでを網羅的に解説します。マルチエージェントシステムがどのようにビジネスの効率化に役立つのかなど、導入効果を理解したい企業担当者はぜひ最後までお読みください。
AIエージェントとは?こちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
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目次
マルチエージェントシステム(MAS)とは?
マルチエージェントシステム(Multi-Agent System, MAS)とは、複数のAIエージェントが相互に連携し、協調しながら特定のタスクや問題を解決するためのシステムです。特定の目的や能力を持つそれぞれのエージェントが他のエージェントや環境とやり取りを行いながら、自律的に動作し、計算機上で模擬的に再現することで一定の解を求めます。
マルチエージェントシステム(MAS)は、まるでプロジェクトチームのように、リーダー型AIエージェントが複数のスペシャリスト型AIエージェントを指揮します。そして、複雑なタスクを自律的に完遂するシステムです。
現在の生成AIが得意とする単一タスクの解決を超え、データ分析から企画、システム開発といった多様なタスクを連携して実行できる点が特徴です。
現状のAI技術では汎用型AI(AGI)の実現が難しく、複数の専門AIを組み合わせることで、より最適な解を導き出すアプローチが注目されています。そのような背景の中で、中心的な存在となっているのがマルチエージェントシステムです。
Google社のAgentspaceやMicrosoft社のMagnetic-Oneなど、汎用的に活用できるマルチエージェントシステム(MAS)が次々と公開されています。
マルチエージェントシステム(MAS)は、以下のような多様な分野への適用が期待されています。
- 交通管制システム
- スマートグリッド
- ロボット工学
- 金融市場シミュレーション
- 災害時の避難誘導
- 自動運転車
マルチエージェントシステム(MAS)は、これらのビジネスにおいて生成AIやシングルエージェントでは難しかった新しい価値を提供できるでしょう。
「マルチエージェントシステム」という用語の変遷
「マルチエージェントシステム」という用語は、1980年代当初はAI(人工知能)に特化した概念として生まれました。しかし、他の科学分野での技術発展の流れに伴い、ドローンと人間などAI以外の一般的な協同型のシステムで広く使用されるようになりました。
そのため、複数の自律的なエージェントが相互作用しながら、個別では解決困難な課題を集団的に解決する一般的な分散型システムを「マルチエージェントシステム」と呼ぶ時代もありました。
そして、近年の生成AI、特にLLM(大規模現モデル)の技術進歩に伴い、再びAI分野の用語に戻ってきたのです。
ただし、当初の意味と完全に同じではありません。従来は操作する人間もエージェントに含まれていましたが、現在論じられているMASは人間を含まず完全にAIのみで構成されます。
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マルチエージェントシステムのタスク遂行の流れ
マルチエージェントシステムでは、それぞれのエージェントシステムが以下に挙げるような役割を担います。
- リーダーエージェント:指示の受信と役割分担と解のまとめ
- 情報検索エージェント:Webや社内データベースから必要な情報を検索
- データ分析エージェント:必要なデータを整理・分析し、重要な情報を抽出
- リソース管理エージェント:必要なリソースや手順を確認し、不足を補うように手配
- モニタリングエージェント:プロセスの進行状況を監視し、異常があれば報告
- 交渉エージェント:エージェント同士の競合状態を調整し解決する
以下が大まかな流れです。
- タスク受信:リーダーエージェントが全体の目標や指示を受け取る(例:効率的なプロジェクト完遂、データ整理)
- タスク分解:リーダーエージェントが目標達成に必要なタスクを分析し、それぞれを専門エージェントに割り当てる
- 専門エージェントのタスク実行:特化したスキルを持つエージェントが与えられた役割をもとにタスクを遂行
- 各エージェントの結果を統合:各エージェントからの成果やデータをリーダーエージェントが集約し、最適な解を導出
- ユーザーへ結果を提供:ユーザーや外部システムに成果物や分析結果、具体的な提案を提示
上記の仕組みにあるように、情報検索やデータ分析といった異なるスキルを持つAIが協力することで、単一AIでは対応できない複雑なタスクを解決できる可能性が広がります。
シングルエージェントシステムとの違い
シングルエージェントシステムとマルチエージェントシステム(MAS)は、エージェントの数や動作原理が異なるため、それぞれの特徴や適用可能な問題の範囲にも大きな違いがあります。
以下が、主な違いです。
項目 | シングルエージェントシステム | マルチエージェントシステム(MAS) |
---|---|---|
特徴 | 1つのエージェントのみが存在し、単独で問題を解決する |
|
柔軟性 |
|
|
スケーラビリティ | エージェントが1つのため、スケールアップが難しい | 複数エージェントの増減によりスケール可能 |
競合の可能性 | エージェントが単独で動作するため、他エージェントとの競合は発生しない | 類似するタスクではエージェント間の競合が発生する場合もある |
適用分野 | シンプルな問題(例:画像や言語を生成する) | 複雑で分散された問題(例:競合商品をピックアップする) |
上記の表からも言えるように、シングルエージェントシステムは、シンプルで効率的な問題解決に向いているシステムです。
一方、マルチエージェントシステム(MAS)は、複雑で動的なタスクに対応できる柔軟性と拡張性を兼ね備えています。
主なシングルエージェントシステムには以下があります。しかし、多くのシングルエージェントシステムが内部処理で疑似的にマルチエージェントのように動いています。また、将来的に完全にマルチエージェント機能を搭載する流れにあります。
- Project Astra(Google)
- AutoGPT
- AgentGPT
- Operator(OpenAI)
- Computer Use(Anthropic)
それぞれのシステムを活用する際には、解決したい課題の特性やスケールに応じて使い分けることが重要です。
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マルチエージェントシステムのメリット
マルチエージェントシステム(MAS)には、シングルエージェントや生成AIにはないメリットがあります。以下では、マルチエージェントシステム(MAS)のメリットを紹介します。
高度な意思決定
マルチエージェントシステム(MAS)では、異なる専門性を持つエージェントが協働します。また、過去データとリアルタイム情報の統合処理が可能なので、より複雑で高度な問題を解決可能です。
近年、予測AIや生成AIと対話型チャットボットの組み合わせによって、業務プロセスの一部をAI技術で支援する取り組みが進んでいます。しかし、関係する複数の要素を考慮した意思決定や実際のアクションを伴う業務プロセスでは、依然として人への依存度が高いという課題があります。
一方で、マルチエージェントシステム(MAS)は、複数の特化型エージェントがそれぞれ独立して作業し、得意なタスクを分担することで複雑な問題を解決可能です。そのため、従来人の経験や勘に頼っていた業務プロセス内の多くのタスクをAIに代替でき、複雑性の高い業務においても省人化を促進します。
スケーリングが容易
マルチエージェントシステム(MAS)は、エージェントを追加することでシステム全体の能力を容易に拡張可能です。 また、近年のアルゴリズムの高度化や計算資源の増加に伴い、MASの性能が大きく向上しています。
これにより、従来のシングルエージェントでは難しかった複雑なタスクを解決可能です。複雑なデータ解析や広範囲なシミュレーションといった人間しかできない大規模なタスクを自律的に処理できるシステムの実現が現実に近づいてきています。
マルチエージェントシステム(MAS)の導入は、今後さらに増加する大規模タスクへの対応能力を企業にもたらし、生産性向上と競争力強化を支える重要な基盤となるでしょう。
耐障害性の強化
シングルエージェントシステムでは、システム全体が1つのエージェントに依存しているため、障害が発生するとタスクが遂行されません。
一方、マルチエージェントシステム(MAS)は各エージェントが分散的に機能します。1つのエージェントが故障した場合でも、他のエージェントがその役割を調整したり引き継いだりできます。
この仕組みにより、システム全体のオペレーションが停止することを防ぎ、システムの稼働を維持することが可能です。
このように、マルチエージェントシステム(MAS)は高い回復力を持ち、長期間にわたる運用が求められる業務や予期せぬトラブルが発生しやすい環境でも活用できる手段となります。
マルチエージェントシステムの例
近年のマルチエージェントシステム(MAS)の需要増加に伴い、多様なサービスが提供され始めています。以下では、マルチエージェントシステムの例を紹介します。
【Magentic-One】Web・ファイルベースのタスク解決に強み
Microsoft社は、複雑なタスクを効率的に解決するための汎用型マルチエージェントシステム「Magentic-One」を提供しています。Magentic-Oneは、リーダーエージェントである「オーケストレーター」がタスクと進捗全体の指揮を執り、特定のタスクを専門とするエージェントを管理する仕組みです。
以下は、各エージェントの役割です。
- オーケストレーター(Orchestrator):タスクの計画立案や進捗の追跡、エラーからの復旧などを担い、各エージェントが円滑に協働できるよう調整
- Webブラウザ操作エージェント(WebSurfer):Web検索やデータ収集を担当
- ローカルファイル操作エージェント(FileSurfer):PDF/動画/音声ファイルなどの整理や情報抽出を実行
- コード生成エージェント(Coder):コードの生成・分析
- コード実行エージェント(ComputerTerminal):必要に応じたスクリプト実行を実現
上記の仕組みにより、Magentic-OneはWebやローカル環境でのタスクを効率的に解決します。
また、オープンソースのマルチエージェントフレームワークである「AutoGen」上に構築されており、エージェントの追加や削除が容易で、システム全体において高い柔軟性と拡張性を持ちます。
Magentic-Oneの開発は、AIエージェントによる生産性向上と日常生活の変革を目指したMicrosoftの取り組みの一環です。特に、タスク管理や問題解決における効率化を通じて、企業活動と個人両方の生産性向上に大きく貢献することが期待されています。
関連記事:「Magentic-Oneとは?仕組み・メリット・注意点を徹底紹介!」
【CrewAI】ドラッグ&ドロップでマルチエージェントシステムを構成できる
CrewAIは企業向けマルチエージェント自動化プラットフォームで、複雑なタスクを自動化するためのオープンソースプラットフォームを提供しています。
CrewAIのプラットフォームの特徴は、以下です。
- 非エンジニアでもマルチエージェント自動化を構築できる柔軟性
- 既存システムとの高い連携性
- オープンソース
まず、特筆すべきは、ノーコードツールやテンプレートを活用すれば、容易にマルチエージェントを構築可能なことです。Crew Studioによるドラッグ&ドロップ式のビジュアルインターフェースなので、プログラミングスキルを持たないユーザーでも直感的に構築でき、開発時間を短縮できます。
また、Zapier経由で7,000以上のアプリとの連携をサポートしています。加えて、LangChain/Composioとのネイティブ統合で既存システムとの干渉を最小限に抑え、タスク自動化をスムーズに進められます。
GitHubでMITライセンス公開されておりコード修正も可能です。
このような機能を持つことで、CrewAIはサプライチェーンにおける在庫管理や物流の最適化、HRタスクの自動化といった幅広いユースケースで業務効率化に貢献します。
【Sakana AI】仮説提案から実験、論文執筆から査読まで研究を自動化
東京発のAIスタートアップSakana AI株式会社は、2024年8月13日に「The AI Scientist」を発表しました。The AI Scientistは、以下のLLMを活用して研究開発プロセス全体の自動化を目指しています。
- GPT-4o
- Claude Sonnet 3.5
- DeepSeek Coder
- Llama 3.1
The AI Scientistで自動化できるプロセスには、以下が挙げられます。
- 研究アイデアの提案
- 実験コードの生成と実行
- 結果の可視化
- 論文の執筆とテンプレートへの整形
- 査読
具体的には、まず指示された研究テーマに基づいてアイデアを提案し、LLMベースの自動コード生成機構を利用して与えられたテンプレートの実験コードを修正・実行します。その後、得られた結果を可視化し、テンプレートに従って論文を自動生成する流れです。
また、実証実験での生成コストは論文1本あたり15ドル以下と低コストであり、手軽に導入できる点も魅力です。
ただし現状では、ゼロから新しい研究を生み出すというより、既存の研究テーマやその実験コードの改良に限定されています。完全な研究プロセスの自動化に向け、プロンプト設計や処理手順などにおいてさまざまな試行錯誤が行われています。
【デロイト トーマツ】複数のチーム構成で複雑な業務の自動化を推進
デロイトトーマツグループは、業務効率化を目的として、複数のAIエージェントが自律的に連携する「マルチエージェントアプリ」を開発しました。
以下が主要な機能です。
- 多様なAIエージェントの連携:複数の専門エージェントが協調し、タスクを遂行
- タスク計画の自動立案:タスク計画エージェントが各エージェントに適切なタスクを割り当て
- グラフ構造による連携制御:エージェント間の連携可否や方向性をグラフ構造で管理
- 自己修正機能:レビューエージェントが各エージェントの実行結果をチェックし、必要に応じて修正
- Human in the Loop:AIエージェントが人間にチェックポイントを設け、指摘や承認を踏まえて処理を継続
以下のような役割を果たす専門エージェントが協働してタスクを遂行します。
- 計画策定
- Web検索
- 社内DB検索
- プログラム作成
- 経営/経済分析
- レポート作成
このマルチエージェントアプリは、新商品案の検討や報告書の作成といった複雑な業務の効率化を実現し、さまざまな部門のデジタルトランスフォーメーションを支援します。
マルチエージェントシステムの展望
マルチエージェントシステム(MAS)は、技術の進化とともにさらに幅広く活用されると期待されます。
以下が、今後期待される技術発展領域です。
- エージェント間の通信プロトコルの発展
- 柔軟な意思決定アルゴリズムの開発
- IoTやスマートシステムとの連携
エージェント間の通信プロトコルの発展
まず、マルチエージェントシステム(MAS)が効果的に機能するためには、エージェント間のスムーズな通信が不可欠です。通信が非効率だと、タスクの分配や連携に支障をきたし、システム全体の性能低下を招きます。
マルチエージェントシステム(MAS)の拡張性を高めるためには、既存のエージェントの混乱を引き起こさず、新しいエージェントやタスクをスムーズに統合できる仕組みを構築する必要があります。
そのため、効果的な通信プロトコルの設計は今後の重要な課題となるでしょう。
柔軟な意思決定アルゴリズムの開発
エージェントが変化する環境条件や新しいデータに基づいて行動できるようにするためには、柔軟な意思決定アルゴリズムが必要です。現在はタスク実行時にエラーが起きた際に回復するための意思決定能力が低く、タスク停止のリスクが高くなっています。
意思決定アルゴリズムが発展すれば、各エージェントがより複雑な課題や予期せぬエラーにも対応可能となり、実用性がさらに向上します。
IoTやスマートシステムとの連携
マルチエージェントシステム(MAS)はIoTやスマートシステムの基盤としても大きな可能性を秘めています。多数のIoTデバイスが連携してデータを収集・処理し、タスクを分散的に実行するMASが構築できれば、スマートホームやスマートシティなど、次世代のシステムにおける中核的な役割を担えるようになると期待されます。
マルチエージェントシステム(MAS)はこれらの進化により、さまざまな分野での応用が進むと同時に、より大規模で柔軟性の高いシステムとして発展していくでしょう。
マルチエージェントシステム(MAS)についてよくある質問まとめ
- マルチエージェントシステム(MAS)とは何ですか?
MASは、複数のAIエージェントが連携し、それぞれの特化スキルを活かしてタスクを分担・遂行する仕組みです。
これにより、単独のAIでは対応できない複雑な問題の解決が可能になります。
- MASはどのような分野で活用できますか?
MASは、複雑なデータ分析、効率的なプロジェクト管理、高度な意思決定など、単一のAIでは処理が難しいタスクを、複数のAIエージェントが連携して解決できます。
交通管制からスマートグリッド、ロボット工学、金融市場シミュレーション、災害時の避難誘導まで、さまざまな分野での活用が期待されています。
まとめ
マルチエージェントシステム(MAS)は、複数のAIエージェントが相互に連携し、それぞれの特化スキルを活かしながらタスクを分担・遂行する仕組みです。複雑な問題に対して、タスクの計画立案や分配などを自律的に行い、交通管制やスマートグリッド、ロボット工学などさまざまな分野における業務プロセスの効率化を実現します。
マルチエージェントシステム(MAS)を適切に活用することで、研究開発やマーケティング、商品企画などあらゆる業務の生産性を向上させることができます。
しかし、実際にMASを導入し、自社の課題解決に活用するためには専門的な知識や経験が必要です。もし、具体的な導入検討やPoC(概念実証)にご興味があれば、AI技術に精通した専門家にご相談いただくことをお勧めします。
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