RAGにおけるチャンクとは?チャンキングの効果や分割の手法、注意点を徹底解説!
最終更新日:2025年01月19日
多くの企業がLLM活用におけるRAGの導入過程で、大量のテキストデータの効率的な処理に課題を抱えています。不適切なデータ分割は検索精度の低下や処理効率の悪化を招き、結果として期待通りの成果が得られないケースが少なくありません。
RAG精度を向上させる手法も注目を集めるようになりました。その手法の1つが、チャンク化です。近年ではチャンク化によるRAGの精度を維持・パフォーマンスの継続に取り組む企業も増えています。
この記事では、RAGにおけるチャンクの概要や効果、チャンク化の手法、注意点について解説していきます。固定サイズの基本的な分割から、セマンティックチャンキングのような高度な手法まで、実務で活用できる技術を網羅的に紹介していきます。
本記事を最後まで読むことで、チャンク分割について網羅的に理解できる内容となっています。RAGについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
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目次
RAGにおけるチャンク化(チャンキング)とは?
チャンク化(チャンキング)とは、RAGにおけるテキストデータ処理の効率性や精度向上を目的とした分割プロセスです。具体的には、大量のテキストデータを一定のサイズやルールに基づいて分割する技術を指します。
RAGは信頼性のある情報を提供する点で優れていますが、その精度は使用するデータセットや処理方法に依存します。チャンク化の目的は主に以下です。
- 情報の効率的な検索と取得
- LLM(大規模言語モデル)のコンテキストウィンドウ制限への対応
- 関連性の高い情報の抽出精度向上
チャンク化は単にデータを分割するだけではなく、文脈や意味を考慮して分割単位を設定します。適切に設計されたチャンク化は、RAGが提供する検索と生成のプロセスを最適化し、検索段階での精度や効率性を向上させる要素として重要な役割を果たします。
チャンク(chunk)とは?
チャンク(chunk)とは、情報を処理可能な単位に分割したデータのまとまりを指します。膨大なテキストやデータセットを効率的に扱うために不可欠な概念であり、RAGにおいても中核を担う技術です。
チャンクは単一の文や段落、あるいはそれ以上の規模を持つデータ片として定義されます。これにより、モデルや検索エンジンが個別のデータ部分を評価し、最適な関連性を見つけ出せるようになります。
この分割単位が適切であれば、モデルは文脈を理解しやすくなり、結果的に情報検索や応答生成の質が向上します。
チャンクの役割は、単にデータを小さくすることだけではありません。重要なのは、分割後のデータが元の意味や文脈を維持することです。
単語の羅列ではなく、ある程度の意味を持つ文やフレーズを単位とすることで、データの分断による情報喪失を防ぎつつ、効率的な処理を可能にします。
要するに、チャンクとはデータの断片ではなく、情報を効率的かつ正確に利用するための基本単位であり、RAGの精度、性能を左右する重要な要素と言えます。
関連記事:「RAGの精度を向上させるには?手法やメリット、低精度で運用するリスクを徹底解説!」
RAGの精度を支える主要技術とツール
RAGの精度を支える技術やツールとして、チャンク化(チャンキング)以外に以下が挙げられます。
フレームワークとライブラリ | LlamaIndex | RAGパイプラインの構築を簡素化するフレームワーク |
LangChain | RAGを含む様々なLLMアプリケーションの開発を支援するライブラリ | |
基盤技術 | Embedding | テキストを数値ベクトルに変換する技術 |
ベクトル検索 | 埋め込みベクトル間の類似性に基づく検索手法 | |
検索最適化技術 | Hybrid Search | ベクトル検索とキーワード検索を組み合わせた手法 |
Rerankモデル | 検索結果を再評価し、より関連性の高い順に並べ替える技術 | |
クラウドサービス | Azure AI Search | Microsoftが提供する高度な検索サービス |
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チャンク化がRAGにもたらす効果
RAGにおけるチャンク化は、情報の検索精度や処理効率を向上させるだけでなく、生成される内容の信頼性や文脈の一貫性を保つために不可欠な役割を果たします。以下では、チャンク化によってもたらされる具体的な効果について解説していきます。
検索精度の向上
RAGにおいて膨大な情報の中からデータを抽出する際、細かく分割されたチャンクが存在することで、モデルは特定の質問やコンテキストに関連する部分を見つけ出すことが可能です。
従来の検索手法では、文書全体や大きなセクションを扱うことが多く、重要な情報が埋もれることがありました。しかし、チャンク化によって情報が適切な単位で整理されると、検索対象が小さくなり、モデルは関連性の高い情報にアクセスしやすくなります。
さらに検索の精度が上がることで、生成される回答や提案の質も向上します。チャンク単位での検索はノイズを減らし、必要な情報だけを取り出すため、ユーザーにとって有益な結果を提供する土台となります。
データ処理の効率化
チャンク化によってRAGの膨大な情報を単位に分割することで、モデルがデータ全体を無駄なく活用できるようになり、処理時間の短縮と計算リソースの最適化を実現します。
長い文書や大規模なデータセットをそのまま扱う場合、関連性の低い情報まで処理対象となり、計算負荷が増大することが課題とされていました。しかし、チャンク化によってデータが整理されると、モデルは個々のチャンクに焦点を絞り、必要な部分だけを効果的に利用できます。
また、チャンク単位での処理は複数のチャンクを同時処理できるため、検索や応答生成の速度が向上し、リアルタイム性が求められるアプリケーションにおいても優れたパフォーマンスを発揮します。
元の文脈や意味の保持
チャンク化では、データを分割する際に元の文脈や意味を損なわないようにすることを重視しています。RAGにおいて信頼性のある情報を提供するには、分割されたデータが単なる断片ではなく、適切な意味や関連性を持っていることが必要です。
適切に設計されたチャンクは、文や段落といった自然な単位を基準に分割されるため、文脈の流れが途切れにくくなります。これにより情報の関連性が保たれ、モデルがデータを解釈する際に混乱を招くことがありません。
チャンク化が単なるデータ分割ではなく、意味を保持するための技術として機能することで、RAGの精度と信頼性は強化されるのです。
LLMのコンテキストウィンドウ制限への対応
LLM(大規模言語モデル)には、一度に処理できる入力テキストの長さに制限があります。これを「コンテキストウィンドウ」または「コンテキスト長」と呼びます。
コンテキストウィンドウの制限を超えるテキストを入力すると、モデルは全ての情報を処理できず、回答の質が低下する可能性があります。
チャンキングは、この制限に対処するための効果的な方法です。大量のテキストを適切なサイズのチャンクに分割することで、LLMのコンテキストウィンドウに収まるようにします。また、クエリに最も関連性の高いチャンクのみを選択し、LLMに提供することで制限内で最も重要な情報を処理できます。
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RAGにおけるチャンク分割の手法6選
RAGのデータ処理と精度を向上させるために、さまざまなチャンク分割の手法が活用されています。以下では、代表的なチャンク分割の手法を紹介していきます。
固定サイズのチャンキング
固定サイズのチャンキングとは、テキストデータを一定の長さやサイズで均等に分割する手法です。データの内容や意味にかかわらず、あらかじめ決められた単位でデータを区切ります。
100文字ごとや一定数の単語ごとに分割するなど、ルールに基づいたデータ整理が採用されます。
固定サイズでのチャンキングのメリットは、実装の容易さと処理効率にあります。一貫性のあるサイズでチャンクが形成されるため、モデルはデータの長さを予測しやすくなり、計算リソースを効率的に利用できます。
また、分割基準が明確であるため、大規模なデータセットにも適用することが可能です。
ただし、固定サイズのチャンキングは内容や文脈を無視して分割されるため、場合によっては文意が途切れたり、重要な情報が分割されてしまう可能性があります。処理速度や一貫性を重視する場合には有効ですが、意味や文脈の保持が重要な場面では他の手法と併用するのが一般的です。
動的チャンキング
動的チャンキングは、固定サイズのチャンクではなく、クエリや文書の特性に応じてチャンクサイズを柔軟に調整します。文書の意味的なまとまりを考慮してチャンクを作成するため、重要な情報や文脈が分断されるリスクを低減します。
クエリの複雑さに応じて適切なサイズのチャンクを生成することで、より関連性の高い情報を抽出できます。そして、文書の構造や内容に応じてチャンクサイズを最適化することで、計算リソースを効率的に使用できます。
例えば、GraphRAGはマイクロソフトが開発した手法で、知識グラフ(ナレッジグラフ)を活用して情報間の関係性を捉え、より文脈に即した正確な情報検索を可能にします。
参照:arXiv|From Local to Global: A Graph RAG Approach to Query-Focused Summarization
オーバーラップ
オーバーラップとは、隣接するチャンク間に共通の部分を持たせる手法です。各チャンクが一部データを共有することで、情報の断絶や文脈の喪失を防ぎます。
例えば100文字単位で分割する場合、次のチャンクが前のチャンクの最後20文字を含むように設定することで、データ間のつながりをより正確に理解できます。このように文脈を維持しながら分割を行うため、RAGが検索や生成の精度を高める効果があります。
文脈の連続性が確保されることで、生成される応答やコンテンツの一貫性が向上します。
一方で、オーバーラップではデータの冗長性が増し、全体のデータ量が膨らむというデメリットもあります。そのため、オーバーラップの範囲を適切に設定し、効率性と文脈の維持をバランスよく考慮することが重要です。
階層的チャンキング
階層的チャンキングとは、データを階層的かつ段階的に分割していく手法で、大量の情報を効率的に整理する際に用いられます。まず大きな単位でデータを分割し、その後、それぞれの部分をさらに細かい単位に分けていきます。
これにより、データ全体を網羅しながら、詳細なレベルの情報まで扱える柔軟性を確保することが可能です。こうした階層構造を用いることで、チャンク間の文脈を保持しつつ、必要に応じて情報にアクセスできます。
階層的チャンキングの利点は、検索や生成におけるスケーラビリティの向上です。大規模なデータセットでも段階的な粒度で分割することで、RAGが効率的かつ正確に情報を扱えるようになります。
また、上位レベルのチャンクが全体の文脈を提供し、下位レベルのチャンクが具体的な情報を補完するため、幅広い情報を一貫して処理することも可能です。
一方で、階層的チャンキングには分割と処理のコストが伴うため、適切な階層構造や分割基準を設計しなければいけません。複雑なデータや深い文脈を必要とするタスクにおいて、階層的チャンキングは有効な手法として活用できるでしょう。
セマンティックチャンキング
セマンティックチャンキングとは、単純な文字数や単語数に頼らず、データの意味や文脈に基づいて分割を行う手法です。このアプローチでは、テキスト全体を理解しながら、自然な文脈や意味を考慮してデータを区切ります。
例えば、ある段落が複数のトピックに触れている場合、それぞれのトピックに応じてチャンクを分けることで、モデルがそれぞれの情報を個別に解釈しやすくなります。これにより検索や生成の精度が向上し、ユーザーが求める情報に直接応答することが可能です。
セマンティックチャンキングはデータの意味を尊重しながら分割を行うため、文脈の断絶や情報の欠落を防げます。情報の質や信頼性を重視する場面では、セマンティックチャンキングがRAGに大きな効果をもたらすでしょう。
エージェンティックチャンク
エージェンティックチャンクとは、データの分割にエージェントの意図や目標を反映させた手法です。単にデータを均一に分割するのではなく、特定のタスクや目的に最適化された単位でチャンクを生成します。
エージェンティックチャンクの特徴は、その適応性にあります。データが扱われる状況やエージェントが果たす役割に基づき、チャンクの構造や内容が変化させることが可能です。
例えば、ユーザーが広範な概要を求める場合は、大きなチャンクを生成し、詳細な情報を求める場合はより細かい粒度のチャンクを作成する、といったように調整できます。
チャンクがエージェントの目標と直結しているため、検索プロセスや応答生成が効率的かつ的確に行われます。また、リアルタイムでデータの再構成が可能なため、動的で多様なユーザーリクエストにも対応可能です。
チャンク分割の注意点
チャンク分割でRAGの精度向上を目指す場合、データの特性や目的に応じた工夫が必要です。分割サイズや文脈の保持といった点に注意を払い、チャンキングを実施しなければいけません。以下では、チャンク分割の具体的な注意点について解説していきます。
チャンクサイズの最適化
チャンクサイズの最適化は、RAGの性能を最大限に引き出すために重要です。チャンクが大きすぎると検索や処理の効率が低下する一方で、小さすぎるチャンクは文脈が分断されて意味が失われたり、検索結果が断片的になったりするリスクがあります。
適切なチャンクサイズを選ぶには、データの特性と使用目的を考慮することが必要です。短い質問に対する回答を生成する場合は小さなチャンクが最適ですが、広範な背景情報を提供するタスクでは、より大きなチャンクが適しています。
動的チャンキングを適切に組み合わせることで、RAGシステムの性能を大幅に向上させることができます。
ただし、これらの手法の効果は対象とするタスクやデータセットによって異なるため、実際の適用にあたっては慎重な評価と調整が必要です。実際の運用環境で異なるサイズをテストし、検索精度や生成された結果の品質を比較することで、最適なバランスを見つけられるでしょう。
形態素解析
形態素解析とは、チャンク分割を行う際にデータを文法的な単位で正確に分解する手法です。形態素解析を用いることで文中の単語やフレーズを適切に識別し、意味を維持したままデータを分割することが可能になります。
この形態素解析の精度が低いと、文法的な構造や文脈を保てず、モデルがデータを正確に解釈できません。形態素解析の精度は使用するツールやアルゴリズムに依存するため、高品質な解析エンジンを選定することが必要です。
特に日本語や他の形態素が複雑な言語において、形態素解析はチャンク分割の精度を向上させる技術となるでしょう。
ただし、最近はより高度なセマンティックチャンキング手法が採用されています。セマンティックチャンキングでは、単純な文法的単位ではなく、文の意味や文脈を考慮してチャンクを作成します。また、GraphRAGは、知識グラフを活用して情報間の関係性を捉え、より文脈に即した正確な情報検索を可能にするアプローチです。
スペースの欠如
スペースの欠如は、日本語や中国語などのチャンク分割を行う際に注意しなければいけません。これらの言語では単語間に明確な区切りが存在しないため、文中のどこでデータを分割すべきかを特定するのが難しくなります。
スペースがない言語では、単語やフレーズの境界を識別するために形態素解析や自然言語処理の技術が必要です。「RAGのチャンク分割が効率を向上させる」という文を分割する場合、意味のある単位で区切れず、データの利用価値が低下する可能性があります。
スペースの欠如に対応するアプローチとして、統計的な手法や機械学習モデルの活用、言語特有の性質を考慮した分割アルゴリズムの導入が有効です。ニューラルネットワークを用いたBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)などの事前学習済み言語モデルを用いる方法で、文脈を考慮した高度な単語分割も可能になっています。
文法構造
テキストの文法構造は、チャンク分割を行う際に注意すべき要素です。文法構造を無視した分割は、文の意味を誤解させたり、検索精度や生成結果の品質を低下させる原因となります。
文法構造を考慮したチャンク分割では、文中の主語・述語・修飾語などの関係性を保つことが重視されます。これによって分割後のデータが意味のある単位として機能し、モデルがデータを適切に解釈することが可能です。
このアプローチにより、データが適切に整理され、文法的な一貫性が保たれることでRAGの性能が最大化されます。英語と異なる文法構造を持つ日本語においては、特に注意が必要です。
RAGのチャンクについてよくある質問まとめ
- RAGのチャンクサイズとは?
チャンクサイズとは、知識ベースを分割する際の基準となるサイズのことです。 チャンクサイズが不適切だと、RAGシステムが正確な情報を検索できず、不正確な応答を生じる可能性があります。
データの性質や用途によって異なりますが、一般的には200-1000トークン程度が推奨されます。ただし、実際の最適値は使用する言語モデルの制限や、扱うコンテンツの特性によって変わるため、複数のサイズでテストを行い、検索精度と処理効率のバランスを見ることが重要です。
- チャンク分割でRAGの精度を向上させる方法とは?
RAGの精度を向上させるチャンク分割として、以下の手法が有効です。
- 固定サイズのチャンキング
- オーバーラップ
- 再帰的チャンキング
- セマンティックチャンキング
- エージェンティックチャンク
- 日本語特有の課題にはどう対応すべきですか?
日本語は単語間にスペースがなく、また文法構造も英語と異なるため、形態素解析や高度な自然言語処理が必要です。BERTなどの事前学習済みモデルの活用や、セマンティックチャンキングの導入が効果的ですが、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
まとめ
RAGにおけるチャンク化は、膨大なデータを効率的に扱うための基盤となる技術です。データを適切に分割し、文脈や意味を維持することで、検索精度の向上やデータ処理の効率化、さらには生成テキストの信頼性を高めることが可能となります。
チャンク化はRAGの精度や効率、そしてユーザーが得られる体験に直結します。技術や目的に応じた最適な手法を選ぶことで、RAGは信頼性の高いツールとしてを機能するでしょう。
RAGの精度向上にチャンク化を採用したい場合は、AIを専門とする開発会社に依頼するのがおすすめです。チャンク化を含むRAGの精度向上に有効な手法は、専門的な知識や技術が必要になるため、開発会社に相談してから具体的な対策を検討してみてください。
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