AIによる予知保全の活用事例8選!IoTセンサーとの連携で故障検知、コストや概要も解説
最終更新日:2024年11月14日
AI(人工知能)を活用した「予知保全」が注目されています。製造業においては、製造工程における機器類の故障はどうしても避けられません。しかし、一旦故障してしまうと、生産ラインを修理のために長い時間止めなくてはならなくなり、納期や生産計画等に大きな影響を与えてしまいます。
そこで、機器の故障を未然に検知できるAIを活用した予知保全が注目されています。特に、ポンプ、モーター、太陽光発電での予知保全の導入事例は近年需要が高まっている注目分野です。
本記事では、AIによる予知保全の活用事例を中心に紹介します。
予知保全と予防保全、事後保全の違い、それぞれのメリットデメリットについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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予知保全システム開発に強いAI開発会社を自力で選びたい方はこちらで特集していますので併せてご覧ください。
目次
- 1 AIを活用した予知保全とは
- 2 AIによる予知保全事例8選
- 2.1 オンライン異常予兆検知システムで時間的余裕の確保(花王/azbil)
- 2.2 トヨタ自動車を支える産機製品の保守のコスト削減(コマツ産機/トヨタ自動車)
- 2.3 金属加工会社の予兆検知ソリューション(日立ソリューションズ東日本)
- 2.4 機械学習による故障予知で保守コスト削減(前川製作所/YE DEGITAL)
- 2.5 太陽光発電パワコンをAIで故障予知(RYOKI ENERGY/Ultimatrust)
- 2.6 AIを活用したポンプの故障予知(みつわポンプ製作所)
- 2.7 モーター特化型の予知保全サービスでコストの最適化(マクニカ)
- 2.8 センサーとAIを組み合わせて設備の異状検知(パナソニックインダストリー)
- 3 AIによる予知保全についてよくある質問まとめ
- 4 まとめ:AIによる予知保全導入のご相談はAI Marketへ
AIを活用した予知保全とは
まず、製造業の現場における保全の種類を整理しましょう。保全には大きく3つの種類があります。
- 予知保全
- 予防保全
- 事後保全
予知保全は製造ラインでの機械や設備が故障する前に、センサーやPLC等などで取得したデータ(電流値、温度、振動数や稼働音等)を元に、異常などの故障の予兆を検知し、適切な保全を行い、故障を未然に防ぐことを指します。
多くの現場では、IoTセンサーを活用してリアルタイムでデータ収集を行っています。IoTセンサーの仕組み、活用方法、事例についてはこちらの記事で分かりやすく解説しています。
予防保全は、使用状況や稼働状況を問わずに、一定期間経過したらメンテナンスをする方法です。機械や設備にあらかじめ耐用時間を定めておき、その期間が経過したら故障の有無に関わらずに部品を交換する保全です。
事後保全は、故障が起こった後に保全を行う方法です。故障を素早く検知し、復帰までの時間をどれだけ短くできるかがポイントとなっていきます。
製造ラインでの保全システムの確立は、機械や設備などを保護して安全を守り、生産計画を滞りなく達成させるために欠かせません。
安価で高性能なワンボードマイコンであるラズベリーパイを活用した予知保全システムも人気を呼んでいます。
ラズベリーパイを用いた予知保全をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
AIによる予知保全事例8選
ではここからは、AIを活用した予知保全の事例やサービス・ソリューションを紹介します。
オンライン異常予兆検知システムで時間的余裕の確保(花王/azbil)
生活用品や化粧品の製造・提供の花王株式会社は、アズビル株式会社のオンライン異常予兆検知システム「BiG EYES」を導入し、ケミカル製品の生産に活用しています。アズビル株式会社は建物・工場などのオートメーション事業を展開している会社です。
BiG EYESは、工場や建物の設備・製品品質・排水や大気などの環境変数を常時オンラインで監視することが可能で、通常と異なる動きがあれば予兆段階で検知できるAIシステムです。
花王では、非常に多くのバッチプラントがあり品種数も多かったため、監視するオペレーターには高度な技術が求められていました。
一方で、自動化でオペレーター人数が減少し、世代交代も重なったため、経験の浅いオペレーターが少人数で多くの設備や品種を監視しなければならず、大きな心理的負担となっていた課題がありました。
BiG EYESによって予兆段階で異常検知することで、発生しつつある事象に対処するための時間的余裕が確保できトラブルを未然防止でき、また、ベテランから若手への技術伝承が進み、メンバー各人の製造プロセスへの理解が高まる効果も得られたということです。合わせて、多様なデータの類似度を時系列で分析し、定常時運転からの逸脱を不具合発生前に検知できるため、オペレーターの心理的負担の解消にもつながっているということです。
プロセスデータの蓄積でAIが生産設備の正しい振る舞いを学習し、トレンドの微小な違いを検知する方法が、花王が従来から行っていた異常検知の方法とマッチしていたとのことです。
トヨタ自動車を支える産機製品の保守のコスト削減(コマツ産機/トヨタ自動車)
プレス機械や板金機械の開発や販売を手掛けているコマツ産機株式会社では、AIを活用した機械故障の予知保全システムを提供しています。機械の稼働状況をもとに、故障しそうな部分をAIが予測します。故障によって機械が動作しなくなる前に部品を交換できるよう通知します。
トヨタ自動車の工場で実際に運用して、性能評価で一定の成果が得られたということです。コマツ産機は自動車業界を支えており、トヨタ自動車では国内外の多くの工場でコマツ産機のプレス機やレーザー加工機などの産機が活用されています。
コマツ産機は、自社の産業機械稼働管理システムKomtraxのデータをAIで分析しました。その際に重視した点は、外部センサーを使用せずにデータを取得可能にしたことです。
Komtraxはモーターをはじめ、部品の稼働状況を機械の制御情報から直接取得できるためセンサーの追加が必要ありません。技術やノウハウを蓄積し、アイデアを形にするため、データをクラウド上のAIで分析することで予知保全の仕組みにたどり着きました。
自動車工場では、機械の点検や部品の交換など定期的なメンテナンスは非常に重要な作業です。部品の故障で生産が長期間にわたり停止してしまえば、大きな損失を招くからです。
寿命が近い部品をピンポイントで予知できれば、機械の停止前に最低限のコストで部品を交換でき、可能な限りメンテナンスの手間も省けば、大きなメリットになるでしょう。
金属加工会社の予兆検知ソリューション(日立ソリューションズ東日本)
ある金属加工会社は、株式会社日立ソリューションズ東日本が開発した歩留まり改善・予防・予知保全のための予兆検知ソリューションを導入しました。この金属加工会社では、研削装置で金属加工を行っています。
研削装置の刃や砥石は長時間使うと摩耗し、そのまま加工を続けると製造物の品質が低下して不良品が発生する可能性が高くなります。そのために定期的なメンテナンスは欠かせません。
日立ソリューションズの予兆検知ソリューションは、製造データを活用して統計解析や機械学習により、製造ラインにあった予兆検知モデルを構築しています。さらに、刻々と生成される製造データをセンサーで取得し、予兆検知モデルでリアルタイムで監視します。もし問題発生が予測されたら担当者に通知が発信されるシステムです。
不良が発生し始める前の適切なタイミングでメンテナンスを行うことで歩留まりを改善したとのことです。
機械学習による故障予知で保守コスト削減(前川製作所/YE DEGITAL)
株式会社前川製作所は、 IoTソリューションを手掛ける株式会社YE DIGITALの機械学習による産業用冷凍機の故障予知を導入しました。
前川製作所は、産業用冷凍機やガスコンプレッサーなどの製造・販売を手掛ける会社です。予知保全を導入した目的は、保守コストの削減や計画的保守での製造ロスの発生の抑制です。
産業用冷凍機は万が一故障停止が発生した場合、設備の保管品の品質が損なわれるなど大きな損失が発生します。安心して冷凍機を使用してもらうためにも、前川製作所ではアフターサービスにも力を入れています。故障予防のために早目の消耗品交換などを実施してきましたが、大きな保守コストが課題でした。
そこでYE DEGITALの予知保全ソリューションを導入しました。産業用冷凍機は既にたくさんのセンサーが内蔵されているものの、使用環境に合わせて各センサーのしきい値を設定するのに非常に時間がかかってしまいます。
そこで、まずセンサー間の相関をAIで機械学習して、正常稼働状態をモデル化しました。正常稼働状態からの乖離度によって、故障の予兆を捉えて推定される異常箇所を通知してくれます。
予知保全の導入によって、必要な部品のみを交換することで保守コストを削減でき、製造計画に合わせた保守が可能になりました。
また、システムダウンによる製造ロスの発生を抑制し、異常に起因する箇所の推定が可能なので、効果的に対策を打つこともできるようになったということです。
太陽光発電パワコンをAIで故障予知(RYOKI ENERGY/Ultimatrust)
RYOKI ENERGY株式会社は、太陽光発電所のパワーコンディショナーの故障予知システム「AiPCSi(アイピクシー)」をUltimatrust株式会社と共同で開発しました。RYOKI ENERGYは太陽光発電所を運営しており、空調設備の設計や施工などを手掛ける菱機工業のグループ会社です。
パワーコンディショナー(パワコン)は太陽光パネルで作った直流の電気を交流に変換します。冷却ファンやインバーターなどの機材で構成される太陽光発電所の主要設備です。もしこの設備が故障し、復旧までに時間がかかってしまうと、売電収入がその分減ってしまう重要な部品です。
RYOKI ENERGYでは、AI解析のスタートアップであるUltimatrust株式会社と共同でAI故障予知システムを開発しました。この取り組みは、日本政策投資銀行が提供する新ビジネス支援のプログラムです。
このシステムでは、パワコンの主要機材に温度や振動などを感知するセンサーを設置し、データに異常があったら発電所の運営者やメンテナンス会社に通知が届く仕組みです。AIの解析で故障の気配を予知し、故障前の修理など対応を後押しします。
まずは自社の太陽光発電所に導入し、データをとりながら改良を進めていくようです。ゆくゆくは太陽光発電の事業者向けに外販を検討しているとのことです。
太陽光発電の導入は急拡大しているため、今後は多くのパワコンで故障や修理の需要が増えていくと予想されます。
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AIを活用したポンプの故障予知(みつわポンプ製作所)
株式会社みつわポンプ製作所は、ポンプの故障予知保全を高い精度で実施可能とする学習モデル作成を行っています。みつわポンプ製作所は、耐摩耗・耐腐食・注水不要のスラリーポンプの開発・製作・アフターサービスなどを手掛ける会社です。
みつわポンプは経済産業省の2021年度AI Questに参加しました。AI Quest(課題解決型AI人材育成事業)は、実践的なAI人材育成のために経済産業省が実施しているプログラムです。中小企業へのAI導入の促進のために、中小企業とAI実装スキルを持つ人材とが協働して課題解決できるよう環境整備を進めています。
みつわポンプはポンプの故障予知技術の確立を視野に入れて、各種センサーで取得したデータをAI技術に適用可能か検証しました。既存データをテーブルデータに加工して、学習モデルの例との性能差を明示する仕方で開発を行った結果、正解率90%程度にのぼる正常・異常モデルを作成可能になりました。
さらに、解析に適した取得データの形式や、データ取得の戦略についての検討も行いました。既存の時系列データをFFT(高速フーリエ変換)解析して、グラフの概形を画像識別へ用いる手法を検討したということです。
同社は故障予知のビジネス化に向け、明確となった課題を活かしていきたいと考えています。
モーター特化型の予知保全サービスでコストの最適化(マクニカ)
株式会社マクニカは、低圧三相モーター向け特化のセンサーとクラウドの一体型予知保全ソリューション「Macnica Smart Motor Sensor」の提供を開始しました。マクニカはAIやIoTにおけるソリューションプロバイダーです。このソリューションは、データ収集から異常診断までを1台で対応可能で、装置の想定外のダウンタイムの削減やメンテナンスの費用最適化をしてくれるものです。
Macnica Smart Motor Sensorは、まずバッテリー駆動のセンサー類をモーターの冷却フィンに取り付けます。初期設定はスマートフォン専用アプリから実行でき、使用開始後にAIによる機械学習が自動的に開始されます。その後、一定期間をおいて、異常を検知するAIモデルが自動生成されるようになっています。センサーから集められた振動、磁界、温度データをパソコンやスマートフォンなどの端末から確認可能となっており、異常があったらアラート通知される仕組みです。
9種類の異常を診断・検知可能で、電池で駆動し、Wi-fi対応であるため配線も必要ありません。予知保全においての振動解析やAIなど特別な知識を持たなくても、簡単に導入できるようになっているとのことです。
センサーとAIを組み合わせて設備の異状検知(パナソニックインダストリー)
FAソリューションやコンデンサなどを手掛けるパナソニックインダストリー株式会社では、モーター関連設備の異状を診断するAI設備診断サービスの提供を開始しました。診断の対象となるのは、サーボモーターやインバーター駆動モーターで稼働する機械要素部品です。高調波センサーとAIを組み合わせ、ボールネジやベアリング、ギアなどといった機械用部品の状態変化を測定し、故障発生を事前に検出できます。
モーターの電力線に取り付けたセンサーで、電流の高調波成分(基本周波数の整数倍の周波数成分)を計測します。そのデータをクラウド上のAIで分析し、正常時からの変化度を算出するシステムです。変化度がユーザーの設定値(しきい値)を超えるとアラートを発する仕組みです。
故障前に部品交換ができれば、ダウンタイムの削減・保守コストの低減が期待されます。加えて、現場に出向かなくても設備状態が把握できるため、保守作業のリモート化にも役立つとしています。
AIによる予知保全についてよくある質問まとめ
- AIを活用した予知保全とは何ですか?
AIを活用した予知保全とは以下の通りです。
- 機械や設備が故障する前に、異常の予兆を検知し適切な保全を行う方法
- IoTセンサーやPLCなどで取得したデータ(電流値、温度、振動数、稼働音など)をAIが分析
- AIを活用した予知保全はどのようなメリットがありますか?
主なメリットは以下の通りです。
- 故障を未然に防ぎ、ダウンタイムを削減
- 保守コストの最適化
- 計画的な保全作業が可能
- オペレーターの負担軽減
- 設備の長寿命化
- AIによる予知保全の具体的な活用事例を教えてください。
AIによる予知保全の活用事例は以下の通りです。
- 花王:オンライン異常予兆検知システム「BiG EYES」導入
- トヨタ自動車:コマツ産機の産業機械稼働管理システム「Komtrax」活用
- 前川製作所:産業用冷凍機の故障予知システム導入
- RYOKI ENERGY:太陽光発電パワーコンディショナーの故障予知システム「AiPCSi」開発
- みつわポンプ製作所:ポンプの故障予知モデル開発
- マクニカ:モーター特化型予知保全サービス「Macnica Smart Motor Sensor」提供
- パナソニックインダストリー:モーター関連設備の異常診断AIサービス提供
まとめ:AIによる予知保全導入のご相談はAI Marketへ
AIやIoTを活用した予知保全は、製造業を中心にさまざまな場面で既に活用されています。これから予防保全、事後保全を置き換える形で予知保全のニーズはますます高まるでしょう。
しかし、自社の業務にAIによる予知保全を導入するためにはどのような業者やパートナーと組むのがいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
AI・IoTの専門用語、システム要件はわからないし、見積もりの内容チェック方法もわからない方がほとんどではないかと思います。
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