【生成AI活用の社内浸透術】三井住友ファイナンス&リースが実践する情報誌 × エバンジェリストによる利用率向上の取り組み
最終更新日:2025年11月20日

ChatGPTが2022年11月にリリースされてから、生成AIの活用が急速に進んでいます。Gartnerの調査では、2025年3月時点で、63%の企業が何らかの生成AIサービスを利用しています※1。
一方で、期待したほど効果が出ていない企業も多いと耳にすることがあります。
三井住友ファイナンス&リース株式会社(以下SMFL)は、生成AI活用普及の活動を積極的に行っています。道半ばではありますが、他企業様の参考になればと思い、SMFLの取り組みをご紹介いたします。
※1 https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20250602-vr-survey
社内取り組み概要、背景
SMFLは、株式会社三井住友フィナンシャルグループと住友商事株式会社を株主とする企業です。リース事業をはじめとした金融サービスを幅広く展開しており、「幅広い金融機能を持つ事業会社」としての強みを生かすことで、社会課題を解決するサービスを強化しています。
また、Our Vision(私たちの目指す姿)の一つに「デジタル先進企業」を掲げており、生成AIワーキングチームを新設するなど、デジタル活用に向けた取り組みを推進しています。
2024年度に内製のチャットボットアプリ『SMFL-GAI』をリリースしました。SMFL-GAIはウェブ検索からの要約、翻訳、資料のサマリ機能などをもっています。全従業員がツールにアクセスすることができ、メールや報告書の作成、資料の読み解きなどの業務に活用しています。
SMFL-GAIの活用を広めるため、AI活用の研修なども実施しているほか、SMFL-GAIの利用状況を把握するために、アクティブユーザーの割合(利用率)をモニタリングしています。
研修等の効果もあり一定の利用率に達しましたが、より高い利用率を目指すため、今年度より新しい取り組みである「社内AI情報誌『IL MARE』の発信」と「エバンジェリストの活用」を開始いたしました。
社員に、生成AIをより身近に感じてもらい、SMFL-GAIなどの生成AIにさらに興味を持って気軽に活用してもらうことを目的とした取り組みです。以降、詳細についてご紹介します。

社内向け生成AI情報誌の作成
SMFL-GAIの利用率を伸ばすため、社内研修の参加者や生成AIを推進しているデータマネジメント部、SMFL-GAI活用者などの声をヒアリングし、生成AIに関する知識の拡充と、SMFLにあった使い方を知ってもらうことが必要だと結論付けました。
どのように活用したらよいか分からない、事例を知りたいという声が多かったためです。
また、意欲の高い社員は既に研修に参加していると考え、そうではない一般的な社員にどうアプローチするかを検討した結果、誕生したのが社内向けの社内AI情報誌です。これを『IL MARE』と名付け、社内広報誌のように毎月作成し、発信することとしました。

【コンテンツ】
情報誌の主な企画は「AIの基本」、「生成AIの活用術」、「先端情報」、そして「SMFL-GAIユーザーの声」です。ユーザーの声以外は、生成AIに精通している社員がそれぞれ1セクションを担当し、定期連載としています。加えて、毎月特集を組み、変化を加えています。
「AIの基本」は、社員が対話形式で生成AIの基本的な疑問について会話をする企画です。先生、生徒と役割を分けることで素朴な疑問を分かりやすく解説します。「生成AIの活用術」では後述するエバンジェリスト※2が活躍します。社内で実用性の高いプロンプトを取り上げて解説することで、現場での速やかな利用を期待しています。
「先端情報」では、今まさにトレンドなこと、近い将来に利用可能な技術などを紹介しています。最先端技術を業務でもプライベートでも試している社員が担当をしており、自身の研究体験を交えて説明することで納得感のある内容になっています。
最後に、重要なセクションである「SMFL-GAIユーザーの声」では、生成AIワーキングチームから声をかけた、もしくはアンケートなどで投稿をしてくれた社員の声を特集しています。読み手と等身大の、SMFL-GAIユーザーの実際の活用方法を掲載することで、「私もできそう」という気持ちになってもらいたいと考案したセクションです。
※2 エバンジェリストは会社としての正式な肩書ではなく、あくまで生成AI普及のための仮のタイトルです。
効果的な情報発信にするため、2つの工夫を行っています。
【社員の顔が見える】
一つ目は、「社員の顔が見える」ことです。単なる外部情報のキュレーションでは効果が少ないと考えました。そこで、社員にフォーカスした内容とし、各セクションを担当した社員の顔を掲載することで、一般的な情報ではなくSMFL社員の発信として届けるようにしています。
実際に、担当社員の顔や名前などを掲載することで、「〇〇さんの記事を楽しみにしています」、と言った声をいただいています。親しみをもって情報誌を読んでもらうことが大事だと感じています。
【読み手の声を反映させる】
もう一つの工夫は、読者の声を集めていることです。社員アンケートを実施し、どの企画が人気かを把握し、紹介できる活用事例を集めています。これらを企画に反映させることで、高いエンゲージメントを目指しています。
例えば、「先端技術」企画は構想段階では、技術的な内容のため一般読者には難しいのではないかという懸念がありましたが、社員アンケートにより支持層の確認ができたため、定期記事として継続しています。
前述の通り、実際に活用事例を投稿してくれる社員もおり、内容を充実させることができています。社員アンケートの満足度を測る項目では、これまで平均で95%以上の満足度を獲得しています。
エバンジェリストの役割

社員活躍の一環として、生成AIのエバンジェリストを任命しています。生成AI活用を推進するメンバーの一人、山下さんです。山下さんはエバンジェリストとして、生成AI普及の一翼を担っています。
エバンジェリストの役割は、社内の研修で講師として活躍すること、社内AI情報誌の中で1企画を担当することなどです。読者からの質問や、問い合わせなどがあった際は、山下さんが率先してコミュニケーションをとり、サポートを実施しています。
例えば、SMFL-GAIを使って議事録を作成できないか、と問い合わせがあった際は、面談を行い、どのような形式を求めているかヒアリングし、要望に合わせたプロンプトを提供しました。
このような活動が実を結び、今年度は生成AIに関して多くの相談を受けています。。多くの方から頼られる、また頼りやすい役割を設置したことで生成AI活用が促進されました。
まとめと今後の展望
生成AIは便利な技術であり、慣れてしまうと欠かせないものですが、現状はまだまだ活用しきれていない人が多いと思います。そういった方々向けに、最初の一歩、また二歩目を踏み出してもらえるように社内AI情報誌『IL MARE』を展開してきました。おかげさまで、安定したビュー数と高い満足度を獲得することができています。
次の目標は、SMFL-GAIの利用率を向上させるとともに、より高度な利用を促進することです。具体的には、社員自らがプロンプトを作成し、AIとの対話を段階的に進めることで、より深いインサイトを得て、期待する文章を生成できる状態を目指しています。
そのために、情報発信や研修を強化し、デジタル先進企業としての生成AI活用をさらに推進してまいります。

信販、マーケティングリサーチ、アドテク、EC業界を経て現在。データマネジメントから、分析やデータサービス販売、PM、新規事業開発など幅広くデータ関連業務に15年以上関わる。ユーザー・クライアントに寄り添うことを心掛けている。
MBA、M.S.(Data Science)、東京都市大学 非常勤講師
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