RAGを導入するまでの8ステップ!プロジェクトの進め方や技術選定のポイントも徹底解説!
最終更新日:2025年08月19日

- RAG導入プロジェクトは「どの業務の何を解決したいか」という目的設定から始め、その効果を測るための具体的なKGI・KPIを設計
- PoC(概念実証)を通じて、限定された範囲で技術的な実現可能性や業務への効果を検証
- 運用自動化(LLMOps)まで見据えた設計でデータの追加やモデルの更新に継続的に対応する必要
RAG(検索拡張生成)は、社内文書や過去のナレッジをAIが参照し、的確な回答を生成する技術です。しかし、その導入は単なるツール選定に留まらず、目的設定からKPI設計、PoC(概念実証)、そして運用体制の構築まで計画的なプロジェクト推進が成功の鍵を握ります。
本記事では、RAG導入を成功に導くための具体的な8つのステップを実践的なロードマップとして詳細に解説します。
- RAGの導入目的と適用領域の設定
- RAG導入効果を測定するKPI設計
- アーキテクチャ設計
- RAGを導入する場合の費用対効果の試算
- 社内ステークホルダーの整理
- PoC(概念実証)とアーキテクチャの最終決定
- 開発・導入
- 運用・評価
これらのプロセスを実行することで、自社の業務にLLMとRAGを適切に組み込み、効果的な運用体制を構築できます。これから導入を進めたい方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
RAGの導入目的と適用領域の設定
最初に着手すべきは、システムの設計思想と実装可能性を見極める技術的な判断です。
LLMとRAGを導入することで、企業全体の情報活用や意思決定プロセスの質を大きく左右します。そのため、技術選定やPoCの前段階として、導入の「目的」を明確に定義することは欠かせません。
目的が曖昧なままプロジェクトを進めると、対象業務の選定がぶれたり、期待値と成果の乖離が生じたりしやすくなります。こうした状況で導入・運用すると、PoCの失敗やROIの不達成につながります。
まずは以下に挙げる例のように、「どの業務の、どのような課題を解決したいのか」を明確にします。
- 情報システム部: 社員からのPC設定やソフトウェアの利用方法に関する同じような問い合わせ対応に、毎日3時間を費やしている。
- 営業部: 顧客提案時に、過去の類似案件や最新の製品スペックを探すのに時間がかかり、提案のスピードが遅い。
- カスタマーサポート: 新人オペレーターがマニュアルから適切な回答を見つけるのに時間がかかり、顧客満足度が低下している。
解決すべき課題を具体的に言語化することで技術検討や運用方針も一貫性を持たせることが可能です。目的が定まっていれば、社内での合意形成も容易になり、ステークホルダーの協力を得やすくなります。
RAGは柔軟性の高い技術であるがゆえに、目的が曖昧なまま広範な適用を試みると、逆に拡散しやすくなります。そのリスクを防ぐためにも、導入目的の設定は、導入プロジェクトの土台として非常に重要です。
適用領域を定める際の評価軸
LLMとRAGを導入するにあたり、闇雲に全社展開を目指すのではなく、明確な評価軸に基づいて適用領域を絞り込む必要があります。
評価軸が曖昧なままでは、PoCの段階で有効性が判断できず、導入効果も不透明になりがちです。また、用途によってはデータ更新の頻度やバージョン管理が重要となるため、適用領域のスコープを明確にしないまま開発を進めると、後工程でデータ整備や再設計が必要になる恐れがあります。
主な評価軸は、以下の通りです。
- 情報の属人化度合い:特定の担当者に依存している業務知識が多いほど、RAG導入によるナレッジ共有効果が大きい
- 定型的な問い合わせや検索頻度の高さ:繰り返し発生する質問や検索が多い業務は自動化による効率化効果が見込める
- データの質と整備状況:文書が体系的に管理・構造化されているほどRAGの検索精度は向上する
- 改善余地の大きさ:業務上の非効率や手戻りが多い領域ほど、LLM活用による生産性向上のインパクトが大きい
- 経営目標との整合性:中期経営計画やDX戦略と一致している領域は社内承認や投資判断が得やすい
これらの評価軸をもとに、適用領域を段階的に拡張していくことで、LLMとRAGの効果を最大化できる導入戦略を描くことが可能になります。会社ごとに評価軸は異なりますが、ぜひ参考にしてみてください。
社内データの前準備
RAGは社内情報との連携によって回答の精度と信頼性を高めるアーキテクチャです。つまり、導入にあたっては、以下のような点を事前に評価する必要があります。
- 社内でどのようなデータ構造を持っているか
- どのフォーマットで文書が保存されているか
- 自然言語でのクエリに対して回答可能な文脈を再構成できるか
RAGを活用する場合は、検索対象となる文書群が構造化されていないケースもあるため、全文検索やベクトル検索の導入が不可欠です。これには、社内データを事前にクリーニングし、メタデータ付与やチャンク化といった準備工程が発生します。
この段階で、将来的な拡張性、API連携の有無、LLM選定時のモデル制約なども考慮しながら、導入領域の技術的妥当性を見極めることで、その後のプロジェクトにも影響します。
関連記事:「RAGの精度を向上させる方法は?チャンキングなど手法や落ちる原因、低精度で運用するリスク」
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RAG導入効果を測定するKPI設計
導入目的と適用領域の方向性が決定したら、次に導入によるKPI設計をします。「とりあえず導入して、効果は後から考える」というアプローチは、AIプロジェクトで最も陥りやすい失敗パターンです。
明確なKPI設計は、プロジェクトを成功に導くための羅針盤となります。
いきなり個別のKPIを考え始めると、「測定しやすいから」という理由で本質的ではない指標を選んでしまいがちです。重要なのは、まずプロジェクトの最終目標であるKGI(Key Goal Indicator / 重要目標達成指標)を定めることです。
- KGI(ゴール): プロジェクトが最終的に目指す、ビジネス上の目標。(例:サポート部門の運営コストを年間15%削減する)
- KPI(中間指標): KGIを達成するためのプロセスが、適切に進んでいるかを計測する具体的な指標。(例:RAGによる問い合わせの自己解決率を70%にする)
KGIという山頂を目指すために、KPIという道しるべを一つひとつクリアしていくイメージです。この階層構造で考えることで、日々の活動が最終的なゴールにどう結びついているのかを常に意識できます。
部門別KGI・KPI例一覧
部門 | KGI (最終目標)例 | KPI (具体的な指標)例 |
---|---|---|
社内ヘルプデスク・情報システム部門 | 従業員の自己解決率向上とヘルプデスクの工数削減 | 【生産性・コスト】 • 問い合わせ削減率: (1 – (RAG導入後の問い合わせ件数 ÷ 導入前の問い合わせ件数)) ×
【品質・満足度】
|
営業 | 提案の質とスピードを向上させ、受注率を高める | 【生産性・スピード】
【成果・品質】
|
カスタマーサポート | 顧客満足度の向上とオペレーターの生産性向上 | 【生産性・効率】 平均後処理時間 (ACW) の短縮: RAGが生成した応対履歴の要約を活用し、後処理時間を削減 平均対応時間 (AHT) の短縮: 複雑な問い合わせに対する回答検索時間を短縮 新人オペレーターの独り立ちまでの期間短縮 【品質・顧客満足度】
|
特にRAGでは、検索部分と生成部分が連携するため、内部的なKPIは切り分けて設計する必要があります。こうした多層的なKPIを導入時から定義しておくことで、PoC終了後の本格展開に向けた改善ポイントの抽出や、技術的なボトルネックの早期発見が可能になります。
アーキテクチャ設計
準備したデータを活用するための技術的な土台を構築します。自社のセキュリティポリシーや予算、求める性能に応じて、最適なツールを組み合わせることが重要です。
まずは、主要コンポーネントの選定を行います。
回答を生成する「脳」ともいえるLLM(大規模言語モデル)の選定は重要です。以下のような候補が挙げられます。
- OpenAI GPTシリーズ:高性能で汎用性が高い。
- Anthropic Claudeシリーズ:長文の読解・生成に優れ、特定のタスクで高い性能を発揮。API料金が効果になりがち。
- Google Gemini: マルチモーダル性能に優れ、Google Cloudとの連携が強力。
- Azure OpenAI Service: Microsoft Azureの閉域網でOpenAIのモデルを利用でき、セキュリティを重視する企業に選ばれています。
文章をAIが扱える数値の羅列(ベクトル)に変換するEmbeddingモデルも重要になります。日本語の処理性能や文脈理解の精度が、検索品質に直結します。
ベクトル化されたデータを格納し、高速な類似検索を実現するベクトルデータベースには以下のような種類があります。
- SaaS型 (Pinecone, Zilliz Cloud): 運用を任せられる手軽さが魅力です。
- オープンソース (Chroma, Qdrant, Weaviate): カスタマイズ性が高く、オンプレミス環境にも構築可能です。
- 既存DBの拡張機能 (pgvector for PostgreSQL): 既存のデータベース資産を有効活用できる場合があります。
上記のコンポーネントをどのように連携させるか、全体の構成を設計します。クラウドプラットフォーム(AWS, Azure, GCP)のサービスを組み合わせるのが一般的です。
データの暗号化やアクセス制御など、セキュリティ要件もこの段階でしっかりと定義します。
RAGを導入する場合の費用対効果の試算
RAG導入による費用対効果の試算においては、推論APIのコスト、インフラ費用、データ前処理にかかる工数などを見積もります。単に初期投資額だけを見るのではなく、利用量に応じた従量課金のインパクトやクラウド環境でのスケールアップ時のランニングコストも想定し、総合的なコスト構造を把握しましょう。
こうした技術指標と費用見積もりを連携させることで、定量的・客観的な判断基準に基づいた意思決定が可能となり、導入リスクの最小化とROI最大化につながります。
ROI(投資対効果)をどこまで長期で考えるかを見極める
RAGプロジェクトでは、導入によって削減できる人件費や対応時間、品質向上による再作業の減少といった定量的な効果を利益として見積もります。例えば、社内問い合わせ対応をAIに置き換えることで月100時間の工数削減が見込める場合、これを金額換算することで年間のコスト削減効果が明確になります。
一方で、初期開発費や運用にかかるクラウド費用といった項目も詳細に積み上げる必要があります。PoCを通じて実際の運用数値を得ることで、より現実的なROIの再試算が可能です。
ROIは、あくまで投資回収の分岐点の測定値です。導入効果の最大化を目指す上では、短期的な回収だけでなく、中長期的なスケーラビリティや業務改善インパクトまで視野に入れて評価することが求められます。
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社内ステークホルダーの整理
KPI設計と費用対効果が試算されたら、社内ステークホルダーの整理に取り掛かります。LLMとRAGの導入は、企業の情報活用基盤そのものを再設計するプロジェクトであるため、技術面におけるステークホルダーの整理が重要です。
LLMとRAGの技術構成には、以下のような複数のレイヤーが関与します。
- 社内に存在する非構造データの整理
- 検索エンジンの構築
- 生成モデルとの連携
そのため、複数の関係者が技術的に関与することになります。ステークホルダーごとの技術理解度やシステムへの接点が異なるため、それぞれに応じた設計思想の共有が必要です。
また、セキュリティやアクセス権限の設定については、情報セキュリティ部門の協力が不可欠です。LLMが社内文書を学習・参照する場合でも、機密文書や個人情報を取り扱う際には、技術的な制御と法的リスクを両立させる調整が求められます。
技術的には、データベースのアクセス制御、ログ取得、暗号化処理などの設計が関係部門との合意なしには進められません。
加えて、将来的な運用やモデルの再学習に関しても、継続的な運用体制が必要となるため、技術運用チームやヘルプデスクとの調整も必要です。どの部門がどの技術要素に関与するかを明確にすることで、システム全体の整合性を高めることができます。
ステークホルダーを整理する際の実務的ポイント
社内ステークホルダーの整理において、実務上で最初に行うべきは、主導部門の明確化です。導入目的に最も近い部門が旗振り役となることで、プロジェクト全体の意思決定がスムーズになります。
次に、各ステークホルダーの関与レベルを段階的に分けることで、連絡の優先順位や説明資料の内容を調整しやすくなります。直接的に要件定義に関わる実務担当者と、最終的な承認を行うマネジメント層では求められる情報の粒度が異なります。
そのため、初期段階でヒアリングや説明の場を複数設け、合意形成の準備を進めることが有効です。
また、情報管理部門やコンプライアンス担当には、データの扱い方、ログ管理、外部サービスとの連携に対するリスク評価も必要です。
こうして部門ごとに実務レベルで連携し、全体の工程を誰が・いつ・何を決めるかを明示することで、プロジェクトは滞りなく進行します。ステークホルダーの整理はただの人選ではなく、合意形成の設計でもあるのです。
PoC(概念実証)とアーキテクチャの最終決定
PoCは、理論上の有効性を実環境で検証するためのフェーズといえます。設計図に基づき、実際に小規模なシステム(プロトタイプ)を構築し、「本当に使えるのか?」「期待した効果は得られるのか?」を検証します。
この段階では、システムが業務要件をどこまで満たせるか、技術的なボトルネックがどこにあるかを明らかにすることが主な目的です。
例えば、性能・品質の評価の重要項目として、 「この質問をしたら、このマニュアルのこの部分が参照されてほしい」という正解を用意し、実際に意図した情報が検索できているかを確認します。また、生成された回答が、ユーザーの質問の意図を正確に汲み取り、自然で分かりやすい文章になっているかを評価します。
さらに、LLMのモデル選定も、PoC段階で評価すべき技術的課題の一つです。
さらに、PoCの環境構築では、クラウド基盤(例:Azure、AWS)やRAGのフレームワーク(例:LangChain、LlamaIndex)を活用し、実運用を想定した構成で検証を行うことで導入後のギャップを最小限に抑えられます。
PoC実施の対象範囲と業務選定の考え方
PoCを成功させるには、実施対象とする業務範囲の見極めが重要です。RAGは汎用性が高い技術である一方、全社での一斉導入はリスクも大きいため、まずは準備したデータの一部と、限定したユーザー(例えば情報システム部のメンバー数名)を対象にRAGシステムを構築します。
具体的には、情報の検索ニーズが高い業務や、過去の履歴・文書を参照する頻度が多い業務がPoC対象として適しています。以下のような業務は、導入後の効果が明確に可視化しやすいため、検証対象として適切です。
- クレーム対応の過去事例検索
- 社内ナレッジのFAQ自動化
- 会議議事録の要約支援
また、業務フローの全体ではなく、一部の工程に絞ることもポイントです。例えば、問い合わせ対応業務の中でも、「過去に一度回答済みの内容を再提示する工程」に限定すれば、AIの得意領域を活かしやすくなります。
このように業務の中から、再現性が高く、属人性が強いが定型的な作業を抽出することがPoCにおいては重要です。
さらに、対象業務の選定には、データの整備状況も考慮する必要があります。社内に既に活用できる文書群が存在しているか、検索対象となる情報がデジタル化されているかを確認し、PoCに適した環境を整えることで検証の精度が高まります。
PoCの段階では、完璧を目指す必要はありません。目的はあくまで「実現可能性の検証」と「課題の洗い出し」です。
アーキテクチャの最終決定
PoCで得た知見をもとに、本番環境へ移行するためのアーキテクチャ設計と技術選定を行います。この段階では、信頼性・拡張性・保守性を考慮した全体構成を技術的に最適化することが求められます。
特に、以下の3つの要素が中核となります。
- データソースの整備
- 検索基盤(ベクトルデータベース)
- LLMの設定
これらの構成要素は単体では成立せず、相互に依存しながら検索から生成までの一連のフローを支えます。
データソースはRAGの出発点であり、正確な回答生成には良質な文書が不可欠です。既存の社内マニュアル、ナレッジ、議事録などの非構造データをテキスト化・整形し、検索しやすい状態に整備する必要があります。
検索基盤となるベクトルデータベースは、情報検索のスピードと精度を左右します。文書を意味単位でチャンク化し、ベクトル化した上でストアに格納します。検索エンジンとの連携では、トップK検索やスコア付けの設計、近傍検索のアルゴリズム選定といった要素が重要です。
LLMの設計と接続は、検索結果をもとに自然言語で出力する最終工程です。モデルを最終決定し、レスポンス精度やトークン制限に応じたプロンプト設計が求められます。
社内の応答品質を担保するには、信頼できる根拠情報をプロンプトに含めるリトリーバル設計が不可欠です。
これらの構成を一体化させたアーキテクチャ設計が、システムの保守性・拡張性・可用性を左右します。そのため、業務プロセスやデータ環境に即した設計思想をもって、各技術選定の最終決定を行うことが前提となります。
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開発・導入
PoCを経て本番導入に移行する段階では、開発体制の整備と環境構築を平行して進める必要があります。LLMとRAGは複数のコンポーネントが連携するため、アーキテクチャ全体を分解し、各機能を独立して管理・実装できるようにモジュール化することが理想です。
開発の初期段階では、以下の作業を優先的に行いましょう。
- データ接続・前処理・チャンク化・embeddingの処理精度を安定化させる
- APIベースで外部のLLMと連携し、レスポンス速度や処理コストの最適化を行う
クラウド環境で構築する場合は、ストレージと推論処理のリソースを分離し、可用性とセキュリティの両立を図る必要があります。
また、UI/UXの設計にも配慮し、現場ユーザーが直感的に使えるインターフェースを整備します。あわせて、負荷テストや障害時のバックアップ設計を実施し、運用リスクを最小限に抑えるための仕組みも不可欠です。
これらのプロセスを経て、実務で導入できる形になります。
運用・評価
開発・導入したLLMとRAGのシステムは、その後運用し、技術的な持続性を確保しているかの評価が不可欠です。初期導入で一定の成果が得られたとしても、利用環境は常に変化するため、時系列に応じて対応力を維持できるかがポイントとなります。
まず運用において重要なのは、モデルや検索システムの精度変化を、定期的にモニタリングする仕組みです。以下のKPIを継続的に取得・可視化し、閾値を超えた場合にはアラートを出せる仕組みが求められます。
- ベクトル検索のヒット率
- 応答の妥当性
- 回答が出力されるまでの時間
また、利用ログの蓄積と分析も運用には欠かせません。特定の問い合わせに偏りがある場合や誤回答が繰り返されているケースを検出することで、ドキュメントの更新やチャンクの再生成、プロンプトのチューニングに活かせます。
さらに、アクセス制限やデータの取り扱い状況も監査することで、セキュリティやコンプライアンスの観点からも安定運用を実現できます。
関連記事:「RAGのチューニングはなぜ必要?精度を下げない戦略・具体的検討方法を徹底解説!」
LLMOps:持続可能なRAGシステムを実現する運用自動化
RAGシステムの価値を長期的に維持・向上させるためには、一度開発して終わりではなく、継続的な運用を見据えたLLMOps(LLM Ops)の視点が不可欠です。LLMOpsとは、LLM搭載システムの開発から運用までのサイクルを自動化し、安定的かつ効率的に管理するための考え方や手法を指します。
具体的には、以下のような仕組みの構築が求められます。
- CI/CDパイプラインと監視体制
継続的インテグレーション/継続的デプロイ(CI/CD)や、エラーログの収集・監視体制は、システムの変更を迅速かつ安全に反映させ、問題を早期に検知するために欠かせません。 - データとモデルの継続的更新の自動化
RAGシステムの運用では、参照するドキュメントの追加や基盤となるLLMの更新が常に発生します。その都度、手動でEmbeddingの再計算やインデックスの再構築を行うのは非効率です。これらのプロセスを自動化する仕組みを導入することで、保守コストを劇的に抑え、常に最新の状態で安定した運用が可能となります。 - ガバナンスとセキュリティ
権限管理やユーザーの利用状況に関するログ取得機能を整備することで、誰がどのようにシステムを利用しているかを把握でき、セキュリティの確保や内部統制の要件にも対応しやすくなります。
これらのLLMOpsのプラクティスを取り入れることで、技術面・業務面の両側から、持続可能で信頼性の高いシステム基盤を構築できるのです。
内製でRAGの導入と運用が難しい場合はどうする?
RAGのシステムを自社ですべて内製することは、技術面・人的リソース面において容易ではありません。文書データの整備、検索エンジンの構築、ベクトルDBやLLMの連携といった工程には、専門的な知識と経験が求められます。
こうした背景から、導入初期段階においては、信頼できるベンダーに一部または全体を委託することも選択肢として考えるべきでしょう。
ベンダー支援が有効な領域として挙げられるのが、以下の通りです。
ベンダー支援が有効な業務領域 | 業務内容 |
---|---|
データ整備・前処理 | PDFやWordなどの非構造データをテキスト化し、チャンク化・メタデータ付与・ノイズ除去などを行う工程で、自然言語処理の知見が求められる |
ベクトルデータベースの構築 | データベースサービスの選定・構築・インデックス設計に加え、スケーラビリティや検索精度の最適化が必要 |
RAG全体アーキテクチャの設計 | 検索層・生成層・データ層の連携構成、クラウド/オンプレの選定、ログ取得・監査設計まで含めた全体構成の策定 |
LLMの選定とプロンプト設計 | 利用モデルの選定、API接続、トークン制御、検索結果とのプロンプト統合設計に高度な調整が必要 |
セキュリティ・ガバナンス対応 | 通信の暗号化、アクセス制御、個人情報のマスキング処理、ログ監査設計など、専門的なセキュリティ要件への対応が求められる |
PoC支援と成果測定 | 効果検証に必要な評価指標の設計、業務適用範囲の選定、ROIの試算などを通じて、導入判断の裏付けとなるデータを取得する |
これらを外部の専門チームに委ねることで、精度や信頼性の高いシステムを短期間で構築できます。
ベンダーに依頼する際は、どこまでを任せ、どこを自社で担うかを明確にすることが重要です。初期の設計・開発はベンダーに任せ、導入後の運用やチューニングは自社で行うといった段階的な内製化によって、ノウハウを徐々に社内に蓄積できます。
内製だけに固執せず、ベンダーの専門性を活かしながら柔軟に進めることで、失敗リスクを抑えながら実用レベルへ引き上げることが可能です。
RAGの導入手順についてよくある質問まとめ
- RAGを導入する際、まず何から始めればよいですか?
まずは「どの業務の、どのような課題を解決したいのか」という導入目的を明確に設定することから始めます。目的が曖昧だと、後の業務選定や効果測定がぶれてしまい、プロジェクト失敗の原因となります。具体的な課題を言語化し、関係者間で共有することが最初の重要なステップです。
- RAG導入の効果はどのように測ればよいですか?
まず「運営コストを年間15%削減する」といった最終目標(KGI)を定めます。その上で、KGI達成に向けた中間指標として、以下のような具体的なKPIを設定して効果を測定します。
- 問い合わせ削減率や自己解決率
- 平均対応時間(AHT)の短縮
- ユーザー満足度スコア
- 受注率や提案資料の作成時間
- RAG導入を自社だけで行うのが難しい場合、どうすればよいですか?
専門的な知識やリソースが不足している場合は、信頼できる外部ベンダーに委託するのも有効な選択肢です。特に、以下のような領域で支援を受けることで、高品質なシステムを短期間で構築できます。
- データ整備・前処理
- ベクトルデータベースの構築
- RAG全体のアーキテクチャ設計
- PoC支援と成果測定
初期の設計・開発はベンダーに任せ、運用から内製化するなど、段階的にノウハウを蓄積していくアプローチも可能です。
まとめ
LLM×RAGの導入は、企業の情報活用を根本から強化するシステムになり得ます。導入目的の明確化から評価までの各ステップを丁寧に進めることで、現場に定着しやすい仕組みを構築できます。
属人化の解消や意思決定の質向上など、導入メリットを最大限に享受するには、技術的知見と業務理解を融合させた設計が欠かせません。そのため、まずは社内にある課題を洗い出し、LLMとRAGが活用できる場面を見つけることから始めましょう。
その上で、小規模なPoCを通じて効果検証を行い、得られた知見をもとに本番導入へと発展させる段階的な進め方が最も現実的です。リスクを抑えつつ、再現性のある導入体制を整えるためには信頼できる技術パートナーの支援も重要となります。
本記事で紹介した導入プロジェクトを参考に、自社に最適なプロセスを描き、具体的なアクションに踏み出していただければ幸いです。

AI Marketの編集部です。AI Market編集部は、AI Marketへ寄せられた累計1,000件を超えるAI導入相談実績を活かし、AI(人工知能)、生成AIに関する技術や、製品・サービス、業界事例などの紹介記事を提供しています。AI開発、生成AI導入における会社選定にお困りの方は、ぜひご相談ください。ご相談はこちら
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