PyTorchとTensorFlowを徹底比較!パフォーマンス・カスタマイズ性・連携性が高いのは?
最終更新日:2024年12月15日
ディープラーニング(深層学習)のフレームワークの代表格である「PyTorch」と「TensorFlow」はどちらも人気のフレームワークです。近年、2023年3月に正式リリースされた「PyTorch 2.0」が研究分野でTensorFlowを圧倒し、ディープラーニングフレームワークの新しい標準となるかどうかが注目されています。
しかし、それぞれの特徴や優位性を正確に把握し、自社のプロジェクトに最適な選択をすることは容易ではありません。
本記事では、PyTorchとTensorFlowのパフォーマンスやカスタマイズ性、他ツールとの連携性など、さまざまな観点から徹底比較します。研究開発からプロダクション環境まで、あなたのプロジェクトに最適なフレームワークを見極めるための具体的な判断材料が得られます。
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目次
- 1 PyTorchとTensorFlowの特徴は?
- 2 PyTorchとTensorFlowのパフォーマンス比較
- 3 PyTorchとTensorFlowの実装容易性比較
- 4 PyTorchとTensorFlowのカスタマイズ性比較
- 5 PyTorchとTensorFlowの他ツールとの連携性比較
- 6 PyTorchとTensorFlowのサポート体制比較
- 7 PyTorchとTensorFlowのコミュニティの充実性比較
- 8 PyTorchとTensorFlowが使われているシーン
- 9 PyTorchとTensorFlowの相互変換は可能?
- 10 PyTorchとTensorFlowについてよくある質問まとめ
- 11 まとめ
PyTorchとTensorFlowの特徴は?
まずは、PyTorchとTensorFlowの特徴を紹介します。それぞれ設計思想や用途において異なる特性を持ち、AI(人工知能)開発で高い評価を得ています。
PyTorchの特徴
PyTorchは、2016年にMeta(旧Facebook)によって開発されたディープラーニングのフレームワークです。
PyTorchの最大の特徴は、動的計算グラフを採用している点です。これは、コードを実行する際に計算グラフをその場で構築する仕組みで、柔軟性やデバッグのしやすさを大きく向上させています。
そのため、特に研究目的での利用が多く、以下のような広範な分野で応用されています。
また、Pythonに近い直感的な操作性を持ち、学習コストが低いことも研究者や開発者に支持される理由の一つです。
PyTorchは研究だけでなく、産業界での採用も増加しています。Meta、Amazon、Tesla、OpenAIなど、多くの大企業がPyTorchを活用しています。
2022年に、PyTorchはLinux Foundationの傘下にあるPyTorch Foundationによって管理されるようになりました。これにより、より透明性の高い意思決定と多様なリーダーシップが確保されています。
2023年にリリースされたPyTorch 2.0では、新しいコンパイラ「torch.compile」が導入され、パフォーマンスが大幅に向上しました。これらの特徴により、PyTorchは現在、ディープラーニングフレームワークの中で最も人気のあるものの一つとなっています。
TensorFlowの特徴
TensorFlowは、2015年にGoogleがリリースしたディープラーニングフレームワークです。TensorFlowは、静的計算グラフを採用していることが大きな特徴でした。静的計算グラフは計算グラフを事前に定義してから実行する仕組みで、大規模なデプロイメントや商用プロダクション環境に適しています。
しかし、TensorFlow 2.0以降では動的計算グラフを採用し、Eagerモードがデフォルトとなっています。これにより、PyTorchに近い直感的な操作性を実現し、デバッグや実験が容易になりました。
また、TensorFlowはエコシステムが非常に充実しており、クラウドサービスの「Google Cloud」との連携が容易なため、以下のような幅広いビジネス用途での信頼性が高いとされています。
主に、大規模な企業向けAIソリューションの基盤において欠かせない存在として確立しています。
最新のTensorFlowではKerasが完全に統合され、高レベルAPIとして機能しています。これにより、モデルの構築と訓練がより簡単になっています。
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PyTorchとTensorFlowのパフォーマンス比較
比較項目 | PyTorch | TensorFlow |
---|---|---|
速度 | 最新版のPyTorch 2.0は最適化が進む。特定のモデルではTensorFlowを上回る | 一般的に高速だが、モデルや設定によって異なる |
メモリ効率 | GPUではTensorFlowよりも効率的な場合がある | メモリ効率が高く、大規模データ処理に適している ただし、CPUでは効率的だが、GPUではPyTorchに劣る場合も |
GPUサポート | NVIDIAのCUDAをサポートしており、Apple Siliconにも対応 | 幅広いGPUサポートを提供、TPUにも最適化 |
分散トレーニング | PyTorch 2.0で機能向上、現場での採用が進んでいる | 豊富な分散トレーニングオプションを持つ |
パフォーマンスにおいては、PyTorchとTensorFlowの差が縮まっており、一概にどちらが優れているとは言えなくなっています。
特に、PyTorch 2.0の導入により、特定のモデル(特にBERTやRNNモデル)ではPyTorchがTensorFlowを上回るパフォーマンスを示しています。一方、CNNモデルではTensorFlowが依然として優位性を保っています。
一方で、PyTorchはNVIDIAの「CUDA」をサポートしており、複数のタスクをGPUで効率的に処理する機能を持っています。ただし、CPUを使用する場合はTensorFlowの方が若干効率的な傾向があります。
特に、PyTorch 2.0では分散トレーニングの性能が向上しており、Tensorflowに匹敵するパフォーマンスが期待可能です。
PyTorchとTensorFlowの実装容易性比較
比較項目 | PyTorch | TensorFlow |
---|---|---|
動的計算グラフ | 動的計算グラフを採用、柔軟性が高い | TensorFlow 2で動的計算グラフがデフォルト化 |
デプロイのしやすさ | モバイルやエッジへの対応にやや課題 TorchScriptの導入で改善された | TensorFlow LiteやTensorFlow.jsでモバイル・エッジデバイスへのデプロイが容易 |
モデル構築 | Pythonに近い直感的な記述で、簡単に実装可能 | Kerasで簡単にモデル構築が可能 |
可視化ツール | TensorBoardとの統合が進み、選択肢が増加 | TensorBoardなど、強力なビジュアライゼーションツールを提供 |
事前学習モデル | Hugging Faceとの統合により、豊富なモデルにアクセス可能 | TensorFlow Hubで事前学習済みモデルが豊富 |
実装の容易性においては、PyTorchとTensorFlowの差が縮まっています。
PyTorchは直感的なPythonライクな構文と動的計算グラフにより、特に研究や実験的プロジェクトで人気があります。一方、TensorFlow 2.0以降はEager Executionの導入により使いやすさが大幅に向上し、Kerasとの統合によりモデル構築も容易になっています。
デプロイに関しては、TensorFlowがTensorFlow LiteやTensorFlow.jsを通じてモバイルやWeb展開で優位性を保っています。しかし、PyTorchもTorchScriptの導入により改善が進んでいます。
事前学習モデルに関しては、PyTorchがHugging Faceとの統合により豊富なモデルにアクセスできるようになり、TensorFlow Hubと同等の選択肢を提供するようになっています。
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PyTorchとTensorFlowのカスタマイズ性比較
比較項目 | PyTorch | TensorFlow |
---|---|---|
カスタムレイヤーの実装 | 簡単かつ柔軟 | TensorFlow 2.0以降で大幅に改善、直感的に実装可能 |
設計の自由度 | 高い | TensorFlow 2.0以降で大幅に向上、Kerasとの統合により柔軟性が増加 |
カスタマイズ性においては、PyTorchが依然として強みを持っていますが、TensorFlowも大幅に改善されています。両フレームワークとも、カスタムレイヤーや損失関数の実装、高度な活性化関数の使用など、高度なカスタマイズが可能です。
PyTorchは、カスタムレイヤーや独自のアーキテクチャを実装する際のコード記述が直感的で、研究者や開発者にとって柔軟性が高いことが大きく関係しています。
特に、動的計算グラフを採用しているため、複雑なモデル構築やデバッグがスムーズに行えます。
一方、TensorFlowは2.0以降のバージョンで大きな変更が加えられ、カスタマイズ性が大幅に向上しました。Eager Executionの導入により、PyTorchに近い動的な計算グラフの扱いが可能になり、カスタムレイヤーの実装も直感的になりました。
TensorFlowでは、tf.keras.layers.Layerを継承してカスタムレイヤーを作成できます。これにより、PyTorchと同様に柔軟なモデル設計が可能になっています。
PyTorchとTensorFlowの他ツールとの連携性比較
比較項目 | PyTorch | TensorFlow |
---|---|---|
クラウドサービスとの統合 | Google Cloud、AWS、Azureなど主要クラウドプラットフォームとの統合が進んでいる | Google Cloudなどとの統合が強力 他の主要クラウドプラットフォームともよく統合されている |
サードパーティツールとの統合 | Hugging Faceなどとの統合が進んでいる | 一部制限があるがTensorFlow Extendedを含む豊富なエコシステムを持つ |
他ツールとの連携性では、両フレームワークとも強力な統合機能を提供しています。TensorFlowはGoogle Cloudとの統合が特に強力ですが、PyTorchも主要クラウドプラットフォームとの統合が進んでいます。
PyTorchは特にHugging Faceとの統合が強く、自然言語処理タスクで人気があります。
PyTorchとTensorFlowのサポート体制比較
比較項目 | PyTorch | TensorFlow |
---|---|---|
公式サポートリソース | オープンソースコミュニティが中心 | 豊富な公式ドキュメントとサポートリソース |
サポートの充実度 | コミュニティベースで迅速かつ強力 | Googleによる公式サポートで安定性が高い |
サポート体制では、TensorFlowが一歩リードしています。Googleの支援のもと、公式ドキュメントやオンラインコース、フォーラムなどのリソースが充実しており、初心者でも学びやすい環境になっていることが大きな理由です。また、大規模な商用プロジェクトでの採用事例が多く、安定性やサポートの充実度が評価されています。
一方、PyTorchはオープンソースコミュニティによるサポートが強力です。コミュニティでは、新しい機能やバグフィックスが迅速に行われ、最新技術を試しやすい環境が提供されています。また、開発者間での情報共有が活発で、実務に近い形での学習を進められるメリットがあります。
PyTorchとTensorFlowのコミュニティの充実性比較
比較項目 | PyTorch | TensorFlow |
---|---|---|
コミュニティ規模 | Discordサーバーに2万人以上の参加者 | StackOverflowタグで6万件以上の質問が登録 |
活発度 | 英語圏で活発化中 | 長年の運用で安定して活発 |
サポート体制に関しては、両フレームワークとも強力なサポートを提供しています。
TensorFlowはGoogleの支援により安定したサポートを提供していますが、PyTorchも2022年9月からLinux Foundationの下でPyTorch Foundationによって管理されるようになり、より透明性の高い運営が行われています。
PyTorchは特に研究分野で人気が高いのが特徴です。コミュニティも急速に成長中で、リアルタイムで交流できる環境が整っています。
Discordサーバーには2万人以上のユーザーが参加していることは特筆すべき点です。Discordサーバーでは、日々リアルタイムで質問や議論が行われています。現在は英語圏を中心にコミュニティの活発化が進んでおり、開発者同士のネットワーキングや新しい機能に関する情報共有の場として注目されています。
一方、TensorFlowは大規模な産業応用で強みを持っています。長年の運用による信頼性と多くのリソースでコミュニティの充実性が高いことが特徴です。
両フレームワークとも活発なコミュニティを持ち、豊富な学習リソース、質問や相談の場、最新情報の入手が可能です。
PyTorchとTensorFlowが使われているシーン
以下では、PyTorchとTensorFlowの適切な利用シーンを紹介します。それぞれを適材適所で活用することによって、ビジネスやプロジェクトの成功可能性を拡大できます。
PyTorchが向いているシーン
PyTorchの利用が適切とされるシーンは、以下が挙げられます。
- 研究・プロトタイピング
- AIの教育現場
- 小規模なプロジェクト
まず、PyTorchは直感的でPythonに近い記述が可能なため、研究者やデータサイエンティストが新しいモデルやアルゴリズムを試す際に適しています。動的計算グラフを採用しており、実行時にグラフを構築できるため、柔軟でデバッグが容易な点もプロトタイピングで適切とされる理由です。
また、コードが分かりやすく、エラーが発生した場合のデバッグも容易なため、学習用途や教育環境においても活躍します。
さらには、軽量でシンプルな設計が求められるプロジェクトに最適です。コード量が少なくても効果的に動作します。以下のようなタスクを特に得意とします。
- 自然言語処理(NLP):感情分析、機械翻訳、固有表現認識、テキスト生成などのタスクに適しています。
- コンピュータビジョン:画像分類、物体検出、画像生成など、複雑なアーキテクチャを必要とするコンピュータビジョンタスクにも適しています。
- 生成AIモデル:変分オートエンコーダー(VAE)や敵対的生成ネットワーク(GAN)などの生成モデルの開発に適しています。
TensorFlowが向いているシーン
一方、TensorFlowのほうが最適なシーンは以下のとおりです。
- プロダクション環境へのデプロイ
- モバイル・エッジデバイス向けのモデル開発
- エンタープライズ用途
- AIのWebアプリケーション開発
まず、TensorFlowはGoogleによる充実したサポートと、「TensorFlow Serving・TensorFlow Lite・TensorFlow.js」といったエコシステムを活用できるため、大規模なプロダクション環境に適しています。
また、「TensorFlow Lite」を使用すれば、モデルをモバイルデバイスやIoTデバイスで効率的に実行できます。このような特徴から、特にリソース制約のあるモバイルやエッジデバイス向けのモデル開発においても活躍が期待できます。
さらには「TensorFlow Extended(TFX)」の活用により、データ収集から前処理、学習、デプロイ、監視まで機械学習パイプライン全体を効率的に構築可能できるため、大規模なエンタープライズ向けプロジェクトでも信頼性の高い運用が可能です。
最後に、TensorFlowでは「TensorFlow.js」を利用すれば、モデルをブラウザ上で直接実行でき、Webアプリケーションでの活用が容易になります。そのため、WebベースのインタラクティブなAIアプリケーション開発にも適しています。
PyTorchとTensorFlowの相互変換は可能?
PyTorchとTensorFlowは異なる設計思想を持ちますが、モデルの相互変換が可能です。そのため、プロジェクトの要件やチームのスキルセットに応じて適切なフレームワークを選択できます。
モデルの相互変換は、「ONNX(Open Neural Network Exchange)」と呼ばれる中間フォーマットを使用することで行えます。ONNXを利用したそれぞれの変換方法は、以下のとおりです。
- TensorFlowで(またはPyTorchで)モデルをONNX形式に変換
- ONNX形式のモデルをPyTorchで(またはTensorFlowで)読み込む
- PyTorch形式に変換
ONNXの活用により、上記のように比較的容易に変換可能ですが、変換に際しては以下に注意が必要です。
- 精度の誤差
- 互換性の制約
- デバッグの必要性
精度の誤差
フレームワーク間の内部計算の違いにより、変換後に精度差が生じる可能性があります。しかし、適切に変換された場合、その差は通常わずかであるべきです。
大きな精度低下が見られる場合は、変換プロセスに問題がある可能性が高いです。
互換性の制約
カスタムレイヤーや特殊なオペレーションを使用している場合、ONNXが完全にサポートしておらず、モデルの再設計や簡素化が必要になることも注意が必要です。
ONNXがサポートしていない操作がある場合、モデルの再設計や簡素化が必要になる可能性があります。
デバッグの必要性
モデル変換中にエラーが発生する場合は、変換プロセスのトラブルシューティングが必要です。変換ログを注意深く確認し、警告やエラーメッセージに対処することが重要です。
PyTorchとTensorFlowについてよくある質問まとめ
- PyTorchとTensorFlowはどちらを選ぶべきですか?
PyTorchは柔軟性や研究用途に適しており、試行錯誤が求められるプロジェクトやプロトタイピングに向いています。
一方、TensorFlowは商用利用や大規模なプロダクション環境に適しており、安定した運用が求められる場合に選ばれる傾向にあります。
プロジェクトの規模や目的、チームのスキルセットに応じて選択するのがおすすめです。
- PyTorchとTensorFlowで開発スピードに違いはありますか?
はい、違いがあります。PyTorchは動的計算グラフとPythonライクな構文により、特に研究開発やプロトタイピングで開発スピードが速い傾向にあります。
一方、TensorFlowは2.0以降でKerasとの統合により使いやすさが向上し、特に本番環境向けの開発で効率的です。ただし、これは開発者の習熟度や具体的なユースケースによっても変わってきます。
- 小規模なチームではPyTorchとTensorFlowどちらのフレームワークを選ぶべきですか?
一般的にPyTorchがお勧めです。理由は、学習曲線が緩やかで直感的なコーディングが可能なこと、デバッグが容易なこと、そして必要最小限の実装で開始できることです。
ただし、もしモバイルアプリケーションへの展開やWebブラウザでの実行が必要な場合は、TensorFlowのエコシステムの利点を考慮する必要があります。
まとめ
PyTorchとTensorFlowは、どちらもディープラーニングの分野で広く使用されているフレームワークです。
まず、PyTorchは柔軟性と直感的な操作性が大きな特徴で、特に動的計算グラフの採用により研究開発や教育現場で大きな効果を発揮します。
一方、TensorFlowは、商用利用やエンタープライズ環境における大規模なプロダクションシステムに適しており、Googleのサポートによる安定したエコシステムや豊富なツールがその強みです。
どちらのフレームワークを活用する場合にも、導入目的やプロジェクトの特性に応じて最適な選択が重要です。
それぞれの特性を活かすことで、業務効率化や生成AIシステムの開発に大きく貢献できるでしょう。この機会に自社のニーズに合ったフレームワークを選択し、AI活用の競争力をさらに高めてみてはいかがでしょうか。
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