コンクリートのひび割れ原因と種類は?AIによる検出時間の削減導入事例を徹底解説!
最終更新日:2024年10月29日
手間と時間がかかるコンクリートのひび割れ検出。昨今、経年劣化による補修が必要なコンクリート建造物が増えており、度々ニュース等でも見かけるようになりましたが、人手不足によりこれらの補修対応が追い付いていない現状があります。
国土交通省の社会インフラに関する報告によると、建設後50年を超える橋梁が2023年には43%、2033年には67%になると予測されています。多くの官公庁や企業の担当者が「コンクリートのひび割れ検出にかかる時間を削減したい」、「コンクリートのひび割れ検出を自動化できないか?」という悩みをお持ちではないでしょうか?
本記事では、コンクリートのひび割れの原因や検出方法を徹底解説。後半では、ひび割れの検出時間を8分の1程度にできるAIのひび割れ検出事例も紹介しています。
最後までお読みいただければ、ひび割れの検出時間を大幅に短縮できる方法を知ることができます。
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ひび割れ検出以外の建設土木業界でのAI活用事例については、こちらの記事で特集していますので併せてご覧ください。
コンクリートひび割れの10個の種類と原因
コンクリートがひび割れを起こす原因は、主に以下の10個あります。
- 乾燥
- 型枠のはらみ
- 外気温の寒暖差
- 疲労
- 水分の凍結と融解
- 過剰なブリーディング水
- セメント水和熱
- 塩化物腐食
- アルカリ骨材反応
- セメントの中性化による鉄筋の錆
それぞれの原因と主な対策について説明します。
乾燥
コンクリートに含まれる水分は時間の経過によって蒸発し、水分が蒸発すると体積が減少するため、コンクリート内で引張力が働きます。そして、コンクリートが逆向きの引張力に耐え切れなくなった時にひび割れが起こります。
乾燥によるひび割れは、水分含量の低いコンクリートを使用したり、収縮低減剤を用いることで対策可能です。主な対策方法は以下のようなものがあります。
- 水分含量の低いコンクリートの使用
- ひび割れ誘発目地の作成
- 収縮低減剤や膨張剤の使用
- 鉄筋量の増加
型枠のはらみ
型枠のはらみが起きると中心から型枠に向かって力が働くため、型枠に平行なひび割れが起こります。強度の低い型枠を使用するとひび割れが起こりやすくなります。
型枠のはらみによるひび割れは、強度の高い型枠を使用したり、コンクリートの打設を数回に分けて型枠の負担を減らすことで対策可能です。主な対策方法は以下のようなものがあります。
- 高強度の素材を型枠に使用
- はらみが起こりそうな箇所を外側から補修
- 数回に分けてのコンクリート打ち込み
外気温の寒暖差
コンクリートは温度の低下によって収縮するため、気温が低くなる寒冷地では冬場にコンクリートの体積が減少します。夏と冬の気温差が50℃近くになる地域であれば、10mのコンクリートが5mm程度収縮します。
気温差によりコンクリートの体積が収縮する際、コンクリートに引張力が働き、その力に耐えきれなくなった時にひび割れが生じます。また、コンクリート外側と内側の温度差が生じることにより、コンクリート内で引張応力が発生し、ひび割れが起こることもあります。
外気環境によるひび割れは、ひび割れ誘発目地を設置することで対策可能です。ただし、環境変化によって起こるひび割れのため完全に防ぐことは難しいでしょう。
疲労
コンクリートは、最大耐力以下の負荷であっても、繰り返し負荷を受けることにより疲労し、ひび割れを起こします。
主な対策方法は以下のようなものがあります。
- 表面強化剤でコーティング
- 強度の高い材料の使用
- 補強工事の実施
疲労によるひび割れは、表面のコーティングや強度の高い材料を使用することで対策可能です。
水分の凍結と融解
寒冷地ではコンクリート内の水分が凍結・融解することがあります。水は凍ると体積が膨張し、融解すると収縮します。水分が膨張・収縮を繰り返すと、コンクリートに引張力と膨張圧が何度もかかり、コンクリートに負担をかけます。
一度凍結・融解が起こってしまうと、コンクリートに負担がかかってひび割れが生じ、さらにそこから水分が入って凍結・融解を繰り返すという悪循環に陥りやすくなります。主な対策方法は以下のようなものがあります。
- AE材を使用による微細な空気泡の確保
- 吸水しにくい材質の使用
- 水分含量の低いコンクリートの使用
凍結融解によるひび割れは、コンクリート内の空気量を調節して水分が凍結した際の逃げ場を作ったり、材質を変えることで対策可能です。
過剰なブリーディング水
ブリーディング水が過剰に含まれていると、水分が蒸発した際に体積が減少してしまい、ひび割れが起きやすくなります。ブリーディング水とは、フレッシュコンクリートの内部に含まれていた水の一部が遊離して、表層まで上がってきた水です。内部の骨材やセメントなどの固体材料が分離・沈降することによって発生します。ブリーディング水が発生すると、体積が減少することにより上下方向の体積も小さくなり、沈下ひび割れも生じます。
ブリーディング水によるひび割れは乾燥によるひび割れと同様の対策方法となり、水分含量の低いコンクリートを使用することなどで対策可能です。主な対策方法は以下のようなものがあります。
- コンクリートの追加
- 水分含量の少ないコンクリートの使用
- タンピングの実施
- 数回に分けてのコンクリート打ち込み
ブリーディング水によるひび割れは早期に症状が出るため発見しやすく、早急に対処することで比較的簡単に修復できます。
セメント水和熱
コンクリートが水と混ぜられて硬化する際には、水和熱が発生します。水和熱により、コンクリートの温度は80~100℃付近まで上昇します。これが冷却する過程で体積が小さくなり、ひび割れが生じます。
セメント水和熱によるひび割れは、水和熱の小さなセメントを選定することで対策可能です。主な対策方法は以下のようなものがあります。
- 水和熱の小さなセメントの使用
- 水和熱抑制剤の使用
セメントの水和反応を遅延させて最高温度を低減できる水和熱抑制剤が開発されています。水和熱抑制剤は部材内部の温度を大幅に低減させるので、低発熱型のセメントを使用できない場合でもひび割れ対策として使用できるでしょう。
塩化物腐食
塩化物が内部に浸透すると、鋼材が腐食して錆が生じます。その錆によって体積が増加し、内部から外側に向けての力が生じてひび割れが起こります。
また、ひび割れによって酸素と水が内部に侵入しやすくなり、さらに腐食しやすくなるため、早期の対策が必要になります。主な対策方法は以下のようなものがあります。
- コンクリート表面のコーティング
- 陽極材の設置による塩化物イオンの除去
塩化物腐食によるひび割れは、塩化物の侵入を防ぐことで対策可能です。
アルカリ骨材反応
アルカリ骨材反応による内部の膨張力にコンクリートが耐え切れなくなると、ひび割れが生じます。アルカリ骨材反応では、セメントに含まれるアルカリが溶け出して水溶液と結びついて強アルカリ性の水溶液となります。この水溶液が、シリカ鉱物やガラス質物質の骨材と触れると材質が膨張しコンクリートを圧迫します。
主な対策方法は以下のようなものがあります。
- コンクリート中のアルカリ除去
- アルカリ耐性を持つ骨材の使用
- アルカリ浸透を防止する塗装の実施
アルカリ骨材反応によるひび割れは、アルカリに強い骨材を使用することで対策可能です。
セメントの中性化による鉄筋の錆
セメントの水素イオン濃度(pH)が下がることで、コンクリート内部の鉄筋が錆びてしまい膨張することでひび割れが生じます。通常、コンクリート内部の鉄筋はpH12~13で高いアルカリ性を持つセメントに包まれており「不動態皮膜」と呼ばれる保護膜に覆われて腐食が防がれています。
コンクリートに二酸化炭素が侵入すると、炭酸化が進んでアルカリ性から中性に変化していきます。しかし、セメントのアルカリ性が失われると、内部の鉄筋の皮膜も失われて鉄骨が錆び、内部の体積が膨張します。主な対策方法は以下のようなものがあります。
- コンクリート表面のコーティング
- 外気から鉄筋までの距離を長くする
- 陽極材と電解質溶液の設置による内部のアルカリ化
中性化によるひび割れは、二酸化炭素の侵入を防ぐことで対策可能です。
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コンクリートのひび割れ検出方法
コンクリートのひび割れ検出には以下の方法があります。
クラックスケール等を用いて現場検証を行う
クラックスケールやクラック針ゲージペンなどを用いて、手動でひび割れを見つける方法です。広く利用されている手法ですが、多くの人手と時間がかかります。そのため広い範囲の検出には不向きです。
ひび割れ検出が可能なAIシステムを導入する
AIの画像解析システムによりひび割れを検出する方法です。様々な分野で活用されているAIシステムですが、近年は建設業界でも広く利用され始めてきました。AIシステムを利用すれば、現場検証は写真や動画を撮るだけで完了し、解析作業といったデスクワークが主な業務となります。
AIによる画像認識の仕組み、種類についてはこちらの記事で特集していますので併せてご覧ください。
AIによるコンクリートひび割れ検出事例5選
AIによるコンクリートのひび割れ検出事例を以下に紹介します。
- 走行中に道路のひび割れを検出(首都高技術株式会社)
- トンネル内の暗所・曲面のひび割れも測定可能(大林組/富士フイルム)
- 高層構造物壁面のひび割れ測定時間を8分の1に(東設土木コンサルタント)
- 中小の橋梁で点検技術者と同等以上のひび割れ認識率(PAL構造)
- 橋やトンネルの老朽化対策(キヤノン)
それぞれの導入事例について説明します。
走行中に道路のひび割れを検出(首都高技術株式会社)
首都高技術株式会社は、国立研究開発法人産業技術総合研究所・東北大学と共同でひび割れ検出AIシステムを構築しました。道路上にある幅0.2mm以上のコンクリートのひび割れを80%以上という高精度で検出するAIシステムを開発しました。
従来、道路のひび割れ検出は夜間規制を実施して4,5時間かけて、手動で検出するという方法がとられていました。ISPが開発したAIシステムは、ひび割れ以外の事象の誤検出を極力抑えるために、ひび割れ特有の谷形状の特徴パターンを機械学習させてひび割れ検出を行います。ひび割れと表面の汚れや傷を見分けることができ、幅0.2mm以上のひび割れを82.4%という高精度で検出できる性能を持っています。また、点検作業にかかる時間は従来の10分の1に削減できると見られています。
同システムが実用化されれば、道路規制することなくひび割れ検出をすることが可能になります。
トンネル内の暗所・曲面のひび割れも測定可能(大林組/富士フイルム)
大林組は、トンネル曲面や照明が少ない暗所でもひび割れ検出が可能なAIシステムを開発しました。現場で必要となるのは写真撮影のみです。ですから、高所の検出でも足場等の用意が必要なく、安全にひび割れを検出できます。
大規模な土木構造物でひび割れを自動検出するには、対象物に接近した画像が必要なので撮影枚数が非常に多くなってしまいます。また、場所によっては高所作業車やドローンでの撮影が必要です。このシステムは、富士フイルムが開発したAIによる画像解析「社会インフラ画像診断サービス」を利用しています。専用のカメラを使用することにより、一眼レフカメラと比べて6分の1の撮影枚数でひび割れ検出が可能です。
さらに、暗所で撮影した写真も解析できるAIシステムとなっているため、追加の照明で撮影部を照らす必要がありません。一人で作業が完結するため、従来の方法より作業にかかるコストを大幅に削減できます。
高層構造物壁面のひび割れ測定時間を8分の1に(東設土木コンサルタント)
東設土木コンサルタント(TCC)は、ダムやコンクリート煙突、橋梁などの高層構造物壁面のひび割れの検出にかかる時間を大幅に削減できるひび割れ検出AIシステムを開発しました。
人が10m×10mのひび割れ検出を行うには72時間ほど必要とされています。また、目視点検では点検範囲が限られます。例えば、ダムの目視点検ではキャットウォーク近くしか点検できません。
TCCでは、デジタルビデオカメラ、望遠レンズ、及び自動雲台等を用いて遠くから非接触自動で構造物を撮影できます。ビデオなので画像の取り漏れもありません。コンクリート表面の状態を画像化することで、ひび割れ、漏水などを高精度で検出できます。90分で結果の修正まで行うことができます。これは、従来の方法の8分の1の時間となります。
TCCは今後、漏水やサビ、剥落箇所等の把握もAI自動検知可能なシステムの開発を目指しています。実現すれば、ひび割れ以外の測定項目も一括で行えるAIシステムが利用できるようになります。
中小の橋梁で点検技術者と同等以上のひび割れ認識率(PAL構造)
PAL構造は、点検技術者と同等以上である認識率85%のひび割れAI検出システムを開発しました。ひび割れの検出精度を保ちつつ、従来の近接目視による方法と比較して工数・費用を50%削減できるシステムとなっています。
特に老朽化対策の遅れが深刻化している市町村管理の橋梁を主な対象に、光学カメラと赤外線カメラによるコンクリート表面の撮影だけでのひび割れ検出が可能です。市町村管理の中小橋梁に多い、汚れのひどいコンクリートであっても高いひび割れ認識率を達成しています。
また、同システムには目視でも確認できない浮きを、温水/冷水を散布して表面温度の時間変化により測定できる機能も搭載されており、ひび割れ以外の項目も検出できるシステムとなっています。現段階でもひび割れ認識率は85%と高水準ですが、同社は今後もAIの学習用データを追加することにより、精度の高いAIシステムを構築していく予定です。
橋やトンネルの老朽化対策(キヤノン)
キヤノンが開発した「インスペクション EYE forインフラ」は、橋やトンネルなどのコンクリート構造物の点検作業を支援するシステムです。EYE forインフラは、「撮影」「画像処理」「変状検知」の3つで構造物の老朽化の程度を判定します。
AI画像認識は、変状検知で使います。画像処理した構造物の写真からひび割れなどの老朽化のサインを見つけ出します。実験では、ひび割れを99%の確率で検知しました。また0.05mmの微小なひび割れも、AI画像認識は見逃しませんでした。
コンクリートのひび割れについてよくある質問まとめ
- コンクリートのひび割れにはどのような種類があり、主な原因は何ですか?
コンクリートのひび割れの主な種類と原因は以下の通りです。
- 乾燥: 水分蒸発による収縮
- 外気温の寒暖差: 温度変化による膨張・収縮
- 疲労: 繰り返し負荷による劣化
- 凍結融解: 水分の凍結・融解による膨張・収縮
- セメント水和熱: 硬化時の温度上昇と冷却
- 塩化物腐食: 鋼材の腐食による膨張
- アルカリ骨材反応: 内部の化学反応による膨張
- セメントの中性化: 鉄筋の錆による膨張
- AIを活用したコンクリートのひび割れ検出にはどのような利点がありますか?
AIによるひび割れ検出の主な利点は以下の通りです。
- 検出時間の大幅削減(例: 従来の8分の1)
- 人手不足問題の解消
- 高所や狭所など危険な場所での作業リスク低減
- 夜間や暗所でも検出可能
- 微細なひび割れ(0.2mm以上)の高精度検出
- 点検作業の品質均一化
- コスト削減(例: 工数・費用50%削減)
- AIを用いたコンクリートのひび割れ検出の具体的な事例にはどのようなものがありますか?
AIによるひび割れ検出の具体的事例は以下の通りです。
- 首都高技術: 走行中の道路ひび割れ検出(幅0.2mm以上、精度82.4%)
- 大林組/富士フイルム: トンネル内暗所・曲面のひび割れ検出
- 東設土木コンサルタント: 高層構造物壁面のひび割れ測定時間短縮
- PAL構造: 中小橋梁での点検技術者同等以上の認識率(85%)
- キヤノン: 橋やトンネルの老朽化対策システム(ひび割れ検知確率99%)
まとめ
目視で行うと非常に工数のかかるひび割れ検出ですが、AIシステムを活用することで時間・人手を大幅に削減することが可能です。
また、AIシステムを導入すれば、工数を削減するだけでなく、属人化しやすい作業の品質を均一に保ちつつ、人手不足や労働環境を改善することができます。事例で紹介したもの以外にも、既に多くのひび割れ検出AIが活用されていますので、ぜひ自社ビジネスへの応用をご検討ください。
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