RAG(検索拡張生成)とは?LLMでの活用方法・事例・メリット・導入・構築方法の注意点まで徹底解説!
最終更新日:2024年11月14日
ChatGPTをはじめとする生成AIの企業活用が加速する中、企業は膨大なデータから価値を引き出し、業務効率化と顧客体験の向上を実現することが求められています。しかし、LLM(大規模言語モデル)だけでは、
LLMとは?どんな種類がある?こちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
こうした中、注目を集めているのが「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれる最新技術です。RAGは、情報検索と言語生成を組み合わせることで、LLM単体では保有していない情報も含めた、より正確で自然な文章生成を可能にすることから、LLMとRAGを組み合わせたシステム活用が進んでいます。
本記事では、
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目次
RAG(検索拡張生成)とは?
RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは、最新の自然言語処理(NLP)技術の一つであり、検索ベースと生成ベースのAIモデルの長所を組み合わせた技術で、現在、ChatGPT等のLLMと組み合わせた活用が進んでいます。
関連記事:「ChatGPTの課題はRAGで解決できる?実装方法・活用事例・注意点を徹底解説!」
LLM(大規模言語モデル)は事前学習済みのデータセットに依存するため、最新情報の反映や速やかなアップデートが困難です。また、学習データやユーザーの入力データに社内データ(特に機密情報を含むもの)を使うことは機密情報の漏洩につながるリスクがあります。
そこで、RAGの技術を活用し、LLMに事前学習されているデータではない、任意のデータベースからリアルタイムに情報を検索・取得し、そのデータをLLMの回答生成に活用することで、事前学習されていない自社オリジナルのデータを踏まえた回答を行うことが可能になります。
そのため、RAGをLLMと組み合わせて活用することで、自社オリジナルのデータを単に検索したり探したりするだけでなく、人間の言語に近い自然な言葉のやり取りや文脈を反映した説明を作成することも可能になり、オリジナルデータを学習したチャットボットの構築などが可能になります。
RAGとLLMを組み合わせて、オリジナルな回答を行うシステムのイメージは以下のような形です。
ファインチューニングや追加学習との違い
どちらもオリジナルの回答を行うLLMという意味では共通していますが、ファインチューニングや追加学習では、特定領域に対応した大量の学習データによる追加トレーニングが必要な手法で、膨大なコストと時間がかかります。
一方RAGは、事前学習済みのLLMの知識を活用しつつ、LLMの回答結果に別の知識データ(外部で構築したデータベースなど)を読み込ませる手法となるため、ファインチューニングを行うよりもカスタマイズ工数を削減しつつ、高精度な回答生成を可能とします。これにより、より低コスト且つスピーディーに独自の回答を行うオリジナルLLMの構築を可能とします。
ファインチューニングのメリット、デメリット、活用事例をこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
RAG(検索拡張生成)の仕組み
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、情報検索と言語生成を組み合わせることで、高度な文章生成を可能にする技術です。RAGの仕組みを理解するために、以下の観点から解説します。
入力されたクエリのエンコーディング
ユーザーからの質問や要求(クエリ)がRAGに入力されると、まず自然言語処理(NLP)技術を用いてクエリを解析します。この解析では、クエリを構成する単語や文章の構造を分析し、その意味や文脈を捉えます。
RAGの処理の第一段階は、ユーザーからの入力(クエリ)をベクトル表現にエンコーディングすることです。ベクトル表現に変換する際には、大規模なテキストデータから単語の意味や関係性を学習し、各単語を数値のベクトルで表現します。このベクトル表現は、クエリの意味や文脈を数値的に表現したものです。
関連情報の検索
次に、エンコーディングされたクエリベクトルを用いて、外部データベースから関連する情報を検索します。このプロセスにより、質問に関連する最新かつ正確な情報、または社内でのみアクセスできる情報を得ることが可能になり、生成される回答の質が向上します。
この検索では、クエリベクトルと各データのベクトル表現の類似度を計算し、最も関連性の高い情報を抽出します。
抽出した情報の統合と文脈理解
検索で抽出された情報は、次にLLM(大規模言語モデル)に入力されます。LLMは、抽出された情報とクエリを組み合わせて、文脈を理解します。
この過程で、LLMは事前学習で得た知識と検索で抽出された情報を、セマンティック検索機能を活用してクエリに対する最適な応答を生成するために必要な情報を選択・統合します。
自然な応答の生成
文脈理解の結果を基に、LLMは自然言語での応答を生成します。この応答生成では、LLMの言語生成能力が活かされ、文法的に正しく、かつ文脈に即した自然な文章が生成されます。
生成された応答は、ユーザーに提示される前に、さらなる後処理が行われる場合があります。例えば、応答の文体を調整したり、不適切な内容をフィルタリングしたりすることで、より質の高い応答を提供できます。
検索と生成の反復によるインタラクティブな対話
RAGは、検索と生成のプロセスを反復的に行うことで、インタラクティブな対話を実現します。ユーザーからの追加の質問や要求に対して、RAGは再度関連情報を検索し、それを基に新たな応答を生成します。
この反復プロセスにより、RAGはユーザーとの対話を通じて、徐々に文脈を深く理解していきます。その結果、より的確で詳細な応答を提供できるようになります。
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RAG(検索拡張生成)を使う7つのメリット
RAGのメリットには、精度の高い回答を得られることや、最新の情報、オリジナルの情報を得られることなどが挙げられます。
リアルタイム、オリジナルな情報の反映
RAGは質問に応じてその都度外部データベースを検索するため、常に最新の情報を反映した回答を生成できます。また、自社独自の製品情報(製品に関するお問い合わせへの回答や操作サポートなど)に関する回答なども生成できます。
データ漏洩リスクの低減
LLMの学習データ、そしてユーザーの入力データに機密情報が含まれると、データ漏洩のリスクが懸念されます。RAGは任意のデータベースから動的に情報を取得するため、学習データに依存せずに高精度な文章生成ができ、漏洩リスクを最小限に抑えられます。
関連記事:「ChatGPTで情報漏洩が起こる?リスクに対処するポイントを徹底解説!」
回答の精度の向上
RAGは、検索ベースと生成ベースのAIモデルの長所を組み合わせることで、より正確で関連性の高い回答を提供します。この技術は、外部データベースからの情報を取得し、その情報を基に質問やプロンプトに対する回答を生成するため、正確な情報を反映した精度の高い回答を生み出すことが可能です。
特に、変化が激しい分野の情報を得る際に役立ち、ユーザーのニーズに合わせたカスタマイズされた回答を生成できる点が大きなメリットです。
RAGをさらに発展させたGraphRAGでは、ナレッジグラフを活用して情報検索と生成を統合します。これにより情報間の関連性を明確にし、高度な推論と精度の高い回答生成が可能になります。
コスト削減
RAGは少ない学習データでも高精度なタスク実行が可能なため、ファインチューニングや追加学習に必要なデータ収集・アノテーションのコストを大幅に削減できます。
柔軟なカスタマイズと拡張性
従来のLLM(大規模言語モデル)の訓練には膨大なデータセットが必要でしたが、RAGを使用することで、既存の知識ソースを活用し、訓練データの収集と取り込みの必要性が減ります。RAGは検索対象とするデータベースを柔軟に選択・拡張できるため、企業ごとに最適なシステムを構築可能です。
また、新たなデータソースを追加することで、システムの能力を継続的に向上できます。
応答速度の向上
RAGモデルは、検索フェーズで文脈を絞り込むことにより、生成フェーズで処理が必要なデータ量を減らすことができます。これにより、応答速度が向上し、ユーザー体験が改善されます。特に、顧客サポートやバーチャルアシスタントなどのアプリケーションでは、迅速な回答提供が求められるため応答速度の向上は大きな利点となります。
また、最新の情報やデータソースへのアクセスが実現することで、回答が正確かどうかをチェックしやすくなり、結果的に信頼性の保証にもつながります。
文脈に合わせた回答生成
抽出された情報は、生成モデルによって統合され、ユーザーの質問やプロンプトの文脈に沿った回答が生成されます。この過程では、人間のような自然な言葉遣いや文脈を反映した説明が可能になり、より理解しやすい回答の提供が可能です。RAGによる回答は、ただの情報の要約ではなく、質問の意図を把握し、適切な情報を組み合わせることで形成されます。
RAG(検索拡張生成)活用にかかる3つの注意点
RAGには最新の情報を反映させ、正確な回答を提供する能力を持ちますが、その実装にはいくつかのデメリットが存在します。
モデル設計や実装が複雑
RAGは検索コンポーネントと生成コンポーネントの両方を統合する必要があるため、高度な技術知識が必要です。具体的には、検索コンポーネントの設計と最適化、Transformerベースの生成モデルの調整、そしてこれらを統合するプロセスが含まれます。開発から実装後のメンテナンスに至るまで、幅広いプロセスにおいて専門性を要求します。
また、検索対象のデータベースが大規模であるほど、検索コンポーネントの処理に時間がかかり、応答時間の長さがユーザー満足度に影響を与える可能性があります。
誤った回答が作られる可能性
誤った内容の回答が生成されるリスクもあります。情報源に不正確な情報や古い情報が含まれている場合、それを基に回答が生成されると、最新の情報を反映しない回答が提供されることになります。
さらに、データベースの偏りも問題となり得ます。ある問題について考察する際、参照するデータベースの情報が片方の意見に偏っていると、合理的な結論を導くことが困難になります。これらの問題は、RAGを用いたシステムの信頼性と有効性に直接影響を与えるため、こまめなデータ管理と定期更新が必要です。
インフラコストの増大
RAGはリアルタイムの情報検索を行うため、膨大なデータを高速に処理できるインフラが必要です。ストレージやネットワークのコストが増大する可能性があります。
RAG(検索拡張生成)の使用事例
RAGは、顧客サポートの自動化、コンテンツの自動生成、市場調査と分析、営業とマーケティングの支援、知識共有と情報アクセスの改善など、多岐にわたる分野で活用されています。
顧客サポートの自動化
RAG技術を活用することで、顧客サポートは大きく変革されます。高度なチャットボットやバーチャルアシスタントは、顧客の問い合わせに対して製品情報や過去の事例からパーソナライズされた正確な回答を提供できるようになります。
例えば、顧客の過去の問い合わせ履歴や購買データなどを分析し、個人の状況に合わせた最適な回答を提供できます。
これにより、回答の高速化や運用効率の向上、顧客満足度の向上が実現します。
他にも、製品マニュアルや過去の事例データベースから関連情報を検索・統合することで、複雑な技術的問題にも的確に対応できます。
社内ナレッジマネジメントの効率化
企業内には、業務マニュアルや会議録、メールのやり取りなど、膨大な非構造化データが蓄積されています。RAGを活用することで、これらのデータから業務ノウハウを抽出し、以下のように効果的に活用できます。
暗黙知の形式知化
ベテラン社員の経験やノウハウをRAGで分析・体系化することで、暗黙知を形式知に変換し、組織全体で共有できます。
情報検索の高速化
自然言語による直感的な検索により、必要な情報に素早くアクセスできます。
関連情報の発見
RAGは関連性の高い情報を自動的に紐づけるため、従来見落とされていた知識の関連性を発見できます。
関連記事:「エンタープライズサーチとは?社内検索の機能・メリット・デメリット・導入手順・事例を徹底解説!」
コンテンツの自動生成
RAGは、ブログ記事、製品カタログ、その他コンテンツの作成にも役立ちます。関連する情報源からの情報検索と組み合わせることで、より詳細で正確なコンテンツを効率的に生成することができます。これにより、コンテンツマーケティングの質と効率が向上し、ターゲットユーザーに対してより魅力的な情報提供が可能になります。
市場調査と分析
RAGは、新着ニュース、業界の調査報告、ソーシャルメディアの投稿など、インターネット上の大量のデータからインサイトを収集することで、企業の市場動向の把握や競合他社の動きの分析を実現します。これにより、より良い意思決定を支援し、企業の戦略立案に貢献します。
営業とマーケティングの支援
RAGを活用することで、営業プロセスが効率化されます。バーチャルの営業アシスタントとして機能し、在庫品に関する顧客からの質問に答えたり、製品仕様の検索、操作説明を行うことができます。
また、見込み客の行動データやソーシャルメディア上の発言などを分析し、購買意欲の高いリードを自動的に特定できます。他にも、過去の成功事例や顧客データを基に、営業トークを個々の顧客に最適化することで、成約率の向上が期待できるでしょう。
RAGを活用した独自チャット(LLM)の構築方法
既存のLLM(大規模言語モデル)、例えばChatGPTにも使われているGPTなどを基に社内用のRAGシステムを構築する方法は以下の通りです。
1. LLMの選定
GPTやClaudeなど、RAGシステムのベースとなるLLMを選定します。モデルの言語生成能力や対応言語、ライセンス条件などを考慮し、自社のニーズに最も適したものを選びます。
2. 検索エンジンの開発
社内データを検索するための検索エンジンを開発します。この際、LLMとの連携を念頭に置き、検索結果をLLMに入力しやすい形式で出力できるようにします。
3. データのベクトル化
Embeddingなどの手法で検索対象となるデータをベクトル化(テキストやその他の形式のデータを数値のベクトルに変換)し、検索エンジンがより効率的にデータを処理できるようにします。
関連記事:「Embedding(埋め込み表現)とは?自然言語処理での必要性・活用事例・実装手順を徹底解説!」
4. 検索エンジンとLLMの連携
検索エンジンとLLMを連携させる仕組みを開発します。ユーザーからの質問をLLMで解析し、関連するキーワードを抽出して検索エンジンに渡します。検索結果をLLMに入力し、文脈に即した自然な応答を生成します。
5. LLMのファインチューニング(オプション)
必要に応じて、社内データを用いてLLMのファインチューニングを行います。これにより、社内特有の用語や文脈をより高度にLLMに学習させ、さらに適切な応答の生成が期待できます。ただし、ファインチューニングには大量の計算リソースと時間が必要となります。
6. ユーザーインターフェースの開発
ユーザーとのやり取りを行うためのインターフェース(チャットボット、Web UIなど)を開発します。ユーザーの入力をLLMに渡し、生成された応答を適切に表示できるようにします。
7. テストと評価
システム全体の動作をテストし、応答の質や応答時間などを評価します。ユーザーによる実際の利用を想定したテストを行い、システムの改善点を洗い出します。
8. 運用とメンテナンス
システムの本番運用を開始したら、継続的なモニタリングとメンテナンスが必要です。ユーザーからのフィードバックを収集し、システムの改善につなげます。また、LLMの更新や検索エンジンのインデックス更新など、定期的なメンテナンスも欠かせません。
既存のLLMを活用することで、自前でLLMを学習するよりも短期間かつ低コストでRAGシステムの構築が可能になります。ただし、LLMの利用条件や、検索エンジンとの連携における技術的な課題にも注意が必要です。
また、既存のLLMはあくまで一般的な言語生成モデルであるため、社内の特定ドメインに特化した応答を生成するには限界があります。高度なカスタマイズが必要な場合は、独自のLLMを学習することも検討に値します。
RAGシステムの構築は、自然言語処理や機械学習の知見を持つエンジニアとの協力が不可欠です。自社の技術力を見極め、必要に応じて外部の専門家やベンダーとの連携を図ることが重要でしょう。
RAGについてよくある質問まとめ
- RAGはどんな仕組みですか?
RAGは、以下の3つのステップで動作する情報検索と言語生成を組み合わせたAI技術です。
- ユーザーの質問を解析し、ベクトル表現に変換
- ベクトル表現を使って外部データベースから関連情報を検索・抽出
- 抽出した情報を言語モデルに入力し、文脈に即した自然な応答を生成
この一連のプロセスを反復することで、RAGはユーザーとのインタラクティブな対話を実現します。
- RAGを活用するメリットは?
RAGを活用するメリットは以下の通りです。
- 常に最新の情報を反映した正確な応答が可能
- 少ない学習データでも高精度な文章生成を実現
- 学習データに依存しないため、データ漏洩リスクを低減
- 企業ごとに最適なシステムを柔軟に構築・拡張可能
- カスタマーサポートの自動化、社内ナレッジの活用、マーケティングの高度化など、様々な業務シーンで活用可能
RAGの導入により、企業はデータドリブンな意思決定を加速し、業務効率の向上と競争力の強化を実現できます。
まとめ
RAGは、LLMの課題を克服し、より実用的で拡張性の高いAIシステムを実現するための重要な技術です。情報検索とLLMを組み合わせることで、企業内外の膨大なデータを有効活用し、業務効率化と意思決定の高度化を推進することができるでしょう。
RAGの導入を検討することは、競争力強化につながる戦略的な選択肢の一つといえます。一方で、データガバナンスの強化やセキュリティ対策など、導入に向けた体制整備も欠かせません。
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