AI×林業の可能性は?3つの課題・メリット・活用方法・森林DXの事例を徹底解説!
最終更新日:2024年10月19日
日本は国土の7割近くが森林となっており、木材資源が豊富であるため、林業は重要な産業です。一方で、深刻な労働力不足、低い生産性、複雑な森林所有構造など、多くの課題に直面しています。
しかし、近年のAI技術の進歩は、これらの問題に対する革新的な解決策を提供し始めています。林業でもDXは推進されており、森林管理に革新的な技術をもたらす可能性があります。
この記事では、林業が抱える課題やAIを導入するメリット、活用方法、取り組み事例を解説します。林業の現状とAIの可能性について、本記事を参考にしてみてください。
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国内の林業が抱える3つの問題
日本の資源とも言える林業ですが、現在以下のような問題があるとされています。
- 林業従事者の不足
- 生産性が低い
- 森林所有構造が複雑で機械化を進めにくい
それぞれの問題について見ていきましょう。
林業従事者の不足
林業は現在、従事者の高齢化と若年層の減少により深刻な労働力不足に直面しています。平均年齢は50歳を超えており、林業の高齢化率(65歳以上)が25%(令和2年調査)で、全ての産業平均15%よりも高い数値です。2020年には林業従事者数が約4万人で、1980年代のピーク時から約3分の1に減少しています。
林業は重労働や収入の不安定さ、都市部への人口集中といった背景から、若者が魅力を感じにくい側面があります。平均年齢は50歳を超えており、後継者不足が深刻です。こうした高齢化や人手不足は今後さらに加速するとされており、伐採や植栽、森林管理の専門技術を継承できる人材が確保できなくなる危険があります。
人手不足や高齢化はさまざまな産業や業界でも問題となっていますが、林業も例外ではありません。
生産性が低い
日本の林業は欧米諸国と比較して、生産性が低いとされています。従事者の不足に加えてIT技術の推進も遅れているため、効率的な作業が難しくなっています。
アメリカやカナダなど国土の広い国に比べて、日本は山林の地形や気候条件が複雑であるため、労働生産性が著しく低いのが課題です。国内の森林は適切に管理されていないことが多く、特に人工林の管理が不十分です。
これにより、森林の多面的な機能が十分に発揮されていません。地域ごとに細かく管理しなければいけないという地理的条件もあるため、生産性が低い水準のままとなっています。
森林所有構造が複雑で機械化を進めにくい
日本の森林は、所有構造が極めて複雑であることが大きな問題です。多くの森林は小規模な個人所有となっており、所有者が分散している構造が統一的な管理を難しくしています。
森林所有者が分散すると、個々の所有者がそれぞれの森林を管理するため、効率的な機械の導入や運用が困難となります。機械化には大規模な投資が必要であり、経済的負担が大きいため、小規模な所有者は積極的に導入しようとしません。その結果、生産性の低下を招きます。
この問題を解決するためには所有構造の整理が求められますが、これには時間がかかります。政府や自治体、業界団体が協力しないと森林所有構造は改善されないため、短期的な解決は見込めないのが現状です。
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林業で活用されるAI技術
林業において、AI技術は実際に活用されています。どのように活用されているのか、活用方法を見ていきましょう。
データ解析と管理の効率化
AIにデータ分析を任せることで、正確なデータ分析と効率的な管理が可能です。
森林管理には木の状態や成長速度、土壌の質、生態系といったさまざまな情報をキャッチしなければいけません。AIは大量のデータを分析し、必要な情報を提供します。客観的かつ正確な分析によって、病害虫の早期発見や適切な伐採時期の決定が容易になるでしょう。
データ解析がスムーズに行えるようになると、管理の効率も向上します。AI技術によって、管理のクオリティと効率のどちらもアップすることが可能です。
関連記事:「データ分析とは?メリット・デメリット・手法の特徴・導入方法・ビッグデータ活用を徹底解説!」
ドローンでの森林状況のモニタリング・作業
AIを搭載したドローン技術を使用することで、広大な森林の上空から詳細なデータを迅速に収集し、効率的な管理が可能となります。ドローンによる空撮は、森林の状態や樹木の成長状況をリアルタイムで把握する手段として有効です。
森林状況のモニタリングが容易になることで、早期に対策を講じ被害の拡大を防ぐことも可能になります。ドローンは複雑な地形でも簡単にアクセスできるため、人手では届きにくい場所の詳細な情報収集もできます。
広大な森林を管理する上で、ドローンは効果的な手段です。森林管理におけるモニタリングや作業について、優れた効率性をもたらすでしょう。
関連記事:「AIを搭載したドローン活用例!できることや今後の課題とは?」
森林経営の需要予測や施業計画の立案
AIはデータ分析だけでなく、森林経営の需要予測や施業計画の立案などのサポートにも役立ちます。市場データや気象データ、過去の収穫データをAIが解析することで、木材の需要や価格の変動を予測することが可能です。
これらのデータを分析することで、伐採タイミングの最適化や収益の最大化が図れます。また、需要予測に基づいて植栽計画を立案することができ、長期的な森林経営の安定化にも貢献します。
関連記事:「AIによる需要予測とは?何にどこまで使える?デメリットは?導入事例徹底解説」
林業でAIを活用するメリットは?
深刻な問題を抱える林業ですが、AIの活用によってどのようなメリットがあるのか、以下に解説していきます。
森林管理の効率化
AIを活用することで、森林管理の効率化が飛躍的に進むことが期待されています。IoTセンサーとAIを組み合わせることで、広範囲の森林状況をリアルタイムで監視し、病害虫の早期発見や適切な伐採時期の判断が可能となります。また、AIを搭載したドローンやIoTセンサーを用いて森林の状態をモニタリングし、病害虫の早期発見や森林火災の予防が可能です。
AIを用いた木材検収システムで木材の品質やサイズを自動で測定し、最適な価格での販売を支援します。これにより、労務削減や経費削減が可能となります。
これにより、熟練の技術者が少なくても、若手や新規参入者が短期間で作業を習得しやすくなるでしょう。AIによって、生産性の低さや管理業務の複雑さといった課題を解決できるメリットが見込めます。
森林経営のサポート
AI技術は、森林経営のサポートにも効果的です。森林経営計画の策定や実施において、AIはデータ分析やシミュレーションを通じて最適な戦略を導き出します。
例えば、気象データや市場動向をAIが分析することで、伐採のタイミングや植栽の最適な時期を予測し、経営リスクを最小限に抑えることが可能です。最適な植栽方法や肥料の使用量、最も高く売れる木材の切断方法の提案にも活用でき、収益性の高い経営が期待できます。
AIによるサポートが充実すると、人口減少による森林経営の技術継承の問題も解決できる可能性が高まります。人材の質に依存しない経営ができるようになるのも、AIのメリットです。
作業の省人化・無人化
林業にAI技術を導入することで、林業における作業の省人化・無人化が実現できます。結果として、少ない人員で効率的に作業を行うことが可能になります。例えば、ドローンが森林管理に活用できれば、広範囲の森林をスキャンして植生の状態や土壌の情報を収集することが可能です。
従来は多くの人手を必要とした作業が、AI技術によって大幅に省力化されるでしょう。AIの技術開発が進めば、作業が無人化される可能性もあります。
伐採作業での事故防止
林業における伐採作業は危険を伴います。重機の操作ミスや倒木による事故を防ぐために安全対策の強化が必要であり、AI技術が重要な役割を果たすとされています。
AI搭載のセンサーやドローンカメラを使用することで、作業現場の状況を監視し、危険を予測・回避するシステムを構築することが可能です。森林の状態から倒木の方向や速度を予測し、事故のリスクを最小限に抑えます。
また、AI技術を活用した無人機械の導入も進んでいます。森林に人が立ち入ることなく伐採作業を行うことが可能で、労働者の安全性を確保できます。作業員の安全性を高めることができれば、林業がより魅力的な職場となり、新しい人材の参入も促進します。
AIを活用した森林DX事例4選
日本では森林DXに取り組む動きもあり、さまざまな企業や官公庁が林業にAIを導入しています。以下は森林DXへの取り組み事例です。
【住友林業/IHI】熱帯泥炭地の地下水位の予測
住友林業は株式会社IHIとの合併会社「株式会社NeXT FOREST」を設立し、熱帯泥炭地管理の初期AIモデルを構築しました。住友林業の技術力と経験を活かし、AIが地下水位を予測することが可能になります。
熱帯泥炭地には炭素が少なくとも890億トン貯蔵されていると言われており、伐採や焼畑によって大量の二酸化炭素が空気中に放出される可能性があります。住友林業とNeXT FORESTはAIによって、インドネシアなど世界の熱帯泥炭地で二酸化炭素排出や森林火災の抑制に貢献しています。
【日立システムズ】ドローンによる森林情報調査
日立システムズでは、森林調査の効率化を目的としたドローンの開発、AI解析ソフトウェアを活用した森林調査のDXに関する実証実験に取り組んでいます。宮城県牡鹿郡女川町の町有林を対象に、2024年に実験を行っています。
実証実験では、森林情報取得調査に19日かかっていた作業が、ドローンとAI解析ソフトウェアによって4日で実施可能という成果になりました。日立システムズはこれらのノウハウを参考に、2024年度中に森林DXを支援する新サービスの提供を目指しています。
実験段階の取り組みではあるものの、AIによって森林管理の効率化が見込めることが判明したなど、着実に森林DXは進んでいると言えるでしょう。
【林野庁】スマート林業による森林管理
農林水産省の外局である林野庁でも、森林資源情報のデジタル化が大きな目標となっています。林野庁ではスマート林業の推進に力を入れ、森林管理や林業の効率化を図ります。
森林資源情報のデジタル化では、レーザー計測や森林クラウドの導入が進められています。データの標準化とクラウド化を進め、自治体間の連携や提供を効率化することが可能です。
スマート林業では生産性の向上を目的としており、原木の生産流通の効率化やスマート機器の導入、ICTによる生産管理に取り組みます。発展途上ではあるものの、路網整備や機械化によって生産性は徐々に向上しています。
【イメージワン】ドローンデータから森林情報解析
ヘルスケアや地球環境のソリューションを提供する株式会社イメージワンでは、ドローンデータから森林情報を解析するソフトウェア「DF Scanner」と「DF LAT」を販売しています。「DF Scanner」はAIによる森林状況の解析が可能で、60種の識別と各樹木の幹材積・樹高・DBH(樹木の胸高直径)の推定を一元的に解析します。
「DF LAT」はレーザードローンで取得した三次元点群データを基に、森林解析用のデータを作成するソフトウェアです。地形データや標高データの作成も可能で、林内の作業道や微地形などを確認することができます。
林業におけるAI活用についてよくある質問まとめ
- 林業でAIはどのように活用できる?
AI技術は、以下のような方法で林業に活用することが可能です。
- AIによるデータ解析と管理の効率化
- ドローンでの森林状況のモニタリング・作業
- 森林経営の需要予測や施業計画の立案
- 林業にAIを活用するメリットは?
林業にAIを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 森林管理の効率化
- 森林経営のサポート
- 作業の省人化・無人化
- 伐採作業での事故防止
まとめ
林業は、従事者の不足、低い生産性、複雑な森林所有構造という三つの主要な問題に直面していますが、AI技術はこれらの課題に対する強力な解決策となる可能性を秘めています。
林業ではAIを搭載したドローンを活用し、森林管理の効率化や生産性の向上が進んでいます。AI技術の導入に取り組む日本の企業もあり、技術開発が進めば広く普及されるはずです。
今後、AIの更なる発展と普及により、林業の生産性向上、安全性確保、そして持続可能な森林経営の実現が期待されます。同時に、これらの技術導入には初期投資やトレーニングが必要であり、業界全体での取り組みが重要です。
林業関係者の皆様には、
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