東芝、大規模プラントの運転データから類似状態を検出する「類似データ検索AI」を開発、世界トップレベルの精度を実現
最終更新日:2025年11月12日

東芝は2025年11月、大規模プラントの数千点のセンサーから得られる時系列データから、現在の運転状態に類似する過去のデータを世界トップレベルの精度で検出する「類似データ検索AI」を開発した。
独自の「2段階オートエンコーダー」技術を応用し、従来技術と比較して1.8倍の検出精度を達成、実プラントでは95%の精度で類似データを検出できることを確認した。
- 独自の深層学習技術「2段階オートエンコーダー」を活用し、プラントの微細な運転状態の違いを高精度に捉える類似データ検索AIを開発
- 製紙工場の公開データで従来技術比1.8倍の検出精度を達成し、実プラントの運転データでは95%の精度で類似事例を検出
- 過去の類似事例を約1時間で検出可能とし、従来数日かかっていた調査作業を大幅に短縮、熟練者不足の課題解決に貢献
東芝が開発した「類似データ検索AI」は、発電所、水処理施設、化学工場などの大規模プラントに設置された数千点のセンサーから得られる膨大な時系列データを解析し、現在の運転状態に類似する過去の運転データを高精度に検出する技術だ。
本AIは、同社が開発してきた異常予兆検知AI「2段階オートエンコーダー」の技術を応用したもので、センサーデータの微細な特徴の違いを深層学習により捉えることで、わずかな変化からでも高精度に類似状態を検出することを可能にした。
過去の類似事例の発生日時や対応履歴を迅速に提示することで、原因調査や対策立案を支援し、プラントの安定稼働と保守業務の効率化に貢献する。
大規模プラントでは、異常を検知した後の原因調査や対策立案において、関与する機器やシステムが多岐にわたるため、原因の特定や対策の立案が容易ではない。
多くの現場では過去に類似した事例がないかを調査することから対応が始まるが、そのプロセスは熟練者の経験や知識に大きく依存している。今後、熟練者の高齢化や人手不足が進む中で、知識継承が困難になることが懸念されており、過去の運転データや対応履歴を迅速かつ的確に参照できる技術のニーズが高まっていた。
プラントのように多数のセンサーが複雑に連動する環境では、正常運転中であっても各機器の温度や圧力などのセンサーデータは、プラント全体の状態や個々の機器の挙動が複雑に絡み合い変動するため、従来技術では運転状態の微細な違いを正確に学習することが難しく、類似事例の検出が困難なケースも多くあった。
本AIの中核技術である2段階オートエンコーダーは、多数のセンサーの信号を同時に特徴量に変換し、そこから元の信号に再構成する仕組みだ。多数のセンサーの信号間にまたがる複雑な関係を考慮して、運転状態の変化に起因するセンサーデータの違いを特徴量の違いとして抽出する。

この特徴量を学習データに用いることで、複雑に関係する多数のセンサーデータの中から、運転状態ごとの微細な違いを捉えることが可能になり、類似データの検出精度が飛躍的に向上した。
製紙工場の公開データを用いた検索において、従来技術と比べて類似事例の検出精度が1.8倍向上し、世界トップの精度を達成した。また、実プラントの10年分の運転データを対象にした検証では、約1時間で高精度な類似事例の検出が可能であることを確認した。
東芝は、現在複数のプラントを対象に、異常の予兆を検知した後の原因調査および対策立案における本AIの有効性を検証している。今後は、発電所、水処理施設、化学工場などさまざまなプラントや工場の効率的な運用や保守に貢献できるよう、2026年度以降に実用可能な水準を目指して技術の研究・開発を進めていく。
本技術の詳細は、2025年11月12日に開催されるデータマイニングに関する国際会議「ICDM2025 AI4TS」において発表される。
AI Marketの見解
東芝の類似データ検索AIは、産業用AIの実用化において重要な技術的進展を示している。特に注目すべきは、2段階オートエンコーダーという独自の深層学習アーキテクチャを用いて、数千点のセンサーデータ間の複雑な相関関係を特徴量として抽出し、それを学習データとして活用する点だ。
この手法により、従来の類似検索技術では捉えきれなかった微細な運転状態の違いを高精度に識別することが可能になった。実プラントでの95%の検出精度と、10年分のデータを約1時間で解析できる処理速度は、実用レベルに達していると評価できる。
ビジネス面では、熟練者の知見に依存していた保守業務のデジタル化を加速させ、CBMの実現による設備稼働率の向上とメンテナンスコストの最適化に寄与すると想定される。
参照元:株式会社東芝
類似データ検索AIに関するよくある質問まとめ
- 類似データ検索AIは異常予兆検知AIとどう違うのか?
異常予兆検知AIは、センサーデータから異常の兆候を早期に検知することを目的とする技術だ。
一方、類似データ検索AIは、異常を検知した後に、過去の運転データから現在の状態に類似する事例を検出し、その発生日時や対応履歴を提示することで、原因調査と対策立案を支援する技術となる。
両者は補完的な関係にあり、異常予兆検知AIで異常を発見した後、類似データ検索AIで過去の類似事例と対応方法を参照することで、迅速な問題解決が可能になる。
- 2段階オートエンコーダーとは何か?
2段階オートエンコーダーは、東芝が開発した独自の深層学習技術で、多数のセンサーの信号を同時に特徴量に変換し、そこから元の信号に再構成する仕組みを持つ。
多数のセンサーの信号間にまたがる複雑な関係を考慮して、運転状態の変化に起因するセンサーデータの違いを特徴量の違いとして抽出することができる。
この特徴量を学習データに用いることで、複雑なプラントのセンサーデータに対しても高精度な類似検索が実現できる技術だ。

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