臨床試験×AIがもたらす可能性は?メリット・活用方法・導入時の懸念点・企業事例を徹底解説!
最終更新日:2025年11月05日

- 臨床試験は「膨大なコストと時間」「適格な被験者確保の困難さ」「データ品質の一貫性担保」という根深い課題
- AIは、プロトコルの最適化、電子カルテからの適格患者の自動抽出、データクレンジング、リスク監視の自動化などで課題解決に貢献
- AI導入は有効ですが、「データの偏在による精度低下」「説明可能性(XAI)の確保」「人材不足」といった新たな懸念点
新薬開発における「コスト1000億円、期間10年」という長年の課題。その大部分を占めるのが臨床試験(治験)です。特に「適格な被験者が見つからない」「膨大なデータの品質管理に忙殺される」といったボトルネックは、多くの製薬企業や医療機関の悩みとなっています。
その専門性の高い領域において、AI、特にデータ分析分野でのAI活用が注目されています。
本記事では、AI導入による自然言語処理(NLP)による患者マッチングの自動化、異常検知AIによるデータクレンジング、複雑なデータ分析の高度化、さらにはプロトコル設計の最適化までのAIの活用法と、導入前に知っておくべき懸念点、実際の企業での活用事例を解説します。
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目次
臨床試験が直面している課題


臨床試験の現場では、以下のような課題があります。
適格な被験者を確保できない
臨床試験では、適格な被験者の確保が深刻な課題とされています。試験の信頼性を高めるために厳密な条件を満たす患者を選定しますが、条件に合致する被験者は限られているため、募集が長期化して試験スケジュールに影響を及ぼします。
また、被験者が途中で離脱するケースもあるなど、サンプル数の不足が統計的な有意性を損なう要因にもなります。特に希少疾患領域に該当する患者数は極端に少ないため、適切な症例を集めること自体が困難です。
膨大なコストと時間がかかる
臨床試験は、新薬開発のプロセスにおいてコストと時間を要します。
新薬開発は長らく「コスト1000億円、期間10年以上」という壮大なスケールで語られてきました。特に、そのコストと時間の大部分を占めるのが「臨床試験(治験)」フェーズです。
また、臨床試験の以下の工程は人手と時間に依存しているため、試験が長期化しやすい構造的課題を抱えています。
- 被験者募集
- モニタリング
- データ入力
- 統計解析
- 報告書作成
特に時間とコストがかかるのが、適格基準(Inclusion/Exclusion Criteria)に合致する患者を見つけることです。治験コーディネーター(CRC)や医師が、電子カルテ(EMR)や既存の患者データベースを手動で確認し、数百項目にも及ぶ複雑な基準と照合しなければなりませんでした。
さらに、試験中に発生するデータ不備や治験施設間での手続きのばらつきなども遅延やコスト増加を引き起こす原因です。
製薬企業にとっては、これらの非効率性が研究開発のROIを低下させる要因となり、医薬品を市場に投入するまでのスピードを遅らせているのです。
データ品質・一貫性の確保が必須
臨床試験における試験データは、以下のような複数ソースから収集されます。
- 被験者の診療記録
- 検査結果
- モニタリングデータ
- 電子カルテ(EHR)
- ウェアラブルデバイス
しかし、ソースが多様化することでデータを記録するフォーマットが違ったり、欠損・重複したりすることが発生しやすくなり品質管理が追いつかなくなります。
また、データ収集は指定された病院への来院が基本です。CRA(臨床開発モニター)が現地で紙やEDC(電子データ収集)システムをチェックしなければならず膨大な人件費と時間がかかっていました。
さらに、施設間でのデータ標準のばらつきが統計解析の精度を下げ、再現性も低下します。
こうしたデータ品質の一貫性が損なわれることで、治験結果の信頼性は低下し、臨床試験の安全性が確保されなくなります。
そのため、近年ではAIを用いた自動検出・補正技術が注目されており、データ品質の維持を効率化する手段として期待されています。
厳格な倫理規範と法的手続きが求められる
人を対象とする研究である臨床試験は、倫理的・法的な遵守が極めて重要です。被験者の人権や安全を守るため、試験実施前には倫理審査委員会(IRB)の承認を得る必要があり、個人情報保護やインフォームド・コンセント(説明と同意)の取得も行わなければなりません。
さらに、日本では医薬品医療機器等法に基づき、厳格なルールが定められています。これらの規範に違反すると、法的な制裁や信頼の失墜につながります。
しかし、法的手続きには膨大な書類の作成や確認作業が発生するため、試験のスピードを制約する要因になっています。
治験実施体制や人材が不足している
臨床試験の実施現場を適切に運営するには、医師に加えて以下のような専門知識を持つ多職種が連携する必要があります。
- CRC(治験コーディネーター)
- データマネージャー
- データサイエンティスト(統計解析)
しかし、近年は経験豊富な治験者の確保が困難になってきています。特に、地方の医療機関では治験インフラが十分に整備されていないために、試験の実施が都市部に偏る傾向も見られます。
その結果、臨床試験に必要な被験者やデータが不足し、試験の進行が遅れるという問題が表面化しつつあります。
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臨床試験にAI技術を応用するメリット


AI技術は、臨床試験のあらゆる工程に革新をもたらします。以下では、臨床試験にAIを応用するメリットを解説します。
試験期間の短縮とコスト削減
臨床試験の重要課題である期間とコストを、AI導入によって劇的に改善できる可能性があります。人間が担っていた工程をAIが担当・自動化することで、試験の作業効率が大幅に向上します。
膨大な治験資料の整理・要約を短時間で実施でき、数週間を要していた業務を数日に短縮することが可能です。
また、AIによるスケジュール最適化やリスク予測により、リソース配分を最小限に抑えつつ、遅延リスクを軽減できます。結果として試験期間の短縮だけにとどまらず、人的コスト・施設利用費などの固定費削減にもつながります。
被験者選定の精度向上
AIは電子カルテ(EHR)や医療ビッグデータを解析し、以下の条件を瞬時に照合することで適格な被験者を高精度に抽出します。
- 年齢
- 性別
- BMI
- 既往歴(慢性疾患、アレルギー、手術歴)
- 生活習慣データ
- 定量データ(血液検査、尿検査、生化学検査)
- 遺伝子・バイオマーカー情報
- 現在および過去の服薬データ
医師の判断だけでは見落とされがちだった潜在的な被験者も、AIが非線形なデータ関係を捉えることで発見できるようになります。また、医師の診療記録や自由記述データからも被験者の適格性を判断でき、より包括的なスクリーニングが可能です。
これにより、試験条件に完全に合致する症例・被験者の選定が進み、試験データの均質性が保たれることでしょう。
データの正確性・再現性を維持する
試験データの正確性・再現性の維持においても、AIは強力な支援を提供します。データの欠損値や外れ値を自動検出し、データ品質を一貫して高水準に保ちます。
また、複数施設や異なるデータベースから収集された情報を標準化し、形式のばらつきを整合させることも可能です。こうしたシステムによって人間による監査作業を補完・強化し、臨床試験の信頼性を高めます。
統計解析・評価の高度化
AIの導入により、統計解析と評価の飛躍的な高度化が期待されます。
従来の解析手法では変数間の線形関係に基づいた評価が基本でした。しかし、AIは複雑な相関関係や潜在パターンを抽出できます。
これにより、治療効果の個人差や副作用発現の傾向などを高精度にモデル化することが可能です。
また、AIはシミュレーションによる仮説検証や試験設計の最適化も支援します。リアルワールドデータ(RWD)や電子カルテデータを組み合わせることで、実臨床に近い評価が行える点が特徴です。
臨床試験でのAI活用方法


臨床試験におけるAI活用は、設計・解析・リスク管理など多岐にわたります。
AIによるプロトコルの最適化
プロトコルとは、試験の設計方針や被験者選定の条件、評価項目などを定めた基本計画書です。この内容に欠落があると、臨床試験の進行や成果にネガティブな影響を及ぼします。
プロトコルの作成に、過去の類似試験の成功・失敗パターンを学習データとする予測AIを活用することで、過去の治験データやリアルワールドデータを解析し、試験の妥当性を数値的に検証します。例えば、被験者数の観察期間や評価をシミュレーションによって最適化し、統計的有意性を確保することが可能です。
治験報告書の要旨抽出
ま治験報告書を自動的に参照し、成功と失敗の要因を抽出することで、より科学的根拠に基づいたプロトコル設計を支援します。ここでは、膨大なテキストデータを解析する自然言語処理(NLP)、最近ではLLM(大規模言語モデル)が中核となります。
また、AIが論文や報告書(非構造化データ)を読み込み、特定の疾患領域や薬剤における「成功要因」「脱落理由」といったインサイトをテキストマイニング技術で抽出します。これによって試験で起こり得るリスクを最小化することが可能です。
適格患者の自動抽出・マッチング
AIは医療データを横断的に解析し、年齢・疾患ステージ・併用薬・検査値などの複雑な条件を総合的に判断して、適格患者を抽出します。候補者の来院履歴や地理的条件まで考慮し、最適なマッチングを行うことが可能です。
また、診療記録の中の自由記述からも適格性を高精度に抽出できるため、対象疾患や治療条件に適した患者を自動でリストアップでき、募集期間を短縮できます。
電子カルテ内の医師の所見メモなど、構造化されていないテキスト(自由記述)から意味を読み取るために、自然言語処理(NLP)、最近ではLLM(大規模言語モデル)が不可欠です。特に、疾患名、症状、薬剤名などをピンポイントで識別する固有表現抽出という技術が、複雑な適格基準とのマッチング精度を劇的に向上させます。
症例データのクレンジング・異常検知を自動化
臨床試験で扱う症例データは多岐にわたるため、入力ミスや異常値の発生は避けられません。これらが発生した時点で修正しないまま放置すると、解析結果の正確性は著しく低下します。AIはこうした課題に対し、データクレンジングと異常検知を自動化することで効果を発揮します。
例えば、検査値の単位誤りや外れ値を識別し、自動修正やアラートによる通知が可能です。
ここで活用されるのが異常検知AIです。AIが過去の正常なデータパターン(例:この検査項目の正常範囲、通常の変動幅)を学習し、それから大きく逸脱したデータ(外れ値)を統計的または機械学習の手法で瞬時に特定します。
「単位誤り」のような明らかなミスはルールベースで、未知の異常パターンは機械学習で検知します。また、異なるデータフォーマットを自動標準化し、共通フォーマットへの統合も支援します。
これにより、データ品質を一貫して維持しつつ解析工程を効率化できます。
リスクベースドモニタリング(RBM)の自動最適化
リスクベースドモニタリング(RBM)とは、リスクの高い領域やデータ項目に監視リソースを配分するモニタリング手法です。従来は、全症例データを一律に点検する全件モニタリングが一般的でしたが、膨大なリソースを要するうえ、リスクの高い領域に十分な注意を向けられないという課題がありました。
そこでAIを導入することで、リスクベースドモニタリングのプロセスを自動化・最適化することが可能です。リアルタイムで異常傾向を検知し、リスクの高い症例を優先的にモニタリング対象として提示します。
これは異常検知AIと予測モデリングの組み合わせです。AIは、各施設や被験者から送られてくるデータをリアルタイムで監視し、「データの入力遅延」「プロトコルからの逸脱」「異常な検査値の頻発」といったリスクシグナルを検知します。
さらに、これらのシグナルに基づき、「どの施設が最もリスクが高いか」をスコアリングし、CRA(モニター)の訪問先を動的に最適化します。
これにより、限られたリソースを重要な箇所に集中できます。
AIによる副作用予測と自動報告
臨床試験における副作用の予測と自動報告にも、AI活用が有効です。医療従事者が目視や経験的判断では見落としや報告の遅れが発生するリスクがあるため、AIが被験者の生体データを解析し、潜在的なリスクを早期に検知します。
これによって、症状の微細な変化や相互作用を高精度に予測でき、従来のルールベース監視を超える検知性能を実現します。
ウェアラブルデバイスなどから得られる連続的な生体データ(時系列データ)を扱うため、時系列データ分析や予測モデリングが用いられます。AIは個々の患者の正常なバイタルパターンを学習し、副作用の兆候となる「微細な変化」を捉えます。
また、複数の薬剤の併用と副作用の発生パターンを学習することで複雑な相互作用のリスクも予測します。
検出された異常は自動的に分類・優先度付けされ、規制要件に沿ったフォーマットで報告書を生成することも可能です。
非線形関係や潜在変数を捉えた予測・統計解析
AIはこれまでの統計解析で把握しきれなかった非線形関係を捉えることで、臨床試験におけるデータ解析の深度を飛躍的に向上させます。ディープラーニングやベイズ推論などのAI手法によって、要因間の相互作用を自動的に学習できます。
これにより、個別化された治療効果の予測やm副作用発現のリスク推定が可能です。
また、AIが生成するモデルは新たな仮説探索にも活用でき、見落とされてきた有効因子の発見につながる可能性があります。
コンプライアンス配慮の支援
臨床試験においては、倫理的・法的なコンプライアンス遵守が必須であり、違反は試験が中止されるだけでなく、企業の信頼失墜も免れられないでしょう。AIはコンプライアンスの領域における支援ツールとして活用されます。
自然言語処理やルールベースを備えたAIを用いることで、試験に関連する文書が医薬品医療機器等法などの法規制に適合しているかを自動でチェックしてくれます。また、インフォームド・コンセントや契約書の内容も審査し、「必須記載事項の欠落」「規制と矛盾する表現」などを自動で検知・指摘するシステムの実用化も期待されています。
研究者や企業は膨大なコンプライアンス業務から解放され、本来の研究開発に集中できる環境が整います。
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臨床試験にAIを導入する際の懸念点


臨床試験にAIを導入する際は、以下が懸念される要素となります。
医療機関や地域によるデータ偏在・モデル精度の低下
AIは学習データの品質によって性能を発揮しますが、それは学習データに依存していることを意味します。そして、医療機関や地域によってデータの収集環境や記録方法が異なり、意図せずデータが偏在するリスクがあります。
例えば、都市部の大学病院では高精度な電子カルテが整備されている一方で、地方の医療機関ではデジタル化が進んでいない場合もあり、この2つの医療施設では情報量に差が生じています。
このような偏在があるとAIモデルが特定の患者層にのみ最適化され、予測精度が低下しやすくなります。
説明可能性(Explainability)の欠如
AIモデルではブラックボックスという課題があり、出力結果の根拠を人間が説明できないケースが多くあります。そのため、AIが被験者を不適格と判断した場合に、その理由が説明できないという事態に陥り、試験の透明性・倫理的妥当性を損なう要因となりかねません。
また、規制当局への報告や承認申請の過程でも、判断根拠が説明できないAIは受け入れられにくいでしょう。こうした課題を解決するために、AIの推論プロセスを可視化し、医療従事者がその理由を理解・評価できるようにするXAI(Explainable AI)が注目されています。
臨床試験においてはAIの精度だけでなく、説明可能性を確保することが不可欠な条件です。
倫理的・社会的受容性の壁
AIの導入においては、倫理的・社会的受容性という壁も避けて通れません。臨床試験では生命や健康に関わるデータを扱うため、AIがどのように意思決定に関与するかについて、社会的な信頼を確立する必要があります。
特に、被験者の選定や副作用評価にAIによる自動判定が用いられる場合、それ公平かつ差別的でないことを保証しなければなりません。
また、AIが学習するデータにはバイアスが含まれている可能性が常にあるため、偏った判断を導く危険性も指摘されます。AIが医師の判断を補助するという本来の役割を超えてしまうと、倫理的な是非や社会的受容の問題に発展します。
そのため、技術的精度だけでなく、倫理委員会や規制当局との連携を通じた透明性の確保、説明責任の明確化が欠かせません。
AIモデルの理解・検証に長けた人材・体制の不足
臨床試験現場でのAI導入においては、技術そのものよりも、AIを正しく理解・運用できる人材と体制が不足しています。統計解析やデータマネジメントに精通した人材がいても、AIモデルの構築やチューニングに対応できる人材はまだ多くありません。
AIモデル運用体制を統括する組織が整っていないまま導入してしまうと、AI任せになってしまうか、AIを有用に使いこなせないかのどちらかに陥るでしょう。
こうした状況を防ぐために、医療データサイエンスに精通した人材の育成、そして、AIエンジニア・統計専門家・臨床医が連携するチーム体制を構築しておくことが求められます。
臨床試験でAIを活用した事例4選
以下では、AIを臨床試験で活用している事例を国内外で4つ紹介します。
中外製薬・ソフトバンク・SB Intuitions:生成AIの活用による臨床開発業務の効率化・生産性向上


中外製薬、ソフトバンク、SB Intuitionsの3社は、生成AIによる臨床開発業務の革新を目的とした共同研究の基本合意を締結しました。この取り組みでは、臨床試験を含む新薬開発プロセスにおいてAIエージェントおよび製薬業界に特化したLLMを活用することで、開発スピードの加速とコスト削減を目指します。
AI導入は、段階的に実施していく予定です。
- 文書作成、疾患情報や業界規制・社内手順の整理、探索的なデータ解析に生成AIを適用し、プロトタイプを開発
- AIエージェントが連携するマルチエージェント体制へと発展させ、臨床開発を支援
また、各社の役割分担も明示されています。
- 中外製薬:臨床開発に特化のLLMの学習用データを提供、AIエージェントの企画・評価
- ソフトバンク:AI計算基盤提供・LLMおよびAIエージェントの社会実装支援
- SB Intuitions:LLMおよびAIエージェントの研究開発
製薬企業と通信・AIプラットフォーマーが協業し、生成AIを活用した試験の変革を図る事例は国内では先進的です。
中外製薬・NTTデータ:AI技術を活用した治験関連文書の作成効率化


中外製薬とNTTデータは、2020年1月から6月にかけて、AI技術を活用した治験関連文書の作成効率化ソリューションの実証実験を実施しました。治験実施計画書を入力データとし、同意説明文書や症例報告書(blank)などの治験関連文書をAI・オントロジー・セマンティック技術によって連鎖的に生成します。
この実証結果として、同意説明文書の作成時間が平均 61%削減、症例報告書では平均40%削減という効果が確認されました。さらに、文書作成における自動生成可能な部分とマニュアル対応が必要な部分の境界や、テンプレート化・AIサジェスト機能の導入といった課題も明らかになっています。
今後は明らかにされた課題を改善し、AIソリューションに実装していくようです。また、この実証を通じて、臨床データの収集から構造化までを含むトータルソリューションプラットフォームの提供を目指しています。
QuantHealth:開発中の薬の臨床試験をシミュレーションするAIプラットフォームを発表

QuantHealthは2023年12月、開発中の薬の臨床試験をシミュレーションするAIプラットフォームの新版を発表し、数千件のプロトコルや被験者動態を仮想的に試行できる機能が加わりました。
このプラットフォームでは、350百万件以上の患者データや数万件の治験経験を学習したAIモデルを活用し、以下の変数をシミュレートできます。
- 被験者の反応
- 治験スケジュール
- 被験者脱落率
どの条件で被験者を選定すべきか、どの評価項目が効果的かといった仮説検証を行えます。そのため、実試験開始前にリスクの高い設計を排除し、成功確率を高める戦略的な意思決定が可能です。
QuantHealthの事例では、シミュレーションによってコホート設計や除外基準の最適化が可能となります。実際に被験者登録期間を15ヶ月短縮し、試験コストを3千万ドル以上削減したという報告もあります。新版のリリースによって、シミュレーション精度はさらに向上するでしょう。
IQVIA:治験参加候補者スクリーニング業務の効率化を実現する「Inteliquet」
IQVIA(IQVIAジャパングループ)は京都大学医学部附属病院と連携し、治験参加候補者のスクリーニングDX化を目指す共同研究を開始しています。IQVIAが提供する治験スクリーニングソリューション「Inteliquet」を活用し、これまで属人的な判断に依存していた候補者抽出を効率化・自動化することを狙います。
Inteliquetは、自然言語処理を含むAIテクノロジーと治験オペレーションの知見を統合した機能を備えており、被験者の適格性判定や候補者登録期間の短縮化に貢献します。
2024年度は京都大学附属病院において候補患者スクリーニングを実施し、2025年度以降は大阪赤十字病院、神戸市立医療センター中央市民病院も加えた3施設間で運用効果の検証を進める計画です。
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臨床試験でのAI活用についてよくある質問まとめ
- 臨床試験におけるAI活用のメリットは?
主に以下の4つのメリットが期待できます。
- 期間短縮とコスト削減: 資料の整理・要約やスケジュール最適化により、人的コストや固定費を削減します。
- 被験者選定の精度向上: 電子カルテの自由記述も含めてAIが解析し、潜在的な候補者も高精度に抽出します。
- データの正確性・再現性の維持: データの欠損や外れ値を自動検出し、品質を一貫して高水準に保ちます。
- 統計解析・評価の高度化: 従来の統計では難しかった複雑な相関関係(非線形関係)をAIが捉え、治療効果の個人差などを高精度にモデル化します。
- 臨床試験ではAIを具体的にどのように活用できますか?
以下のような活用法があります。
- プロトコルの最適化: 過去のデータをAIで解析・シミュレーションし、統計的有意性を確保できる最適な被験者数や観察期間を設計します。
- 適格患者の自動抽出: 自然言語処理(NLP)で電子カルテの自由記述(医師のメモなど)を解析し、複雑な条件に合う患者をリストアップします。
- データのクレンジング: 異常検知AIが入力ミスや外れ値を自動で特定し、データ品質を維持します。
- リスク監視(RBM)の最適化: AIがリアルタイムでリスクシグナル(入力遅延など)を検知し、リスクの高い施設を優先的に監視対象として提示します。
- 副作用予測: ウェアラブル端末の生体データなどをAIが時系列分析し、副作用の微細な兆候を早期に予測します。
- コンプライアンス支援: NLPが関連文書を法規制と照合し、不備を自動でチェックします。
- 臨床試験にAIを導入する際、どのような懸念点がありますか?
主に以下の4つの懸念点に対処する必要があります。
- データの偏在: 学習データが特定の医療機関や地域に偏ると、AIモデルの精度が低下し、汎用性が失われるリスクがあります。
- 説明可能性(XAI)の欠如: AIがなぜその判断(例:被験者不適格)を下したのかを人間が説明できない「ブラックボックス」問題があり、規制当局への説明責任を果たせない可能性があります。
- 倫理的・社会的受容性: AIによる判断が公平であることを保証し、社会的な信頼を得る必要があります。
- 人材・体制の不足: AIモデルを正しく理解し、適切に運用・検証できる専門人材やチーム体制が不足している場合が多くあります。
まとめ
臨床試験におけるAI活用は、被験者選定からデータ管理、解析、モニタリング、コンプライアンス対応といったほぼすべての工程に統合可能です。精度とスピードを両立しながら、これまで到達できなかったレベルの再現性と安全性を実現できます。
国内でもAIを導入した事例が多いため、今後製薬会社や医療機関でのAI活用は進み、いずれ臨床開発のインフラになることでしょう。
しかし、AIの導入は技術的な課題だけでは終わりません。「AIの判断根拠をどう説明するか(XAI)」「医療機関ごとに異なるデータの偏在にどう対処するか」「AIモデルを適切に運用・検証できる人材をどう確保するか」といった体制面や倫理面での設計が極めて重要です。
これらの複雑な課題を整理し、自社の臨床開発プロセスに最適なAI活用戦略を立案・実行するには、臨床開発のドメイン知識とAI技術の両方に精通した専門家の支援が有効です。具体的な導入計画や、既存プロセスの課題整理でお悩みの場合はぜひ一度ご相談ください。


AI Market 運営、BizTech株式会社 代表取締役|2021年にサービス提供を開始したAI Marketのコンサルタントとしても、お客様に寄り添いながら、お客様の課題ヒアリングや企業のご紹介を実施しています。これまでにLLM・RAGを始め、画像認識、データ分析等、1,000件を超える様々なAI導入相談に対応。AI Marketの記事では、AIに関する情報をわかりやすくお伝えしています。
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